紅魔館図書館
今日のちっさい門番さんは本に夢中です。
「めーりん、何の本読んでいるの?」
「あっ、さくやさん、お花の本を探していたらこんな本もあったんですよ」
「何、きのこの図鑑?」
それはきのこや菌類の図鑑で、きのこの絵が説明とともに書かれていてた。
美鈴は難しい文字を飛ばし簡単な字を拾い読みしながらそれ見ていたのだ。
「秋には沢山生えるんですねーおいしそうです」
頭の中はきのこのバター焼きやきのこご飯がホカホカ湯気を立てている。
図鑑のはずがきのこ料理に直結していた。
まさに食欲の秋。
「お庭の畑でも育てられたらいいのにね」
「そうなんですよー残念です」
紅魔館の庭では花畑のほかに最近は小さな菜園がつくられ、
「美鈴印のお野菜」として食卓に色を添えていた。
ちなみに育てる野菜の種類はパチュリーがくれた種で、
それがレミリアの嫌いな野菜の種であることは美鈴は知らない。
ただ美鈴印の野菜をレミリアが残すことは決して無い、涙眼で『おいしいわよ』と完食するのだ。パチュリー、策士である。
「きのこの種ってどんななの?」
「わかんないです、見たこと無いんですよー」
「じゅあ、生えている所は?」
「魔法の森には沢山生えているってパチュリーさまが言ってました」
「魔法の森ってどこにあるかも知らないわよ」
「んー、あと妖怪の山にもあるって聞いたことあります」
「妖怪の山にきのこの種があるかもしれない」
「それがあればお庭できのこが育てられます」
思いついたら即行動、
今日は午後の勉強が無いから出かけるにはちょうどいいし、
紅魔館は妖怪の山の近くに建っているから行って帰ってくるのにそう時間はかからないだろう。
それに行ったら美味しそうなきのこが取れるかもしれない。
「そういえば山にはてんぐって人たちがいて山の奥に入る人を見張ってるんですよね?」
「このまえおじょう様と一緒に行ったとき見た妖怪?」
「そうです、羽の生えて空をビューっと飛んでる人です。見つかったら怒られちゃうかな?」
「山の奥に入らないならいいんじゃないの?」
「さくやさん頭いいです、山の下のほうなら大丈夫ですよね」
二人は早速準備を始めた。
きのこを入れる袋とシャベル、園芸用の手袋、オヤツのクッキーを持つと、
『ちょっとやまにいってきます。 めーりん さくや』
と書いたメモを残して出発した。
○
―妖怪の山―
「うわー」
「葉っぱがキレイー」
妖怪の山は木々が紅葉で赤や黄に染まっていた。
足を一歩出すごとにカサコソと音を立て、上からは時折パラパラと葉が舞い落ちてくる。
周りの景色にすっかり目を奪われていたが、今日は紅葉を見に来たのでは無い。
「めーりん、きのこ探さないと」
「あっ、そうでした」
「きのこってどこに生えるの?」
「えっとですね、本の写真では土の上や木の根っことかに生えてました」
「じゃあ下を見ていれば見つかるの?」
「そうですね、下を見ながら探しましょう」
二人できのこを探しながら山の中へと歩いていくがまったく見つからない。
きのこの代わりにポケットはドングリやクヌギの実で一杯になっていたが。
○妖怪の山:奥
「異常なーし!」
山の中で周囲を見回し、警戒態勢をとっている小さい姿が一つ。
白い髪に三角の耳、水干姿の後ろには白いフサフサの尻尾を生やした白狼天狗の子供だ。
今の場所に異常が無いことを確認すると側の木にスリスリと頭をこすりつけ匂い付けをした。
どうやら此処はこの子天狗が縄張りと決めているらしい。
マーキングを終え次へ移動しようとするが、その動きがピタリ止まり、鼻をフンフンと周辺の匂いを確認した。
