それは、音を立てずに忍び寄り、紅魔館を完璧に包囲した。
冬、ベッドから出るのに多大な精神力を必要とするこの季節。
いつも以上にちっさい二人はなかなか出てこない。
「ほら、早く起きてください」
紅魔館の図書館司書小悪魔は今日も子供達の保母さんです。
「さむいー」
「ねむいですー」
頭までベッドに潜り込んで出てこない二人。
「そうですよね、夕べは冷え込みましたから。だから外は凄い雪景色ですよー」
カーテンを引きながら小悪魔が声を掛けるとベッドが勢い良く持ち上がった。
「えっ?」
「ゆきー?」
顔出した二人、美鈴と咲夜はベッドから飛び降りると裸足のまま窓まで駆け寄り、
窓に手を掛け少し背伸びをするように外を窺う。
そこには真っ白な世界が広がっていた。
庭の木々は雪の重みで頭傾げ、門と館をつなぐ道は雪で覆われ見えなくなっている。
「たくさん積もってるわね」
「そうですねー」
少し窓を開けて、窓枠に積もっている雪を触ると、
積もったばかりの柔らかい感触と冷たさが手に伝たわってくる。
「冷たーい」
「冷たいですー」
暫く雪を堪能する。
「ほら、そんな格好で雪を触っていると身体が冷えてしまいますから」
「「はーい」」
小悪魔に言われ、窓を閉める。その時ふと気がついた。
「ねえ、めーりん… 門、うまってない?」
「はうっ本当です!」
正面の門は雪が吹き溜まって下半分を埋めている。
「大変です、雪どけないとお客さんがこれないです」
あれでは門を開けられない。
「それに、また雪が降ったら紅魔館が埋まっちゃいますー!」
「流石に埋まったりはしないと思いますよ… 門や道は雪かきしないといけないでしょうけど」
「本当ですか」
「紅魔館は大きいですから大丈夫です」
「良かったー、じゃあ今日の門番のお仕事は雪かきですね?」
「めーりん雪かきするの? 寒くない?」
「大丈夫です、私は門番ですから」
美鈴は小さい胸をいっぱいに張った。だって紅魔館の立派な門番さんだから。
「でも、まずは朝食を食べないといけませんね」
「はーい」
「めーりん、着がえたら髪編んであげる」
「じゃあ、さくやさんのは私がしますねー」
備え付けの洗面所で歯と顔を洗い、ストーブの前で押し合うように着替えると
美鈴と咲夜はお互いの髪を三つ編みにしていく。最近漸く自分達で編めるようになったが出来は決して良くはない。
それでもお互いとてもうれしそうで、相手の髪を編むのは決まりごとのようになっている。
いつものように仲良く食堂で朝食をとると、咲夜は内勤の手伝い。
美鈴は小悪魔が用意してくれた、長靴と赤いマフラーと手袋、パンダの顔の耳当てを付けて外へ雪かきに飛び出していった。
「めーりん、元気ね?」
「そうですね、美鈴さんはいつも全力で元気いっぱいですね」
「ふぁー真っ白ー」
一歩外へ出れば真っ白い雪だらけ。
雪は止んでいるがいつまた降り出してもおかしくなさそうだ。
美鈴は雪を踏み分け庭の道具入れへ向かい、中から大きなスコップを取り出すと館の前から雪かきを始めた。
庭には植物の植えてあるところがあるので、雪を積む場所は門のすぐ脇の門番所の側にした。
スコップで雪を掬うと、門番所の横へと投げ飛ばす。
その雪の塊は放物線を描いて目的ポイントに着弾した。
7歳くらいの幼児が大きなスコップで雪の塊をを50メートル以上先に投げるというのはかなりシュールな光景。
暫く、淡々と雪を放り投げる作業を続けていたが、ふと、庭の一角に目が行きピタリと動きが止まった。
一方、厨房では咲夜がお菓子の作り方を出デザート担当の料理番から教わっている。
今日作っているのは簡単ココアのシフォンケーキ。
作業している手を止めて窓の方を見ると、白に埋め尽くされた庭が目に入る。
