目の前に積み上げられた木箱、その蓋を開けて中身を確認すると男は目の前の女性に向かって言った
「…これの納入は明日だったね、紫」
「今回もお願いしますね、霖之助さん」
紫は扇子で口元を隠しながらそう言った
「そう言えば霊夢が君を捜して飛び回っていたが、どうかしたのかい?」
「何でもありませんわ、いつものことです」
「そうかい」
「ではまた今度、今日もこれからやることがありますので」
そう言って紫はスキマを開きその中へ消えていった
霖之助はスキマが完全に閉じられたのを見送ると木箱の中に詰められた鉄の塊を眺めた
黒光りする鉄の棒に丁寧に仕上げられた木製の持ち手、これら全てがこの幻想郷の技術では作り得ない物であることは否応にも分かる、そして使い方も使い道も一瞬で解ってしまった
「…どうしてこんな商売に手を出してしまったのかな」
霖之助は溜息と共にその言葉を吐き出し窓を開け夜空を見上げた
雲一つ無い夜空には不気味な半月が漂っていた
時同じくして盛岡達が居座る湖の畔には来客が居た
「…と言うことは君があの館の主だというわけだね?」
「そう言うことになるわね」
見た目からは幼稚園に通っていてもおかしくなさそうな少女は微笑むと傍らにいる女性が用意した紅茶を啜った
「まぁ良い、ただこの三日間そこの紅さんに俺たちが見張られてたって訳か」
盛岡はレミリアの傍らにいる大陸風の衣装に身を包んだ少女を見やり言った
「えぇ、一応ここは我が屋敷の敷地だから得体の知れないのが入ってきたら様子を見るのが普通よね」
「そうか、人様のお庭に勝手に上がり込んでキャンプと洒落込んでた訳か、なぁ谷岡」
「そう言うことになりますね、今考えれば相当な非常識ですね、盛岡さん」
「気にしなくて良いのよ、非常識が常識だから、こっちは」
カップをソーサーから持ち上げてレミリアは微笑んで言った
「ただ…」
レミリアは残り少なくなった紅茶のカップを傾けて中身を干すと言葉を続けた
「…貴方達を我が家の塀の内側へと入れることは可能よ」
「どういう事だ?」
「知らないだろうけども貴方達は監視を受けているわ、八雲、博麗、妖怪の山、永遠亭、そして我が紅魔館と人里から、幻想郷の全ての勢力からね」
「…人気者だな俺たちは、なぁ谷岡」
「余り嬉しくないですね、政治的な問題に挟まれた人気者かぁ、欲は言わないから花束と美人に囲まれる方が良いです」
「花束と美人って時点で欲にまみれるている事を自覚しろ、バカ」
余りにも緊張感が無い二人を見てレミリアは言った
「…面白いわね貴方達、今の状況が分かってるのかしら?」
「分かってるつもりさ、色んな所から目を付けられて更には現在里との友好度は最悪、と言うわけだ」
「そう、分かってるのね、じゃあすっぱり言うわ、屋敷に来ないかしら?貴方達の力が存分に生かせそうなんだけど」
「残念だが断らせて貰う、ここで俺たちの力を存分に生かすわけにはいかない」
「そう、まぁ良いわ、夜分遅くに邪魔したわね」
盛岡の返答を聞くとレミリアは美鈴を伴って天幕の外へと出て行った
「…あっさり引き下がりましたね、盛岡さん」
「何かありそうだな、嫌な予感がする」
盛岡は二人が立ち去った後の椅子を見つめながら呟いた
館の帰り道、レミリアは月を見て美鈴に語りかけた
「…何でかしら、彼らの運命が見えなかったわ、美鈴」
「どういう事、ですか?」
「そのまんまの意味、私には彼らの未来が見えないの」
レミリアは握り拳を握り固め言った
「…あのスキマ、厄介なことをしてくれた、対応を誤ると危ないわね」
美鈴は主の言葉を聞いて問うた
「具体的にどれくらい危ないんですか?」
「異変、…では済まされないわね戦争になるのは確実よ、人と人が憎しみ殺し合う戦争」
「そんな…」
主の答えを聞いた美鈴はそれ以上の言葉を出すことが出来ずにいた
「霊夢からはあの烏天狗が忙しく動いてるって聞いたわ、あの天狗が何とかしてくれれば良いけど…」
レミリアは言葉をそこで切りそれ以上の発言はしなかった
所変わって妖怪の山、文は自分の机の前で頭を抱えていた
「…文さん、里の自警団の装備写真現像できましたよ」
「ん、椛ありがとね」
手伝いに着てくれていた白狼天狗の椛から現像されたばかりの写真を受け取り眺めた
「うー、やっぱりおかしいですねぇ」
