Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

褒めてみよう

2011/01/22 01:19:47
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 紅い悪魔が束ねる館、その地下にある大図書館で、今日も今日とて魔女は囁き悪魔が笑う――。





 図書館内の私室にて、‘七曜魔女‘ことパチュリー・ノーレッジは、‘紅い悪魔‘ことレミリア・スカーレットと雑談を交わしていた。

 どうと言うこともない、日常の一コマだ。

「……どうしてかしら。こうやって落ち着いて話すのは、とても久しぶりな気がするわ」
「薄情ね、レミィは。貴女の頭に‘親友‘との会話は残らないと言うのね」
「そも、パチェの外出が増えたからのような……」

 小首を捻るレミリアに、後ろに控えていた‘完全で瀟洒な従者‘十六夜咲夜がカップを手渡す。

「淹れたてですので、少しご注意を。……お嬢様もパチュリー様も、交友が広がったからではないでしょうか」
「ありがと。さとりや映姫のこと? 引きこもりと仕事の鬼だけどねぇ」
「と仰いますが、以前より外出が増えたのは確実ですわ」

 吸血鬼の従者と同様に、‘大図書館の司書‘小悪魔も、パチュリーに湯呑みを差し出した。

「火傷しないよう、気を付けてください。……パチュリー様、少し前まではほんっとに出ませんでしたからねぇ」
「ん。その必要がなかったからよ。此処には、本もあるしレミィもいるわ」
「や、そこはご親友であらせられるお嬢様を先に挙げられるべきかと」
「……妹様もいるし、咲夜もいる。勿論、美鈴と妖精メイドもね」
「私は!? パチュリー様の夜の犬、或いはバぅっきゃー!」

 ボケる小悪魔。
 パチュリーは魔力にて応える。
 何時も通りの主従の微笑ましいやり取りに、咲夜が微笑した。

「ねぇ咲夜、‘バゥ‘って何?」
「量産型分離可変MSですわ」
「聞くなと言うことね……」

 咲夜が微笑した。

 真っ当な解答は返ってこないだろうと見切りをつけ、レミリアはカップに口を付ける。
 言の通り、程よく熱く、季節もあって冷えている体を温めた。
 一口含んで嚥下して、咲夜へと微笑みかける。

「美味しいわ」
「良い茶葉が手に入りました」
「フランと……確か、こいしが遊びに来ていたはずだから、出してあげなさい」

 御意――呟き、咲夜が踵を返す。

 その足取りは、パチュリーから見て、確かに軽やかに感じられた。
 咲夜ほどに洗練された従者と言えど、褒められれば嬉しいのだろうか。
 或いはそうなのかもしれない……思いつつ、自身も湯呑みに口を付ける。

 舌に広がるのは、何処か懐かしい甘辛さ。

「……なに、これ」
「生姜湯です。おばあちゃん直伝の、蜂蜜入り」
「悪魔が魔女に出す飲み物が家庭の味って、凄くどうかと思う」

 どうかと思う――二度呟くパチュリーだった。

「いや、そも、小悪魔の祖母もやはり悪魔なのでは……?」
「あ、ではなくて、時々お世話になっている里の茶店の方です」
「魔理沙やアリス、霊夢や早苗と里に行く時は、大体利用しているわね」

 どうかと思う――呟きは一度目で、つまり、レミリアから発せられた。

 こほん。
 パチュリーが空咳を打つ。
 左手を挙げ二三度振り、退出を促す。

「小悪魔、貴女も、もういいわ。通常業務に戻りなさい」
「はい、何かあればお声をかけてくださいね」
「ええ」

 それでは――言葉を残し、司書の仕事を再開するため、小悪魔もその場を後にした。





 コク、コク。
 嚥下するたび、体が温まる。
 加えて、加味された蜂蜜のおかげだろう、乾燥した喉も癒された。

 湯呑みから口を離したパチュリーは、ふと、対面から向けられる視線に気づく。

「……飲んでみる?」
「辛いならいらない」
「甘いわよ」

 童のような問いかけに微苦笑で返し、手渡す。

 コクコク。

「んー……炭酸のないジンジャーエール?」
「それは、生姜が元だもの」
「美味しいじゃない」

 気に入ったのか、再度湯呑みに口を付けるレミリア。

 飲み干してしまいそうね――思いつつ、パチュリーは解説を続ける。

「甘いのは、大部分、蜂蜜のお陰だけどね。
 貴女の言う通り、生姜は辛いと評されることが多いわ。
 利用法として多いのは、辛味を付けるための薬味としてだもの。
 だけど、生姜の利益はそれだけじゃない。
 数千年前から生薬として用いられていたそうよ。
 薬効は、発散、健胃、鎮吐作用、使い方次第で強壮作用も見込めるわ」

