「寒いですねえ、早くも雪がちらつきそうです」
「然り。いやあ寒い寒い、このままではお布団天国が色欲地獄にも勝る誘惑だ。見なよ神奈子の御姿、亀か蝸牛か、ひきこもりじゃあないか」
寒空の下、境内を掃くは殊勝な巫女もどき。朝の眠気を吹き飛ばすべくついた深い吐息は胸の内に収めた暖かな心を冷まそうかというほどで、独特の巫女服に収まった豊かな実りをぶるりと震わせる。顔を苦悶に歪ませ、風が吹きさらす度にきゅっと目と唇を一文字に結び、強く自身の体を抱きしめる。しかし少々大きめの房が邪魔なのか、それを上から下から挟むようになるので、ずずいとぱっつんぱっつん。祟り神の陰険な眼差しと舌打ちなぞどこ吹く風、吹く風吹く風ああんと身悶え頬を紅潮させては息も荒く。
風祝はしばらく体を捻っては揺らし、つつつと祟り神の慎ましやかな丘陵に手をやって抱きしめる。これが暖かいのですよ、とは言うものの、祟り神としては頭にたゆんと乗せられる邪魔くさい乳臭さが、暖かいけれどうざったい。これが幻想郷に来てから多くなり、理由を問えば下着がなかなか手に入らないので付けぬ日がたまにあり、乗せると楽だからという。さらしでも巻いておけ。
「早苗や、あまり私を怒らせないほうがいい。仏は三度までの臆病者だが神は一度で首ちょんぱだよ」
「幻想郷では常識に囚われてはいけません。触らぬ神に祟りはありませんが、祟らぬ神ならべたべた触っていいのです」
鼻息一つ、どうだと言わんばかりの風祝に祟り神は溜息一つ。目の前におわすお方はどなたと心得る。恐れ多くも先の土着神にあらせられるぞ、と言ったところで意味も無い。我が子を祟る親など居らぬゆえ、祟り神にとって自分を抱きしめる手の持ち主は祟れぬ天敵でしかない。それを分かっているのか分かっていないのか、ぽてぽて縁側に座ってからは一層強く、冷たい頬をくっつけてきてなんともこそばゆい。
「嗚呼諏訪子様暖かいです。諏訪子様の中暖かい也」
「うひっ、やめなってえ! あっ、つめ、あっ、や!」
不届き神・東風谷早苗は留まるところを知らず。わきわきと踊る指は鍵盤でも引こうというのか、縦横無尽に幼い体を直に撫で回し、祟り神を喘がせる。奇しくも軍神と合間見えた時の様に、息も絶え絶えに。わき腹をくにくに揉み解す指もようやく温まってきたと見え、風祝のスポンと手を抜いた頃には冬の暖かい日に湧き出た蛙のようにぐったりぐでん。
「いや実に、実に暖かい懐炉で御座いました。流石は我が信仰する大神に御座います。信仰は儚き人間の寒さのために。おさわり一賽銭でいかがでしょう」
ふう……と風祝は一仕事終えたように額に滲む汗を手の甲で拭う。その顔はなんとも晴れやか、ますます紅潮した頬と荒い息、しっとりとかいた汗が少女の香りを匂い立たせる。無論祟り神も息荒く、抱きしめる腕に身を任せあふんと一息。濡れた瞳を風祝に向け、目が合えばくるりと一回転。ぽてんと少女を転がして、寒そうな腹に馬乗り一閃。瞬時の技にあっけにとられる風祝の顔色は、急転向の寒空の色に。
「あいや早苗、否懐炉さん。私にゃ随分大きいが、寝袋ならぬ懐炉袋がこんなところに丁度良く」
「あっ、いえ! 私めは少々汗臭く撫でるには向きません! 手が臭くなりますよ!」
「ははあ、然れども古代から少女は愛でる物と相場が決まっていてね。なに芋焼酎が好きな奴にあの香りが嫌いな奴など居ないだろう。く、ひひひひひひひひひっ」
朝靄はとうに晴れ、視界は良好千里の先をも見通せるかという澄んだ空。陽の光にうごめく二つの影からは悲鳴と笑い。むせ返るような少女の匂いは、居間に座して天狗の雑文を流し読む女性の鼻にもつく程であった。