知らない匂いがする、人間と妖怪の匂い。
人間が山の麓まで来ることはあるが、それより上は妖怪の山の領域に入るので此処まで来ることは無い。
見つければ脅して帰ってもらうのが普通だが、問題は他に知らない妖怪の匂いがすることだ。
人間を獲物にしようと後をつけているのかもしれないが、それでも山の妖怪のテリトリーを侵していることには違いない。
「どうしよう、大人達に連絡したほうがいいよね? でももし追い返せたら他の皆より早く哨戒に連れて行ってもらえるかも…」
しばし考えをめぐらせた後、子天狗は尻尾をピンと立てると
匂いを嗅ぎ分けようと鼻を向け方向を見極めるとそちらへ向かって駆けて行った。
○
「無いですねー」
「ドングリは一杯拾えたけど」
疲れた二人は落ち葉を重ね即席の敷物を作って休憩を取っていた。
周りは絨毯のように落ち葉が敷き詰められ、ドングリがそこかしこに落ちていたが、きのこはどこにも見当たらなかったのだ。
「!」
「どうしたのめーりん?」
「何か来ます」
「え」
美鈴は立ち上がると咲夜を後ろにして周りの気を探った。
「そこにいるの誰ですか!」
離れた場所で熊笹の茂みがガサッと揺れまた静かになる、
しかし茂みの横から白い尾が不安げにフラフラと揺れているのが見て取れる。
「何だー、犬さんですかー」
「犬じゃないです!」
「わぁっ」
「きゃあ」
思わず茂みから飛び出した犬…ではなく、
白狼天狗の子供に驚いて美鈴は後ろにいた咲夜と一緒に背中から倒れこんでしまった。
幸い倒れたのが落ち葉で作った敷物だったのだが、咲夜が美鈴の下敷きになっていた。
「めーりん重いー!」
「あー、さくやさんごめんなさーい」
立ち上がろうとするが、慌てているため落ち葉で足を滑らせてしまってなかなか立ち上がれない。
ジタジタともがいている様子を見た子天狗は咄嗟に駆け寄ると手を引いて立つのを手助けしてくれた。
「ふぁー、ありがとうございます」
「いや…、脅かしちゃったのはこっちだし」
「こっちも突然声を掛けてすいません」
「いや、隠れてたのこっちだし」
「いやいや、でも」
「いや、こっちこそ」
「…それで何か用ですか?」
咲夜の言葉で当初の目的を思い出した。
よそ者の妖怪を追い返すために、匂いを辿ってきたらそこにいたのは人間子供と子供(にみえる)妖怪で、
どうしたものか影で様子を伺っていたのだ。
しかし、見つかったからにはきちんと対応をしないといけない、
相手は自分より小さい子なのだからあまり怖がらせないように。
「えーっと、ここは山の妖怪の領域になっているから他の妖怪や人間はこんな所までは来ちゃだめなんだ」
ちょっと年長者っぽく振舞ってみた。
「えっ、そんな奥に来てましたか?」
「めーりん、私達ずっと下ばかりみてたから気づかなかったのかも」
「ああっ!そうでした」
きのこを探したりドングリを拾うのに夢中でいつの間にか奥まで来ているのに気が付かなかったのだ。
「ごめんなさい、奥まで入るつもりは無かったんですけど」
「ごめんなさい」
二人揃って頭を下げた。
「え、まあわざと入ったわけじゃないし、哨戒天狗の人に見つかったら大変だったかもしれないけど」
「しょーかいてんぐってなんですか?」
「羽のあるてんぐと違うの?」
「えっと、哨戒天狗は山の妖怪の領域に人間やよその妖怪入ってこないように見張っている天狗のこと」
「お兄さんはしょうかいてんぐじゃ無いんですか?」
「もちろん哨戒天狗です!…見習いですけど…。あとお兄さんじゃなくてお姉さんです…」
本当は見習いの見習いなのだが黙っておいた。
「あわわ、ごめんなさい」
