「パチェ!」
「こっちに来るなんて珍しいわね、レミィ。何か用?」
うららかな午後の昼下がり。
いつも通り読書に勤しんでいたパチュリーのもとにとある事情から昼間から絶賛活動中の吸血鬼、レミリアがドアを蹴破りやってきたところからこの話は始まる。
「まずいの!」
「は?」
「このままじゃまずいのよ!」
「とりあえず落ち着きなさい」
「きゃん!」
そして、動かない大図書館の異名を取る少女はいつにない機敏な動きで、
今にも掴みかかりそうな勢いで詰め寄ってくるレミリアを打撃用の本の角で鎮圧したのだった。
なんとか落ち着きを取り戻したレミリアと読書を邪魔されて若干不機嫌なパチュリー読みかけの本に目を通しながら会話を続けた。ちなみに頭を強打されたレミリアは涙目で頭を抱えている。
「それで何がまずいのよ?」
「ほら、私これから紅い霧を発生させるでしょ?
それについてちょっと問題があることがわかって……」
「さも私が知っているように話すのは止めなさい。なにそれ初耳なんだけど」
「親友なんだからそれくらい察しなさい!」
「無茶言わないで。あんまり無茶苦茶言うと今度は本の角じゃ済まないわよ?」
「あ、ごめんなさい。謝るからロイヤルフレアはやめて、それかなり痛いから!」
訂正しよう。落ち着いたように見えてまだテンパっていた。
「……というわけなのよ」
「大体の事情はわかったわ」
レミリアが言うにはあまりにも退屈だったため思いつきで全力で能力を使って自分達の行く末を視たところ、この紅魔館は平穏無事に暮らしていける運命にあるらしい。
裏を返せばこのままでは変化が望めない退屈な日々が続くということでもある。
パチュリーとしてはそれで一向に構わないのだがそこは永い時を生き、これからも生きていくレミリア。
それではつまらん、と基本的にワガママな吸血幼女はおもしろおかしい生活ができるようになる運命も探ってみたそうだ。そして視たのが紅い霧を発生させる「異変」を起こす自分である。この異変を起こせば少々痛い目にはあうがかわいらしい紅白の巫女と仲良く(?)
なれ友達(?)にもなれるし、最愛の妹であり箱入りならぬ地下入り娘のフランにも黒白の良い遊び相手が出来るらしい。
さらに紅魔館は周りの他勢力と交友が出来、多くのイベントにも積極的に参加できるようにもなり良い事ずくめだとか。(魔砲に破壊される館や本を強奪されていく親友の姿にはふれなかったが)
「でも色々小さいくせにプライドだけは大きいレミィが負けを前提とした戦いを仕掛けたり、目にいれても痛くないくらい可愛がってるフランに余所者を会わせたり……
らしくないんじゃない?」
「ちゃんと理由はあ……というか、パチェなんか怒ってる?」
「全然怒ってなんかないわよ?」
「え、そ、そう?
……それで理由というのはね。いくつかあるんだけど。最大の理由は友達よ」
「……はい?」
「この異変を起こせば私にも友達が出来るのよ!
こんな根暗で愛想がなくて私のことを邪険にして暴力を振るうような半引きこもりとは違って私の遊びにも付き合ってくれる可愛くて強い友達ができ」
「ロイヤルフレア」
「ぎゃー!」
やっぱり怒ってました。全力で撃っていないのは親友としてこれくらいの悪口は許してくれるだろうという親愛の情をパチュリーが読み取ったからなのか、単に体調が万全ではなかったのか判断しかねるところである。
ここだけの話、愛想がないのも、ぞんざいな扱いをするのも、すぐ武力行使に出る点もこれから友達(?)になる霊夢のほうが酷いのだがそこまで詳しくは解らない。レミリアが視たものは楽しそうに話す自分と縁側でお茶を飲む巫女の映像だけであったためだ。
運命はかくも残酷なのである。
まあ、この場合。楽しそうな自分と一緒にいる→仲の良い友達!
という都合のよい思考回路をしているレミリアに責任はあるのだが。
「それで? いいことばかりならさっさと異変を起こせばいいのに。
なにが問題なのよ?」
「何事もなかったのように話を進めるのね……」
「何か言った?」
「いえ、何も!」
とても良い返事をしたレミリアは吸血鬼としての再生能力をフルに使って無事復帰していた。服は黒コゲだが、髪がアフロのようになっていないのはまだ少しは残っているカリスマのおかげか。
「今からその「問題」を呼ぶわ。さくやー、ちょっときてー!」
「お呼びですかお嬢様!」
「服がボロボロになっちゃったから替えの服お願いできる?」
「はい、ただいま!」
元気よく返事をした紅魔館のメイド長である十六夜咲夜は一瞬消えたと思ったらすぐに服を持って現れた。
「着せてくれる?」
「はい!」
そしてこれまた一瞬で着替え終わっているレミリア。
これだけ見れば人ならざる力を使い、完璧に仕事をこなすメイドの鏡なのだがその表情は
といえば
「……(じー)」
「あと、咲夜。紅茶もお願いできる?」
「はい!(じー)」
「……はいはい。いつもありがとう咲夜。助かったわ」
「ありがとうございます!」
お預けされた子犬のような顔をしていた。その顔も頭を撫でられると一転、ものすごく嬉しそうな笑顔に変わるそのさまは無邪気そのものである。
尻尾があるのならパタパタと揺れるのが見えるだろう。
一通り撫でられた満足したのか時を止めて去ろうとした咲夜に小悪魔がかけよる
「あ、紅茶を淹れにいくならお茶の葉をお願いできる?
