*結構むかしという設定です。
ムラサを呼んできてくれる?
姐さんに言われて、ムラサを探していると、先頭に佇む背中を見つけた。
「あ、ムラサ」
するとムラサはくるんと振り返って、にっこり笑った。
「なあに、雲居さん」
「…え?」
『雲居』なんて、自分で名乗るときくらいしか聞かないから、一瞬誰のことかわからなかった。戸惑う私をムラサは冷めた眼差しで見つめてくる。いつものムラサじゃない。
「…ムラサ?」
「……用があったんじゃないの」
「え、あ、姐さんが呼んで…」
「そう、わかった」
ムラサはこっちを見ようともしないで、歩いていってしまった。いつもだったら一言二言余計なことを言っては、絡んでくるのに。
(え?ええ?)
ことの顛末を話すと、ナズーリンはクッと笑って、私が睨みつけると、やめた。
「…ムラサ、怒っているのかしら」
「ムラサの怒り方にしては陰湿だ。妙だと思うがね」
「…よね」
ため息をつく私と対照的に、ナズーリンは意地悪そうにニヤニヤしている。なにがそんなに可笑しいのか。ジト目でねめつけると、まいったというように手を挙げた。でも、ニヤニヤはそのままだ。
「私はなにも知らないよ。推測はできるけどね」
「推測でいいから言いなさいよ」
「こういうのは自分で気付かなくちゃあね…。ま、可哀そうだからヒントをあげよう」
ナズーリンはぴっと指をたてる。
「私達と君とは、いまはもう、違っていなければならないはずだ。…おや、大ヒントになってしまったよ」
しまったね、とナズーリンは言うけれど、
「……わからないのだけれど」
「これ以上は。頑張るんだね。ああ、それと、ムラサは怒っちゃいないよ」
“怒っていない”と言われただけで、かなりほっとした。ナズーリンの言うことなら信じて良いだろう。いきなりそっけなくされて、嫌われてしまったのかと思ったから。
ただ…“違っていなければならない”とはどういう意味なの?
「ムラサ、船長、キャプテン…」
聖のもとへ向かいながら、水蜜は小さな声で呟いていた。一輪が使い分ける、自分の呼び名を。
「…水蜜」
これはまだ、一度も聞いたことがない。
(私達はもう、みんなと一緒じゃないのに)
ちぇっ、とふくれてみても、誰が見ているわけでもない。もっとふくらませてみる。苦しいな、というところでやめた。ため込んだ息を吐く。
あのときの一輪の顔を思い出した。びっくりした顔。少し不安そうな顔。傷ついたかな。でも、気付いてくれないのがいけないのよ。
(一輪の、ばあか)
『水蜜』って呼んでよ。
ムラサを呼んできてくれる?
姐さんに言われて、ムラサを探していると、先頭に佇む背中を見つけた。
「あ、ムラサ」
するとムラサはくるんと振り返って、にっこり笑った。
「なあに、雲居さん」
「…え?」
『雲居』なんて、自分で名乗るときくらいしか聞かないから、一瞬誰のことかわからなかった。戸惑う私をムラサは冷めた眼差しで見つめてくる。いつものムラサじゃない。
「…ムラサ?」
「……用があったんじゃないの」
「え、あ、姐さんが呼んで…」
「そう、わかった」
ムラサはこっちを見ようともしないで、歩いていってしまった。いつもだったら一言二言余計なことを言っては、絡んでくるのに。
(え?ええ?)
ことの顛末を話すと、ナズーリンはクッと笑って、私が睨みつけると、やめた。
「…ムラサ、怒っているのかしら」
「ムラサの怒り方にしては陰湿だ。妙だと思うがね」
「…よね」
ため息をつく私と対照的に、ナズーリンは意地悪そうにニヤニヤしている。なにがそんなに可笑しいのか。ジト目でねめつけると、まいったというように手を挙げた。でも、ニヤニヤはそのままだ。
「私はなにも知らないよ。推測はできるけどね」
「推測でいいから言いなさいよ」
「こういうのは自分で気付かなくちゃあね…。ま、可哀そうだからヒントをあげよう」
ナズーリンはぴっと指をたてる。
「私達と君とは、いまはもう、違っていなければならないはずだ。…おや、大ヒントになってしまったよ」
しまったね、とナズーリンは言うけれど、
「……わからないのだけれど」
「これ以上は。頑張るんだね。ああ、それと、ムラサは怒っちゃいないよ」
“怒っていない”と言われただけで、かなりほっとした。ナズーリンの言うことなら信じて良いだろう。いきなりそっけなくされて、嫌われてしまったのかと思ったから。
ただ…“違っていなければならない”とはどういう意味なの?
「ムラサ、船長、キャプテン…」
聖のもとへ向かいながら、水蜜は小さな声で呟いていた。一輪が使い分ける、自分の呼び名を。
「…水蜜」
これはまだ、一度も聞いたことがない。
(私達はもう、みんなと一緒じゃないのに)
ちぇっ、とふくれてみても、誰が見ているわけでもない。もっとふくらませてみる。苦しいな、というところでやめた。ため込んだ息を吐く。
あのときの一輪の顔を思い出した。びっくりした顔。少し不安そうな顔。傷ついたかな。でも、気付いてくれないのがいけないのよ。
(一輪の、ばあか)
『水蜜』って呼んでよ。