※この作品は前作『小さい秋、こっそり――』の続編となっています。
【れ】
それは、”ごくありふれた”秋の一日の終わり。
――ちょっと、遅くなっちゃいましたね
リリー・ホワイトは手土産の”もみじまんじゅう”を携えて、悠々と我が家を目指して飛んでいた。
――ふふっ。きっと、喜んでくれるでしょうねー
ほっぺたを膨らませて待っているだろう、”可愛い”同居人に思いを馳せる。
――今度は一緒に行きましょうね
やがて彼女は、急に増してきた寒さを”こらえ切れずに”家へと急いだ。
しかし、彼女はまだ知らなかった。”今度”などというものは……。
【て】
――
彼女は、ただ静かに”涙”を流す。
――あら、いらっしゃい。何か用かしら?
強きモノは心の内に”激情”を秘めて。
――どうして!? どうして、こんなことに……
とめどなく”溢れ出す”想い。
――さあ、帰りましょう?
果たしてその子は、”どちらを”望むのか。
【ぃ】
<リリーへ>
『レティは あずかった かえして ほしかったら むかえに きて』
<ゆうか>
【 】
――ゆっくりしていってね
○○○○○
ある優雅な秋の日の昼過ぎ、幽香は温かい紅茶を片手にぼんやりと読書に耽っていた。
窓から入って来た風が幽香の髪をなびかせて、勝手にページをめくりだす。
幽香はページをそっと指で押さえると、ぼんやりと風の来た道を辿った。
はためくカーテンの間から、時折、青い空と桃色の海が現れる。
乾いた風に揺られて白と紫の入り乱れた表面に、黄色の粒が微かにのぞく。
このまま本を読むには、少しばかり風が鬱陶しい。
そう思って、幽香はのんびりと立ちあがり窓際へと体を向けた。
「……こども、ねぇ」
彼女の口から無意識に言葉が漏れる。
本の彼女は、泣いていた。ただ、泣いていた。
「あれは、嬉し涙だったのかしら……」
決して会う事のない彼女の、隠された想いに思考を巡らせながら、揺れるカーテンを開け放つ。
急に開けた視界に、一面のコスモス畑が飛び込んできた。
「私には分からないわね。きっと、これからも……」
――分からないでしょうね。
その言葉は爽やかな秋の風に流されて、コスモスの向こうに消えて行ってしまった。
と、そんな事をしていると、こちらを見上げる視線が一つ。玄関の前で、ぽつりと佇んでいる。
薄紫色の髪に、白い帽子のような何か。背格好や何処となくひんやりとした雰囲気は、とこぞの氷精のようで……。
「ちょっと待ってなさい。いま開けるわ」
そう言い残して、幽香は玄関にまわった。
彼女が去った部屋、テーブルの上にて、またも風がいたずらをする。
『52 ウミガメ全集~帰郷編~』
捲られたページの上部には、そう書かれていた。
捲られる前? それは、彼女だけが知っている。
○○○○○
「……こんにちは」
「レティじゃない。いらっしゃい、どうしたの?」
「りりーがいない」
すぐに扉を開けると、その子は控えめに挨拶をしてきた。
不満そうに頬を膨らませて、しかし不安そうに瞳を揺らす。
「いつから?」
「……わからない。起きたらいなかった」
「そう。リリーは何も言ってなかったのよね?」
幽香が目の高さを合わせて質問すると、レティは、こくんと無言で首を上下する。
こんな小さい子を放っておくなんて、とも思うけれど、冬になるまでは安全な場所で寝ているわけだから別段問題はないのだろう。
「大丈夫よ。何か用事でも出来たんでしょう。それより、あなたは何か書き置きをしてきたの?」
「かきおき?」
「ええ。どこそこに行って来ます、みたいな事よ」
「……うん。りりーが心配するから」
レティは当然のようにそう言った。
なんて優しい子だろうか。こんなにいい子は、思わず抱きしめてしまいたくなる。
「ゆうか。……いたい」
「ああ、ごめんなさい」
いつの間にか捕らわれていたレティを解放すると、幽香はあることに気がついた。