図書館分のを切らしちゃってて」
「うん、分かった。すぐ持ってくるね、こあお姉ちゃん!」
「そんなに慌てなくてもいいからね。それといつもありがとうね、咲夜ちゃん」
「えへへー」
こんな会話をしつつ頭を撫でられるとこれまた嬉しそうに笑うメイド長は
しばらく撫でられた後で去って行った。
「嗚呼、私の咲夜。相変わらず可愛いわ……」
「……それで?」
「あ、いけないいけない。本題を忘れるところだった……
パチェ、咲夜をどう思う?」
「私たちみたいなのに囲まれているのに良い子に育ったんじゃないかしら。
仕事はできるし素直だし無邪気で純粋だし。メイドとしても清涼剤としても家族としても館に欠かせない存在でしょう」
そう言ってパチュリーは少し昔に思いを馳せた。
ある日、なんの気まぐれか赤ん坊を連れ帰ってきたレミリア。
捨てられていてこのままでは妖怪に食われるか餓死するかというところ拾ったそうだ。
いつも通りの思いつきでの行動を呆れながらも、子供を育てるということは犬猫や妖怪、妖精を拾ってくるのとは違うと、残酷だとは思いながらも元いた場所に戻すように進言したが、「この子は将来、紅魔館に欠かせない存在になるの! 運命で視たの!」
と駄々をこねる、もとい力説するレミリアに負けて結局育てることになったのだ。
その後、「十六夜咲夜」と名付けられた子供のために、レミリア、パチュリー、美鈴、小悪魔を中心とした子育てチームが結成された。
パチュリーは普段ほとんど役に立たない知識を存分に発揮し子育ての方針を立て、小悪魔は悪魔らしからぬその真面目さから咲夜を叱れない他のメンツの代わり優しくも時に心を鬼にして厳しく接し、美鈴はその優しさと包容力で母親役に収まった。そしてレミリアは基本的に役に立たなかった。強いて言うのならば甘やかし役、おばあちゃんとかその辺である。
この四人と紅魔館の他の従業員の総力を結集した努力によって奇跡的に咲夜はまっすぐで素直な、人を疑うことを知らない優しい子に育ち今に至るのであるがそれはまた別の話。
ただ基本的に大切なものには過保護にする、いや、しすぎる性格であるレミリアの運命をも巻き込んだ箱入り娘化政策のおかげで良く言えば世間ズレのしていない無邪気な、
悪く言えばかなりの世間知らずの年不相応な子供っぽさが残る結果となった。
ちなみにまだ年の若い咲夜がメイド長の地位にいるのは有能であるという理由もあるが、
咲夜をトップに据えておくと、「可愛い咲夜ちゃんのためなら!」と他の従業員の作業効率と結束力が格段にあがるためでもある。
「で、その咲夜の何が問題なの?」
「咲夜が問題なんじゃなくて、咲夜に関わってくるやつのほうが問題なのよ!」
バンッ!テーブルを叩き言い放ったレミリア。
若干呆れながらもそれなりに付き合いの長いパチュリーはレミリアの主張をおおよそ察した。
「つまりレミィは咲夜に変な虫がつかないか心配なわけね」
「そう! そうよその通り!」
おもむろに宙に浮きあがったレミリアは両腕と翼をバッと広げ既に捨て去ったとも思われていたカリスマと魔力を迸らせながら語った。
「確かに。
ここのところ毎日が暇すぎたから紅魔館が活気づくのは私としても喜ばしい!
友達も欲しい! フランからも「お姉様とだけ遊ぶのも飽きた!他の人と遊ばせてくれないと嫌いになっちゃうんだから!」とも言われてもいる!
それは嫌だ! 可愛い私のフランに嫌われるなんて想像するだけでもう!
それでも。それでも家の可愛い可愛い咲夜をあのままで外に出すわけにはいかない!
あんな素直で可愛くて家事万能で純粋な子を世の中が放っておくわけがない。
何処の馬の骨ともわからんやつに咲夜を汚されてたまりますか!!
手を出すというのならグングニルの一撃を覚悟せよ!」
「落ち着きなさい。というかフランから嫌いになっちゃうんだから宣言が比重の大部分を占めてるじゃないの」
「ぎゃぴ!」
そんなフルカリスマモードなレミリアだったが何故か上から降ってきた金ダライに本日三度目目の撃墜をされるのだった。
「でもまあ、仕方ないんじゃないの?
