ここはヴワル魔法図書館。
図書館という公共施設っぽい名前は付いているものの、どっかの魔女の私物的な感が否めない場所。
紅魔館の一画に位置し、館内は書物が日に焼けないように光が差し込まない薄暗い場所である。図書館独特の本の古びた匂いが鼻につくが、静寂な空気に相俟って、落ち着く様な気がするから不思議なものだ。
そんな辛気臭いながらも落ち着いた場所に似つかわしくない声が響いていた。
「あややややや」
烏天狗の射命丸文である。曲がりなりにも新聞記者の彼女は、ネタ収集のためにこの魔法図書館を訪れていた。
文は膨大な本の海の中で少女二人に取材をしているようだ。ティータイムを嗜んでいた図書館の主、パチュリー・ノーレッジとその友人、霧雨魔理沙が取材を受けていた。
「取材を受けることには吝かではないが、今回の新聞の内容は何なんだ?」
パチュリーの元へ遊びに来ていた魔理沙が文に問う。
「ええ、特集『どの程度の能力?』と題しまして、幻想郷の弾幕少女たちの『○○程度の能力』について、記事を書こうかと思いましてね~」
「ほぉ~、そいつぁ面白そうだな」
文にしては、面白そうな事をしていると、素直に笑みを浮かべた。
「よっし、何を答えたらいいんだ?」
「ご協力ありがとう御座います。では、さっそく取材を始めますね」
「おうよ」
「まず、魔理沙さんの能力は『魔法を使える程度の能力』でしたよね?」
魔理沙は椅子の背に大きく体重を預け、椅子を後ろへと傾ける。
「あぁ、そうだぜ」
体重を掛けられた椅子は後ろ脚の二本でバランスを取って遊んでいる。
「しっかし、自分で言うのもなんだが。あたしの程度能力は面白味ないよなぁ」
「というと・・・?」
「いや『魔法を使える』ってのは、パチュリーやアリスにとっては基本スキルでしかないからな。まったく、パチュリーが羨ましいぜ」
「貴方が言うところのその基本スキルを使える私は、何故、自機になれないのかしらね?」
魔理沙の対面からパチュリーが口をはさむ。
確かに、魔法が使えるパチュリーは自機になったことなどない。アリスもまた然り。
「本当にパルいわね。まったくもって、パルいわね」
「お、おい・・・その目は文章媒体で見えないからって、少女的にアウトだぞ」
パチュリーの目線が痛い。細かい描写はしない、出来ない。
「でも、そんな事を言ったら、霊夢さんの方が凄いですよね」
パチュリーの不穏な空気を感じ、すかさず天狗が話題をそらす。
それを聞いた魔理沙が椅子バランスを止め、姿勢を戻して苦笑を浮かべる。
「霊夢の方が凄いと言われるのは癪だが、それには同意せざるおえないな」
「むっきゅむきゅ、霊夢の能力は、確か『空を飛べる程度の能力』だったわね」
『空を飛べる程度の能力』
空を飛ぶのは弾幕ごっこの基本であり、幻想郷の少女においてドロワーズと同等の嗜みである。飛べない奴は弾幕少女にあらず、只の『モブキャラA』だ。
そんな、弾幕少女の大前提。
そこら辺の妖精だって飛べる、毛玉だって飛べる。そんな基本中の基本。それなのに自機から退く事はなく、第八回人気投票でも不動の1位である。
生れながら自機を運命付けられた存在。
自機の中の自機。
自機の女王。
エース・オブ・自機。
それが我らの腋巫女、博麗霊夢である。
「そう思うと、霊夢も断然パルくなってきたわね」
不穏な空気は変わらなかった。
「まぁ霊夢さんについてはこの後、本人に伺いますから。魔理沙さんの能力に付いて、幾つかお聞きしますので。その次はパチュリーさんの能力について、お聞きしてもいいですか?」
「むきゅー」
・・・・少女取材中
「パチュリーさん、魔理沙さん、取材のご協力ありがとうございました」
