Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

安易な転移は怖い?~三人の魔法使いの勉強会より~

2011/02/23 23:05:41
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※このお話は、甘リアリシリーズの続きになります。
 




 ―私の図書館は、静かな事で知られている。

 
 その静かさが図書館という性質から来るものか、立地条件によるものか、私の性格によるものかは定かではない。

 
 ただ、一つだけ分かっている事は・・・

 
 その静寂を喧騒に変えてしまう魔法使い達が居る、と言う事である。




                                   ―パチュリー=ノーレッジの手記から一部抜粋。


 
 図書室のドアが乱暴に開け放たれた。そして聞こえるメイド達の悲鳴。図書館の狭い空間が、戦場と化すのはそんなに時間はかからなかった。

「なぁ、どうして本を借りに来た訳じゃないのに、これだけ攻撃されなきゃいけないんだろう?」
「日頃の行いの悪さが原因じゃないかしら?私までいいとばっちりだわ・・・黙って落ちたりはしないけど。」

 いつものように箒に跨って飛ぶ魔理沙は後に乗っているアリスと話をしている。回避行動を取る魔理沙の腰に左手で思いっきりしがみつくアリスは、右手で展開している人形を操り弾幕を放ち、メイド部隊の足止めを行う。七色の広範囲に放たれた低弾速の弾は、メイドの数人に命中し突入直後に畳みかけようと画策していたメイド達の気勢を削ぎ落した。
 
「図書館内警戒チーム、侵入者の迎撃に加わって!」

 後方の憂いを絶ったのもつかの間、前方に現れた新たなメイドに魔理沙は眼を白黒させて口笛を吹いた。

「待ち伏せか・・・アリス、後ろを頼めるか?」
「わかった、魔理沙の後は守る。あまり無茶はしないでね。」

 散開の合図は、軽い触れるだけの口づけ。離れたアリスと魔理沙が背中を合わせ360度のカバーを図る。メイド部隊が魔理沙達を取り囲むのに時間はかからなかった、こちらを見る目と目と目、10も数えた所で魔理沙が帽子を目深に被って、周囲を舐めるように見回す。

「雑魚相手にスペルは勿体ない、アリス、さっきやってくれたアレを頼むぜ。」
「ええ。後ろは全部なんとかしてあげるから、私の後は頼んだわよ。」

 しばしの間、お互いに了解の意思表示と把握した二人は、相手が動くか動かないかの際どいタイミングで、広範囲に弾幕を放った。二人の広範囲攻撃である、スーパーショートウェーブとレインボーワイヤーの同時射撃である。
 広範囲に放たれた魔法弾が、次々にメイドに命中、墜落して行った。流れ弾が本棚にかかっていた魔法障壁に吸い込まれて弾け、魔力の塊である弾が砕けた後の僅かな残滓が霧散する。そして、弾着の煙が晴れた。二人の視界からメイド妖精が消えたのを確認すると、小さく頷きお互いを讃え合った。

「ようし、全滅だ。これで、パチュリーの所に・・・」
「魔理沙!上っ!」
「へ・・・?」

 こつん。魔理沙の頭に魔導書が軽く打ちつけられた、その痛みに反応して慌てて周囲を見渡すと、パチュリーが静かな怒りを称えた顔で魔理沙を見ていた。

「図書館で暴れない。」
「悪い悪い、自衛権を行使しただけなんだが、ちとやりすぎたか・・・」
「ここまで、ウチの従業員を193人魔法やら魔砲で吹き飛ばしておきながらよくもまぁ、そんなセリフを。」
「先に撃ってきたのは、向こうだぜー、目的も聞かずに攻撃してくる方もどうかと思うぞ。」
「じゃぁ聞くわ、今日の目的は?今日は不確定期間の貸出業務は行ってないわよ?」
「勉強に来たんだぜ。」
「小悪魔、咲夜にお茶の準備をさせて、早く。」
「エラい態度の変わりようだな、パチュリー」
「泥棒は実力を持って排除するけど、客人をもてなすのは淑女として当然のあり方よ。アリスもこっちに来なさい・・・」

 ふっと笑うパチュリーに促され、魔理沙はアリスを背中に乗せ直して後を追う。途中手を振る小悪魔に挨拶をして、静けさを取り戻した図書館を駆ける。

「転移魔法の事について研究してるのね・・・」
「そうなんだぜ、ちょっと思う事があって研究してるんだ。」
「ゆくゆくは大人数を転移させる魔法にしたいんだけど、そこでパチュリーの意見も聞きたくなったから私も一緒に来たの。」
「・・・お嫁さんが心配で仕方ないと言う理由じゃないの?」
「い、いや、決してそんな訳ではないわ。私も研究のためにね。」
「ふふ、魔理沙も良いお嫁さん見つけたわね。」

 テーブルを囲んで行われる、魔女たちのティータイム。魔理沙とアリスが顔を紅潮させて、必死に否定する様を見て、パチュリーはニヤリとしていた。長く生き、色んな事を知っている彼女には何となく感じる物があったのだろうか。交互にアリスと魔理沙を見やり、反応を楽しんでいると、小悪魔が数冊の本をそっと置いた。

