○月×日
妹がメイド服を着て私に甘えてきた。
それはフリルが多く付けられ、このメイド服の中のメイド服を十全に見るがいい! といった風の可愛らしさを前面に押し出した物であった。
その格好のまま妹が私にくすぐったい声で話しかけるのだ。
「お姉様……大好きです」
余りの可愛さに私は妹に抱きつく。そして妹は少し照れながら、はにかむ。
私は愛しの妹をより深く抱き締め、頭から背中にかけて優しく撫でる。
すると妹は気持ちよさそうに目を細め、いつしか目蓋も重くなり、ゆっくりと私に身体を預け、安心しきったように眠りについた。
夜にはパジャマ姿で私のベッドに潜り込んで来る。
「どうしたの?」
と問えば、
「怖い夢を視たの……」
と答える。言うなり少し不安げな面持ちで私にしがみついた。
目に入れても痛くない、むしろ常に目に留めておきたい愛する妹に頼られては、期待に応えない訳にはいかない。腕に引き寄せ、不安を取り払うように、これまた背中を撫でる。
少しした後、妹は私の服の裾を握り締めたまま安らかに眠りについた。
……………………
…………
……
「何書いてるのさお姉様?」
現実の妹に頬を引っ張られた。
「え……あ……あの……」
現実の妹に頬をつねられた。
「何かな~この妄想日記は」
「痛い! 痛い痛い!! ほっぺとれる!! ねじ切れる!!」
頬がドリルの如く螺旋を描いている。激しく痛い。
いつから後ろに居たんだ……。
顔は笑っているが、きっと心の内では「うわ、何こいつ、私で妄想してる。気持ち悪い」とか思ってるに違いない。
現実では起こり得ない事を書いている日記だ。バレたら不味い。下手すれば殺されるかも知れない。
しかし、書いている所を見られていたのだ、既にバレている。そしてそれを誤魔化すのは至難の技。
ならば次善の策を考えねばならない。ここは弁を立てて怒りを軽減するのが良い。というかそれしか方法はない。
生死を賭けた窮地。後は私の口車に懸かっている。
「私を勝手に登場させないでよ、もう」
「い、『妹』とは書いてるけども別にフランの事じゃないわ」
ようやく手を離してくれた。おおう、頬は形状記憶じゃなかったのか。ちょっと伸びてしまった……。
「何を言ってるのさ。お姉様の妹はこの私でしょ。脳が炭化してるのかしら」
「ふ、フランも言ってたじゃない、妄想だって。この『妹』は、ふ、フランじゃなくて空想上の人物よ。そ、そう、そうなのよ。私の空想上の『妹』よ」
いや、勿論『妹』はフランを想定しながら書いた。フランのメイド服に悶え、一緒に眠るのに狂喜していたわけだが。
しかし、いくらフランでも姉の頭の中に存在している誰かを弄くっても、それを咎める事はできない、と考えたのだ。
「え……」
「だ、だから私が何を書こうとフランには関係ないでしょ?」
お、口先から出任せを言ってみただけだが、この反応は案外信じてくれたかも知れない。
もう一息だ。
「そ、そもそも私がフランの事なんて気にするはずないじゃない? 口は悪いし、すぐ暴力するし……。だ、だから、存在しない『理想の妹』を書き連ねてたのよ。け、決してフランじゃないのよ? 決して。わ、判った? ふ、フランには何の関係もないの。だ、だ、だからぁ、フランが怒る必要は、な、ないのよ?」
「…………」
大人しくなった! 信じてくれたのだ!
我ながら何とも情けないが、窮地に陥れば嘘だって吐かなければなるまい。
私にとっての『理想の妹』とはまさしくフランであるが、それだと日記の『妹』がフランだとバレてしまう。
ともかく、これで命が繋がった。……ああ、紅茶飲みたい。生きている事を実感したい。
咲夜を呼ぼうとしたその時、押し黙っていた私の『理想の妹』が口を開いた。
「……う」
「え?」
「うえぇ~ん!! え~ん!!」
「え、ええ!? どどどうして泣くの!?」
「お……」
「え?」
「お姉様の馬鹿ー!!」
「痛い! 痛い痛い!! ほっぺとれる!! ねじ切れる!! 伸びちゃう~!!」
フランは泣きじゃくったまま、部屋を出て行ってしまった。
何か傷付くような事を言ってしまったのだろうか。
……いや、確かに少し言い過ぎたかも知れない。今思えば、『フランより日記の妹の方がいいわ』という意味合いになっていた。命が惜しかったとは言え、少し酷い言い草だ。
明日には謝ろう。
そして必ず、私にとって『理想の妹』は貴女よ、と言おう。
フランも私の器の大きさに心酔するに違いない。
私は伸びきった頬を気にしながら部屋で一人頷いていた。
□ □ □
神社に赴く為、私は昼夜を逆転させている。だが外に出れないフランがわざわざそうする道理はない。
しかし、私が習慣を替えてから間もなくすると、フランも昼間から見かけるようになった。何も言わずともフランは私の生活リズムに合わせてきたのである。愛い奴。
そんな訳で一晩経って朝。私はベッドから身を起こす。
さぁ、今日こそはフランに謝罪して誤解を解かねば。あの子は私から折れないと、ずっと根に持つから……
ドガァァン!!