「然り。いやあ寒い寒い、このままではお布団天国が色欲地獄にも勝る誘惑だ。見なよ神奈子の御姿、亀か蝸牛か、ひきこもりじゃあないか」
寒空の下、境内を掃くは殊勝な巫女もどき。朝の眠気を吹き飛ばすべくついた深い吐息は胸の内に収めた暖かな心を冷まそうかというほどで、独特の巫女服に収まった豊かな実りをぶるりと震わせる。顔を苦悶に歪ませ、風が吹きさらす度にきゅっと目と唇を一文字に結び、強く自身の体を抱きしめる。しかし少々大きめの房が邪魔なのか、それを上から下から挟むようになるので、ずずいとぱっつんぱっつん。祟り神の陰険な眼差しと舌打ちなぞどこ吹く風、吹く風吹く風ああんと身悶え頬を紅潮させては息も荒く。
風祝はしばらく体を捻っては揺らし、つつつと祟り神の慎ましやかな丘陵に手をやって抱きしめる。これが暖かいのですよ、とは言うものの、祟り神としては頭にたゆんと乗せられる邪魔くさい乳臭さが、暖かいけれどうざったい。これが幻想郷に来てから多くなり、理由を問えば下着がなかなか手に入らないので付けぬ日がたまにあり、乗せると楽だからという。さらしでも巻いておけ。
「早苗や、あまり私を怒らせないほうがいい。仏は三度までの臆病者だが神は一度で首ちょんぱだよ」
「幻想郷では常識に囚われてはいけません。触らぬ神に祟りはありませんが、祟らぬ神ならべたべた触っていいのです」
鼻息一つ、どうだと言わんばかりの風祝に祟り神は溜息一つ。目の前におわすお方はどなたと心得る。恐れ多くも先の土着神にあらせられるぞ、と言ったところで意味も無い。我が子を祟る親など居らぬゆえ、祟り神にとって自分を抱きしめる手の持ち主は祟れぬ天敵でしかない。それを分かっているのか分かっていないのか、ぽてぽて縁側に座ってからは一層強く、冷たい頬をくっつけてきてなんともこそばゆい。
「嗚呼諏訪子様暖かいです。諏訪子様の中暖かい也」
「うひっ、やめなってえ! あっ、つめ、あっ、や!」
不届き神・東風谷早苗は留まるところを知らず。わきわきと踊る指は鍵盤でも引こうというのか、縦横無尽に幼い体を直に撫で回し、祟り神を喘がせる。奇しくも軍神と合間見えた時の様に、息も絶え絶えに。わき腹をくにくに揉み解す指もようやく温まってきたと見え、風祝のスポンと手を抜いた頃には冬の暖かい日に湧き出た蛙のようにぐったりぐでん。
「いや実に、実に暖かい懐炉で御座いました。流石は我が信仰する大神に御座います。信仰は儚き人間の寒さのために。おさわり一賽銭でいかがでしょう」
ふう……と風祝は一仕事終えたように額に滲む汗を手の甲で拭う。その顔はなんとも晴れやか、ますます紅潮した頬と荒い息、しっとりとかいた汗が少女の香りを匂い立たせる。無論祟り神も息荒く、抱きしめる腕に身を任せあふんと一息。濡れた瞳を風祝に向け、目が合えばくるりと一回転。ぽてんと少女を転がして、寒そうな腹に馬乗り一閃。瞬時の技にあっけにとられる風祝の顔色は、急転向の寒空の色に。
「あいや早苗、否懐炉さん。私にゃ随分大きいが、寝袋ならぬ懐炉袋がこんなところに丁度良く」
「あっ、いえ! 私めは少々汗臭く撫でるには向きません! 手が臭くなりますよ!」
「ははあ、然れども古代から少女は愛でる物と相場が決まっていてね。なに芋焼酎が好きな奴にあの香りが嫌いな奴など居ないだろう。く、ひひひひひひひひひっ」
朝靄はとうに晴れ、視界は良好千里の先をも見通せるかという澄んだ空。陽の光にうごめく二つの影からは悲鳴と笑い。むせ返るような少女の匂いは、居間に座して天狗の雑文を流し読む女性の鼻にもつく程であった。
あと、神奈子様は渡さん!
だが、神奈子様は渡さん
そんな日々には、懐炉ぐらいがちょうどいいですよね。
なので、どうか私にも神奈子様を一つ。