取材はつつがなく終わったようで、文は礼儀正しく頭を下げる。そして三人は取材と関係ない世間話にズレていった。
それから、時計の長針が4分の1周程動いた頃。
「パチュリー様。お花の図鑑見せてくださいっ」
元気な声が図書館に響いた。
「あら、いらっしゃい、美鈴。珍しいわねココに来るなんて」
「いや~、ちょっと庭に見たことない花が咲いているんで、種類をこちらで調べようかと・・・ん?」
パチュリーの問いかけに笑顔で答え、文が居ることに首を傾げた。
「天狗さんが居ますね・・・」
「あやややや。門番さん、こんにちは~」
「あ、はい、こんにちはっ」
反射的に美鈴は頭を下げた。
「あ、あのー。今日は誰も門を通した記憶がないのですが・・・何で文さんはココに居るんですか?」
「そりゃあ、門番さんは寝てましたからねー」
「あぁ、なるほどっ」
なんとも屈託のない、暖かな笑顔で頷く。
「あっ、魔理沙さんもこんにちはっ」
「おぅ、お邪魔してるぜ」
「魔理沙さんも勝手に入って来ちゃたんですか?」
「お前が寝てるのが悪いんだろーが」
「起こして下さっても良かったのに」
「あんな気持ち良さそうに寝てたら、起こす気力も失せるぜ」
「えへへ~」
その笑顔には反省の色はない。門番職務を放棄し、居眠りに従事している事は彼女の日常であり、反省なんてする必要が最早なかった。
「そういえば、門番さんに取材してませんでしたね」
「はい? 何のお話ですか?」
「実はですね・・・」
・・・・少女説明中
「ってな訳で、インタビュー開始です! 美鈴さんの能力について聞かせて下さい!」
「うーん・・・そ~ですね。それなりに本気で練った気を手足に込めて打ち出せば、相手の内部破壊とかは出来ますよ」
「ほう。威力は、いかほどで?」
「五臓六腑が、二臓一腑に減る位ですかねぇ」
「内臓ごっそり持ってかれる!?」
「怖ぇ~気を使う程度怖ぇ~」
パチュリーが表情を変えずに本に目を落としながら言葉だけで怖がる。本当に怖がっているのだろうか? 疑問である。
「七曜の魔女が門番を怖がるなんてお笑いだぜ」
そんなパチュリーを見て、魔理沙は笑っているが、その笑顔には輝きがなかった。なんというか全体的に曇っている。表情自体は笑顔を作りだしているが、顔色が悪い。
「ハハッそうか・・・弾幕戦じゃなかったら、今頃私はお陀仏か・・・」
「他に気を使って自身の治癒能力を高めたりとかは出来ますよね?」
「えぇ、出来ますよ」
「他には能力を応用した自分ならではの技とかありますか?」
「・・・うーん、コレと言って無いですね」
「そうですか・・・」
結局、予想の範囲内の回答しか得られなかった。
「まぁ、門番さんの能力は思っていたより、恐ろしいモノだと理解出来ました」
文はそう言うと、メモを取っていた文花帖を閉じ、取材を終える。
「そもそも、美鈴なんかに取材しても、面白い事が発掘出来るわけねーだろ」
魔理沙は右手でテーブルに頬杖をつきながら、地味に酷いことをサラッと口にする。
「というと?」
「他にも、この館には『運命を操る吸血幼女ちゃん』や『時を操るメイドさん』が居るんだから、そいつらに取材して来いよ。そっちの方が断然面白いだろ?」
「ちっちっちっ」
「おい、人差し指を立てて、メトロノームみたいに指を振るな。なんか馬鹿にされた気分になる。そして、そのドヤ顔止めろ」
「甘いですよ、魔理沙さん! 素朴なモノから意外なモノが発見できたら、ソレこそがスクープに成り得るんですよ!」
「そーゆーモノか?」
「そーゆーモンなんですよ」
片手で文花帖を、もう一方でペンを弄ぶ。
「でも、コレだけじゃスクープとは言えませんけどね・・・」
バンッ!