 ことん、と湯呑みがテーブルに戻される音。
 一旦言葉を切り、パチュリーはレミリアを見る。
 唇に残った滴を、舌で舐め取っているところだった。

「つまり、体に良いんでしょう?」

 幼い仕草と言葉に、パチュリーは応えを一瞬、戸惑う。

 厳密に言えば、そうだとは断言できない。
 『薬』として利用されている以上、デメリットも存在する。
 例えば、発散作用は初期の風邪に効果のあるものだが、高熱の場合には体力を削ることになりかねない。

 ――しかし、そこまで突っ込む話でもないだろう。

 飴色の液体はまだ残っていた。
 湯呑みに手を伸ばし、一口、嚥下する。
 甘辛さを再度感じつつ、パチュリーは、言葉の代わりに頷く。



「そこまで解ってたんなら、小悪魔を撫でてあげれば良かったのに」

 予想外の返しに、噎せた。



「いや、なんか悪い。驚かせるつもりは全くなかったんだけど」
「……唐突に何を言い出すのよ。買収でもされた?」
「小悪魔にか? されんし、せんだろ」

 尤もだ。

「あぁそうね、確かに、『撫でる』ってのは言い過ぎたかしら。
 要は、褒めてあげればいいのに、って思ったの。
 パチェ、何も言ってなかったでしょう?」

 小首を捻るレミリアに邪なものは感じ取れず、パチュリーは唸った。
 どうやら本当に純粋な提案だったようだ。
 一応、一考してみる。

 暫しの後、目を細め、返す。

「言葉を勤労の報酬とする……悪くはない案ね。
 だけど、それは金銭が絡んでのことでしょうに。
 私とあの子、貴女と咲夜の契約は、そう言った形では――」

 そこまで語ったところで、掌を向けられた。

「……違うの?」
「小難しく考え過ぎ」
「じゃあ、貴女のシンプルな意見を聞きましょう」

 呆れたようなレミリアに、パチュリーはそう返した。
 言葉の端に、ほんの少しの怒気が籠っている。
 納得させられるものならしてみなさい。

「例えば、咲夜の出した茶が美味しかったとしましょう」

 僅かな間も置かず、応えられた。

「まず、私が咲夜を褒める。
 咲夜は、更に勤めを励むでしょう。
 その結果、私はもっと美味しいお茶を飲めるようになる――でしょ?」

 しかも、単純かつ解りやすい話だった。

 笑むレミリアに、パチュリーは舌を巻く。
 眼前の親友は、何も飴だけを与え続けている訳ではない。
 失態にはそれ相応の言葉の鞭を振い、つまりは飴と鞭を使いこなしている。

