いつからだろう……いつからこんなに彼女の事を想うようになったのだろう……
最悪と思えるような出会いをしたのに、いつの間にか友達になっていた。
そして、気付くと彼女を探し、彼女の何気ない仕草やコロコロ変わる表情を見ていることに幸せを感じるようになっていた。
彼女に会えなくても、私が掃除をしている時には、彼女も掃除をしているのかな?それともサボってお茶を飲んでいるのかな?と考え、料理をしている時にはちゃんと食事を取っているのか心配し、珍しい料理を作った時には、これを持って行ったらどんな顔するのか考えてしまい、それだけで嬉しかった。
こんな行動や想いをなんと言うのか判らない程、私は幼くない。
でも、この想いを内に秘め続けることができる程、私は大人でもない。
だから、今年は勇気を出して初めてバレンタインに彼女の為のチョコレートを作った。
あくまでついでを装う為に親しい人の分も作ったけれど、少しでいいから私の気持ちに気付いて欲しくて、彼女チョコにだけはToの後にbelovedと書いた。
そしてバレンタインデー当日。一人一人にチョコレートを渡していく。
お嬢様、妹様、パチュリー様、美鈴、小悪魔、それと魔理沙とアリス、そして、彼女へと……
喜んでくれるかしら?いつもお腹を空かせているのだから、きっと喜んでくれるはず。
そう自分に言い聞かせながら鳥居をくぐり、彼女を探す。母屋の縁側に彼女の姿を見付ける。
思わず駆け出してしまいそうになるがぐっとこらえて、平静を装いいつつ、縁側までやってきた。
なんだか疲れたようにちゃぶ台に突っ伏している彼女に縁側から声をかける。
「御機嫌よう、霊夢……どうしたの?」
「ん?あぁ、咲夜か。いつも何にも持ってこない連中が今日に限ってチョコレートを持ってきたのよ。」
彼女は突っ伏したまま、顔だけ私に向けて理由を説明してくれた。
「そう?良かったじゃない。」
人気者の彼女のことだから当たり前と言えば当たり前。
「良くなんかないわよ!こんなにチョコレートばかり貰ってもしょうがないっての!こんな物、持ってくるくらいなら少しでもお賽銭を入れていけってのよ!」
私から顔を背け、そう答える霊夢。
「何もないよりマシでしょ?」
平静を装いつつも、チョコレートを後ろに隠し、私は言葉を返す。
「それはそうだけど、やっぱりお返ししないとまずいのかな~と思ったら、一気に疲れちゃったのよ。」
「そうよね。貧乏ですもの。」
そこでいつものように軽い気持ちで彼女をからかう口調で言ってしまった。
言った瞬間に後悔する。
「うっさいわね!喧嘩売りに来たの?」
案の定、霊夢がむきになって答えてくる。
今更、私もチョコレートを持って来たとも言えず、雰囲気に流されるままに言葉を重ねてしまう。
「まさか。近くを通ったから、寄っただけよ。」
「あっそ。用がないなら帰れ!」
「そうするわ。」
その言葉を残し私は神社を後にした。
私の手の中には、渡せなかったチョコレートを……
冗談めかしで渡して良かったのだけれども、私がチョコレートに込めた想いも冗談になってしまう気がしたので渡せなかった。
霊夢に渡せないチョコレートならこんな物には何の意味もない。
そう思い、私は紅魔館への帰路の途中でチョコレートを棄てた。
あれから、もう1週間……
心に穴が開いたような気分で、ただふらふらと日々の忙しさに身を委ねる。
今日も無事に仕事を終えて、自室に戻ると扉に鍵をかけ、ベットに仰向けに寝転がる。
見慣れた天井が見える。
霊夢……
霊夢の顔が浮かぶ。視界が滲む……嫌いと言われたわけではない。
いつもの軽い気持ちで話をしてしまい、想いを告げられなかったこと。
そして、自分の心を込めて作ったチョコレートを捨ててしまったことが悲しくなる。
目を閉じ両腕で目を覆いながら声を殺して泣く。
想いを込めたチョコレートを捨てたからと言って、想い全てを捨てられるわけではない。
馬鹿みたいと思いながらも、あの日からずっとこんな事を繰り返している。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。
今は誰にも会いたくない……
そう思っているのにノックの音がまた聞こえる。
無視を決め込む。
バーン!!
