することもなく図書館で本でも読んでいたら、美鈴が図書館に現れた。
私は本を乱暴に机に投げて本棚の影に隠れ、美鈴から姿を消した。
まさかこんなところで会うとは思ってなかったから心の準備というものが出来ていなかった。
すーはーすーはー息を整えて平然を装い出て行こうと覗いたら、そこにはもう美鈴はいなかった。
なんだ残念。…ってそんなことはいい!
心臓が動き過ぎて死ねるわ。
「美鈴ならもう行ったわよ」
「ッ!?」
「なに驚いてるの?」
「いえ、いつの間に私の後ろに…?」
「貴方が息を整えている間、かしら?」
「そう…」
「夜の王が私ごとき魔女に背後をとられるなんてね」
「貴方ぐらいなら背後とられても納得するわよ」
もう私の心臓を誰かいたわってほしい。
ここまでの二重トラップをされたらいくら私でも耐えられない。
「さて、さっきはよくも私の本を投げ捨ててくれたわね」
「え? いや、あれは、その…」
「罰として、この本を美鈴に届けに行ってちょうだい」
「へっ? なに、この本…」
「植物についての本よ。庭の花たちはあの子と咲夜が育てていることだし」
「美鈴が…」
「まぁ、咲夜は忙しいみたいだし。殆ど美鈴が世話してるようなものね」
「だからあんなに綺麗に咲いているのね」
「その言い方だと咲夜にちょっと失礼な気がするけど…」
いつも窓から見る。
一本一本元気に咲いている花たちは本当に綺麗だ。
それを美鈴育てているのなら、あそこまで元気に綺麗に咲くのは不思議ではない。
だって、元気な太陽に育てられているんだもの。
「ほら、レミィ? ボーっとしてないで美鈴にこの本渡してきてちょうだい」
「わ、わたしが!?」
「さっき言ったでしょ? これは罰よ。甘んじて受けなさい」
「うー☆」
「なッ!? べ、べつに可愛いだなんて思ってないんだから…!」
「なんの話?」
「なんでもないわ! じゃ、これよろしくね」
「…わかった」
パチェが鼻から血を出していたけど、大丈夫かしら?
気になるけど、小悪魔がなんとかしてくれるでしょ。
「この本を美鈴に渡すのか…。また心臓が悪くなりそうね」
「なら私が渡しましょうか?」
「さくやッ!?」
「紅茶を用意致したのですが、どうやらお嬢様はお外に出かけられるみたいですね」
「これは、その…」
まさかの三重トラップだったとは…。
紅魔館恐るべし!
って、そんなこと言ってる場合じゃない。
ニコニコして私を見る咲夜がなんかむかつく。
「美鈴なら庭の方にいると思いますよ?」
「……。」
「さりげなく本を渡せばいいんですよ」
「…上手く渡せるかしら?」
「自信持ってください。我らが主は出来る子ですから」
「おい。今なんて言った?」
咲夜の生意気発言に、正直ホッとしている自分がいた。
まぁ、そこは感謝しよう。
「では、私はパチュリー様に紅茶をお出ししにいきますね」
「うん。ありがとう咲夜」
「御礼を言われるようなことはしていませんが?」
「…さっさと行け」
「ふふっ。健闘を祈ってます」
咲夜は一礼して、フッと姿を消した。
とにかく庭へ向かおう、話はそれからだ。
「ふぅ~。これで終了!」
庭には何かの作業を終えて片づけをしている美鈴の姿が見えた。
やっぱり何かに打ち込んでいる時の美鈴はカッコイイな。
心がキュンとなる。
我ながら乙女のような思考回路を持ち合わせていることに最近驚いている。
「あれ? こんにちはお嬢様。どうかされましたか?」
「あっ!」
なぜこうも簡単に見つかってしまう?