咲夜が大切なのは私も同じだけどいつまでも子供のまま手元に置いておけるわけじゃないんだから。子離れするいい機会だとおもうけど。それにあの子にも友達とか私たち以外の知り合いを増やすことも大切よ」
「そうなんだけど。そうなんだけど!」
うーうー唸りながら苦悶するレミリアだったがしばらくして意を決したように顔を上げた。
頭の中にはおじょーさま、おじょーさまと言いながらとてとて後ろをついてくる咲夜と
フランドールの嫌いになるぞ宣言が渦巻いていることだろう。
「それでも私は納得しない!
そこで私は考えた。咲夜を今のまま我々だけで愛でつつ、かつ人気者にし、かつ、変な虫もつけない方法を!」
「どうせ言っても聞かないんだろうからもう何も言わないけど……
ただその方法が咲夜を傷つけるようなことだったら流石に黙ってないわよ?」
「大丈夫よ。むしろ咲夜の社会勉強にもなるはず。
その名も!
「十六夜咲夜、瀟洒で完璧なメイド長化計画」!」
「…………はい?」
賢者といわれるパチュリーもぶっ飛んだ発想をポンポン出すトラブル発生機のような友人の言動に目を点にするしかなかった。
「つまり咲夜を高嶺の華のような立ち位置に置いて、人に尊敬されつつ親しみと紅魔館の一員として一定の畏れを持ってもらおうという計画なわけ」
「はあ、そうですか……ですがお嬢様。私、人から怖がられるのはちょっとヤですよ」
レミリアが計画の相談をパチュリーにした三日後、
レミリア、パチュリー、美鈴、小悪魔、そして当事者である咲夜の五人が図書館に揃っていた。
「あのー、お嬢様。私は今日の今の時間は門番のシフトがはいってまして、このままでは他の子たちに迷惑がですね……」
「当主権限で特別に許す!」
「そんな適当で大丈夫なんでしょうか……」
「レミィは一度ヤル気になったら絶対に曲げないから諦めなさい」
「あはは、よくわかってます……」
結局のところ先日の長話は咲夜をいかに冒頭で述べたような人物に「見せかけるか」ということだった。俗に言うキャラ作りである。
どのようなことをするのか、計画を立案したり方向性を決めたりするのは得意なレミリアだったが建設的な具体案を出し、計画することが苦手なためパチュリーの判断を仰いだのだ。
確かに咲夜は可愛いけど世間を知らなさすぎるのも事実。素の性格なのに良い子ぶってる、と思われたら傷つくだろうし、悪人に利用されないとも限らない。
紅魔館当主であるレミリア・スカーレットが異変を起こすと決めてしまっている以上ある程度は仕方ない。
それに外の世界の「学校」というところでは人に好かれるためにキャラづくりとかはするとか書いてあったし。素を見せるのは仲良くなってからでも遅くはないはず。
さらに言えば、元々、現状ではいけないと思いつつ無邪気な咲夜が可愛いから、というなんとも安易な理由で特に訂正もしてこなかった自分にも責任がある。咲夜に恨まれてもいいからある程度の道を示そう。
という割とシリアスな考えの末に協力したパチュリーおよび他の面々だった。
発案者であるレミリアにそこまでの深い考えがあったのかは分からないが全員が複雑な思いで協力しつつあるのは確かだった。
そして現在、当事者である咲夜を説得中である。
嘘を吐くのはいけないことだ、ということを守り、嘘も方便という言葉すら知らないような咲夜を説得するのはなかなかに難しかった。
「それに嘘を吐くのは良くないことです。初めて会う人達なんですからちゃんといつも通りに話して分かってもらうことが大切だと思います」
「そこをなんとか、ね!お願いよ咲夜」
「でも……」
「私からもお願い、咲夜」
「うう、お母さんまで……お嬢様がそんなに頼むなら……」
「咲夜のそういう素直なところは私大好きよ!」
感極まったレミリアと申し訳なさから抱きついた美鈴にサンドされる咲夜。
まっすぐであり融通が利かない純粋さも持っている咲夜でも大好きなお嬢様と母親代わりでもある美鈴のお願い攻勢にとうとう折れた。レミリアが土下座をしかねない勢いだったのも大きいだろう。
そうして咲夜の特訓の日々が始まったのだった。
レッスン1.言葉づかい。
「まず咲夜の普段の言葉づかいをなんとかしましょうか」
「えと、普段のじゃ駄目でしょうか……?」
「親しみがこもっている、という点では駄目では無いけれど……
でも、その場に応じた言葉づかいというのも大切よ。きっちり使い分けることは大人への第一歩」
「はい、分かりました。パチュリー様」
「じゃあ頑張って行きましょうか。
まず常に~ですわ、といったような言葉づかいを心がけるようにして…………」
レッスン2、態度。
「いつものような無邪気な笑顔には心が癒されるしずっとそのままでいてくれて構わないのだけど……」
「……レ・ミ・ィ?」
「だ、大丈夫、分かってるわよ。
いい、咲夜?仮にも紅魔館のメイド長。それ相応の態度、というものが大切になってくる」
「態度、ですか?」
「そう。まず笑う時はニコ、っと顔全体で笑うんじゃなくて唇の端を持ち上げる上品な感じの笑い方を心がけなさい」
「こ、こうですか?」
「引きつってるわね」
「難しいです……」
レッスン3、瀟洒度
「私から提案しといてなんだけど瀟洒って具体的に何をすればいいのかしらね……
パチェ解る?」
「うーん、意味としては垢ぬけていること、だから……相手の言葉に洒落ていてピリッと皮肉というかスパイスが効いてるような言葉を返せるようになればいいんじゃないの?