「もう、めーりんのばか、どうもすいません…えっと天狗さんのお名前は?」
「気にしてないから…よくある事だし…。私の名前は椛っていうんだ」
「もみじさんですか、私は美鈴っていいます」
「私は咲夜です」
なにやら自己紹介までして和やかムードになってしまったが何故ここに二人がいるか立場的に聞かなくてはいけない。
「で、二人は何でここまで来たの?」
「実はきのこの種を探しに来たんです」
「…え?きのこの種」
一瞬何の意味か分らなかった。
「めーりんが育てている野菜畑で育てられたらと思ったの」
「今まで見たことが無かったからきっと山でなら種があると思ったんです」
「あー、なるほどー」
椛納得
「えっと、美鈴、咲夜、きのこは種が無いし、野菜畑でも育てられないから」
「えええー!」
「育たないの?」
美鈴と咲夜はきのこの増え方を知らなかったのだ。
実は図書館で見た図鑑は子供向きではなかった為、美鈴は難しい字を飛ばして読んでいたが、
その難しい所に菌や胞子というきのこの繁殖に関わる事柄が書かれていたのだ。
当然野菜や花などの種から育つものしか知らない美鈴と咲夜はきのこも当然種から育つと思い込んでいた。
「なんていうか、きのこの種で増えなくてもっと、えー何て言えばいいのかー」
椛は頭を抱えた、こんな小さい子供に教えるなんて器用な事は出来ない。
しばらく考えふと思いついた、直接見せればいいんだ。
「じゃあ、きのこのある場所に連れて行ってあげるから、それを見たらわかるよ」
「え、本当?」
「いいの?」
「うん、ついてきてね」
椛が歩き出すのをみて美鈴たちは慌てて後を追いかけていった。
二人が椛を追いかけていくとだんだん足元の感じが変わってきた。一面を覆っていた落ち葉が少なくなり、
湿った地面が目立ち始めた。
「ほら、ここを見てみて」
椛が指差した先は倒れて半分崩れた大木だった、その下のほうに茶色いきのこが群集で生えていた。
「ほあー、きのこです」
「本当、こんなに沢山ある」
「きのこはこんな風に湿っている場所で育つんだよ、だから野菜畑みたいな日当たりのいい所で育たないよ」
「そうなんですかー、残念です」
美鈴は肩を落としてしまった。
「まあ、落込まないで、折角だからきのこを持って帰ったらいいよ、食べれるきのこを教えてあげるから」
「あ、うん」
「めーりん、よかったね」
少女達きのこ狩り中
「一箇所から全部のきのこを取らないようにしてね、また来年そこから生えるから」
「もみじさん、きれいなきのこです」
「わー!それは毒きのこだから!」
「椛さん、このきのこ何ですか?」
「それは伝説のきのこ?! 髭の水道管屋が手にするとその水道管屋は巨大化するという!」
きのこ狩り終了
「いっぱい採れました」
「きのこ料理が沢山で出来そう」
二人とも土をいじったり、隙間に入ったりでだいぶ泥だらけだったが、
それも気にせず満足そうにきのこの詰まった袋を覗きこんでいる。
「じゃあ、そろそろ帰らないと、麓まで送っていくから」
日が暮れる前に山を降りないと道に迷ってしまうかもしれないし、そんな時に妖怪に襲われたら大変だ。
「もうですか、残念ですー」
「もっと色々教えてもらいたかったけど」
「でも、お家の人が心配しているでしょ? あれ、そういえば二人ってどこに住んでいるの? 咲夜は人間の里?」
「私とさくやさんは一緒のお家に住んでますよ」
「山を降りたら帰れるから」
人間と妖怪の子供が一緒に住んでいる?椛は何だかよく分らなくなったがとりあえず二人を麓まで送り届けることにした。
「最近は夜に山に進入してくるのがいるから、そいつに見つからないようにしないと」