ちゃんと隠れているはずなのに。
「先程も図書館にいらっしゃいましたよね? でも隠れてしまったので深くは追求しなかったんですけど」
「なッ!? なんで知ってるの…?」
「私は気が操れるんですよ? 皆さんの気を感じることが出来れば分かります」
「そう、なんだ…」
「実はお嬢様がここに向かってるのを気で感じて、急いで作業を終わらせたんです!」
「ッ!?」
眩しい太陽のような笑顔を向けられるといくら日陰にいるからといっても危険だ。
私のために作業を早く終わらせた?
心臓がすごい勢いで動いてる。
本日何回目よ…。
いつか倒れるわね。
「って、そうじゃなくて! それってつまり、私たちの行動パターンがすべてお見通しってことになるじゃない!」
「大丈夫ですよ。私を中心に半径一km以内の気を感じる程度に抑えてありますから」
「ほんとに?」
「はい! ですから、基本門にいるので館内はあまり気を感じることが出来ないんですよ」
「…まぁ、なんにしても便利な能力ね」
「そうですか? まぁ、そう言われるとなんだか嬉しいですね」
だからその笑顔はどうにかならないのかしら?
本当に倒れそう…。
「それで、私に何かご用でしたか?」
「あ、忘れてた。はい、これ。パチュリーが美鈴に、って」
「わぁ! ありがとうございます! こういった本が読みたかったんですよ~」
「そうなんだ」
「はい! これを読んで少しでもこの子たちが快適に過ごせるようにしてあげたいんです」
「……本当に優しいわね」
「え?」
「な、なんでもないわ! それじゃ、私はこれで」
ちょっと口が滑った。
危ない危ない。
最近は油断しすぎよ私。
「あの、待ってくださいお嬢様!」
「へっ? ッ!?」
美鈴に呼ばれて振り返ったらそこには跪いている美鈴がいた。
「ちょ、なにしてるの!?」
「いえ、少し。最近のお嬢様には助けられてばかりだと思いまして」
「べつに、私は…」
「ですから、心より御礼を。ありがとうございます、お嬢様」
「あ、」
そこには騎士がいた。
本当に、私を守ってくれる大事な人が。
だから私は再確認させられた。
(嗚呼、私は美鈴のことが…、好きだ)
「お嬢様。この本ですが、期限はいつでしょうか?」
「さ、さぁ? べつにいつまででもいいんじゃない? 私が許すわよ」
「さすがにそれは…。また後でパチュリー様に聞きに行きます」
「…べつにいいと思うんだけどな」
「駄目ですよ? 人の物を勝手に盗ったりしたら」
「それは私じゃなくて魔理沙にでもいいなさい」
「それもそうですね。あ、今夜お時間ありますか?」
「時間?」
まぁ、特にすることもないから時間は有り余っているけど。
しかし美鈴からのお誘い?
ちょっと、また心臓がおかしくなり始めてるじゃない。
「もしよかったら、私と夜の散歩にでも行きませんか?」
「散歩?」
「はい。日ごろの感謝を込めて、どうでしょう?」
「……。」
これってデートのお誘いかしら?!
今なら死んでもいい気がする!
いえ待って。
べつに美鈴はそんなつもりで誘っているわけじゃないわ。
勘違いして下手なことしたらこっちが恥ずかしい。
落ち着きなさい私。
「あ、駄目でしたか?」
「んなっ!? そんなわけないでしょ! いつでも暇よ!」
「じゃあオッケーってことですね? よかった~」
嬉しそうな顔をする美鈴を見て、なんだかホッとした。
こんな顔をしてくれるなら、「なんでもしよう」という気持ちになる。
「それじゃあ、また夜になったら部屋まで呼びにいきますから」
「うん。また後でね」
「はい!」
美鈴とわかれて、私は図書館に向かった。
とりあえずパチェに報告をしておかないと。
それに咲夜にも。
今夜は素敵な夜になりそうだ。
あなたのめーレミ大好きです、お嬢様は乙女、美鈴はナイトというのがすごくツボ
お嬢様が乙女ってのもまたよし。
美鈴が何気にカッコイイのもまた素敵
めーれみ彩光!
夜の散歩待ってるぜ
つぎも楽しみにしています。