「あなた、何を持っているの?」
レティの、軽く握った右手に意識を向ける。
促されてレティの前に掌を差し出すと、レティはその上に中身を落とした。
緑色の楕円型で、大きさは人差し指の先くらい。まわりには若干柔らかめのとげがたくさん生えている。
「……くっつき虫」
「これはね、オナモミって言うのよ」
「おなもみ? ……くっつきむしじゃないの?」
「くっつきむしとも言うわよ」
レティは一つとって、自分の服に軽く押しつける。が、手を離すとすぐに落ちてしまった。
「……でも、くっつかない」
「まだ緑色をしているでしょう。これが茶色く変わったら、くっつくようになるのよ」
幽香がそう説明すると、レティは少し残念そうな顔をした。
「とりあえず、中に入りましょう。ここは寒いわ」
「……寒い方が好き」
「大丈夫。中も寒いから」
幽香はレティを問答無用で抱き上げて、家の中へと移動した。
地面に取り残されたおなもみが、一人で不貞腐れていた。
○○○○○
「幽香ー? 入るわよー」
幽香がベッドの上で至福のひと時を味わっていると、玄関の方から声がかかった。
声の人物は返事を待たずに勝手に侵入すると、家の中を徘徊しはじめたようだ。
「幽香? いるんでしょー」
透き通るようなその声は、聞き飽きるほどによく耳にするので、特定することなど容易だった。
そのまま気付かないで帰ってくれないかなぁ、などと考えながら、幽香は沈黙を貫く。しかしそんな想いをよそに、声は段々と近づいてきた。
「ああ、ここに居たのね。こんにちは」
そしてついに寝室の扉を開けて、人形みたいな人形遣いが現れた。
当然のように部屋に入って来た親友に、幽香は寝転がったまま挨拶を返す。
「あら、いらっしゃい。何か用かしら?」
「あんた……なんか怒ってる?」
私の至福のひと時を邪魔するなんて、いい度胸をしているわねぇ。
そんな想いをのせた言葉は、割としっかりと伝わったようだ。
「別に、そんなことはないわよ」
そう言って、幽香は隣で寝ているレティの頭を優しく撫でる。
アリスの位置からではレティの姿は毛布に隠れて見えなかったが、幽香のその仕草で、ベッドに他にも誰かが寝ていることに気付いたようだ。
「ごめんなさいね、お邪魔だったかしら?」
「ええ、とっても」
軽口を交わしながら、アリスはベッドに近付いて来る。
幽香としても別段隠すつもりは無く、真っ白なレティの頬を指でつついた。ぷにぷにとした、柔らかくも弾力のある感触に自然と口元が緩む。
「――!?」
ベッドを覗き込んで固まっているアリスをよそに、むぅ、と呻いてレティは寝がえりを打った。
そこで、アリスはようやく再起動を果たす。
「どうして!? どうして、こんなことに……」
「みゅっ!?」
「……起きちゃったじゃない」
アリスの突然の叫び声に、レティは驚いて飛び起きてしまった。
幽香は自分にしがみ付いてきたレティを抱きしめながら、アリスに非難の目を向ける。しかし、すぐにアリスの異変に気付いた。
「ちょ、ちょっと、待ちなさい! ほら、このハンカチでいいから……」
幽香はどこからかハンカチを取り出し、慌ててアリスに手渡した。
一方ようやく頭が起きてきたレティは、上半身を起こした幽香の後ろに身を隠し、不審者を指差す。
「……だれ?」
その指の先では、何故か金髪の女性がハンカチで鼻を押さえながら悶えている。
その女性の、整った顔には不釣り合いな少しぎらついた視線に身の危険を感じて、レティは幽香の背中に強く体を押し付けた。
「大丈夫よ、レティ。……アリス、レティが怖がっているじゃない」
「んぐ。……ああ、ごめんなさい。私、小さい子が好きだから……つい」
怯える少女を安心させるために、アリスはハンカチを隠して優しく微笑んだ。人里の子供たちからは『人形のお姉さん』として親しまれている、どこか親近感の湧くような笑み。
