本日は晴天なり。
晴れ渡った早朝の空の下、門前で元気な声が響いていた。
「おいっちに、さんしー!」
「………」
声の主は紅魔館の地下にある図書館に住みつく小悪魔のものだ。
「おいっちに、さんしー!」
「………」
彼女は自身のスカートから出した八本の緑の触手を元気に運動させていた。
掛け声に合わせて触手たちがびたんびたんと地面を打つ。
「おいっちに、さんしー!」
「……」
美鈴はただそれを眺めながら大きく欠伸。
それから門扉に寄りかかって、とりあえず朝の空気を満喫していた。
「おいっちに、さんしー!」
「……」
びたんびたん。
「おいっちに、さんしー」
「……」
びたんびたん。
「おいっちに、さんし」
「……」
びたんびたん。
「おいっちに……」
何十回目かの掛け声で突然、小悪魔は動きを止めた。
触手も元気を無くしたように地面へと投げ出される。
そのまま小悪魔はぐるりと首だけを美鈴へと向けた。
にこにこ笑顔のまま、だが悲しげに呟く。
「何か突っ込んでくれないのですか?」
「突っ込み待ちだったのね…」
寂しそうな言葉に、美鈴は困惑の表情を見せる。
そしてなおも小悪魔は沈んだ声で続けた。
「はい、一生懸命頑張っているのに寂しかったです」
「そう、ごめん」
「いえ、優しいんですね」
何処となしか嬉しそうな小悪魔の声に美鈴は溜息をついた。
本音を言うと関わりたくないのだがこうなっては仕方ない。
「んで、その触手はいったい?」
質問に嬉しそうに小悪魔が答える。
「はい、実はですね、自分的には甘言で惑わす知的悪魔になる事を望んでいたのですが
どうやら私は淫魔の適性の方が随分と高かった様なので……先日に生えてきました。」
そこで小悪魔は頬に手を当てて照れたように頬を染めた。
「魔理沙さんにも太くて固くて立派だと泣いて喜んでいただいて……生えて良かったです」
「魔理沙が……」
「はい!お聞きになりたいですか?」
美鈴は魔理沙と小悪魔に何があったか知らない。
だが知らない方がよさそうだと、とりあえず思った。
「いや、いいわ」
「そうですか、まあとりあえず生えてしまったからにはさらに活用出来るべく、運動させて鍛えているのですよ」
「そ、そう」
それで……と、小悪魔は続けた。
「そんな訳なのでご一緒に運動いかがです?」
「いや、朝に太極拳やったから遠慮しとく」
「あら、御遠慮なさらずに。この子たちも門番さんと運動したがっていますわ」
小悪魔は再び頬に手を当ててうっとりする様な表情を見せた。
「そのむちむちな体に絡みつき、引き締まった太腿やくびれた腰、豊満な胸を締めあげて
んほぉぉぉぉぉ!とかひぎぃぃぃぃぃいい!とか健康的な声をあげていただきたいそうで……」
「絶対に嫌です!」
断る美鈴に意外そうに小悪魔が目を見開く。
「あら、つれませんね、ある意味サービスになりますし、人気取りにもなりますよ?」
「んなサービスする気もないし、そっちでの人気も必要ないです」
「あら残念、健康的なエロスがお望みでしたか。では代わりに……」
小悪魔は心底残念そうな表情を浮かべた。
だがすぐに視線を上へと上げる。
「私はあちらの方と運動する事にしましょう」
つられて視線をあげた美鈴の目に映ったのは飛翔する魔理沙。
彼女は二人に気が付いて、それから顔をひきつらせた。
「んげ、小悪魔と……触手!?」
空中で停止。
そのままくるりと反転して飛び去ろうとする。
「ああ、待ってください、あの時の感覚が忘れられないんです!」
すかさず小悪魔が地を蹴って魔理沙へと飛翔した。
八本の触手をうねうね動かして迫る。
「く、くるなぁぁぁぁ!!」
「楽しみましょうよ~」
全力で逃げにはしる魔理沙。
それを追う明らかに異常な速度の小悪魔。
触手が空を打つたびに速度がどんどん上がっていく。
これは魔力を帯びた触手が空気を叩いた勢いで加速する触手☆ブーストなる技だが美鈴にはどうでも良かった。
「行っちゃった……」