静寂を求める図書館に、扉を勢いよく開け放つ音が響き渡る。
「美鈴の能力はそれだけじゃないわ!」
図書館に乱入してきたのは、完璧で瀟洒なメイドこと十六夜咲夜である。
「あのー、今の時間、咲夜さんはお嬢様のティータイムでは?」
「美鈴の匂いがしたので、駆けつけました」
流石は『悪魔のイヌ』。
「門番さんの能力はそれだけではないとは、どういうことですか?」
新聞記者は聞き逃さなかった。
「美鈴の能力は汎用性が高くて、その能力を駆使して戦ったならば、幻想郷の最強の一角に成りえるはずですわ!」
「んな訳ねーだろ」
「咲夜さん、詳しくプリーズです!」
文は閉じた文花帖を再度開き、準備完了。文の取材体勢が整ったのを確認すると、静かに語りだした。
「私たち弾幕少女の誰しもが持ち合わせている『○○程度の能力』。彼女の『気を使う程度の能力』は幻想郷の中でも優れた能力だと思われます。そもそも、『○○程度の能力』は現実の物体に干渉するだけではなく、形のない概念的な物にまで干渉できます。例えば、スキマ妖怪の能力『境界を操る程度の能力』。あの人のスペルカードにも『生と死の境界』ってありますし、生と死などの概念的なものも操れるに決まってるわ。私だって、『時を操る程度の能力」だけど紅魔館内の空間を弄れます。それならば、美鈴の能力だって例外ではないはずです。そう、あらゆる『気』と付く言葉、もしくは物体・事象・概念に対して、干渉できるはずだわ!」
「いや、ちょっ、咲夜さん! 長台詞で何言ってるんですか?」
何やらおかしな事を口走り始めた咲夜に、美鈴が制止しようとする。
「まず、敵と戦う事になったとしましょう」
「ほうほう」
「魔理沙さんも止めて下さいよ!」
「通常なら、弾幕戦かガチ格闘して勝敗を決めることになるでしょう」
「まぁそれは普通の事だな。最後に物をいうのはパワーだぜ」
「しかし、美鈴の場合は戦わずして勝利を収めることが可能なのよ!」
「ほうほう」
「想像してみて下さい。“元気”を操り、敵の元気を衰退させる。“食い気”を操り、食欲を無くさせるとどうなると思いますか?」
「そりゃあ、相手は日に日に弱っていくな」
「そうです! 美鈴は戦わずして、相手に勝利出来るのです!」
「「「「!?」」」」
「いやいやいや、流石にソレは無いだろ。美鈴も咲夜になんか言ってやれよ」
「そ、そうですよ! 私、そんなこと出来ませんよ!」
「咲夜さん。常識的に考えて、それはあり得ませんって」
「この幻想郷において、常識なんてものに囚われる意味があると思っているの!?」
「いや、そうは言ってもよぉ」
「続けるわよ!」
「咲夜さんは、お嬢様の所へ戻ってくださいよ!」
「もし、戦闘になったとしても、“吐き気”を誘発させれば、相手は戦いに集中できないはずよ!」
「無視ですか!?」
「“冷気”と“暖気”を操れば、季節ごとの気温の変化に対応が出来るはずよ」
「あ、それは出来るかも・・・」
「“気圧”や“空気”を操り、極地的に真空状態を作って、そこに相手を投げ込めば・・・」
「それは、らめぇぇぇぇぇえっ!」
「“大気”を操り、“冷気・暖気”も操れば天候を操ることも可能! いえ、そんなまどろっこしい事しなくても、“天気”を操ればいいわ!」
「非想天則で天候変え放題!?」
「“雰囲気”を操り、修羅場の空気もなんのその!」
「三角関係お手の物!」
「“電気”も操れます!」
「それじゃあ、私も超電磁砲を撃てますか?」
「“酒気”を操れば、飲酒運転で捕まりません!」
「幻想郷に車はないですけどね!」
「“景気”を操れば、国すらも相手取れます!」
「もしかして、今の不況の原因は・・・・・・私!?」
「そうよ、美鈴は最強なのよ!」
「「「「そ、そうなのかーっ!」」」」
