Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

いつまでも、どこまでも私は美しい

2010/12/13 18:21:25
最終更新
サイズ
8.62KB
ページ数
1

分類タグ

「や! アリスちゃん!」
「こんな朝から、何の用よ魔理…お母さん」

寒くて凍えそうな早朝夜明け頃。
爽やかな寝起きを邪魔するかのように、部屋中に響き渡るノック音。
都会派な私は、間違いなく魔理沙だと思ったのだけれど。



「寒いわね。いやぁ、寒い寒い。寒くて死にそうなぐらい」
「もう年なんだから、お大事にね。それじゃ」
「待って! ここで放り出されたらホントに死んじゃう!」

玄関先で凍えていたのは、全く都会派じゃない私のお母さん。
トンビが鷹を生む、とはまさにこのこと。
こんなとぼけた母からも、こんな立派な娘が生まれるんだもの。ねぇ。



「寂しかったんでしょ、ねぇ。実は最近ホームシックだったんでしょ、ねぇ?」
「お母さんがでしょ? 何て言うのかしら、子離れできて無いんだから」
「そんな事言いながら招き入れてくれるアリスちゃんが好きよ、私は」

招き入れるというか、ずかずかと乗り込んでくるから諦めてるだけなのに。
でも、そう思いながら二人分の紅茶を用意してる私は何なんだろう。
やっぱり私は可愛い娘。



「で、何しにきたの? 何の用も無さそうだけれど」
「そう、聞いてよ! あのね、」
「その前に。紅茶、いらない? 」
「これはこれは。どうもどうも」

昨日からポットに入れっ放しだった、大して美味しくない紅茶を振舞ってあげる。
これで、冷えた体が心の芯まで冷え切ることだろう。
このお母さんには、これぐらいが丁度いい。



「ふぅ。…そんなことより! 聞いてよアリスちゃん!」
「何? 手短かに簡単に素早くお願いね」
「私、老けた?」
「老けた」

人に注文つける時は、自分も出来てないと。
そう思って、手短かに簡単に素早く答えてあげた。
勿論、嘘じゃない。気遣いより正直さよ。



「…やっぱり。最近ね、噂されるのよ」
「老けた、って?」
「そう! 昨日なんて、私の老化を十年に渡って追った特番が放送されてて…」

よくよく見てみると、確かに肌がたるんでる様に見える。
皺も増えてるみたいだし、やっぱり分かるものね。
ただ、このテンションだから、精神的な問題が無さそうなのが救い。



「はぁ。あれよね、神様だろうと人間だろうと妖怪だろうと、老いには勝てないのよね」
「そうよ。諦めて、静かな老後を過ごして」
「…お母さんね、慰めを期待して来たのよ。実は」

時々忘れかけるけど、今はとっても寒い早朝夜明け頃。
いつもなら、まだまだ寝てるこの時間帯。
今だって、眠気は少しだけ残ってる。さっさと二度寝したい。
…お母さんの紅茶に入れた睡眠薬、まだ効かないのかしら。



「人事みたいだけどね、アリスちゃん。そんな余裕も今の内よ」
「私はまだまだ。若さ溢れるお年頃だもの」
「それでも私の娘。私の老いは遺伝するに決まってるわ!」

馬鹿言って。
母が老いたからって、後を追うように老いる娘がいるものか。
脳まで老いちゃったみたい。



「私もね、アリスちゃんぐらいの…時は…凄かったのよ。もうプリプリのピチピチで…」
「へぇ」
「でもね…今となってはもう…パサ…パサで…ふぁぁ…」

パサパサでふぁぁなんて、まるで鳥になった様な事を呟いておしまい。
この様子なら、恐らく夕方まで目を覚まさないだろう。
優しい私は、この老いた母をベッドまで連れていってあげる。



「…若さって、大事よねぇ」

ふと、こぼれる一人言。
お母さんはまだ、精神面が幼いから老いの進行も若干遅い。
その点、私は精神的に比べ物にならない程発達している。
都会派なのも、時には困りもの。