「わぁっ!!」
び、びっくりした……。何事かしら……ドアが見事に吹っ飛ばされている。
フラン。フランが居る。どうやらドアを吹き飛ばしたのはフランであるようだ。
……ああ、私死ぬのかな……と思ったが、どうもフランの様子がおかしい。
いや、様子どころか見た目もおかしい。どこかで見たようなドレス……どうみてもエプロンドレス。というかメイド服。
それはフリルが多く付けられ、このメイド服の中のメイド服を十全に見るがいい! といった風の可愛らしさを前面に押し出した物であ(ry
見間違えではない。今まさに、私が夢見たメイド服を着たフランがほら直ぐそこに!
「…………」
だがフランは眉間にシワを寄せたまま何も喋らない。ただその顔は何かを決心したような引き締まった表情だ。……耳まで真っ赤なうえ、身体は小刻みに震えていたが。
「え……えと……どうしてそんな格好してるのかな?」
率直に気になった事を尋ねてみた。
「な、なんか……こうなってた」
「へ?」
「だ、だから! ふ、服がこうなってた」
「そーなのー」
500年生きていればそういう事もあるのだろう。いや、ないよ。
驚くべき事に服がいつの間にか変形していたと言う。大丈夫か、この子は。
もしかしたらこれは私の妄想の『妹』に嫉妬して、対抗してこんな格好をしたのだろうか。私が『理想の妹』と言ったからそれを真似したのだろうか。だとしたら私の妹マジ可愛い。
ちょっと訊いてみよう。
「私の為にそんな格好をしてきたの?」
「ばっ! ん、んな、んな訳ないでしょ! ささささっきも言ったけど、これは服が勝手にこうなって……た……?」
ああ、フランは自分で何を言っているのか判っていなかったようだ。後半のセリフが疑問形になっている。あ、さらに赤くなった。
ともかく、これは私の為に着てきてくれたのだ。判りやすい反応だ、間違いない。だから私には、この焼き餅焼きな妹を抱き締めてちゅっちゅする義務がある。
――――いざ、フランのもとへダイブ
……しようと思ったが、ここで私の灰色の脳細胞が語りかけてきた。
(ここで抱き締めては駄目)
(何故?)
(フランは私に気に入られたくて日記の通りの格好をしているのよ)
(是。フランは日記の『妹』が私の理想だと思っている)
(抱き締めればフランは私の理想になれたと安心する)
(是。フランは安心するだろう)
(フランが安心すれば日記の真似事をしてくれなくなるわ)
(はっ!?)
……そうか。フランは私の日記の『妹』に嫉妬してあんな恥ずかしい衣装を身に纏っているのだ。ここで私がフランを選んで安心させればフランは日記の『妹』を演じるのを止めてしまうだろう。
メイド服姿のフランを見ていたいか?
……答えるまでもない。ならば私が取る行動は、フランの格好をほんのり褒めつつ、でも日記の『妹』の方がまだ良いなぁ~とアピールする事である。
……おや? 考えを纏めている間にフランが意を決したように口を開いた。
「お……お……」
何を言うつもりだろう。フランは恥ずかしそうに目線を逸らす。
「お姉様……だ……だ、大す……好……き……です」
ぐはぁっ……!! なんという威力……!!
このセリフはまさに日記の通り。やはり、フランは日記の『妹』を演じているのだ。
耐えろ……耐えろ……私……!
深呼吸だ。スーハースーハー……。
よ、よし。では早速。
「ありがとう、フラン。でも私は日記の妹みたいなのが好みなの。そう、メイド服を着たり、夜に私のベッドに潜り込んできたりする妹がね?」
それを聞いてフランははっとする。そうか、ベッドに潜り込むのが足りてないのか、といった具合だ。
拳を握り締めて出て行ってしまった。
嘘を吐くと心が痛む。だがこれもフランの可愛い姿を拝むため。ふふ……ふふふ…………。
計画通り……!
