笑い声が聞こえる。
その方向を向けば、酒を飲み交わし、騒ぐ人妖たち。
桜が咲いた途端この状態だ。
もう夜中だというのに昼間からペースを落とさずにこの調子なのだから、まったく、幻想郷の住人ときたら・・・。
その中から離れて、休憩中の私は1人ぼーっとしていた。
夜もはらはらと花びらを散らし続ける桜を見て考える。
咲いてすぐ散ってしまう花もある。
いつまでも咲いている花もある。
まだ蕾で、先に咲いた仲間達に追いつこうとしているものも。
どれが美しいと感じるかなんて人それぞれ。
散るのが美しいと感じる人がいれば、花が咲き誇っているのが美しいと感じる人もいる。
幽々子様はそう言っていた。
人の命の花もそれぞれ。
すぐに散ってしまう花もあれば、ずっと咲いたままの花もある。
咲いたままでいる事は出来ない。誰にも散る時は来るのだ。
しかし、この幻想郷には永遠の命を持つ者もいれば、幽々子様のような亡霊もいる。
桜の花を人の命と例えるならば、半人半霊である私はどの花なのか。
半分散った花だろうか。それとも、まだ咲いていない蕾だろうか。
そこまで考えて外気に冷やされて飲み易い温度になったお茶を飲む。
幽々子様はどの花だろうか。
すでに散ってしまった花。
咲かない花。
咲く事の出来ない桜といえば・・・・庭に佇む大きな桜の木、西行妖を連想してしまう。
この木について、ずいぶん昔にお師匠様に何か大事な事を聞いた事がある気がするが、何だったか。
あの桜を咲かせようと奔走した事もあった。
それがずいぶん昔の事に感じる。
もう一度茶を飲もうと湯呑みを傾ける。
「・・・ん?」
味が違う。今まで飲んでいた茶ではない。
苦く、そして変に辛いような味に、思わず顔をしかめた。
私はこの味の正体を知っている。
料理などにも使うアレだ。
「・・・お酒?」
気付いてみれば、飲む直前に鼻を突くような匂いがした気がする。
「よ~お~む~?」
不意に後ろから抱きつかれた。
その声が聞こえた瞬間、私の茶が酒と擦り替えられてえいた原因も分かった。
「あぁ・・・幽々子様ですか・・・お酒は止めて下さいよ」
「いいじゃないの?」
「良くないです・・・・それで、如何なさいました?」
「なにつまらなそうな顔してるのよぉ~?」
「いえ、そんな事は・・・」
「ふ~ん。じゃあ考え事でもしてたのかしら?」
「えぇ・・・まぁ」
「桜を見て何か考える事はあった?」
「はい・・・少し」
「そう。・・・じゃあちょっと話してみて?」
酒が入っている所為か、頬がうっすら桜色に染まったまま話す幽々子様。
「幽々子様・・・酔ってます?」
「酔ってないわよぉ~」
「この前みたいに襲わないで下さいよ~?」
「だから酔ってないってば~」
嘘だ。絶対酔っている。
ふふふ、と着物の袖で口元を隠しながら笑う様は、完全に酔っている証拠だ。
「それより・・・ほら、話して?」
どうやら、どうしても聞きたいようだ。
まぁ、それほど話したくない訳でもなく、幽々子様は酔っているのだから、きっと話した事は忘れてしまうだろう。
「では・・・」
深呼吸をひとつ。
「私は・・・・花で桜の花で例えたら、どの花でしょうか?・・・・なんて変ですよね」
自分で考えている分には良いが、口に出すのは何だか恥ずかしい。
笑われるかと思ったが、幽々子様は酔ってはいるが、少し考えてから、意外な事に真剣に答えてくれた。
「いいえ、変じゃないわ。そうね・・・あなたは・・・・蕾。あなたはまだ半人前だけど、いつか一人前になって、花を咲かせる時が来るでしょう。・・・まぁ、私なりの考えだけどね」
「・・・成程」
私は、蕾か。
半人前と言われたのは少し悔しいが、自分が未熟なのは自分でも重々承知している。
何だか気持ちがすっきりした。
「でも・・・あなたが蕾だとしたら、私はどの花かしら?」
意外。
私がついさっきまで考えていた事ではないか。
「幽々子様は・・・・」
考えはまだ纏まっていない。
そもそも答えなんて無いかもしれない。
どう思うも人それぞれだから。
「幽々子様は・・・・・咲かない・・・花・・・とか?」
失礼な事を言ったかもしれない。
そう思ったが、本人は気にもしない様子で、
「ふふ、答えてくれてありがと」
そう言って幽々子様は後ろを振り返った。
「ほら、それより妖夢」
「何でしょうか?」
「今夜は一緒に呑みましょ?」
背後から取り出したのは日本酒の瓶。
さっきの悪戯の酒はこれか。
幽々子様は私の隣に座った。
「お酒・・・ですか?」
「そーよ?」
私は酒に強くないのだが・・・。
「でも・・・私は、皆さんにお酒を運んだりしないと・・・」
「いいわよ、あの連中ならお酒くらい持ってかなくても自分で探すでしょ?」
幽々子様に手を握られる。
そして、にっこりと優しく微笑みながら言った。
「それに、私は『あなたと』呑みたいの」
「やっぱり酔ってます?」
「酔ってないわよ~♪ほら、早く」
「しかし・・・私はお酒だめなんですよ」
「大丈夫。ちょっとだけだから」
「しかし・・・・」
「ほら、そんな事言ってるから蕾のままなのよ?」
「むっ」
少しカチンと来た。
こう言われたらもう飲むしかないだろう。
幽々子様にまんまとはめられた気がするが、気にしない。
「・・・分かりました。少しだけですからね?」
「ふふ、妖夢が酔っ払う姿が見られるなんて嬉しいわ」
「酔いませんよ!」
私だって少しくらい飲める。・・・たぶん。
酔っ払って踊った事もあるが、今日はきっと大丈夫。たぶん。
「え~と、これでいいかしら?」
私が先程まで使っていた湯呑みの中に酒を注いでいく幽々子様。
どう見ても多すぎる量だ。
私は幽々子様の御猪口に酒を注いで、飲む準備は完了。
「じゃあ、蕾の妖夢に乾杯。・・・・・あなたの花が咲きますように」
「・・・乾杯」
チン
私は蕾。
私にも花を咲かせる時がきっと来る。
それまでにこの桜は何回花を咲かせるだろうか。
たとえ何百何千年の道程であろうと、私は一人前に近づこう。
幽々子様を守れるように。大切な人を守れるように。
そう思いながら、息を止めて、酒の入った湯飲みを少しづつ傾けるのだった。
何時か咲けると良いですね!
そうですねぇ。散る桜もいいですよねぇ・・・。
>>2. 日間賀千尋 様
散っていく桜を見ているとなんだか寂しいですよね。咲いている時に綺麗だと特に・・・。
満開が好きと書きましたが、散る桜も好きです。
コメントありがとうございましたッ!!