あくまでも「振り」なんだから言葉遊びが上手いってだけでもいいし。徐々に慣れていくでしょう」
「じゃあ、小悪魔。言葉遊び上達法、みたいな本を探してきて頂戴」
「はい、お嬢様」
「あのう、お嬢様、パチュリー様。私は結局何をすればいいんでしょう?」
「これに関しては本を読んでしっかり勉強することだから楽といえば楽よ?」
「お勉強ですか。わかりました!」
レッスン4、完全・完璧度
「これについては楽ね。咲夜はメイドとしてのスキルは充分だし」
「わーい、そうですか!ありがとうござ……お褒めに預かり光栄ですわ、お嬢様」
「おお、頑張ってるわね。あとは以心伝心。なにも言わなくても私の要求に完璧に応えられるようになれれば問題ないわね」
「お嬢様の望まれることでしたらある程度はわかるのですが、「完璧」というのは少々難しい、と感じます」
「じゃあ適当な秘密の合図を決めておくからその合図を見て私が何を要求してるか把握して行動しなさい。そうすれば何も言わなくても主の要求に完璧に応えられるメイド長、というのを演出できるわ」
「わかりました。お嬢様がそう望まれるのでしたら応えるのがメイドの役目ですわ……そういうのでいいのかなぁ?」
その後も。
「人前では撫で撫でもギュウも禁止」
「ええ?! それは嫌です!」
「身内のときだけなら思う存分やってあげるからね? ね?」
「それでも嫌なんです!!」
とかつてない抵抗にあったり、
「えーと。……えい!」
「咲夜ちゃん、それじゃ睨んでるんじゃなくて困ってる顔ですよ」
「うーんじゃあ……えい!」
「それじゃ拗ねてる顔です。ああもう可愛いなぁ……」
小悪魔が骨抜きにされたり、
「えと、め、めいりん!ちゃんとしごとしなさい!」
「わー、ごめんなさーい咲夜……さん」
「それじゃいくらなんでも大根すぎるわよ、二人とも……」
「でもパチュリー様。お母さんを呼び捨てにするのは……」
「あくまでもお芝居なんだから我慢して」
「はーい……」
「ど、どうしたんですか美鈴隊長!?」
「御気分でも悪いんですか?」
「うう、愛娘に呼び捨てにされて駄目なところをお説教されるなんて…
演技とはいえ中々に堪えます……」
当人ではなく門番に深刻なダメージを負わせたり、と色々あった。
そうして一ヶ月後。
すべての準備が整ったある日。レミリアは作戦を実行した。
そう。
幻想郷は紅い霧に覆われたのだ……
結果としてはほぼ運命の通りになったというところだろう。
レミリア・スカーレットは博麗の巫女に敗れ、フランドール・スカーレットは霧雨魔理沙と出会った。
紅魔館は紅い悪魔が住む恐ろしい決して近づいてはいけない場所、という立場からなんだかんだで親しみが持てなくもない場所へとランクアップしたわけである。なけなしのカリスマなどを失ったわけではあるが。
「れいむー、遊びに」
「素敵なお賽銭箱はあちら。用がないならとっとと帰りなさい」
「と、友達が来たのよ?! もうちょっと歓迎してくれてもいいじゃない!」
「……」
「なんで黙るの!?」
想像していた友達とは少し違っていたり。
「また借りてくぜー!」
「だから持ってかないでっていってるのに!門番はなにしてるのよ!」
「居眠りしてておっかないメイド長にナイフもらってたぜ?」
「ああ、こういう弊害がでることを予想しなかったなんて私のバカバカ!
というかレミィならこうなることくらいわかってたんじゃ!?」
「忙しそうだしとりあえず今日は帰るぜ」
「魔理沙だー。遊ぼー!」
「いいぜ!」
「せめて図書館の外に出てやって! お願いだから!」
「パチュリー様。不憫です……」
なんだかんだで一番頑張ったのに一番の貧乏くじを引いてしまったり、
「お母さん、これ疲れるよー。まだやってないとだめ?」
「お嬢様のお許しがでないと何とも言えないかなぁ」
「えー……」
「でも、ほら。勤務時間外はずっと甘やかしてあげるから。ね?」
「ならいいか。おかあさーん!」
屋敷内では大分大きい娘が母親の胸に飛び込んでいくといった仲睦まじい母子の姿が増えたそうだ。
「こっちに来るなんて珍しいわね、レミィ。何か用?」
うららかな午後の昼下がり。
いつも通り読書に勤しんでいたパチュリーのもとにとある事情から昼間から絶賛活動中の吸血鬼、レミリアがドアを蹴破りやってきたところからこの話は始まる。
「まずいの!」
「は?」
「このままじゃまずいのよ!」
「とりあえず落ち着きなさい」
「きゃん!」
そして、動かない大図書館の異名を取る少女はいつにない機敏な動きで、
今にも掴みかかりそうな勢いで詰め寄ってくるレミリアを打撃用の本の角で鎮圧したのだった。
なんとか落ち着きを取り戻したレミリアと読書を邪魔されて若干不機嫌なパチュリー読みかけの本に目を通しながら会話を続けた。ちなみに頭を強打されたレミリアは涙目で頭を抱えている。
「それで何がまずいのよ?」
「ほら、私これから紅い霧を発生させるでしょ?