「進入してくるってどんなのですか?」
「悪いことをしているの?」
「いや、湖の側の館に住んでいてね、何でも背は小さくて黒い羽を生やした西洋の妖怪らしいけど、
上位の烏天狗に喧嘩をしかけたりしているんだよね、それ以外何もないんだけど万が一何かあったら大変だから」
「あれ、それって…」
「うん」
「でも私がついているから大丈夫、さあ行こうか」
(上位の天狗で歯が立たないから自分じゃ何にもならないだろうけど)
そんな事を考えながら椛は二人を連れて麓へ向かっていった。
椛たちが麓につく頃にはあたりはすっかり暗くなっていた、後は自分達で帰れると言っていた二人だったが椛はさすがに心配になった。
「ねえ、本当に大丈…」
「めーりん!!さくやー!!」
ズッガーン
「きゃいーん!」
突然椛は吹き飛ばされた。正確には飛んでた人物の魔力に弾き飛ばされたのだ。
「あ、おじょうさまー」
「おじょう様?」
「美鈴、咲夜、無事だった?怪我してない?大丈夫?」
レミリアは二人をがっちりと抱きしめた後、土まみれの姿をみた。
「ああ!こんなに汚れて!いったい何が?!」
「これはですねー」
「山でー」
興奮状態のレミリアに説明する間が無い。
「あのー」
ようやく起き上がった椛も説明をしようと話しかけた、が
「貴様が原因か…」
「えっ?」
ズンと身動きできないほどの圧力を感じる、あきらかに力の違いからのものだ。
小さい身体に羽を生やした西洋の妖怪、上位天狗を打ち負かしたやつに違いなかった。
「うちの子達をこんなにしたんだ覚悟は出来ている?」
「あーおじょうさま駄目ですー」
「違いますからまってください」
二人が声を掛けるがレミリアの耳には入っていない。
(ああ、もう駄目かも)
椛がそんな事を思ったとき、
「ロイヤルフレア」
「ふぎゃー!」
目の前のレミリアが燃えた。
「二人とも無事ですか?」
「パチュリーさまに小悪魔さーん」
「良かったー」
「まったく、何こんな子供に本気になっているの?いくら二人が心配だったからといって」
「あうー」
「もみじさん、大丈夫ですか?」
「おじょう様が勘違いしちゃってごめんなさい」
「だ、大丈夫、大丈夫」
ちょっと足がプルプルしていた。
その後レミリアの一方的な誤解もとけ、椛に「悪かったわね」と一応レミリアが謝罪をし
(「謝り方がなっていない」と、パチュリーに本の角で殴られたが)
二人は勝手に山に行ったのを小悪魔に怒られた。
「じゃあ二人ともさようなら」
「もみじさん、今日はありがとうございました」
「色々勉強になったし、楽しかった」
それぞれ家に帰るときになった。
「そうだ、もみじさんこれお礼」
「あ、私も」
二人は手をつけていなかったクッキーを取り出すと椛に手渡した。
「ありがとう」
「じゃあ、またー」
「今度会えたらまた色々教えてね」
そう言ってそれぞれの家路についた。
帰り道、椛は貰ったクッキーを一つ口に入れた。
「あ、美味しい」
何だか色々あったけど面白い一日だった。
「そうだ、きのこ…あれなら家でも育てられる」
それを思いついた椛は近い内にあの子達に届けに行くことを決めると
まっすぐ妖怪の山へと駆けていった。
そして数日後、紅魔館では菌を打ち込んだホダ木で椎茸の育てかたを教える椛の姿があった。
子供椛も可愛いです!
椛もキター!
好きなキャラが出てきて感無量であります。
そのうちレミリアに負けず劣らずの馬鹿親カラスが出てくるんですね、わかります
腕を組んで偉そうな態度でそっぽを向いて謝っているお嬢様を想像してにやけているのは私だけだろうか。
まあ伝説のこったし、細かい事はいいや!