なんだかんだのこの内容は、文の手により瞬く間に一面記事として書き起こされた。この記事が載せられた文々。新聞は幻想郷を駆け巡り、美鈴最強説提唱の切っ掛けとなるのだった。
その結果、色んな方面から美鈴に引き抜きやスカウトが相次いだが、おぜう様はかたくなに美鈴を手放さなかったのはまた別の話。
図書館という公共施設っぽい名前は付いているものの、どっかの魔女の私物的な感が否めない場所。
紅魔館の一画に位置し、館内は書物が日に焼けないように光が差し込まない薄暗い場所である。図書館独特の本の古びた匂いが鼻につくが、静寂な空気に相俟って、落ち着く様な気がするから不思議なものだ。
そんな辛気臭いながらも落ち着いた場所に似つかわしくない声が響いていた。
「あややややや」
烏天狗の射命丸文である。曲がりなりにも新聞記者の彼女は、ネタ収集のためにこの魔法図書館を訪れていた。
文は膨大な本の海の中で少女二人に取材をしているようだ。ティータイムを嗜んでいた図書館の主、パチュリー・ノーレッジとその友人、霧雨魔理沙が取材を受けていた。
「取材を受けることには吝かではないが、今回の新聞の内容は何なんだ?」
パチュリーの元へ遊びに来ていた魔理沙が文に問う。
「ええ、特集『どの程度の能力?』と題しまして、幻想郷の弾幕少女たちの『○○程度の能力』について、記事を書こうかと思いましてね~」
「ほぉ~、そいつぁ面白そうだな」
文にしては、面白そうな事をしていると、素直に笑みを浮かべた。
「よっし、何を答えたらいいんだ?」
「ご協力ありがとう御座います。では、さっそく取材を始めますね」
「おうよ」
「まず、魔理沙さんの能力は『魔法を使える程度の能力』でしたよね?」
魔理沙は椅子の背に大きく体重を預け、椅子を後ろへと傾ける。
「あぁ、そうだぜ」
体重を掛けられた椅子は後ろ脚の二本でバランスを取って遊んでいる。
「しっかし、自分で言うのもなんだが。あたしの程度能力は面白味ないよなぁ」
「というと・・・?」
「いや『魔法を使える』ってのは、パチュリーやアリスにとっては基本スキルでしかないからな。まったく、パチュリーが羨ましいぜ」
「貴方が言うところのその基本スキルを使える私は、何故、自機になれないのかしらね?」
魔理沙の対面からパチュリーが口をはさむ。
確かに、魔法が使えるパチュリーは自機になったことなどない。アリスもまた然り。
「本当にパルいわね。まったくもって、パルいわね」
「お、おい・・・その目は文章媒体で見えないからって、少女的にアウトだぞ」
パチュリーの目線が痛い。細かい描写はしない、出来ない。
「でも、そんな事を言ったら、霊夢さんの方が凄いですよね」
パチュリーの不穏な空気を感じ、すかさず天狗が話題をそらす。
それを聞いた魔理沙が椅子バランスを止め、姿勢を戻して苦笑を浮かべる。
「霊夢の方が凄いと言われるのは癪だが、それには同意せざるおえないな」
「むっきゅむきゅ、霊夢の能力は、確か『空を飛べる程度の能力』だったわね」
『空を飛べる程度の能力』
空を飛ぶのは弾幕ごっこの基本であり、幻想郷の少女においてドロワーズと同等の嗜みである。飛べない奴は弾幕少女にあらず、只の『モブキャラA』だ。
そんな、弾幕少女の大前提。
そこら辺の妖精だって飛べる、毛玉だって飛べる。そんな基本中の基本。それなのに自機から退く事はなく、第八回人気投票でも不動の1位である。
生れながら自機を運命付けられた存在。
自機の中の自機。
自機の女王。
エース・オブ・自機。
それが我らの腋巫女、博麗霊夢である。
「そう思うと、霊夢も断然パルくなってきたわね」
不穏な空気は変わらなかった。
「まぁ霊夢さんについてはこの後、本人に伺いますから。魔理沙さんの能力に付いて、幾つかお聞きしますので。その次はパチュリーさんの能力について、お聞きしてもいいですか?」