二人の姿が見えなくるまで見送って美鈴は一言。
しばし空を眺めて、そのまま門扉に背を預ける。
「ともあれ、これで今日は平和かな」
もう魔理沙は来ないだろうし朝寝でも決め込もうかと呟いて。
「あら、それはどうかしら?」
その呟きに答えが返ってくる。
「お嬢様」
何時の間にやら主人であるレミリアが隣で日傘をさしていた。
「ともあれ残念だったわね」
彼女はにやりと笑みを浮かべて言う。
「何がですか?」
美鈴は意味が分からずに首を傾げた。
「小悪魔に振られたのでしょう?」
「違います」
勘違いしてるよ、と美鈴は眉をひそめる。
「小悪魔とくんずほぐれずしようとして振られたのでしょう?」
「違います、人の話を……」
構わずにレミリアが笑みを深くした。
「仕方ないから私が代わりに相手してあげるわ」
「嫌です」
「あら、恥ずかしがらなくてもいいのよ」
心底嫌そうな美鈴に、レミリアは艶っぽい笑みを見せる。
そのまま両の手で美鈴の頬を挟みこんで、その瞳を覗きこんだ。
「さあ、私の目を見て、力を抜いて……へぶっ!?」
レミリアが顔を抑えてうずくまる。しばらくおおおと、呻き声。
それから少し涙の貯まった目で恨めしそうに美鈴を見上げた。
「いきなり主人にチョップかますとは……何考えてんのよ!」
平手を目の前で振りながら美鈴が苦い顔をした。
「それはこっちの台詞ですよ。またいきなり魅了しようとするなんて」
「むぅ、流石に二回目はかからないか」
美鈴は溜息。
以前の記憶を思い出して眉をしかめる。
いつぞや、門番に雇われてまだ日が浅い時の事。
部屋に呼ばれていきなり魅了の魔力を掛けられた事があるのだ。
「そうですよ。まったく、あの時は油断しました。
外見子供だからって思ってたら見事に魅了に掛けられちゃいましたからね」
「あの時はフランが邪魔しなければにゃんにゃん出来ていたのに……」
「本当に危なかった……あの時は本気で仕事辞めようかと悩みましたよ」
「あらでもやめなかったでしょう。私が忘れられなかったのね」
「まったくこの主人は……」
にやにや笑みを浮かべるレミリアに美鈴は再び溜息。
「まあともかく、相手してあげるわ、おっぱい揉ませなさい?」
「嫌です、と言うかお嬢様は女でしょうに」
うんざりとする美鈴にレミリアが視線を鋭くする。
「お黙りなさい!」
怒気すら交えた声で美鈴を制する。
「男女問わずにおっぱいが嫌いな者はいないわ!私は大好きよ!」
「さらりと変態発言来たよ」
「ふ、それにね、長く生きていると男女の違いなんてどうでも良くなってくるの」
「そんなら人里にでも行って適当な人間、誘惑したらどうです?」
「嫌よ、自分を安売りする気はないわ」
ふふん、とレミリアは誇り高くその青銀の髪を掻きあげる。
それから再び艶っぽい視線を美鈴に送った。
「と言うか、私はあなたを選んだのよ、美鈴。光栄に思いなさい」
その視線を受けて、美鈴は少しだけ考えてから言う。
「いや、本当はできないだけじゃ……実は処女でしょう?」
「!?……しょ、しょ、しょしょしょ処女ちゃうわ!!」
「動揺しすぎです」
「うるさい」
まるっきり子供の様に頬を膨らませレミリアは美鈴を軽く睨んだ。
図星だったのか黙り込んで俯くレミリア。少しだけ悲しそうだった。
俯いてしまったレミリアにどこか居心地の悪さを感じた美鈴が話を繋ぐ。
「てか今日は随分エロいんですね」
「寝る前はたまにムラムラするのよ、仕方ないじゃない」
「それなら寝てしまえばどうです?」
「寝れないから来たんじゃないの、ああもういい、おっぱい揉ませなさい!」
「嫌です、それなら咲夜さんに頼めばいいじゃないですか!」
「え、咲夜?」
きょとんとするレミリア。
「おはようございます、美鈴、お嬢様。目覚めの紅茶など……」
その背後に人影が現れかけて……
「嫌よ、咲夜のおっぱいちっちゃいし、揉み甲斐ないもの!」
「がはぁ!?」
くぐもった声と何かが割れる音。