「何がですか」
椛が文の後ろから写真を覗き込みながら問いかけた
「装備更新の速度ですよ、まずこっちを見て下さい、これがつい一ヶ月前の装備です」
文が示した写真は刀や槍、そして鎧甲を身につけた里の自警団員の写真である
「んでこっちが一週間前のです」
次に示された写真は得体の知れない棒を担ぎ、これまた得体の知れない服を着込んだ団員の写真だった
「…こっちは自動小銃と呼ばれる新式銃です、現在の主流であるフリントロック式やボルトアクションよりも次弾発射の間隔が短いんです」
文の言葉を聞いた椛は驚きの表情を隠せなかった
「自動小銃って、河童が血相変えて作ろうとしている代物じゃないですか、一体何処で」
「分かりません、河童はさぞ驚くでしょうね、なにせまだフリントロックを安定して運用し始めてボルトアクションはまだまだ新式銃、自動小銃なんてのは夢のまた夢だと思ってたのにね」
文は背もたれに寄りかかり大きく息を吐いた
「…厄介なことになりました、そうだ椛」
「はい?」
「にとりさんは寝てしまったんですかね?」
「いや、今日は夜通し研究とか言ってたんでまだ起きてるんじゃないですかね」
文は椅子から勢いよく起きあがると椛に言い放った
「椛!自警団の演習場に潜入して射撃動画の撮影、そして新式銃の奪取をお願いします」
「分かりました」
椛は文に一礼すると河童の研究所へ走り去っていった
自衛隊が駐留する湖畔、盛岡達の仮の住処
裏で様々な勢力が奔走していることを知った村井は顔を強張らせて盛岡に問いかけていた
「…ってことは何か?私たちは爆破する準備が整った大量の爆薬のど真ん中にいるのと同じ事か?」
「違うよ、俺たちそのものが爆薬だ、それも核弾頭並のやばさらしい」
「らしいって、お前そんな無責任な!」
村井は机を激しく叩き激昂した
「私たちはこの世界で何をやるつもりもない!何も望んじゃいない!全員無事で帰れれば良いんだ」
「そうさ、だが現実は違う、今すぐにでも奴らが殺しに来るかもしれない、そんな世界に俺たちはいるんだ」
呆然とした村井に盛岡は続けた
「…昨日もあの文屋さんが来て情報を提供してくれた、里では密かに戦闘態勢が取られているらしい、大々的な攻勢は分からないが引き金はいつでも引けるようにしておけ」
力無く頷いた村井を見た盛岡は村井の肩に手を置き天幕の外へと出て行った
盛岡が立ち去った方向を見つめ、村井は胸ポケットに入っている写真を取り出し眺めた
「…何の因果でこんな世界に来なければならなかったんだ」
映し出された妻の写真にそう呟いて村井は眠りについた
翌日の早朝、村井は流れ込む冷気で目を覚ました
「…寒い」
天幕の外に出て朝の空気を胸一杯に吸い込む
「起きたか、村井」
「何だ、盛岡か」
掛けられた声に反応し振り向くとそこには銃を持ちテッパチを被った盛岡が立っていた
「やっぱ格好悪いよなぁ、66式は」
村井は盛岡の被っているヘルメットを指さしていった
「これか?」
「あぁ早く88式と全取っ替えしてくんないかな」
「お前等はクルー用のヘルメットだから良いじゃないか」
「そうじゃないんだよ、ヘリに乗っている奴らは全員88だろ?でもお前と谷岡は66だ、統一されてないと気持ち悪くてな」
「88式の余りヒューイとかに積んでないか?」
盛岡の言葉を聞いた村井は暫し考え込み言葉を発した
「…あった気がするな、探してみよう」
そう言って村井は目を擦りながらヒューイに歩み寄っていった
妖怪の山にある文のオフィス、ここには烏天狗と河童と白狼天狗が数枚の写真と数丁の小銃と共にプロジェクターに映し出された映像を見ていた
「…よくやってくれました、椛」
カメラの動画を確認しながら文はそう言った
「驚いたね、設計思想が我々の工房とは根本的に違うし工作精度も遙かに上だ、良くこんな物を…」
子供のように目を輝かせながら銃を持つにとりの呟きに文は映像を眺めながら言った
「ですがこの映像では何人かが操作を誤って装弾不良を起こしてますし、これは何処からか買い取った物でしょう」
「…そうです、この写真をご覧下さい、どうやらこの男性がその銃を持ってきているようです」
椛が示した写真には眼鏡を掛けた男性が写っていた
「…見覚えがありますが、分かりませんね、誰でしょう」