驚いて身体を起こすと扉が力任せに開けられていた。
そして、扉の向こうには霊夢が立っていた。
「居るならとっとと開けなさいよ!」
無理矢理開けた為に、扉が壊れてしまっているが、そんな事を気にしてない霊夢らしい言葉。
「……霊夢……なんのよう?」
「ほら、これ!」
慌てて涙を拭き霊夢に問う私に霊夢は見覚えのある包みを差し出す。
見間違えるようもない私が捨てたチョコレート。
「あんたが、この前帰った後で、萃香が持ってきたのよ。あんたが落したみたいだけど気付かずに飛んでいったって言って。」
「……落したんじゃないわ。捨てたのよ……」
「なんで、そんなことするのよ?もったいない!」
「霊夢にあげようと思ったけれど、お賽銭の方が良いみたいだったから捨てたのよ。」
「そんなことないわよ!その……好きな人からのチョコなら……私だって……欲しいし……その嬉しいし……兎に角、私にくれるんならちゃんと頂戴よ!」
思わず耳を疑う。今、霊夢は好きな人と言った。そして、私から欲しいと言った。
嬉しくて涙が溢れてくる。
「あぁ~!もう、泣かないでよ!」
そう言いながら、私の手にチョコレートを押し付けるように渡す霊夢。
「で、改め、そのチョコレート、私にくれるの?」
「霊夢……遅くなったけれど、ハッピー・バレンタイン」
「ありがとう、咲夜。とっても嬉しいわ。」
そう言って嬉しそうにチョコレートを受け取ってくれた霊夢を思わず抱きしめる。
「ちょっ、ちょっと、咲夜?」
「ごめん、霊夢……今だけ……今だけで良いからこのままでいさせて……」
そう言いながら私は霊夢を抱きしめ続ける。
「咲夜……ごめん……一寸、無神経過ぎた。」
そう言って、そっと私の背に腕を回し、抱擁を返してくれる霊夢。
私は何も言わずに頭を振る。
そんなことはもうどうでも良い。
今は霊夢が私の想いを込めて作ったチョコレートを受け取ってくれたこと。
そして、何よりも私の事を好きと言ってくれた霊夢が私の腕の中に居る。
それが嬉しくて仕方ない。
これからも私は涙を流すことがあるだろう。
でも、私はもうあんな悲しい涙を流すことは絶対にない。
私を好きと言ってくれた霊夢が居てくれるから……
追記
「そう言えば、霊夢。」
「なに?」
「何で、私のチョコレートを持ってくるのに1週間もかかったの?」
「あ~……それは……」
「それは?」
「言わなくちゃ駄目?」
「是非。教えて欲しいわ。」
「咲夜の作ったチョコレートでしょ?誰にあげるか判らないけど、落としたんなら私が貰っちゃおうかなって思って……ほら、やっぱり好きな人からのチョコって欲しいじゃない!どうしたの?咲夜。なんか嬉しそうだけど。」
「霊夢が私の事を好きって、また言ってくれたからよ……あれから一度も言ってくれなかったから……」
「そうだっけ?」
「そうよ。」
「……咲夜……その……愛してるわ。」
「私も愛しているわ。」
頬を紅く染めてそう言ってくれた霊夢に私も答えて、霊夢にそっと口付けをした。
最悪と思えるような出会いをしたのに、いつの間にか友達になっていた。
そして、気付くと彼女を探し、彼女の何気ない仕草やコロコロ変わる表情を見ていることに幸せを感じるようになっていた。
彼女に会えなくても、私が掃除をしている時には、彼女も掃除をしているのかな?それともサボってお茶を飲んでいるのかな?と考え、料理をしている時にはちゃんと食事を取っているのか心配し、珍しい料理を作った時には、これを持って行ったらどんな顔するのか考えてしまい、それだけで嬉しかった。
こんな行動や想いをなんと言うのか判らない程、私は幼くない。
でも、この想いを内に秘め続けることができる程、私は大人でもない。
だから、今年は勇気を出して初めてバレンタインに彼女の為のチョコレートを作った。
あくまでついでを装う為に親しい人の分も作ったけれど、少しでいいから私の気持ちに気付いて欲しくて、彼女チョコにだけはToの後にbelovedと書いた。
そしてバレンタインデー当日。一人一人にチョコレートを渡していく。
お嬢様、妹様、パチュリー様、美鈴、小悪魔、それと魔理沙とアリス、そして、彼女へと……
喜んでくれるかしら?いつもお腹を空かせているのだから、きっと喜んでくれるはず。
そう自分に言い聞かせながら鳥居をくぐり、彼女を探す。母屋の縁側に彼女の姿を見付ける。
思わず駆け出してしまいそうになるがぐっとこらえて、平静を装いいつつ、縁側までやってきた。
なんだか疲れたようにちゃぶ台に突っ伏している彼女に縁側から声をかける。
「御機嫌よう、霊夢……どうしたの?」
「ん?あぁ、咲夜か。いつも何にも持ってこない連中が今日に限ってチョコレートを持ってきたのよ。」
彼女は突っ伏したまま、顔だけ私に向けて理由を説明してくれた。
「そう?良かったじゃない。」
人気者の彼女のことだから当たり前と言えば当たり前。
「良くなんかないわよ!こんなにチョコレートばかり貰ってもしょうがないっての!こんな物、持ってくるくらいなら少しでもお賽銭を入れていけってのよ!」
私から顔を背け、そう答える霊夢。