「めーりん、大丈夫かしら…」
ふと、窓の外に何か動くものがある。
小さな白いウサギの形をしたもの。
「?」
窓に近づくとそこにはいたのは帽子のてっぺんに雪ウサギをちょこんと乗っけた美鈴だった。
「めーりん?」
「さくやさんにプレゼントですー」
庭の端に南天の実を見つけた美鈴はそれを使って雪ウサギ作った、作ったなら誰かにあげたい。
なら大好きな咲夜にあげようと持ってきたのだ。
「かわいい、ありがとうめーりん」
「えへへ」
南天の目と椿の耳の雪ウサギを落ちないように窓枠の側に置いた。
「めーりん、ちょっと待ってって」
「はい?」
厨房の方に行った咲夜は手にカップを持ってすぐに戻ってきた。
「はいめーりん」
「ふぁ、ココアです」
「外、寒いでしょ?」
「わーい、ありがとうございますー」
ミルクたっぷりのココアで暖かさがじんわり拡がっていく。
「おいしい?」
「おいしーです、あっ」
寒いときに暖かいものを口にすると何故か鼻がでる。
「袖で拭いちゃダメよめーりん」
「ん」
素早くティシュを取り出して咲夜が美鈴の鼻を拭く。
「さくやさんありがとうございます」
「雪かき、大変じゃ無い?」
「大丈夫ですよ」
「本当?」
「んー、さくやさんがチュってしてくれたらもっと大丈夫です」
美鈴が期待の眼差しで見上げてくる。
「えっ、うーん 特別よ」
普段美鈴の頬を舐めたりしているのにチューは別で、ちょっと恥ずかしいらしい。
窓から身を乗り出すと、美鈴の頬にチュっとした。
「じゃあ、お返しです」
今度は美鈴が咲夜の頬にチュっとした。
「じゃあ雪かきしてきますね」
「気をつけてね」
美鈴はカップを咲夜に返すと、再び雪かき作業に戻っていった。
「ケーキ作り中断してごめんなさ…い」
ケーキ作りを再開しようと、教えてくれている料理番の方に向き直るとそこには、グッタリしている料理番と大量のブラックコーヒーがあった。
午前の間に大体の雪を門の横に積み上げて雪かきは終了した。
昼は、いつものように起きてたレミリア達と昼食を取りながら午前の間の出来事を報告する。
雪かきした事や、ケーキの作り方を習った事、雪ウサギの話などを楽しげに話した。
ちなみに、ほっぺにチューの話を聞いて保護者達は記録が撮れなかったことを血の涙を流さんばかりに悔やんでいた。
「おじょうさまー午後の自由時間は外の雪で遊んでいいですか?」
「おじょう様、私も外で雪遊びしたいです」
「うーん、構わないけれど、ちゃんと暖かくしなさい。特に咲夜はこの前体調崩したんだし」
「はーい」
「わかりました」
○
外に出て、まずはもう一匹雪ウサギを作って、最初の雪ウサギに並べた。
「一匹だけだと寂しいしものね」
「本当はもっと沢山作ってあげたいんですけど、そうすると沢山耳と目の部分をお庭の木から採らないといけないから」
「めーりんはお庭の木、大事にしているものね」
「変ですか?」
「変じゃないわよ、そんなめーりん優しいから好き」
「そーですか? うれしーです」
言った咲夜も、言われた美鈴もちょっと恥ずかしくて赤くなる。
「さくやさん、後なに作りますか?」
「あっ、雪だるま」
恥ずかしいので雪遊びに集中することにした。
「どんなの作りましょうか?」
美鈴は雪だまをコロコロ転がしながら尋ねた。どうせなら変わったのを作りたい。
「みんながビックリするのがいいかも」
「じゃあ何でしょうかねー?」
ふと、雪ウサギの赤い目が目に入った。
赤い目といえば思い浮かぶのは二人の大好きなあの人だ。
「おじょう様の雪だるま!」
「それ良いです、さくやさんさすがですー」
自分がモデルの雪だるまを見て、レミリアはどんな反応をしてくれるだろうか?