それについてちょっと問題があることがわかって……」
「さも私が知っているように話すのは止めなさい。なにそれ初耳なんだけど」
「親友なんだからそれくらい察しなさい!」
「無茶言わないで。あんまり無茶苦茶言うと今度は本の角じゃ済まないわよ?」
「あ、ごめんなさい。謝るからロイヤルフレアはやめて、それかなり痛いから!」
訂正しよう。落ち着いたように見えてまだテンパっていた。
「……というわけなのよ」
「大体の事情はわかったわ」
レミリアが言うにはあまりにも退屈だったため思いつきで全力で能力を使って自分達の行く末を視たところ、この紅魔館は平穏無事に暮らしていける運命にあるらしい。
裏を返せばこのままでは変化が望めない退屈な日々が続くということでもある。
パチュリーとしてはそれで一向に構わないのだがそこは永い時を生き、これからも生きていくレミリア。
それではつまらん、と基本的にワガママな吸血幼女はおもしろおかしい生活ができるようになる運命も探ってみたそうだ。そして視たのが紅い霧を発生させる「異変」を起こす自分である。この異変を起こせば少々痛い目にはあうがかわいらしい紅白の巫女と仲良く(?)
なれ友達(?)にもなれるし、最愛の妹であり箱入りならぬ地下入り娘のフランにも黒白の良い遊び相手が出来るらしい。
さらに紅魔館は周りの他勢力と交友が出来、多くのイベントにも積極的に参加できるようにもなり良い事ずくめだとか。(魔砲に破壊される館や本を強奪されていく親友の姿にはふれなかったが)
「でも色々小さいくせにプライドだけは大きいレミィが負けを前提とした戦いを仕掛けたり、目にいれても痛くないくらい可愛がってるフランに余所者を会わせたり……
らしくないんじゃない?」
「ちゃんと理由はあ……というか、パチェなんか怒ってる?」
「全然怒ってなんかないわよ?」
「え、そ、そう?
……それで理由というのはね。いくつかあるんだけど。最大の理由は友達よ」
「……はい?」
「この異変を起こせば私にも友達が出来るのよ!
こんな根暗で愛想がなくて私のことを邪険にして暴力を振るうような半引きこもりとは違って私の遊びにも付き合ってくれる可愛くて強い友達ができ」
「ロイヤルフレア」
「ぎゃー!」
やっぱり怒ってました。全力で撃っていないのは親友としてこれくらいの悪口は許してくれるだろうという親愛の情をパチュリーが読み取ったからなのか、単に体調が万全ではなかったのか判断しかねるところである。
ここだけの話、愛想がないのも、ぞんざいな扱いをするのも、すぐ武力行使に出る点もこれから友達(?)になる霊夢のほうが酷いのだがそこまで詳しくは解らない。レミリアが視たものは楽しそうに話す自分と縁側でお茶を飲む巫女の映像だけであったためだ。
運命はかくも残酷なのである。
まあ、この場合。楽しそうな自分と一緒にいる→仲の良い友達!
という都合のよい思考回路をしているレミリアに責任はあるのだが。
「それで? いいことばかりならさっさと異変を起こせばいいのに。
なにが問題なのよ?」
「何事もなかったのように話を進めるのね……」
「何か言った?」
「いえ、何も!」
とても良い返事をしたレミリアは吸血鬼としての再生能力をフルに使って無事復帰していた。服は黒コゲだが、髪がアフロのようになっていないのはまだ少しは残っているカリスマのおかげか。
「今からその「問題」を呼ぶわ。さくやー、ちょっときてー!」
「お呼びですかお嬢様!」
「服がボロボロになっちゃったから替えの服お願いできる?」
「はい、ただいま!」
元気よく返事をした紅魔館のメイド長である十六夜咲夜は一瞬消えたと思ったらすぐに服を持って現れた。
「着せてくれる?」
「はい!」
そしてこれまた一瞬で着替え終わっているレミリア。
これだけ見れば人ならざる力を使い、完璧に仕事をこなすメイドの鏡なのだがその表情は
といえば
「……(じー)」
「あと、咲夜。紅茶もお願いできる?」
「はい!(じー)」
「……はいはい。いつもありがとう咲夜。助かったわ」
「ありがとうございます!」
お預けされた子犬のような顔をしていた。その顔も頭を撫でられると一転、ものすごく嬉しそうな笑顔に変わるそのさまは無邪気そのものである。
尻尾があるのならパタパタと揺れるのが見えるだろう。
一通り撫でられた満足したのか時を止めて去ろうとした咲夜に小悪魔がかけよる
「あ、紅茶を淹れにいくならお茶の葉をお願いできる?