 恐らく、自身、然して意識せず

 天性のものだろう。
 故に、彼女はヒトを惹きつける。
 それが、‘紅い悪魔‘レミリア・スカーレットだった。

「難しいことじゃなくて、偶にはどう? って話」

 パチュリーが思考を消化する前に、レミリアは席を立つ。
 何時の間にか、テーブルの上にあったカップが消えていた。
 これも、彼女の教育の賜物なのだろう。



「もっとシンプルにしようか。
 褒められて喜ぶ従者は可愛い。
 ……パチェ、貴女もそうは思わない?」

 扉を開いたところで振り返り、レミリアが、笑みを浮かべ、彼女の意見を残していった。





 コク、コク、コクン。

 湯呑みに残っていた生姜湯をパチュリーは飲み干した。
 最後の一滴まで風味は衰えず、優しく喉を潤す。
 美味しいと感じた。

 はふ、と小さく息を零し、パチュリーは備え付けの呼び鈴を鳴らした。

 ‘こぁーこぁー‘。
 呼び鈴を二度鳴らす。
 一度だけだと、彼女の従者は文字通り飛んできてしまうからだ。

 その時だけは、幻想郷でも三本の指に入るかもしれない――思っていると、てってこてってこ、小悪魔がやってきた。

「お待たせしました、パチュリー様」
「……二杯目を頼んだ覚えはないのだけれど」
「自信作なので、お気に召して頂けたんじゃないかなと思いまして」

 笑む小悪魔の手には、湯呑みとポットが抱えられている。

「あれ? お嬢様はお戻りになられているんですね」

 そこまでは予想できなかったようだ。
 それでいい、と思う。
 今は、と付け加えた。

 抱える物をテーブルに置き、自身の前に来るよう、パチュリーは指示する。

「次には、彼女にも出してあげて頂戴。……小悪魔、此処に来て、座りなさい」
「はっ、その態勢、俗に言う『しゃぶれよ』!?」
「何をよ」

 この手の対応は心得ている。
 どストレートに返せばいいのだ。
 思った通り、小悪魔は凹みに凹んだ。

「……レミィや妹様、咲夜や美鈴には真摯に振舞うのに、何故主人には出来ないのかしら」
「私の情は、概ねパチュリー様へと向けられていますので」
「劣情ばかりじゃないの」



 どうしてくれよう。
 思うパチュリーは、手を伸ばす。
 どうするのかは、もう決めていた。

「ともかく――。
 生姜湯、美味しかったわ。
 いつもありがとう、小悪魔」

 髪に触れる。
 赤色の毛が、指に絡まる。
 一回、二回……手を振り、つまりは、撫でた。

 さぁ、どう反応するだろう。
 この場でいきなり発情でもするのだろうか。
 それとも、普段との態度の違いから、怪訝な瞳を向けてくるか。



 予想は、外れた。

「え、と……あ、ありがとうございます。
 もっと、頑張ります。
 えへへ……」

 俯く小悪魔。
 見えない頬は、きっと赤くなっている。
 何故なら、尖った耳の先までが、真っ赤に染まっているのだから。



「……そ。
 まぁ、なんだっていいわ。
 司書の……いえ、目録の編纂を手伝いなさい」

 呆気に取られたのは一瞬、素気なく、パチュリーは続ける。
 しかし、それは表面上のこと。
 心の内では、焦っていた。

「レミィとお喋りしていた分を取り返さないといけないし。
 あぁ、レミィと言えば、湯呑みが余分に一つあるのね。
 いいわ、貴女が処理なさい、小悪魔」

 これではまるで、親友の掌の上。
 いや、彼女はレミリア・スカーレット。
 その‘力‘は、‘運命を操る程度の能力‘。



 ――だから、きっと、私は操られたのだ。



「処理と言っても、捨てるんではなくて……ちょっと、小悪魔、聞いているの?」
「あ、も、申し訳ございません! その、嬉しすぎて……えへぇ」
「あのね。何時までだらしのない顔をしているのよ」



 ――でもなければ、この私が、小悪魔を可愛いなどと思う訳がない。



「……ったく、しょうがない子」
「か、顔が戻りません。あはは……」





 紅い悪魔の束ねる館。
 その地下にある大図書館にて。
 今日も今日とて、魔女は囁き、悪魔が笑う――。






                      <幕>
・ウチのパッチェさんはほんっとに手間のかかるお方ですね。お読み頂きありがとうございます。

・パッチェさんが余りに余りなので、ご親友であらせられるお嬢様にご教授して頂きました。
・珍しく、綺麗に終われたかな、と思います。
・良かったね、こぁ。

・あと。飴と鞭を使い分けるのって本当に難しい。
 私的なイメージとして、使いなこなせているのは、お嬢様、姫様、星さんのお三方。
 藍様や二柱は甘さが過剰気味で、ゆかりんや幽々様は後になってわかるかどうか、だと思います。

いじょ
道標
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いつもいつもあなたのパッチェさんはメンド可愛くて、もうッ!

反則気味ですが、さとりんはその辺上手そうな気がします
2.名前が無い程度の能力削除
やばい可愛い。
いいパチュこあごちそうさまでした!
3.名前が無い程度の能力削除
小悪魔が可愛すぎて生きるのがつらい
4.名前が無い程度の能力削除
ここの姫様は本当にこの手のことが上手そうですよね。
でもお嬢様やさとりさまは、妹相手の時が印象強すぎて困る。
5.名前が無い程度の能力削除
良かった。
6.名前が無い程度の能力削除
小悪魔が可愛すぎて働きたくない
7.名前を間違える程度の能力削除
つまり「私の使い魔がこんなに可愛いわけがない」ということか?
8.名前が無い程度の能力削除
こぁちゃんが可愛すぎて生きるのがつらい。
パッチェさんも、もっと素直になればいいのに……だ が そ れ が い い!