※濃ゆい百合成分が含まれます。キャラ崩壊にご注意を。
「ハッピーバレンタイン、パチュリー」
どうして彼女がここにいるのだろう。
本棚の隙間から急に現れたアリスに驚いて、私は小脇に抱えていた魔導書をばさばさと床に落としてしまった。
慌てて本を拾い顔を上げると、青い瞳とばっちり目が合った。
彼女は今日も眩しいくらいの笑みを浮かべている。
それに比べ私の方は、頬の火照り具合からすると、両手で覆ってしまいたくなるほど恥ずかしい顔をしているに違いない。
そう思った途端、まじまじとこちらを眺めているアリスから、さっと視線を逸らしていた。
「今日は、何を借りにきたのよ」
思わず、つっけんどんな態度で応対してしまう。
「いや、だからね、ハッピーバレンタイン」
「はっぴ……ばれたいん」
「チョコレート、作ってきたの」
あなたと一緒に食べようと思ってね。
その一言と零れるような笑顔のせいで、私の知識を詰め込み過ぎた脳みそは、爆発寸前までショートしてしまった。
「はっ」
気づいた時は、いつもの柔らかい椅子の上だった。
薄暗く湿っぽい図書館の一番奥にある、本棚よりも長いテーブルが置かれた広間。
不気味さを緩和する燭台が周囲を照らし、この席からなら図書館全体が見渡せる。
そこに、いつの間にか私はちょこんと座っていた。
隣には見知った人形遣いが、人形のように行儀よく座っている。
ああ、よかった。夢じゃなかった。
無意識にそう思って、とくんと胸が高鳴った。
「どうしたの、パチュリー?」
「……何でもないわ」
「それじゃあ、早く食べましょう。紅茶が冷めてしまう前に」
アリスの言葉に、ようやくテーブルの上に置かれているものに気づいた。
ほのかな湯気をくゆらすカップに、甘い匂いを放つ真っ黒なチョコレートケーキ。
はしたなくお腹を鳴らしてしまいそうなほど、美味しそうな紅茶とお菓子。
また一つ、とくんと胸が高鳴った。
小さな妖精の飾りがついた可愛らしいフォークで、チョコクリームに包まれたケーキを切り分けて口に運ぶ。
ただ甘いだけでなく、奥深い苦みがあって飽きさせない。
これなら小食な自分でもあっという間に食べ切ってしまうだろう。
一心不乱に食べている内にふと、アリスがこちらを見つめたまま動いていないことに気がついた。
「アリスは食べないのかしら?」
一緒に食べようと言ったのは彼女なのに。
「あ、ごめんなさい。何だかパチュリーの食べ方が可愛くって」
つい見とれてたわ。
はっきりと聞き取れたのは、そこまでだった。
「な、な、な……!」
「さて、私も食べますか」
アリスがあまりにも恥ずかしいことを言ってのけるので、咽喉から心臓が飛びでてしまうかと思った。
ほんと、喘息が悪化したらどうするのよ。
何事もなかったようにフォークを取ったアリスに向かって、ひそかに悪態をついた。
もちろん声にはださない。おそらく、さらっと受け流されてしまうだろうから。
「美味しい?」
「まあ、食べられるくらいにはね」
悪態はすぐ口をついてでてくるのに。
好意を表す言葉は、アリスみたいに素直には言えなかった。
孤独に生きるくせに、社交的で面倒見がよくて、相手を拒絶しない。
決して模範にはなりえない魔法使い。
それでも、私はそんな彼女のことが好きになってしまった。
だからこそ素直に想いを伝えられないのかもしれない。
「はい、パチュリー。あーん」
複雑になっていく思考を遮るかのように、アリスは私の目と鼻の先にケーキの乗ったフォークを突きだした。
「え?」
「あーん」
一瞬アリスの言動が理解できなかったが、すぐに我を取り戻すと、私はもつれる舌で何とか言葉を返した。
「そんな……だめよ」
「やっぱり美味しくない?」
「美味しくないわけないわ」
「なら、食べてくれるわね」
「う……」
そこまで言われると断われなくなるじゃない。
眉尻を下げて困ったようにケーキの切れ端と、期待した様子のアリスを交互に見つめる。
仕方がない。無理に拒んでも、アリスをがっかりさせるだけだ。
私は腹を決めて、浮遊するそれに思い切って齧りついてみた。
口に含んだケーキから先ほどまでの苦みは消えていた。
それはただ、ひたすらに甘かった。
「パチュリー」
「何――」
ケーキを飲み込んだ私の口に突然、とても柔らかいものが重なった。
間近に見えるアリスの綺麗な瞳。
キスされたと気づいたのは、その柔らかい唇が離れた瞬間だった。
とくんと、三度目の鼓動が鳴り響く。
「どう、美味しい?」
分かっているくせに、あなたはまた訊くのね。
アリスの満足げな声色が何だか悔しくて、私は一抹の勇気を振り絞った。
「……おかわりを、所望するわ」
肯く代わりに、仕返しの台詞を投げてやった。