図書館分のを切らしちゃってて」
「うん、分かった。すぐ持ってくるね、こあお姉ちゃん!」
「そんなに慌てなくてもいいからね。それといつもありがとうね、咲夜ちゃん」
「えへへー」
こんな会話をしつつ頭を撫でられるとこれまた嬉しそうに笑うメイド長は
しばらく撫でられた後で去って行った。
「嗚呼、私の咲夜。相変わらず可愛いわ……」
「……それで?」
「あ、いけないいけない。本題を忘れるところだった……
パチェ、咲夜をどう思う?」
「私たちみたいなのに囲まれているのに良い子に育ったんじゃないかしら。
仕事はできるし素直だし無邪気で純粋だし。メイドとしても清涼剤としても家族としても館に欠かせない存在でしょう」
そう言ってパチュリーは少し昔に思いを馳せた。
ある日、なんの気まぐれか赤ん坊を連れ帰ってきたレミリア。
捨てられていてこのままでは妖怪に食われるか餓死するかというところ拾ったそうだ。
いつも通りの思いつきでの行動を呆れながらも、子供を育てるということは犬猫や妖怪、妖精を拾ってくるのとは違うと、残酷だとは思いながらも元いた場所に戻すように進言したが、「この子は将来、紅魔館に欠かせない存在になるの! 運命で視たの!」
と駄々をこねる、もとい力説するレミリアに負けて結局育てることになったのだ。
その後、「十六夜咲夜」と名付けられた子供のために、レミリア、パチュリー、美鈴、小悪魔を中心とした子育てチームが結成された。
パチュリーは普段ほとんど役に立たない知識を存分に発揮し子育ての方針を立て、小悪魔は悪魔らしからぬその真面目さから咲夜を叱れない他のメンツの代わり優しくも時に心を鬼にして厳しく接し、美鈴はその優しさと包容力で母親役に収まった。そしてレミリアは基本的に役に立たなかった。強いて言うのならば甘やかし役、おばあちゃんとかその辺である。
この四人と紅魔館の他の従業員の総力を結集した努力によって奇跡的に咲夜はまっすぐで素直な、人を疑うことを知らない優しい子に育ち今に至るのであるがそれはまた別の話。
ただ基本的に大切なものには過保護にする、いや、しすぎる性格であるレミリアの運命をも巻き込んだ箱入り娘化政策のおかげで良く言えば世間ズレのしていない無邪気な、
悪く言えばかなりの世間知らずの年不相応な子供っぽさが残る結果となった。
ちなみにまだ年の若い咲夜がメイド長の地位にいるのは有能であるという理由もあるが、
咲夜をトップに据えておくと、「可愛い咲夜ちゃんのためなら!」と他の従業員の作業効率と結束力が格段にあがるためでもある。
「で、その咲夜の何が問題なの?」
「咲夜が問題なんじゃなくて、咲夜に関わってくるやつのほうが問題なのよ!」
バンッ!テーブルを叩き言い放ったレミリア。
若干呆れながらもそれなりに付き合いの長いパチュリーはレミリアの主張をおおよそ察した。
「つまりレミィは咲夜に変な虫がつかないか心配なわけね」
「そう! そうよその通り!」
おもむろに宙に浮きあがったレミリアは両腕と翼をバッと広げ既に捨て去ったとも思われていたカリスマと魔力を迸らせながら語った。
「確かに。
ここのところ毎日が暇すぎたから紅魔館が活気づくのは私としても喜ばしい!
友達も欲しい! フランからも「お姉様とだけ遊ぶのも飽きた!他の人と遊ばせてくれないと嫌いになっちゃうんだから!」とも言われてもいる!
それは嫌だ! 可愛い私のフランに嫌われるなんて想像するだけでもう!
それでも。それでも家の可愛い可愛い咲夜をあのままで外に出すわけにはいかない!
あんな素直で可愛くて家事万能で純粋な子を世の中が放っておくわけがない。
何処の馬の骨ともわからんやつに咲夜を汚されてたまりますか!!
手を出すというのならグングニルの一撃を覚悟せよ!」
「落ち着きなさい。というかフランから嫌いになっちゃうんだから宣言が比重の大部分を占めてるじゃないの」
「ぎゃぴ!」
そんなフルカリスマモードなレミリアだったが何故か上から降ってきた金ダライに本日三度目目の撃墜をされるのだった。
「でもまあ、仕方ないんじゃないの?