「だけど少なくともこの男はこれの使い方を熟知しているようだ、雑な引き延ばしだけどもそれは分かる、研究所だったらもっと映像を詳しく解析できたのに」
にとりは小銃を抱えながら言った
「…申し訳ありません、予想以上に隠れる場所が無く望遠を付けることなど叶わなかったので」
「良いですよ、椛、これを持って来れただけで上々です」
文は椛に労いの言葉をかけるとにとりに言い放った
「にとりさん!今現在進行中の研究をストップさせてこの新式銃と映像及び音声の解析を頼みます!」
「あいよ、やれるだけやってみます」
「椛は私に着いてきて下さい」
「はい!」
そう言って文は自動小銃を携え椛と共に自衛隊が駐留する湖畔へと飛んでいった
永琳と輝夜は永遠亭の一室で烏天狗から提供された自衛隊の写真を見つめながら互いの意見を出し合っていた
「…で、輝夜はどう見ます?彼らを」
「私たちには無関係そうに見えるけど、この報告書を見る限りでは危なそうね」
「まぁ一応は様子見ってところですかね」
そう言った永琳に輝夜は盛岡達が写された写真を眺めながら言った
「…これ、イナバには見せない方が良いかもね、月に攻め込んだ軍隊に少し似てるから」
「そうですか?私にはどうも…」
その瞬間部屋の扉が何者かに叩かれた
『師匠?姫?いらっしゃいますか?』
「あぁウドンゲ、どうしたの?」
声の主が解ると永琳も輝夜も若干安堵の表情を浮かべた
『いえ、そろそろ昼の支度が出来たのでお呼びに…』
扉の向こうから聞こえてきたのは昼食の支度が終えられた事の報告だった
「そう、解ったわ、今行く」
永琳は卓上に広げられた書類と写真を束ね部屋の扉を開けた
「ありがとね、ウドンゲ、今日の昼食は何かしら?」
「はい、お味噌汁に天麩羅です」
「楽しみね、行きましょう、輝夜」
輝夜は永琳の提案に賛同し持っていた写真を卓上に置くと席から立ち上がった
「あ、部屋の湯呑み片づけてきます、お二人は先に行っててください」
「あら、ごめんなさいね、ウドンゲ」
鈴仙は二人を先に行かせるともと来た道を戻り先程の部屋に入室した
「ん?この写真…」
湯呑みを持ち部屋から出ようとした時だった、その写真を見つけたのは
「……………」
握られていた湯呑みは鈴仙の手から滑り落ち音を立て砕けたそして鈴仙は写真に映し出された男を眼球に焼き付け部屋を出て歩き出した、永琳が待つ食卓ではなく自室へ
「…何年ぶりかしら」
自室に着いた鈴仙はそう呟くときっちりと施錠が施されたロッカーの鍵を外し中から現役時代に使用していた装備を取り出した
「…仇は、取ります」
そう言って弾倉を銃へ押し込みコッキングレバーを引き、鈴仙は永遠亭を飛び出した
用意され湯気が立ち上る昼食の前で永琳と輝夜はいつまで経っても来ない鈴仙を不審がっていた
「…どうしたのかしら、ウドンゲ」
「ねぇもう食べちゃいましょうよ、永琳、私お腹減って死にそう」
その時だった、てゐが勢いよく襖を開け血相を変えて食卓へ乱入したのは
「お師匠様!姫!鈴仙一体どうしたの?」
「…てゐ、どうしたって、どういう事?」
「今さっき鈴仙が銃担いで永遠亭から出て行ったんだ!」
その言葉を聞いた永琳と輝夜は急いでさっきの部屋へ戻った
先程の部屋で見た物は砕け散った湯呑みと無くなった盛岡の写真だった
「…姫!永遠亭は任せます!てゐ、私と一緒について来て」
「わかった」
そう言って永琳は輝夜を一人残してゐを伴って永遠亭を飛び出した
「…これの納入は明日だったね、紫」
「今回もお願いしますね、霖之助さん」
紫は扇子で口元を隠しながらそう言った
「そう言えば霊夢が君を捜して飛び回っていたが、どうかしたのかい?」
「何でもありませんわ、いつものことです」
「そうかい」
「ではまた今度、今日もこれからやることがありますので」
そう言って紫はスキマを開きその中へ消えていった
霖之助はスキマが完全に閉じられたのを見送ると木箱の中に詰められた鉄の塊を眺めた
黒光りする鉄の棒に丁寧に仕上げられた木製の持ち手、これら全てがこの幻想郷の技術では作り得ない物であることは否応にも分かる、そして使い方も使い道も一瞬で解ってしまった
「…どうしてこんな商売に手を出してしまったのかな」