「むきゅー」
・・・・少女取材中
「パチュリーさん、魔理沙さん、取材のご協力ありがとうございました」
取材はつつがなく終わったようで、文は礼儀正しく頭を下げる。そして三人は取材と関係ない世間話にズレていった。
それから、時計の長針が4分の1周程動いた頃。
「パチュリー様。お花の図鑑見せてくださいっ」
元気な声が図書館に響いた。
「あら、いらっしゃい、美鈴。珍しいわねココに来るなんて」
「いや~、ちょっと庭に見たことない花が咲いているんで、種類をこちらで調べようかと・・・ん?」
パチュリーの問いかけに笑顔で答え、文が居ることに首を傾げた。
「天狗さんが居ますね・・・」
「あやややや。門番さん、こんにちは~」
「あ、はい、こんにちはっ」
反射的に美鈴は頭を下げた。
「あ、あのー。今日は誰も門を通した記憶がないのですが・・・何で文さんはココに居るんですか?」
「そりゃあ、門番さんは寝てましたからねー」
「あぁ、なるほどっ」
なんとも屈託のない、暖かな笑顔で頷く。
「あっ、魔理沙さんもこんにちはっ」
「おぅ、お邪魔してるぜ」
「魔理沙さんも勝手に入って来ちゃたんですか?」
「お前が寝てるのが悪いんだろーが」
「起こして下さっても良かったのに」
「あんな気持ち良さそうに寝てたら、起こす気力も失せるぜ」
「えへへ~」
その笑顔には反省の色はない。門番職務を放棄し、居眠りに従事している事は彼女の日常であり、反省なんてする必要が最早なかった。
「そういえば、門番さんに取材してませんでしたね」
「はい? 何のお話ですか?」
「実はですね・・・」
・・・・少女説明中
「ってな訳で、インタビュー開始です! 美鈴さんの能力について聞かせて下さい!」
「うーん・・・そ~ですね。それなりに本気で練った気を手足に込めて打ち出せば、相手の内部破壊とかは出来ますよ」
「ほう。威力は、いかほどで?」
「五臓六腑が、二臓一腑に減る位ですかねぇ」
「内臓ごっそり持ってかれる!?」
「怖ぇ~気を使う程度怖ぇ~」
パチュリーが表情を変えずに本に目を落としながら言葉だけで怖がる。本当に怖がっているのだろうか? 疑問である。
「七曜の魔女が門番を怖がるなんてお笑いだぜ」
そんなパチュリーを見て、魔理沙は笑っているが、その笑顔には輝きがなかった。なんというか全体的に曇っている。表情自体は笑顔を作りだしているが、顔色が悪い。
「ハハッそうか・・・弾幕戦じゃなかったら、今頃私はお陀仏か・・・」
「他に気を使って自身の治癒能力を高めたりとかは出来ますよね?」
「えぇ、出来ますよ」
「他には能力を応用した自分ならではの技とかありますか?」
「・・・うーん、コレと言って無いですね」
「そうですか・・・」
結局、予想の範囲内の回答しか得られなかった。
「まぁ、門番さんの能力は思っていたより、恐ろしいモノだと理解出来ました」
文はそう言うと、メモを取っていた文花帖を閉じ、取材を終える。
「そもそも、美鈴なんかに取材しても、面白い事が発掘出来るわけねーだろ」
魔理沙は右手でテーブルに頬杖をつきながら、地味に酷いことをサラッと口にする。
「というと?」
「他にも、この館には『運命を操る吸血幼女ちゃん』や『時を操るメイドさん』が居るんだから、そいつらに取材して来いよ。そっちの方が断然面白いだろ?」
「ちっちっちっ」
「おい、人差し指を立てて、メトロノームみたいに指を振るな。なんか馬鹿にされた気分になる。そして、そのドヤ顔止めろ」
「甘いですよ、魔理沙さん! 素朴なモノから意外なモノが発見できたら、ソレこそがスクープに成り得るんですよ!」
「そーゆーモノか?」
「そーゆーモンなんですよ」
片手で文花帖を、もう一方でペンを弄ぶ。
「でも、コレだけじゃスクープとは言えませんけどね・・・」
バンッ!