「どうせ、今日は何も予定無いし」

私が決めたから。
だから、今日は老化対策強化日間。
都会派な頭脳は、その時その時に応じた適切な行動をはじき出す。
お母さんの一日を犠牲に。
私の優雅な一日が始まる。




















「健康体ね。幻想郷の模範生よ、おめでとう」
「ありがとう。…じゃなくて」

古今東西、というか、身体について相談するにはここしかない。
そうして訪れた、老化知らずの永遠亭。
お母さんは家でぐっすり。



「今日は不調があるんじゃなくて。ちょっと相談に来たの」
「あら、カウンセリング? それは専門外だけど」
「手短かに簡単に素早く言うから」

ここの医者、八意永琳は不老不死の薬を飲んだと聞く。
そこまでは行かなくとも、やっぱり経験がモノを言う時もある。
不老不死の彼女が語る、老化防止の秘訣とは。



「若さを保つには、どうすればいいかしら?」
「…にんにく?」
「なるほど」

ちょっと意外だったけど、確かにその通り。
食生活は、生きる上で全ての基本だもの。
…違う。



「他には? もっと、こう、八意流老化防止術とか、かっこいいやつ」
「無いわよ。自分で作ってみたら? かっこいいやつ」
「…マガトロ流?」
「微妙なセンスね」

ネーミングセンスを相談しに来たわけじゃあない。
でも、自分で作り出すのもかっこいいかも。
どうせ、老化対策を突き詰めて聞きだしても大したことは教えてくれなさそうだし。
老化について学ぶ方向でいこう。



「じゃあ、老化ってどうして起こるの?」
「年をとるからよ」
「…老化を防ぐには?」
「年をとらないことね」

馬鹿にしてるのか。
終始にやついて答える彼女。きっと暇なんだろう。
でも、お母さんを残してきた私は暇じゃない。
真面目に聞いてやろう。



「加齢以外の原因は無いの? 真面目に聞くけど」
「色々あるけど、分かりやすいのはストレスね。ストレスとは無縁な生活を送ってれば、そこまで気にすることじゃないわ」
「…へぇ」

意外とすんなり、真面目に答えてくれた。
ストレスと言えば、確かに心当たりが無い。
悩みなんて無い、都会派な生活をしてるから。



「と言うより、貴方はそんな年じゃないでしょう。今から気にしてたら、それこそストレスよ?」
「…まぁ、そうなんだけど」
「後、ストレスを感じた時は、思いっきり笑うことね。無理にでも」
「無理にでも? それこそストレスじゃない」
「無理にでも。笑う門には福来る、って言うから」

全く、医者らしくない。
最後には伝承頼みだなんて。
もっとこう、医学的なアドバイスが欲しかったなぁ。



「…何その顔。信じなさいよ。絶対、笑えば老化どころか、万病全て怖くないから」
「まぁ、覚えとくわ。今日はどうも」
「はいはい。お大事に」

どこも悪いとこを見てもらったわけじゃないけど。
ふと見渡すと、私意外の患者がいない。
…みんな、笑ってるのかしら。




















「はは! あはははは! はっはっは! はははぁ…」

魔法の森の奥深く、日光さえも届かない鬱蒼と茂る木々の下。
思い立ったらすぐ行動を起こせるのが、都会派な私の凄いところ。
家にいるお母さんを起こすわけにはいかないから、仕方なく屋外で。



「ふふふ…はっはっは…あーっはっはっはっは! はぁ…」

正直に言って、飽きた。
喉は乾くし、笑い声を上げた後の静けさが虚しいし。
…本当に、こんなので老化を防げるのだろうか。怪しい。



「はっはっははぁ! はひふへはぁ!」
「…くっ、何だよ、はひふへはぁ!って…くっ、くくく…」

嫌な声がした。
まったく、覗き見なんて趣味の悪い。
…恥ずかしいから、話しかけないで。



「どうした、何か悩んでるのか? それで叫ぶのは構わないが、ちょっと近所迷惑だぜ」
「…何でもいいじゃない。別に」
「そうはいくか。奇声を上げる隣人を見過ごす程、私は冷たくないからな」