しかしそんな笑顔も、一筋の滴で台無しであった。
「やっぱり、ちょっと離れてましょう」
もうフォローが面倒になった幽香は、しがみついているレティを抱っこしなおして、そっとアリスの横をすり抜けた。
背後で木製のドアが乾いた音をたてる。一人取り残された寝室で、アリスは首を傾げる。
しわになったシーツの上、捲りあげられた羽毛布団。まだ十分に残っている温もりも、アリスの下までは届かなかった。
○○○○○
「やっと来たわね」
――も収まってアリスが居間に向かうと、部屋とつながった台所から幽香の声が届いた。
テーブルにはレティがちょこんと席についていて、今は何かを咀嚼しているようだ。
「あら、何食べてるの?」
「……みやここんぶ」
「へぇ。はじめて――」
「お茶持ってきたから、とりあえず座りなさい。まずは自己紹介でもしたら?」
突然アリスの言葉をぶった切って、幽香が場をしきる。
しかしこんな扱いはいつもの事。彼女の言うとおりに大人しく席につき、自己紹介をはじめる事にした。
「ええと、初めてじゃないはずなんだけど。……まあいいか、初めまして。アリス・マーガトロイドよ。よろしくね」
「……レティ・ホワイトロック」
よろしく、と言ってアリスは手を差し出すと。
レティは手を伸ばしかけるが、ふと自分の指を見つめる。近くにあった布巾で指を拭い、それから目の前に差し出された手を握り返した。
小さい掌がアリスの指三本を包む。少しひんやりとした感触を楽しみながら、アリスはもう片方の手で口元の涎を拭い、疑問に思っていた事を尋ねた。
「ねえ、前に見た時はもっと大きかったと思うんだけど。私の記憶違いかしら?」
「もしかして、その時って冬だったんじゃないの?」
首を傾げるレティに代わり、幽香が返した。
あれは確か春雪異変の少し前。紅魔館に行く途中で見かけた、ような気がする。割と強い吹雪の合間にちらっと一瞬だけ目が合った、ような気もする。
裸の木々を覆い隠すように荒々しく雪が舞い、その中で腕を広げて天を仰ぐ雪女。偶然に視線が合ったその一瞬、にやりと唇を釣り上げて、細めた瞳が色を裂く。
ぞくり。
唐突に甦った記憶に、アリスの背筋が緊張する。
思わずレティを覗き込むと、つぶらな瞳が疑問を返した。
「なら当然じゃない」
ごまかすようにレティの頬をつっついているアリス。
くすぐったそうにしているレティに、幽香は言葉を向けた。
「冬以外ではいつもこうよ。ねえ?」
「……うん。もうちょっとしたら、おっきくなる」
「そういうこと。まあ、冬以外だと普通は洞窟から出てこないから、ほとんど知られてないけどね」
「ないしょだって、りりーが言ってた」
ないしょ、と人差し指を口に当てるレティ。
「へぇー、なんか面白いわね。ところで、私にはばれちゃったけどいいの?」
「だいじょぶ。ばらしたら――」
――ばらすから
ほんの刹那、青い瞳から色が抜ける。どこまでも透き通ったその奥に、アリスは凍てつく炎を見た……ような気がした。
「で、あなたは何しに来たの?」
「え? ……ああ。ええと、昨日寺子屋で人形劇をしたら、お礼をもらっちゃってね。一人で食べるにはちょっと多いから、あんたに恵んであげようと思ったのよ」
「何も持ってきてないじゃない」
密かにアリスの驚いた顔を楽しみながら幽香が問いかけると、アリスはすぐ我に返った。
かと思ったら、突然玄関の方を向いて声をあげる。
「今よ! 上海、蓬莱、やっておしまい!」
「マタセンジャネーヨ」
「ヨージョノハナシヲシヨージャナイカ」
玄関を開ける音が無かったので、きっと内側で待機していたのだろう。
片方は文句を、もう片方は謎のセリフを吐きつつ、ふよふよと可愛らしい人形が二体、一緒に紙袋をつりさげてやってきた。
「じゃーん! もみじまんじゅう」
人形達から袋を受け取ると、アリスはテーブルの上に中身を取り出した。
