話をしよう
私達にとってはつい昨日の出来事だが、咲夜にとっては多分、未来の出来事
「お姉様、人間のメイドなんて大丈夫なの?」
「大丈夫よ。問題ないわ」
咲夜には最初72通りの運命があった
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十六夜 咲夜がどんなに化け物じみた人間であっても、
人間である以上、寿命がくるのは避けようがない。
彼女は今まさに永久の旅路に旅立とうとしていた。
ベットに伏せる彼女を、親しい者達が皆悲しげな面持ちで囲んでいた。
中でも幼い主は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「咲夜、あなたは最初から言うことを聞かなかったわね。私の言うとおりに血を捧げていれば」
咲夜はそんな彼女の頭を優しく撫でると、
「大丈夫ですよ。問題ありません」
そう言って、静かに目を閉じた。
「お嬢様は言っています。ここで死ぬ運命ではないと」
どこからか居眠り門番の声が響いた。
はっと目が覚める。
咲夜が周りを見渡すと、相変わらず親しい者たちが彼女を囲っていた。
ただし、先ほどまでと異なるのは、皆の顔がにやにやと笑っていることだ。
幼い主などは、まるで大笑いするのを我慢しているように震えている。
咲夜は確信した。このワガママな主が何かしたのだと。
咲夜は人間であることに一種のこだわりを持っていた。
故に主の眷族なってほしいという求めにも応じず、人のまま死ぬ結末を選んだのだ。
だがこの傍若無人な主は、そうたやすく願いを聞いてはくれないらしい。
それを悟った咲夜は、死にかけとは思えない身のこなしで素早く窓際まで飛ぶと、迷うことなく飛び降りた。
「レミィは言っているわ。運命を受け入れろと」
どこからか動かない魔女の声が響いた。
はっと目を覚ます。
もはや周りを確認する必要もない。
咲夜は懐から銀のナイフを取り出すと、自分の喉元に突きつけた。
「お嬢様は絶対です」
どこからか魔女の使い魔の声が響いた。
はっと目を覚ます。
それから様々な死に方をした。
水死、圧死、焼死、ショック死、感電死、……
ありとあらゆる死に方をしようとも、気がつくとベットに戻されていた。
「貴女もよくやるわね」
諸悪の根元が、まるで他人事のように告げる。
咲夜は一瞬の躊躇の後、その喉元に銀のナイフを突き刺した。
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咲夜、私が持つ唯一絶対の力
それは自らの意思であらゆる運命を選択できること
私は常に私にとって最良の未来を思い、自由に選択しているのよ
「お姉様、やっぱり今回も咲夜を吸血鬼にできなかったの」
「ああ、あいつは話を聞かないからな」