咲夜が大切なのは私も同じだけどいつまでも子供のまま手元に置いておけるわけじゃないんだから。子離れするいい機会だとおもうけど。それにあの子にも友達とか私たち以外の知り合いを増やすことも大切よ」
「そうなんだけど。そうなんだけど!」
うーうー唸りながら苦悶するレミリアだったがしばらくして意を決したように顔を上げた。
頭の中にはおじょーさま、おじょーさまと言いながらとてとて後ろをついてくる咲夜と
フランドールの嫌いになるぞ宣言が渦巻いていることだろう。
「それでも私は納得しない!
そこで私は考えた。咲夜を今のまま我々だけで愛でつつ、かつ人気者にし、かつ、変な虫もつけない方法を!」
「どうせ言っても聞かないんだろうからもう何も言わないけど……
ただその方法が咲夜を傷つけるようなことだったら流石に黙ってないわよ?」
「大丈夫よ。むしろ咲夜の社会勉強にもなるはず。
その名も!
「十六夜咲夜、瀟洒で完璧なメイド長化計画」!」
「…………はい?」
賢者といわれるパチュリーもぶっ飛んだ発想をポンポン出すトラブル発生機のような友人の言動に目を点にするしかなかった。
「つまり咲夜を高嶺の華のような立ち位置に置いて、人に尊敬されつつ親しみと紅魔館の一員として一定の畏れを持ってもらおうという計画なわけ」
「はあ、そうですか……ですがお嬢様。私、人から怖がられるのはちょっとヤですよ」
レミリアが計画の相談をパチュリーにした三日後、
レミリア、パチュリー、美鈴、小悪魔、そして当事者である咲夜の五人が図書館に揃っていた。
「あのー、お嬢様。私は今日の今の時間は門番のシフトがはいってまして、このままでは他の子たちに迷惑がですね……」
「当主権限で特別に許す!」
「そんな適当で大丈夫なんでしょうか……」
「レミィは一度ヤル気になったら絶対に曲げないから諦めなさい」
「あはは、よくわかってます……」
結局のところ先日の長話は咲夜をいかに冒頭で述べたような人物に「見せかけるか」ということだった。俗に言うキャラ作りである。
どのようなことをするのか、計画を立案したり方向性を決めたりするのは得意なレミリアだったが建設的な具体案を出し、計画することが苦手なためパチュリーの判断を仰いだのだ。
確かに咲夜は可愛いけど世間を知らなさすぎるのも事実。素の性格なのに良い子ぶってる、と思われたら傷つくだろうし、悪人に利用されないとも限らない。
紅魔館当主であるレミリア・スカーレットが異変を起こすと決めてしまっている以上ある程度は仕方ない。
それに外の世界の「学校」というところでは人に好かれるためにキャラづくりとかはするとか書いてあったし。素を見せるのは仲良くなってからでも遅くはないはず。
さらに言えば、元々、現状ではいけないと思いつつ無邪気な咲夜が可愛いから、というなんとも安易な理由で特に訂正もしてこなかった自分にも責任がある。咲夜に恨まれてもいいからある程度の道を示そう。
という割とシリアスな考えの末に協力したパチュリーおよび他の面々だった。
発案者であるレミリアにそこまでの深い考えがあったのかは分からないが全員が複雑な思いで協力しつつあるのは確かだった。
そして現在、当事者である咲夜を説得中である。
嘘を吐くのはいけないことだ、ということを守り、嘘も方便という言葉すら知らないような咲夜を説得するのはなかなかに難しかった。
「それに嘘を吐くのは良くないことです。初めて会う人達なんですからちゃんといつも通りに話して分かってもらうことが大切だと思います」
「そこをなんとか、ね!お願いよ咲夜」
「でも……」
「私からもお願い、咲夜」
「うう、お母さんまで……お嬢様がそんなに頼むなら……」
「咲夜のそういう素直なところは私大好きよ!」
感極まったレミリアと申し訳なさから抱きついた美鈴にサンドされる咲夜。
まっすぐであり融通が利かない純粋さも持っている咲夜でも大好きなお嬢様と母親代わりでもある美鈴のお願い攻勢にとうとう折れた。レミリアが土下座をしかねない勢いだったのも大きいだろう。
そうして咲夜の特訓の日々が始まったのだった。
レッスン1.言葉づかい。
「まず咲夜の普段の言葉づかいをなんとかしましょうか」
「えと、普段のじゃ駄目でしょうか……?」
「親しみがこもっている、という点では駄目では無いけれど……
でも、その場に応じた言葉づかいというのも大切よ。きっちり使い分けることは大人への第一歩」
「はい、分かりました。パチュリー様」
「じゃあ頑張って行きましょうか。
まず常に~ですわ、といったような言葉づかいを心がけるようにして…………」
レッスン2、態度。
「いつものような無邪気な笑顔には心が癒されるしずっとそのままでいてくれて構わないのだけど……」
「……レ・ミ・ィ?」
「だ、大丈夫、分かってるわよ。
いい、咲夜?仮にも紅魔館のメイド長。それ相応の態度、というものが大切になってくる」
「態度、ですか?」
「そう。まず笑う時はニコ、っと顔全体で笑うんじゃなくて唇の端を持ち上げる上品な感じの笑い方を心がけなさい」
「こ、こうですか?」
「引きつってるわね」
「難しいです……」
レッスン3、瀟洒度
「私から提案しといてなんだけど瀟洒って具体的に何をすればいいのかしらね……
パチェ解る?」
「うーん、意味としては垢ぬけていること、だから……相手の言葉に洒落ていてピリッと皮肉というかスパイスが効いてるような言葉を返せるようになればいいんじゃないの?