静寂を求める図書館に、扉を勢いよく開け放つ音が響き渡る。
「美鈴の能力はそれだけじゃないわ!」
図書館に乱入してきたのは、完璧で瀟洒なメイドこと十六夜咲夜である。
「あのー、今の時間、咲夜さんはお嬢様のティータイムでは?」
「美鈴の匂いがしたので、駆けつけました」
流石は『悪魔のイヌ』。
「門番さんの能力はそれだけではないとは、どういうことですか?」
新聞記者は聞き逃さなかった。
「美鈴の能力は汎用性が高くて、その能力を駆使して戦ったならば、幻想郷の最強の一角に成りえるはずですわ!」
「んな訳ねーだろ」
「咲夜さん、詳しくプリーズです!」
文は閉じた文花帖を再度開き、準備完了。文の取材体勢が整ったのを確認すると、静かに語りだした。
「私たち弾幕少女の誰しもが持ち合わせている『○○程度の能力』。彼女の『気を使う程度の能力』は幻想郷の中でも優れた能力だと思われます。そもそも、『○○程度の能力』は現実の物体に干渉するだけではなく、形のない概念的な物にまで干渉できます。例えば、スキマ妖怪の能力『境界を操る程度の能力』。あの人のスペルカードにも『生と死の境界』ってありますし、生と死などの概念的なものも操れるに決まってるわ。私だって、『時を操る程度の能力」だけど紅魔館内の空間を弄れます。それならば、美鈴の能力だって例外ではないはずです。そう、あらゆる『気』と付く言葉、もしくは物体・事象・概念に対して、干渉できるはずだわ!」
「いや、ちょっ、咲夜さん! 長台詞で何言ってるんですか?」
何やらおかしな事を口走り始めた咲夜に、美鈴が制止しようとする。
「まず、敵と戦う事になったとしましょう」
「ほうほう」
「魔理沙さんも止めて下さいよ!」
「通常なら、弾幕戦かガチ格闘して勝敗を決めることになるでしょう」
「まぁそれは普通の事だな。最後に物をいうのはパワーだぜ」
「しかし、美鈴の場合は戦わずして勝利を収めることが可能なのよ!」
「ほうほう」
「想像してみて下さい。“元気”を操り、敵の元気を衰退させる。“食い気”を操り、食欲を無くさせるとどうなると思いますか?」
「そりゃあ、相手は日に日に弱っていくな」
「そうです! 美鈴は戦わずして、相手に勝利出来るのです!」
「「「「!?」」」」
「いやいやいや、流石にソレは無いだろ。美鈴も咲夜になんか言ってやれよ」
「そ、そうですよ! 私、そんなこと出来ませんよ!」
「咲夜さん。常識的に考えて、それはあり得ませんって」
「この幻想郷において、常識なんてものに囚われる意味があると思っているの!?」
「いや、そうは言ってもよぉ」
「続けるわよ!」
「咲夜さんは、お嬢様の所へ戻ってくださいよ!」
「もし、戦闘になったとしても、“吐き気”を誘発させれば、相手は戦いに集中できないはずよ!」
「無視ですか!?」
「“冷気”と“暖気”を操れば、季節ごとの気温の変化に対応が出来るはずよ」
「あ、それは出来るかも・・・」
「“気圧”や“空気”を操り、極地的に真空状態を作って、そこに相手を投げ込めば・・・」
「それは、らめぇぇぇぇぇえっ!」
「“大気”を操り、“冷気・暖気”も操れば天候を操ることも可能! いえ、そんなまどろっこしい事しなくても、“天気”を操ればいいわ!」
「非想天則で天候変え放題!?」
「“雰囲気”を操り、修羅場の空気もなんのその!」
「三角関係お手の物!」
「“電気”も操れます!」
「それじゃあ、私も超電磁砲を撃てますか?」
「“酒気”を操れば、飲酒運転で捕まりません!」
「幻想郷に車はないですけどね!」
「“景気”を操れば、国すらも相手取れます!」
「もしかして、今の不況の原因は・・・・・・私!?」
「そうよ、美鈴は最強なのよ!」
「「「「そ、そうなのかーっ!」」」」
なんだかんだのこの内容は、文の手により瞬く間に一面記事として書き起こされた。この記事が載せられた文々。新聞は幻想郷を駆け巡り、美鈴最強説提唱の切っ掛けとなるのだった。
その結果、色んな方面から美鈴に引き抜きやスカウトが相次いだが、おぜう様はかたくなに美鈴を手放さなかったのはまた別の話。
つまり霊夢の「人気」を奪えば美鈴が自機になれるという事ですね!
でも五臓六腑が二臓一腑ってのはウケましたwww
でも、美鈴の気は結構は応用利きそうですよね。器用貧乏な気もしますがw