「あら、何か音がしたわね」
「ですね」
レミリアと美鈴がが音のした方を振り返るとそこには……。
「えっと、ティーカップの破片……ああ……」
地面に広がった染みと、破片を拾いながら美鈴は理解する。
「何よ?」
「お嬢様、後で覚悟しておいてくださいね?」
完璧で瀟洒な仕返しが本日中に行われると確信した。
「なによ、やる気? よし、ベッドに来いやぁ!」
「そうじゃないですって」
盛大に勘違いするレミリアに美鈴は呆れた様子を見せる。
忠告する気も失せた様子でとりあえずティーカップの破片を端へと方付けた。
「あら、じゃあここで? 大胆ね……」
一方、レミリアは頬を染めて呆然として。
「ああもう、この色ボケ主人は」
などと呟く美鈴の前で、それから大きく欠伸をする。
「ふぁ~あ」
「おや、眠くなりましたか?」
目端に貯まった涙をぬぐいレミリアが伸びをした。
「そうね、どこぞの門番があまりにも淡白だから」
「それは結構、さあ寝床へお戻りください」
促す言葉にレミリアは頷いて。
それから美鈴の腹へと抱きついた。
「わっ」
不意を突かれた美鈴はそのまま尻もちをつく。
そのままレミリアは丁度良い位置に来た美鈴の胸へと顔をうずめた。
「ちょっと、お嬢様……」
「いいじゃない、おっぱい枕」
「あのですね」
眠そうな声。
引きはがそうと美鈴がレミリアに手を掛けて……
「すやすや」
「もう寝てる……」
聞こえる寝息にそのまま手を止める。
「まったく……どうしたものか」
とりあえず、ずれかけた日傘を手に取りレミリアの上に広げた。
門番業務はどうしようかと、そんな事を考える。
「門番さん~」
声が聞こえて美鈴は顔をあげた。
「あら、小悪魔」
何時戻ったのか、やたらと艶々した肌の小悪魔がにこにこ笑みを浮かべていた。
「変わってあげましょうか?」
「は?」
「だから門番を変わってあげましょうか?」
美鈴としては、それはありがたい申し出だがしかし……。
「図書館の仕事は大丈夫?」
「ええ」
心配はあっさり杞憂に終わる。
にこにこ笑顔で促すように小悪魔が続けた。
「私が門を守りますから門番さんはお嬢様と寝てきてください」
「はぁ……」
「子守りも立派な業務ですよ」
「ええと……」
「大丈夫ですよ、今の私は色々と補充して大悪魔級です。
何が来てもこの触手の餌食にしてあげますよ!」
わさわさと八本の触手が元気よくうごめいて広がった。
自信たっぷりな様子で小悪魔にそこまで言われてはと美鈴は頷いた。
「そう、じゃあお願い」
美鈴はそのままレミリアを抱いて立ち上がる。
「はい、心得ました~」
その場を小悪魔に任せて美鈴は門を後にした。
「まったく……」
無邪気な寝顔を見せるレミリアを抱えて美鈴は部屋へと向かう。
レミリアの部屋へと入り、ドアを閉め、ベッドへと腰掛けた。
それから美鈴は己の胸で瞳を閉じている主人の寝息が偽りでないと確認する。
ふと思いだす、先程の会話。
(本当に危なかった……あの時は本気で仕事辞めようかと悩みましたよ)
(あらでもやめなかったでしょう。私が忘れられなかったのね)
「その通りですよ」
小さな声で呟く。
幼稚で、わがままで、世間知らずな癖に尊大で。
でも、寂しがりやで、甘えん坊で、憎めなくて。
だからこそ、放っておけなくて。
美鈴はレミリアを抱いたままベッドへと身を投げ出すと瞳を閉じた。
それから安らかな寝息が二つ聞こえてくるのにさして時間はかからなかった。
-終-
同行しよう。援護する。
>無休氏、4氏
私も行きますよ
一番槍を勤めさせてもらいますよ
せめて骨くらいは拾ってやるよ
手を貸そう
美鈴とお嬢の寝姿を写真におさめてきますw
ぎゃぁぁああああああ!
俺? 俺はめーりんとおぜうの寝顔だけでお腹いっぱいでさぁ
どうしてこうレイヴンやリンクスはどこにでも湧いて出てくるのだろう……
俺はおぜうとめーりんにはさまれとく
触手 からは 逃げられない!