作るなら喜んでもらいたい。そんなことを考えると、俄然やる気が出てくるというものだ。
雪だるまは形を綺麗な形にする為に、削ったり、雪を盛ったりを繰り返した。
手袋で擦るようにしていくと表面はツルツルになっていった。
羽は折り紙を張ったハンガー、帽子は大きなスカーフとリボンでそれらしく作り、
目は美鈴が集めていたビー玉の中から赤くて大きなものを使った。
それらを、この角度や位置を相談しながら付けていくと、なんとなくレミリアの雪だるまらしいものが出来上がっていった。
「うーん、あまり似てません…」
「予定ではおじょう様とそっくりなのが出来ると思ったんだけれど…」
子供の手で、そんな雪祭りの雪像のようなものが作れるわけではない。
頭の中での完成予定図と現物が合わないのは良くあることだ。
「次作るときはもっと似るようにしましょう」
「そうですね」
レミリア雪だるまの隣に二匹の雪ウサギを並べると、完成をレミリア達に知らせるために館に走っていった。
雪だるまを見たレミリアは大いに感動した。
「パチェ、うちの子達は天才ね!」
「レミィのだけなの?」
夕飯とお風呂を済ませ、二人はベッドの中で明日から作る皆の雪だるまにはどんな材料と使おうかを話し合った。
勿論、話がまとまらないうちに眠りに落ちてしまったが。
翌朝、目を覚ますと窓をパシパシと叩く音がする。
二人で慌てて窓から外を見ると空からは無数の雨粒。
「雨?」
「めーりん、雪がとけてる」
庭の雪は雨で溶け、土の黒が見える。
「あっ、雪だるま」
「めーりん、見に行かないと」
二人はそのままの格好で部屋を飛び出していった。
「ちょっと、そんな格好で何処行くんですかー?」
廊下で小悪魔がすれ違いざまに声を掛けたが止まらなかった。
外に出ると、昨日作ったレミリア雪だるまは半分ほど解けて崩れていた。
目に入れたビー玉は取れて地面に転がり、羽は斜めにかろうじて刺さっているだけになっている。
並べて置いた雪ウサギは椿の葉と南天の実が残っているだけだった。
「おじょうさまの雪だるまが…」
「おじょう様が…」
「二人ともこんな所にいたんですか?」
小悪魔が二人を見つけて声をかけた。
手には二人のガウンとスリッパを持っている。
「駄目ですよ、そんな格好で、早く中に入ってください」
「こあくまさんー」
「おじょう様が溶けちゃったー」
「…えっ? えー?!」
○
「そうだったの、それは残念ね」
パチュリーはコーヒーを飲みながら、ソファに座ったレミリアにがっちりくっ付いてべそをかいている二人に言った。
「ほら二人とも、雪だるまが溶けたって私が溶けたわけじゃないんだから?」
「まあ、実際にレミィが雨に当たったら溶けちゃうけど」
「「!!」」
聞いた二人がさらにギューとくっ付いた。
「丈夫だから、そんなことにならないから。ちょ、ちょっと苦しいから、ね? 特に美鈴、力入れすぎ、骨折れる!」
「パチュリー様、自分の雪だるまを作ってもらえなかったからって拗ねないで下さいよ」
「べ、別に拗ねてないわ」
「おじょうさまの雪だるま、溶けちゃった」
「今日は皆の分も作ろうと思ったのに」
「そうか、それは本当に残念だったね。ねえパチェ?」
「パチュリー様」
「……」
パチェリーは二人に近づき頭を撫でた。
「美鈴、咲夜、昨日作った雪だるまは溶けてしまったけれど、明日になったらまた雪が降るわよ」
外の雨は大降りでとても雪に変わる雨には思えないが、パチュリーは雪が降るという。
「ふぇ、本当ですか?」
「また作れるくらいですか?」
「ええ、雪だるまなんて幾らでも作れるわよ」
「ほら、パチェほどの魔女がそう言っているのよ? 間違いないわ。だから元気だしなさい」
「「はい!」」
そして次の日、二人が目を醒まし窓を開けると昨夜まで雨が降っていたとは思えないほどの銀世界だった。
ただ、雪が積もっていたのは紅魔館だけだったが。
今回も和ませていただきました。
仔犬ときたら椛の再登場してもよかった気もしますが、贅沢ってものでしょうなぁ…
いやぁ、ちっさいめーさくって本当に良いですねぇ。
和みますよ、マジで。
>紅魔館周辺だけだけど気候現象を発生させる魔法
後の紅霧異変ですね、わかr(ry
>>「まあ、実際にレミィが雨に・・・」
自分も読んでいてシャレにならんwと思いました
いやむしろどんぶりでも足りないかもしれん・・・
かわいいねえ