「クリスマスなんて敵よ!!」
館の主、悪魔の中の悪魔こと吸血鬼レミリア・スカーレットが、人間のつまらない祭り事に怒りを現わにした挙句顔を真っ赤にして図書館にやって来たのはつい先頃のことであった。
その悪魔は私の隅の椅子に腰掛けると居座り続けること幾数分。ずっとクリスマスに対する敵意を語り続けて今に至る。
「クリスマスは憎きキリスト達の祭りなのよ。なのにどうして? キリストと縁も無い幻想郷の人間たちが派手に騒いでるのは?」
「人間のことは放っておけばいいのよ。悪魔の出る幕じゃないわ」
納得の行かないレミリアは羽をバタバタと揺らしながら手を振り回している。まるで駄々をこねる子供のように。
「そういうわけにもいかないわ。私はずっと反クリスマス運動をしてきたわ。それなのに咲夜の奴、裏切りやがったわ」
レミリアの続けて来た反クリスマス運動、しかしついに咲夜にも愛想を尽くされたらしい。
「で、愚痴を言いに来たわけね」
レミリアは首を縦に振った。
12月24日、私はと言うとそんなどうでもいい日付に気を取られることもなく魔道書を読み耽るのに夢中になっていた。
クリスマスという記念日に乗じて親睦を深める男女の話は私にとっても耳が痛かったものの、結局のところ魔女にとってはどうでもいい話でしか無いのだ。
しかし吸血鬼にとっては腹の虫が収まらないらしい。おまけに従者にも裏切られて発散先も無くストレスは貯まる一方。それで私を頼りにしてきたというところだろうか。
「咲夜の奴、今ごろ博麗神社でお祭り騒ぎよ」
そこまで嫌なら休暇出さなきゃいいのに。
それは兎も角、一人だけ騒ぎに参加できないのが悔しくて堪らないのだろうか。
「嫉妬?」
「違うわ」
騒ぎたいわけでもないらしい。
「今日は咲夜には外で破壊工作をしてもらおうと思って館から出したばかりに……迂闊だったわ」
破壊工作、さしづめ里でクリスマスが幻想郷に馴染まない文化であることを発信しようとでもしていたのだろうか。
しかし咲夜は命令を実行せずに博麗神社で遊んでるということらしい。
「咲夜、私のメイドたる者がまさか反クリスマス活動の傍ら里でケーキを買っているなんて……」
どうやらレミリアは咲夜がクリスマスケーキを買っていたことが気に入らないらしい。
「まったく、これじゃ折角の反クリスマス運動が台無しよ」
ぷんぷんと眉を上げるレミリア。
「今年から12月24日は悪魔を崇める日『クマスリス』にしようと思ったのに」
レミリアの計画。12月24日はクマスリス。
このどうしようもなく馬鹿らしい計画を聞いて、咲夜への同情にぐらりと傾いた。
「悪魔の王がねえ……呆れるわ」
「何よ。何か悪いことした?」
レミリアは否定されたことに反応して口を尖らせて言った。
「別にそういう訳じゃないけど」
「じゃあ黙ってて。キリストの間違った習慣が幻想郷に蔓延してはいけないわ。その代わりに新しい悪魔の祭りを定着させるのよ」
人間の習慣を自分の都合の良いものに変える。吸血鬼の魔力をしても、あまりにも無謀な行為だった。人の心を変えることは、そう簡単にはできないのだ。
だからこそ、咲夜は忠実なメイドを放棄してまで命令を聞かなかった。
あえて言えば、レミリアは咲夜の心さえ変えられなかった。
「そんなんだから犬がそっぽ向いちゃうのよ。躾がなってないわ」
「犬の話は関係ないでしょう」
「本当は犬と戯れたいくせに」
「違う」
レミリアは弱々しく答えた。そういうところは分かりやすい悪魔だった。
彼女との付き合いももう永い。そういうところはよく分かる。
彼女の心理を推測する。
本当はクリスマスには騒ぎたい、けれどキリストの敵、吸血鬼としてはクリスマスを利用するわけにはいかない。だから新しいクリスマスを作ろう。
なんて単純な考え。強大な魔力を持って生まれて来た存在としてはあまりにもお子様めいた思考。その思考に至る経路はお粗末そのもの。そして従者に裏切られた理由さえわからないお馬鹿さん。
それがレミリア・スカーレット。またの名を悪魔の王。
その哀れな王の眼は今にも壊れそうだった。
力を失った吸血鬼のその姿は無様であり、そして可哀想だった。
「落ち込まなくてもいいと思うわ。別に咲夜が帰ってこないわけじゃないし」
「でも咲夜は私の考えを受け入れてはくれなかった」
「別にいいじゃない。咲夜は人間なのよ。人間には人間の祭りを好きにやらせておけばいいわ」
咲夜だって人間なのだから時には人肌恋しくて悪魔から離れることだってあるに違いない。
それでも、レミリアは今もなお納得いかないといった顔を浮かべていた。
そんなレミリアに私に出来る事。
私は魔女だから、プレゼントの魔法は知っていた。
「だから私たちは悪魔の祭りをしましょう」
私の言葉が意外だったのか、レミリアは恥ずかしそうに目を逸らす。
「たまには友人を頼ってみるのもいいわね」
そして、小さく笑みを浮かべた。
私はそんなレミリアの肩を、優しく抱いた。