出てきたものは、白い紙に包まれた握りこぶし程度の何か。十数個あるそれらは、一つを除けば外見はみな同じだ。
表には『椛まんじゅう』と書かれている。しかしよくよく見てみると、他にも『あややまんじゅう』とか『ケロちゃんまんじゅう』とか、いろいろと混ざっている。
その中で幽香は目についた一つをとりあげる。
「これって、きゅうり味なのかしら?」
――『こんな胡瓜で大丈夫か?』
「……なんか卑猥ね。いらない」
そう言ってすぐに紙袋へと戻した。
「守矢神社と妖怪の山のイメージアップだとかで、あちこちで配ってるらしいわよ」
「……おっきい」
「そうそう。一個だけ特大サイズが混じってたのよ。レティにあげるわ」
レティは広げた両手の上の、それよりも大きい饅頭を見て、すぐに首を横に振る。
「いい。こんなにおっきいの……入らない」
蓬莱人形がすかさず主の鼻にハンカチを突っ込む。
幽香は変わり果てた己のハンカチを諦め、レティが持っている饅頭を手に取った。
「だったら私と半分にしましょう」
「うん。……はんぶんこ」
包みを取ると、大きさ以外はいたって普通のもみじ饅頭であった。楓の葉をかたどってあり、半分に割ってみると中にはこしあんがぎっしりと詰まっている。
レティは幽香から半分に割った片割れを受け取るが、それでも小さな掌には収まりきらない大きさだったので、もう半分に分けることにした。それから一方をさらに半分に分けて、小さな人形達にそれぞれ差し出しす。
「……たべる?」
「オマエイイヤツダナー」
「ムシロジョーチャンヲ」
「む……あなたにはあげない」
「ジゴージトクダナ」
八分の一の塊を上海人形に渡し、蓬莱人形からは遠ざける。
しかしアリスの頭の上で泣き真似をする蓬莱を見て、しぶしぶと差し出した。
「モーイッショーツイテッチャウ」
「……いらない」
「マンジュウガショッパイゼ」
「ちょっと、蓬莱。頭の上に餡子を落とさないでよ。……ああっ、上海も服で拭かないの!」
「フクダケニナ」
「ナカナカニアッテルゼ」
レティは、饅頭を食べて全体的に一回り大きくなった人形たちを不思議そうに見ている。そして意識はそのままに、自分も一口。
少し眉をひそめる。
「レティ、美味しい?」
「あまい」
「お茶を足してきてあげる」
「……ありがと」
一口だけかじった饅頭を片手に、レティは漫才を続ける三人を眺めている。
どちらかというと無表情な彼女だが、幽香が戻る頃には、いつしか控えめな笑みがこぼれていた。
――流石ね。次は呼んであげましょうか
○○○○○
すっかり日も落ちた頃、リリーはコスモス畑に降り立った。
月明かりに揺れる花たちの間を通り抜け、一軒の簡素な家の前に立つ。玄関の右手にある窓は開け放たれており、左手の窓からはカーテンの間から明かりが漏れている。
「こんばんはー」
玄関を軽くノックしてみるが、返事は帰って来ない。ただ後ろから、風が服を揺らすだけ。
リリーは左手の窓のカーテンの隙間から、少しだけ中を覗き込んでみる。
くすり、と笑いを携えて、静かに玄関の戸を開けた。
○○○○○
「おはようございます」
額に触れる柔らかく湿った感触に目を覚ますと、幽香は何物かが自分を覗き込んでいることに気付いた。
やがて焦点が定まり、それが春の妖精である事を確認する。
彼女は温かな笑みを浮かべ、幽香に手を差し伸べる。柔らかい手に導かれて幽香が上体を起こすと、リリーは幽香の隣の毛布をめくった。
半分ほど毛布を取られた子供は、もう半分へと身をうずめる。冬の妖怪と言えども、やはり眠るときは暖かい方が良いのだろうか。
「ふわぁ……おはよう。私まで一緒に寝ちゃってたようね」
「眠るなら窓を閉めておかないと、風邪引きますよ?」
「この子が寒い方が良いって……」
問題の『この子』は、半分めくれた毛布にしがみ付いて眠っている。