「さて、転移魔法のオーソドックスな物として、自分のイメージしやすい場所に移動する呪文は結構あるわ・・・例えばこの呪文は便利よ。」
 
 一冊の魔導書を差しだして、魔理沙とアリスに見せるパチュリー。好奇心に満ちた顔を向ける魔理沙と、真剣な面持ちのアリス、静かな佇まいのパチュリーの対比がそのまま三人の性格を物語っているかのようである。

「心に留める場所に一瞬で帰還できるってあるな、これはいいぜ。」
「でも・・・この呪文、心に深く刻み込んだ所・・・魔理沙の家とか、私の家とかに指定する訳だけど、転移と言うよりは、超高速でそこに『移動』するだけみたい。」
「なら、屋内で使用したら、頭をぶつけるのは間違いなさそうだ。」
「一応、そうした屋内からの脱出用の呪文も同じ魔導書に書かれているわ。いずれにしても、この魔導の体系だと屋内からの脱出と屋外での移動を分けて考えないといけないわよ。」
「うーん、ホントは屋内で使用したいのよ、部屋の中とかを行き来出来るような便利な魔法があればいいんだけどね。」

 アリスが先ほどまで読んでいた魔導書をパタンと閉じた。横目で魔理沙を見ると、魔理沙は真剣な面持ちで別の世界の魔導体系について書かれている本を舐めるように読んでいる。何度か指でその文字をなぞり、ちょっと癖のある丸文字で内容をノートに書きとめる。その内容をぶつぶつと呟いてからパチンと指を鳴らした。

「これなんていいじゃあないか、一応自分の指定した座標に行けるみたいだしな。」
「でも魔理沙危険よ、精神の集中が出来ないと何処行くか分からないって書いてあるわ。」
「まぁ、そんときゃそん時だ・・・マロー・・・」
「そこまでよ!!」

 がしっと魔理沙の手を掴むパチュリー。魔理沙がえーとか言うような顔をするが、パチュリーの顔が真顔であった事に気が付き、慌てて詠唱を止めた。

「魔理沙、この呪文は十分な修練を積まないと、非常に危険だわ・・・」
「な、何が起こるんだ?」
「・・・・数多の冒険者が、重大な事故を引き起こした事で有名な呪文なのよ。」
「どんな事故が?」
「壁の中、もしくは石の中に転移した格好になって転移が完了した瞬間にその身が潰されてしまった冒険者が後を絶たないのよ・・・・!」
「・・・!?」

 魔理沙は慌てて魔導書を閉じた。パチュリーの言葉を反芻して、その意味を理解する。そう、詠唱失敗の代償が自身の死である事を。若さに溢れ、その上恋人も出来て人生を謳歌している魔理沙は、それを失う死と言う概念が急に恐ろしくなった。自然と顔が強張り、目の端に涙が浮かぶ。

「それって、つまり死ぬって事じゃないか!!」
「そうよ、だから不用意に唱えるのは良くないし、リスクも伴う。」
「ホントだ、数多の人にトラウマを植え付けたって書いてあるわ。戦闘中に使用してはいけないって・・・」

 よしよしと魔理沙の背中を撫でるアリス。ありがとと短く耳元で返して、魔理沙は強張った表情を解いた。

「霊夢や紫のようなマネは出来ないって事か。ならお前の人形を、この魔法で転移させると言うのはどうだろうか?」
「あ、それはいいかも。でも万が一人の身体の中に転移したら・・・」
「・・・おお、こわいこわい。」

 再び真っ青になった魔理沙の背中を左手でさすりつつアリスが右手でさらさらさらっと、綺麗な字で文字を書き連ねる。その後も会話は続き、様々な世界の転移に関係する呪文の文献を読んでは、魔理沙がそれを拾い上げ、パチュリーが解説し、アリスが纏めてゆく。あたかも一つの料理のフルコースが出来るかのように、知識が組み合わされて、解釈を加えられて、次々と形になっていった。小悪魔が2度目のお茶のお代わりを持ってくるまでそれは果てしなく続いた。
 
「・・・つまり、魔法陣を用意して、魔法陣同士の移転が一番安全って事なんだな。」
「そう。それが一番オーソドックスで、一番安全な方法よ。」
「結局そうなるのね。」

 只一人の人間である魔理沙は疲労を覚えて、溜息を付いた。そして、各々分かった事をノートに纏めてゆく。二人とも魔法使いとしての腕前は十分なので、これだけ説明したらもう転移の魔法陣は作れるだろう。パチュリーは大きく伸びをして、ゆっくりとした呼吸を繰り返した。パチュリーも魔法使いであるが、喘息と言うハンデもあってか体力そのものは魔理沙並・・・いやそれ以上に低かったりする。その事を良く知っている魔理沙とアリスは、今日はここまでかなぁと考えて、席を立った。