□ □ □
さぁ、夜だ。私はベッドに待機。
因みに頬も元の形に戻ってきた。ホッとする。
ドガァァン!!
……普通に部屋に入れないのかしら。せっかく直したドアが……。
フランは私の趣味を具現化したような。レースを使ったフリフリな、まさにファンシーなパジャマ姿であった。フランなりに考えた結果だろう。
さて、日記の通りにいけばフランは怖い夢を視て私の所に来たのだけれど。
「…………」
やはりフランは何も喋らない。この年になって怖い夢程度で姉のベッドに潜り込むなど、出来るわけがないのである。
「どうしたの?」
日記の通り私から問いかける。
「こ、怖い……ゆ、……夢………………ベッドが逃げた」
「へ?」
「だ、だから! わ、私のベッドが走って逃げた……」
「そーなのー」
なる程、それならば仕方ない。ベッドがなければ寝れないものね。床に寝るわけにもいかないから、私のベッドに入り込むのも頷ける。
ふむ。
だ、大丈夫か、この子は。ちょっと本気で心配になってきた。確かに怖い夢を視て怖くなった、なんて恥ずかしくて言えないが……。いくらなんでも代わりの言い訳がベッドが逃げた……って。
「…………」
フランを見てみると顔が真っ赤である。
……。
……可愛いから、いいか。
「いいわよ。ほら、おいで」
「ん」
顔を背けたままフランは私のベッドに潜り込む。
「ねぇ、背中向けてないでこっち向いてよ」
「や」
照れちゃってまぁ。
□ □ □
早起きしたのには理由がある。
フランが起きる前に日記を書き、再びベッドに入るためだ。
計画はこうだ。
①フラン起床→②私が寝ているのを確認して日記を開く→③日記が更新されているので、仕方なく日記に従う→④フラン可愛いよ、フラン
と。この流れは間違いなし。さ、フランが起きる前に書いちゃわないと。
「さて、今日の妄想日記には何を書こうか」
○月△日
朝、妹が下着にエプロンという刺激的な格好で私を起こしにきた。
「お姉様、起・き・て?」
耳元でそう囁かれ、私は目を覚ます。
「朝ご飯を用意しました」
妹は私にそう言って、自らの下着に手を掛ける。
……………………
…………
……
「ここでいただくわ。私はそう答え、そのままフランを押し倒す!」
「お姉様」
「フランは少し照れながらも下着をぉぉぉ!」
「お姉様」
「……え?」
背筋が凍りつくとはこの事だろう。やけに優しいフランの声が部屋に響く。
「何書いてるのさお姉様?」
フランに頬を引っ張られた。
「あら、フラン。おはよう。随分早起きになったのね? 貴女はいつもお寝坊さんだったからお姉ちゃん嬉しいわ。……と、ところでいつから起きてたかしら……?」
フランに頬をつねられた。
「最初からだよこの馬鹿姉ー!!」
「痛い! 痛い痛い!! ほっぺとれる!! ねじ切れる!! また伸びちゃう~!!」
「…………」
「ああ……! またほっぺが……せっかく……せっかく元に戻ったのに……」
「おい」
「は、はい! ごめんなさいごめんなさい! もうしません!」
「ど、どっちがいいのさ」
「へ?」
「だから、日記と……わ、私のどっちがいいのさ」
「……フラン」
「だ、だったら、ちゃ、ちゃんと日記の通りなでなで、してよ……」
フランは可愛らしく眉をひそめて、私にもたれかかる。だがやはり、少し照れているようだ。顔を背けているが耳が赤い。
言われるまま抱っこして、しばらく頭を撫でていると、子供のように眠ってしまった。
やはりフランは理想の妹だ。
フランちゃん可愛いよ!!
ありがとう
もっとちゅっちゅさせるべき
それだけ妹様を愛してるんだな。
さあ、続きは向こうで聞こうか。
実は俺のベッドも走って逃げだしたものだから寝るとこがないんだ…。
是非とも紅魔館に泊めていただきたい!!
土下座で頼み込まれてちゃんと下着エプロンになってくれるフランちゃんいい子だなw
この駄目すぎるお嬢様を何とかできるのはフランちゃんしかいない。がんばれ!
うむ、かわゆい
お二人ともとても可愛らしかったです。
感謝。
いいぞもっとやれ。
あれ…こういうキャラどっかで見たような気が……
あああかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
レミリアGJ!