「ハッピーバレンタイン、パチュリー」
どうして彼女がここにいるのだろう。
本棚の隙間から急に現れたアリスに驚いて、私は小脇に抱えていた魔導書をばさばさと床に落としてしまった。
慌てて本を拾い顔を上げると、青い瞳とばっちり目が合った。
彼女は今日も眩しいくらいの笑みを浮かべている。
それに比べ私の方は、頬の火照り具合からすると、両手で覆ってしまいたくなるほど恥ずかしい顔をしているに違いない。
そう思った途端、まじまじとこちらを眺めているアリスから、さっと視線を逸らしていた。
「今日は、何を借りにきたのよ」
思わず、つっけんどんな態度で応対してしまう。
「いや、だからね、ハッピーバレンタイン」
「はっぴ……ばれたいん」
「チョコレート、作ってきたの」
あなたと一緒に食べようと思ってね。
その一言と零れるような笑顔のせいで、私の知識を詰め込み過ぎた脳みそは、爆発寸前までショートしてしまった。
「はっ」
気づいた時は、いつもの柔らかい椅子の上だった。
薄暗く湿っぽい図書館の一番奥にある、本棚よりも長いテーブルが置かれた広間。
不気味さを緩和する燭台が周囲を照らし、この席からなら図書館全体が見渡せる。
そこに、いつの間にか私はちょこんと座っていた。
隣には見知った人形遣いが、人形のように行儀よく座っている。
ああ、よかった。夢じゃなかった。
無意識にそう思って、とくんと胸が高鳴った。
「どうしたの、パチュリー?」
「……何でもないわ」
「それじゃあ、早く食べましょう。紅茶が冷めてしまう前に」
アリスの言葉に、ようやくテーブルの上に置かれているものに気づいた。
ほのかな湯気をくゆらすカップに、甘い匂いを放つ真っ黒なチョコレートケーキ。
はしたなくお腹を鳴らしてしまいそうなほど、美味しそうな紅茶とお菓子。
また一つ、とくんと胸が高鳴った。
小さな妖精の飾りがついた可愛らしいフォークで、チョコクリームに包まれたケーキを切り分けて口に運ぶ。
ただ甘いだけでなく、奥深い苦みがあって飽きさせない。
これなら小食な自分でもあっという間に食べ切ってしまうだろう。
一心不乱に食べている内にふと、アリスがこちらを見つめたまま動いていないことに気がついた。
「アリスは食べないのかしら?」
一緒に食べようと言ったのは彼女なのに。
「あ、ごめんなさい。何だかパチュリーの食べ方が可愛くって」
つい見とれてたわ。
はっきりと聞き取れたのは、そこまでだった。
「な、な、な……!」
「さて、私も食べますか」
アリスがあまりにも恥ずかしいことを言ってのけるので、咽喉から心臓が飛びでてしまうかと思った。
ほんと、喘息が悪化したらどうするのよ。
何事もなかったようにフォークを取ったアリスに向かって、ひそかに悪態をついた。
もちろん声にはださない。おそらく、さらっと受け流されてしまうだろうから。
「美味しい?」
「まあ、食べられるくらいにはね」
悪態はすぐ口をついてでてくるのに。
好意を表す言葉は、アリスみたいに素直には言えなかった。
孤独に生きるくせに、社交的で面倒見がよくて、相手を拒絶しない。
決して模範にはなりえない魔法使い。
それでも、私はそんな彼女のことが好きになってしまった。
だからこそ素直に想いを伝えられないのかもしれない。
「はい、パチュリー。あーん」
複雑になっていく思考を遮るかのように、アリスは私の目と鼻の先にケーキの乗ったフォークを突きだした。
「え?」
「あーん」
一瞬アリスの言動が理解できなかったが、すぐに我を取り戻すと、私はもつれる舌で何とか言葉を返した。
「そんな……だめよ」
「やっぱり美味しくない?」
「美味しくないわけないわ」
「なら、食べてくれるわね」
「う……」
そこまで言われると断われなくなるじゃない。
眉尻を下げて困ったようにケーキの切れ端と、期待した様子のアリスを交互に見つめる。
仕方がない。無理に拒んでも、アリスをがっかりさせるだけだ。
私は腹を決めて、浮遊するそれに思い切って齧りついてみた。
口に含んだケーキから先ほどまでの苦みは消えていた。
それはただ、ひたすらに甘かった。
「パチュリー」
「何――」
ケーキを飲み込んだ私の口に突然、とても柔らかいものが重なった。
間近に見えるアリスの綺麗な瞳。
キスされたと気づいたのは、その柔らかい唇が離れた瞬間だった。
とくんと、三度目の鼓動が鳴り響く。
「どう、美味しい?」
分かっているくせに、あなたはまた訊くのね。
アリスの満足げな声色が何だか悔しくて、私は一抹の勇気を振り絞った。
「……おかわりを、所望するわ」
肯く代わりに、仕返しの台詞を投げてやった。
>>3
座ってろw
>>3
神社にでも行ってろ。
あ、お話をです。