このちびさんが真冬の雪山に出ると言われても、きっと誰も信じないだろう。まあ実際、『ちびさん』としては出ないのだが。
「今日も殆ど寝てばっかりだったわ」
「本当はまだ眠っている時期ですからねー」
寒そうに身じろぎをするレティの口元を、幽香が軽くぬぐってあげる。
するとリリーがすかさず幽香の口元を拭って、いたずらっぽく笑いかけた。
「と、ところで、今日はどうして――」
少し顔を赤くして話を振ってきた幽香に、リリーはにこにこと微笑みながら事情を説明し始めた。
「それでですね、家に帰ったら書き置きが――」
「ん、むぅ……」
大体話し終わったところで、レティが小さく声を発した。
そのまま二人が見守っていると、レティは少し目蓋を上げ、それから眩しそうに瞬きをする。
上半身を起こしてからしばらくの間ぼうっとしていたが、やがてこてんと身を倒して――。
「レティ、もう起きましょうね」
「……りりー?」
「おはようございます。迎えに来ましたよ」
幽香に持ち上げられて、リリーの目の前、ベッドの上にちょこんと立たされた。
次第に意識が冴えてきて待ち人の到着を理解すると、ぎゅうっと抱きついた。
「……おかえり」
「はい。ただいま」
「私の家だけどね」
リリーは、ぼそっと呟いた幽香を見据える。
「な、何よ?」
「全く、幽香ちゃんは寂しがり屋さんですねー」
そう言うとリリーは、しがみ付いているレティごと幽香に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
「そ、そんなんじゃないって……ほ、ほら、レティがつぶれてるわよ」
「……だいじょぶ」
どことなく楽しそうな顔のレティ。
焦る幽香の抵抗は空しく、しばらくの間リリーにもみくちゃにされていた。
○○○○○
「さて、そろそろ帰りましょうか?」
心行くまで幽香を愛でた後、リリーはあまり夜遅くなる前に帰ることにした。
しかし、声を掛けてもレティは動こうとしない。幽香に抱きついて、いやいや、と首を振る。
幽香は少し照れくさげに頬をかく。
「また来ればいいんですから、今日は帰りますよ」
「……いいの?」
「ええ、もちろん」
上目遣いで尋ねて来るレティに、幽香は即答する。
途端に顔を明るくさせて、レティはベッドから飛び降りた。
玄関へ向かう二人について、幽香も見送りに出る。
扉を開けると早速舞い込んできた風は、大して寒くもなかった。
「外もあんまり変わらないわね」
「ずっと窓を開け放っていれば当然ですよ」
「……まだ、あったかい」
幽香がふと足元を見ると、石に紛れておなもみが一つ転がっていた。なんとなく、それを拾い上げてみる。
「では、きっとまた来ますね」
「ぜったいくる」
「ええ、待ってるわ」
――おやすみなさい
誰かのそんな掛け声とともに、二人は軽く地を蹴ってあっという間に飛んで行ってしまった。
○○○○○
月明かりの下で風を切る。レティは心地よさそうに、リリーは少し寒そうに。
しばらく黙っていた二人だったが、リリーが思い出したように声を掛けた。
「そうだ、お土産があるんですよ。もみじまんじゅう」
「……いらない」
「あれ? 嫌いでしたか?」
「ちがう。今日いっぱい食べたから……また、こんど」
――みんなで
レティは後ろを振り返って、もう既に見えなくなってしまった家を思い浮かべた。
「また、いつでもいらっしゃい……」
聞こえる筈のない呟きに、ちょうど返すようなタイミング。
コスモス畑のその向こう、月下に映える紅へ、秋の夜風が運んで行った。
木々には多くの紅葉が残り、冬の気配はまだ来ない。
どうか、もう少しだけ……ゆっくりしていってね。
おしまい
ちっちゃいレティ可愛いなぁ、後アリスが少し残念すぎるww
なんというレティさん…ああ可愛い、アブソリュート可愛いッ!
至福でした。御馳走様です!