館の主、悪魔の中の悪魔こと吸血鬼レミリア・スカーレットが、人間のつまらない祭り事に怒りを現わにした挙句顔を真っ赤にして図書館にやって来たのはつい先頃のことであった。
その悪魔は私の隅の椅子に腰掛けると居座り続けること幾数分。ずっとクリスマスに対する敵意を語り続けて今に至る。
「クリスマスは憎きキリスト達の祭りなのよ。なのにどうして? キリストと縁も無い幻想郷の人間たちが派手に騒いでるのは?」
「人間のことは放っておけばいいのよ。悪魔の出る幕じゃないわ」
納得の行かないレミリアは羽をバタバタと揺らしながら手を振り回している。まるで駄々をこねる子供のように。
「そういうわけにもいかないわ。私はずっと反クリスマス運動をしてきたわ。それなのに咲夜の奴、裏切りやがったわ」
レミリアの続けて来た反クリスマス運動、しかしついに咲夜にも愛想を尽くされたらしい。
「で、愚痴を言いに来たわけね」
レミリアは首を縦に振った。
12月24日、私はと言うとそんなどうでもいい日付に気を取られることもなく魔道書を読み耽るのに夢中になっていた。
クリスマスという記念日に乗じて親睦を深める男女の話は私にとっても耳が痛かったものの、結局のところ魔女にとってはどうでもいい話でしか無いのだ。
しかし吸血鬼にとっては腹の虫が収まらないらしい。おまけに従者にも裏切られて発散先も無くストレスは貯まる一方。それで私を頼りにしてきたというところだろうか。
「咲夜の奴、今ごろ博麗神社でお祭り騒ぎよ」
そこまで嫌なら休暇出さなきゃいいのに。
それは兎も角、一人だけ騒ぎに参加できないのが悔しくて堪らないのだろうか。
「嫉妬?」
「違うわ」
騒ぎたいわけでもないらしい。
「今日は咲夜には外で破壊工作をしてもらおうと思って館から出したばかりに……迂闊だったわ」
破壊工作、さしづめ里でクリスマスが幻想郷に馴染まない文化であることを発信しようとでもしていたのだろうか。
しかし咲夜は命令を実行せずに博麗神社で遊んでるということらしい。
「咲夜、私のメイドたる者がまさか反クリスマス活動の傍ら里でケーキを買っているなんて……」
どうやらレミリアは咲夜がクリスマスケーキを買っていたことが気に入らないらしい。
「まったく、これじゃ折角の反クリスマス運動が台無しよ」
ぷんぷんと眉を上げるレミリア。
「今年から12月24日は悪魔を崇める日『クマスリス』にしようと思ったのに」
レミリアの計画。12月24日はクマスリス。
このどうしようもなく馬鹿らしい計画を聞いて、咲夜への同情にぐらりと傾いた。
「悪魔の王がねえ……呆れるわ」
「何よ。何か悪いことした?」
レミリアは否定されたことに反応して口を尖らせて言った。
「別にそういう訳じゃないけど」
「じゃあ黙ってて。キリストの間違った習慣が幻想郷に蔓延してはいけないわ。その代わりに新しい悪魔の祭りを定着させるのよ」
人間の習慣を自分の都合の良いものに変える。吸血鬼の魔力をしても、あまりにも無謀な行為だった。人の心を変えることは、そう簡単にはできないのだ。
だからこそ、咲夜は忠実なメイドを放棄してまで命令を聞かなかった。
あえて言えば、レミリアは咲夜の心さえ変えられなかった。
「そんなんだから犬がそっぽ向いちゃうのよ。躾がなってないわ」
「犬の話は関係ないでしょう」
「本当は犬と戯れたいくせに」
「違う」
レミリアは弱々しく答えた。そういうところは分かりやすい悪魔だった。
彼女との付き合いももう永い。そういうところはよく分かる。
彼女の心理を推測する。
本当はクリスマスには騒ぎたい、けれどキリストの敵、吸血鬼としてはクリスマスを利用するわけにはいかない。だから新しいクリスマスを作ろう。
なんて単純な考え。強大な魔力を持って生まれて来た存在としてはあまりにもお子様めいた思考。その思考に至る経路はお粗末そのもの。そして従者に裏切られた理由さえわからないお馬鹿さん。
それがレミリア・スカーレット。またの名を悪魔の王。
その哀れな王の眼は今にも壊れそうだった。
力を失った吸血鬼のその姿は無様であり、そして可哀想だった。
「落ち込まなくてもいいと思うわ。別に咲夜が帰ってこないわけじゃないし」
「でも咲夜は私の考えを受け入れてはくれなかった」
「別にいいじゃない。咲夜は人間なのよ。人間には人間の祭りを好きにやらせておけばいいわ」
咲夜だって人間なのだから時には人肌恋しくて悪魔から離れることだってあるに違いない。
それでも、レミリアは今もなお納得いかないといった顔を浮かべていた。
そんなレミリアに私に出来る事。
私は魔女だから、プレゼントの魔法は知っていた。
「だから私たちは悪魔の祭りをしましょう」
私の言葉が意外だったのか、レミリアは恥ずかしそうに目を逸らす。
「たまには友人を頼ってみるのもいいわね」
そして、小さく笑みを浮かべた。
私はそんなレミリアの肩を、優しく抱いた。
では小悪魔と悪魔の祭りの最中なので戻ります。
ところで魔理沙ならクリスマスはうちにいたよ。