「何もないよりマシでしょ?」
平静を装いつつも、チョコレートを後ろに隠し、私は言葉を返す。
「それはそうだけど、やっぱりお返ししないとまずいのかな~と思ったら、一気に疲れちゃったのよ。」
「そうよね。貧乏ですもの。」
そこでいつものように軽い気持ちで彼女をからかう口調で言ってしまった。
言った瞬間に後悔する。
「うっさいわね!喧嘩売りに来たの?」
案の定、霊夢がむきになって答えてくる。
今更、私もチョコレートを持って来たとも言えず、雰囲気に流されるままに言葉を重ねてしまう。
「まさか。近くを通ったから、寄っただけよ。」
「あっそ。用がないなら帰れ!」
「そうするわ。」
その言葉を残し私は神社を後にした。
私の手の中には、渡せなかったチョコレートを……
冗談めかしで渡して良かったのだけれども、私がチョコレートに込めた想いも冗談になってしまう気がしたので渡せなかった。
霊夢に渡せないチョコレートならこんな物には何の意味もない。
そう思い、私は紅魔館への帰路の途中でチョコレートを棄てた。
あれから、もう1週間……
心に穴が開いたような気分で、ただふらふらと日々の忙しさに身を委ねる。
今日も無事に仕事を終えて、自室に戻ると扉に鍵をかけ、ベットに仰向けに寝転がる。
見慣れた天井が見える。
霊夢……
霊夢の顔が浮かぶ。視界が滲む……嫌いと言われたわけではない。
いつもの軽い気持ちで話をしてしまい、想いを告げられなかったこと。
そして、自分の心を込めて作ったチョコレートを捨ててしまったことが悲しくなる。
目を閉じ両腕で目を覆いながら声を殺して泣く。
想いを込めたチョコレートを捨てたからと言って、想い全てを捨てられるわけではない。
馬鹿みたいと思いながらも、あの日からずっとこんな事を繰り返している。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。
今は誰にも会いたくない……
そう思っているのにノックの音がまた聞こえる。
無視を決め込む。
バーン!!
驚いて身体を起こすと扉が力任せに開けられていた。
そして、扉の向こうには霊夢が立っていた。
「居るならとっとと開けなさいよ!」
無理矢理開けた為に、扉が壊れてしまっているが、そんな事を気にしてない霊夢らしい言葉。
「……霊夢……なんのよう?」
「ほら、これ!」
慌てて涙を拭き霊夢に問う私に霊夢は見覚えのある包みを差し出す。
見間違えるようもない私が捨てたチョコレート。
「あんたが、この前帰った後で、萃香が持ってきたのよ。あんたが落したみたいだけど気付かずに飛んでいったって言って。」
「……落したんじゃないわ。捨てたのよ……」
「なんで、そんなことするのよ?もったいない!」
「霊夢にあげようと思ったけれど、お賽銭の方が良いみたいだったから捨てたのよ。」
「そんなことないわよ!その……好きな人からのチョコなら……私だって……欲しいし……その嬉しいし……兎に角、私にくれるんならちゃんと頂戴よ!」
思わず耳を疑う。今、霊夢は好きな人と言った。そして、私から欲しいと言った。
嬉しくて涙が溢れてくる。
「あぁ~!もう、泣かないでよ!」
そう言いながら、私の手にチョコレートを押し付けるように渡す霊夢。
「で、改め、そのチョコレート、私にくれるの?」
「霊夢……遅くなったけれど、ハッピー・バレンタイン」
「ありがとう、咲夜。とっても嬉しいわ。」
そう言って嬉しそうにチョコレートを受け取ってくれた霊夢を思わず抱きしめる。
「ちょっ、ちょっと、咲夜?」
「ごめん、霊夢……今だけ……今だけで良いからこのままでいさせて……」
そう言いながら私は霊夢を抱きしめ続ける。
「咲夜……ごめん……一寸、無神経過ぎた。」
そう言って、そっと私の背に腕を回し、抱擁を返してくれる霊夢。
私は何も言わずに頭を振る。
そんなことはもうどうでも良い。
今は霊夢が私の想いを込めて作ったチョコレートを受け取ってくれたこと。
そして、何よりも私の事を好きと言ってくれた霊夢が私の腕の中に居る。
それが嬉しくて仕方ない。
これからも私は涙を流すことがあるだろう。
でも、私はもうあんな悲しい涙を流すことは絶対にない。
私を好きと言ってくれた霊夢が居てくれるから……
追記
「そう言えば、霊夢。」
「なに?」
「何で、私のチョコレートを持ってくるのに1週間もかかったの?」
「あ~……それは……」
「それは?」
「言わなくちゃ駄目?」
「是非。教えて欲しいわ。」
「咲夜の作ったチョコレートでしょ?誰にあげるか判らないけど、落としたんなら私が貰っちゃおうかなって思って……ほら、やっぱり好きな人からのチョコって欲しいじゃない!どうしたの?咲夜。なんか嬉しそうだけど。」
「霊夢が私の事を好きって、また言ってくれたからよ……あれから一度も言ってくれなかったから……」
「そうだっけ?」
「そうよ。」
「……咲夜……その……愛してるわ。」
「私も愛しているわ。」
頬を紅く染めてそう言ってくれた霊夢に私も答えて、霊夢にそっと口付けをした。
なんと綺麗な二人。
……逆ってなんだ?