彼女、魔理沙はにやつきながら攻め立てる。
心配なんて、絶対してない。
正直に話したら、宴会の笑い話にされるに決まってる。



「喉に何か詰まっちゃってるみたいで。大声出して吐きだそうとしてたのよ。げほげほ」
「ほほう。まぁ、そういう事にしといてやるよ」
「どうも」

流石、都会派な私は頭の回転が速い。
見事な言い訳で、華麗に魔理沙の追撃を避けることが出来た。
…でも。



「…魔理沙、若いわね」
「そりゃそうだろ。まだまだ青春真っ盛りな年だからな…何でそんな事?」

彼女は人間の娘であり、妖怪の血は半分も入っていない。
それに、実際に年を多く重ねているわけでも無い。
でも、藁をも掴む気持ちでちょっとだけ。



「ねぇ。最近、笑った?」
「今さっきな。はひふへはぁ!」
「それ以外で」

…これは、少なくとも一カ月はネタにされそう。



「そうだなぁ…あんまり覚えてないが、怒ったり泣いたりは最近してないぜ」
「笑ったかを聞いてるのよ」
「私はポーカーフェイスじゃないからな。怒りも泣きもしてないなら、多分笑ってるんだよ」

意外と魔理沙は頭がいい。
自分の事を、よくよく理解している。
やっぱり、笑いと若さは関係しているのだろうか。



「どうした、笑いたいのか? ならここで一発芸を披露してやるぜ!」
「あら、お願い」
「はひふへ」
「どうも」

魔理沙が調子づく前に帰ってしまえというのが、都会派な頭脳の判断結果。
若さと笑いの関係は、何となくでも理解出来たし。
実践は、お母さんが帰ってからでも遅くないだろう。
そろそろ薬も切れちゃいそうだから。
さ、帰ろう。




















『隠居します 母』
「…何これ」

帰ってみると、ベッドどころか部屋全体が綺麗に片付けられていた。
勿論、そこにお母さんの姿は無くて。
テーブルの上の紙切れに、ミミズの様な子供っぽい字で一言。



「……お母さんらしくない」

ハイテンションの塊の様なお母さんだから、こうなると少しだけ心配。
私に心配をかけたくない傍ら、ちょっとだけ心配されたかったのかもしれない。
…よくよく考えたら、大した用も無いのにわざわざ私の家まで来るだろうか。
やっぱり、少なからず慰めが欲しかったんだろう。



「………」

こうなると、どうにもやり切れない気持ちになる。
お母さんの老化は、私のせいじゃないのに。
何この、罪悪感っていうか、何ていうか。



「…………手のかかる親よね、まったく」

今日は早起きしたから、これだけ活動してもまだ昼過ぎ。
でも、早起き出来たのはお母さんのおかげでもあるわけだし。
残りの半日は、お母さんの為に使ってあげるのも悪くない。
今日半日の成果を、お母さんに教えに行ってあげよう。



「っと…笑顔笑顔」

老化対策の見本として、まずは私自身がお手本にならないと。
私の都会派な半日を犠牲に。
お母さんの若々しい半日が始まる。
読んでくださって、ありがとうございました。

いつまでも、若々しくありたいものです。
そんな事を考える年ではありませんが。
きっと、脳が老化しているのかもしれません。
けやっきー
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>奇声を上げる隣人
私の事ですか
最近笑う事が少なくなってきた…歳は取りたくないなぁ
2.削除
笑うって大事ですよね。私は母と妹、そして自分自身がこのアリスを上回る程の天然だから笑いっぱなしですw
都会派なアリスさんと可愛い魔界神様、ご馳走様でした。
3.モブ削除
笑って生きてきた人の皺は、とても魅力的に見えると、とある漫画で見ました。

最近、苦笑ばかりな気がします。