あくまでも「振り」なんだから言葉遊びが上手いってだけでもいいし。徐々に慣れていくでしょう」
「じゃあ、小悪魔。言葉遊び上達法、みたいな本を探してきて頂戴」
「はい、お嬢様」
「あのう、お嬢様、パチュリー様。私は結局何をすればいいんでしょう?」
「これに関しては本を読んでしっかり勉強することだから楽といえば楽よ?」
「お勉強ですか。わかりました!」
レッスン4、完全・完璧度
「これについては楽ね。咲夜はメイドとしてのスキルは充分だし」
「わーい、そうですか!ありがとうござ……お褒めに預かり光栄ですわ、お嬢様」
「おお、頑張ってるわね。あとは以心伝心。なにも言わなくても私の要求に完璧に応えられるようになれれば問題ないわね」
「お嬢様の望まれることでしたらある程度はわかるのですが、「完璧」というのは少々難しい、と感じます」
「じゃあ適当な秘密の合図を決めておくからその合図を見て私が何を要求してるか把握して行動しなさい。そうすれば何も言わなくても主の要求に完璧に応えられるメイド長、というのを演出できるわ」
「わかりました。お嬢様がそう望まれるのでしたら応えるのがメイドの役目ですわ……そういうのでいいのかなぁ?」
その後も。
「人前では撫で撫でもギュウも禁止」
「ええ?! それは嫌です!」
「身内のときだけなら思う存分やってあげるからね? ね?」
「それでも嫌なんです!!」
とかつてない抵抗にあったり、
「えーと。……えい!」
「咲夜ちゃん、それじゃ睨んでるんじゃなくて困ってる顔ですよ」
「うーんじゃあ……えい!」
「それじゃ拗ねてる顔です。ああもう可愛いなぁ……」
小悪魔が骨抜きにされたり、
「えと、め、めいりん!ちゃんとしごとしなさい!」
「わー、ごめんなさーい咲夜……さん」
「それじゃいくらなんでも大根すぎるわよ、二人とも……」
「でもパチュリー様。お母さんを呼び捨てにするのは……」
「あくまでもお芝居なんだから我慢して」
「はーい……」
「ど、どうしたんですか美鈴隊長!?」
「御気分でも悪いんですか?」
「うう、愛娘に呼び捨てにされて駄目なところをお説教されるなんて…
演技とはいえ中々に堪えます……」
当人ではなく門番に深刻なダメージを負わせたり、と色々あった。
そうして一ヶ月後。
すべての準備が整ったある日。レミリアは作戦を実行した。
そう。
幻想郷は紅い霧に覆われたのだ……
結果としてはほぼ運命の通りになったというところだろう。
レミリア・スカーレットは博麗の巫女に敗れ、フランドール・スカーレットは霧雨魔理沙と出会った。
紅魔館は紅い悪魔が住む恐ろしい決して近づいてはいけない場所、という立場からなんだかんだで親しみが持てなくもない場所へとランクアップしたわけである。なけなしのカリスマなどを失ったわけではあるが。
「れいむー、遊びに」
「素敵なお賽銭箱はあちら。用がないならとっとと帰りなさい」
「と、友達が来たのよ?! もうちょっと歓迎してくれてもいいじゃない!」
「……」
「なんで黙るの!?」
想像していた友達とは少し違っていたり。
「また借りてくぜー!」
「だから持ってかないでっていってるのに!門番はなにしてるのよ!」
「居眠りしてておっかないメイド長にナイフもらってたぜ?」
「ああ、こういう弊害がでることを予想しなかったなんて私のバカバカ!
というかレミィならこうなることくらいわかってたんじゃ!?」
「忙しそうだしとりあえず今日は帰るぜ」
「魔理沙だー。遊ぼー!」
「いいぜ!」
「せめて図書館の外に出てやって! お願いだから!」
「パチュリー様。不憫です……」
なんだかんだで一番頑張ったのに一番の貧乏くじを引いてしまったり、
「お母さん、これ疲れるよー。まだやってないとだめ?」
「お嬢様のお許しがでないと何とも言えないかなぁ」
「えー……」
「でも、ほら。勤務時間外はずっと甘やかしてあげるから。ね?」
「ならいいか。おかあさーん!」
屋敷内では大分大きい娘が母親の胸に飛び込んでいくといった仲睦まじい母子の姿が増えたそうだ。
やりおるわ
あと最後魔理沙は多分見てはいけないものを見た気分だったろうな…
どちらにしろ可愛い
心で血の涙を流すほどのスパルタ特訓だったんでしょうな
別に素のままでもいいと思うんだ
と言わずにはいれねぇな
その発想と咲夜さんの可愛さに敬意をこめて100点を!
……あれ?