「勉強になったぜ、パチュリー。邪魔したな。」
「じゃあ、そろそろお暇させてもらうわ。」
「待ちなさい、これを。」

 パチュリーは一冊の本を差しだした。しかもやたらと分厚い。魔理沙は本を受け取ると、エプロンドレスの前ポケットにそっと仕舞った。

「良いのか?ありがとな、パチュリー」
「この本は別に返さなくてもいいわ・・・今の私には特に必要無いし。」
「そう、悪いわね。押しかけておいてお土産まで貰っちゃうなんて。」
「いいのよ、魔法使いの先輩として後輩を思いやる程度の心構えは持ってるしね。」

 パチュリーに別れを告げて、紅魔館からそれなりのスピードで飛ぶ事10分、魔法の森の魔理沙の家に付いた二人。

「ただいまー」
「おう、お帰りなんだぜ。」

 ふふっと笑う二人、寒さ避けのコート等を二人で使うために拡大したクローゼットにしまって、居間のソファーに並んで座る。そして、パチュリーから貰った本を眺め始めた。

「何の本だろう。」
「凄い魔力を感じるわ、一体何が書かれているのかな。転移の魔法に関する魔導書だといいんだけどね。」
「ブックカバーが付いてる、取ってみようか?」
「そうね、まずはどんな魔法が書かれているかの見当は付けなきゃ。」

 魔理沙はブックカバーを外した。そして、現れたタイトルを見てギョッとした。

「ア、 アリス・・・これって、もしかして・・・」
「あ、あんの助平魔女~!!」

 アリスの羞恥を含んだ叫びに呼応して、一枚の手紙がハラリと本の中から出て来た。魔理沙は、その手紙を慌てて拾い上げてアリスの目の前に差し出す。右耳と左耳を当ててその手紙の魔法で浮き上がった文字を追ううちに更に二人の顔が赤くなった。



From P To M&A

 
 -100年以上も生きた私の目は誤魔化せないわよ?

 まずはおめでとう、魔理沙、アリス。貴女達、お似合いのカップルだわ。
 
 そんな仲睦ましい貴女達にこの本を送るわ、貴女達ほどの術者ならきっと発動出来るはず。上手く使って・・・元気な子供を産むのよ。

 
 追伸、子供の魔法のお稽古は私も協力するから、遠慮なく言ってね。

 

 手紙を読み終えた魔理沙とアリスは赤面するしかなかった。丁度その頃、本を読んだ二人のリアクションを想像してパチュリーはお腹を抱えて笑っていたそうだが、その真相は近くで働いていた小悪魔しか知らなかったとかなんとか。


―今日も幻想郷は平和である。
*いしのなかにいる*

 えーどうも、子供の頃に受けたマロールの呪文とテレポーターにおける全員ロストのトラウマが抜けません。ウィザードリィをやると、マロールを使えず自分を毎回最終的に善のロードにしてしまう男、タナバン=ダルサラームです。
 今回は、弾幕戦・三人以上の会話の練習を兼ねて、転移の魔法について語らうというシチュエーションを書いてみました。ネタにはあの悪名高き転移呪文のお話をチョイスさせてもらいました。(寧ろテレポーターだろう、と言ってくれた方はぜひ別の場所で語り合いたい物です。)
 最後にパチュリーが渡した本の内容とタイトルについてはノーコメントでお願いします(笑)パチュリーは魔理沙とアリスより遥かに長く生きていると解釈していますので、落ち付いた静かな大人の雰囲気を出すのに少し苦労しました。

 この時期になると例大祭の話をあちこちで聞きますが、いつかはサークルとして参加してみたいなぁと思います・・・今年も可能なら一般参加してその雰囲気を楽しめたらなぁと思います。クーリエの他の先輩作家様が来ていると思うので、更に良い作品を書くために、色々聞いてみたいと思うこの頃です。

 では、またお会いしましょう。


2月24日追記

・・・フレンチキスってそんな濃密だったんだ、戦闘中にやられたら、俺なら問答無用で通常型ガンスでフルバーストかましますよ。言葉を知らないのは恥ですねw
そのため、当該個所を作者の意図する表現に差し替えました。フレンチキスは人前じゃなければこのマリアリはきっとやってるとは思いますが・・・

―おや、誰か来たようだ。
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
さっすがパチュリーさん分かってらっしゃる
2.名前が無い程度の能力削除
パチュリーと違って魔理沙とアリスは道具を使う魔法使いのイメージが強いから、どこでもドアにも興味をもちそうだ
結論となった魔法陣同士の転移というのは旅の扉かな 元ネタがわかるとにやりとできる文章は大好きなので面白かったです
3.名前が無い程度の能力削除
パチュリーw
もしかして次はR-18ですか?
4.名前が無い程度の能力削除
戦闘中にキスするやつがあるかー(2828
5.名前が無い程度の能力削除
フレンチキスってディープキスのことなんだけど、つまり二人は戦闘中に舌を絡めて……おお、卑猥卑猥w
いしのなかにいる、はトラウマ。東方キャラの名前を付けたパーティーがいくつか持っていかれた…
6.名前が無い程度の能力削除
5では件の魔法は縛ってたなぁ……。lostするから……

相変わらずのマリアリと、一枚上手のパッチェさん。
こういう三魔女の関係大好きです!

マリアリ続編楽しみにしてます。