霖之助は溜息と共にその言葉を吐き出し窓を開け夜空を見上げた
雲一つ無い夜空には不気味な半月が漂っていた
時同じくして盛岡達が居座る湖の畔には来客が居た
「…と言うことは君があの館の主だというわけだね?」
「そう言うことになるわね」
見た目からは幼稚園に通っていてもおかしくなさそうな少女は微笑むと傍らにいる女性が用意した紅茶を啜った
「まぁ良い、ただこの三日間そこの紅さんに俺たちが見張られてたって訳か」
盛岡はレミリアの傍らにいる大陸風の衣装に身を包んだ少女を見やり言った
「えぇ、一応ここは我が屋敷の敷地だから得体の知れないのが入ってきたら様子を見るのが普通よね」
「そうか、人様のお庭に勝手に上がり込んでキャンプと洒落込んでた訳か、なぁ谷岡」
「そう言うことになりますね、今考えれば相当な非常識ですね、盛岡さん」
「気にしなくて良いのよ、非常識が常識だから、こっちは」
カップをソーサーから持ち上げてレミリアは微笑んで言った
「ただ…」
レミリアは残り少なくなった紅茶のカップを傾けて中身を干すと言葉を続けた
「…貴方達を我が家の塀の内側へと入れることは可能よ」
「どういう事だ?」
「知らないだろうけども貴方達は監視を受けているわ、八雲、博麗、妖怪の山、永遠亭、そして我が紅魔館と人里から、幻想郷の全ての勢力からね」
「…人気者だな俺たちは、なぁ谷岡」
「余り嬉しくないですね、政治的な問題に挟まれた人気者かぁ、欲は言わないから花束と美人に囲まれる方が良いです」
「花束と美人って時点で欲にまみれるている事を自覚しろ、バカ」
余りにも緊張感が無い二人を見てレミリアは言った
「…面白いわね貴方達、今の状況が分かってるのかしら?」
「分かってるつもりさ、色んな所から目を付けられて更には現在里との友好度は最悪、と言うわけだ」
「そう、分かってるのね、じゃあすっぱり言うわ、屋敷に来ないかしら?貴方達の力が存分に生かせそうなんだけど」
「残念だが断らせて貰う、ここで俺たちの力を存分に生かすわけにはいかない」
「そう、まぁ良いわ、夜分遅くに邪魔したわね」
盛岡の返答を聞くとレミリアは美鈴を伴って天幕の外へと出て行った
「…あっさり引き下がりましたね、盛岡さん」
「何かありそうだな、嫌な予感がする」
盛岡は二人が立ち去った後の椅子を見つめながら呟いた
館の帰り道、レミリアは月を見て美鈴に語りかけた
「…何でかしら、彼らの運命が見えなかったわ、美鈴」
「どういう事、ですか?」
「そのまんまの意味、私には彼らの未来が見えないの」
レミリアは握り拳を握り固め言った
「…あのスキマ、厄介なことをしてくれた、対応を誤ると危ないわね」
美鈴は主の言葉を聞いて問うた
「具体的にどれくらい危ないんですか?」
「異変、…では済まされないわね戦争になるのは確実よ、人と人が憎しみ殺し合う戦争」
「そんな…」
主の答えを聞いた美鈴はそれ以上の言葉を出すことが出来ずにいた
「霊夢からはあの烏天狗が忙しく動いてるって聞いたわ、あの天狗が何とかしてくれれば良いけど…」
レミリアは言葉をそこで切りそれ以上の発言はしなかった
所変わって妖怪の山、文は自分の机の前で頭を抱えていた
「…文さん、里の自警団の装備写真現像できましたよ」
「ん、椛ありがとね」
手伝いに着てくれていた白狼天狗の椛から現像されたばかりの写真を受け取り眺めた
「うー、やっぱりおかしいですねぇ」
「何がですか」
椛が文の後ろから写真を覗き込みながら問いかけた
「装備更新の速度ですよ、まずこっちを見て下さい、これがつい一ヶ月前の装備です」
文が示した写真は刀や槍、そして鎧甲を身につけた里の自警団員の写真である
「んでこっちが一週間前のです」
次に示された写真は得体の知れない棒を担ぎ、これまた得体の知れない服を着込んだ団員の写真だった
「…こっちは自動小銃と呼ばれる新式銃です、現在の主流であるフリントロック式やボルトアクションよりも次弾発射の間隔が短いんです」
文の言葉を聞いた椛は驚きの表情を隠せなかった
「自動小銃って、河童が血相変えて作ろうとしている代物じゃないですか、一体何処で」
「分かりません、河童はさぞ驚くでしょうね、なにせまだフリントロックを安定して運用し始めてボルトアクションはまだまだ新式銃、自動小銃なんてのは夢のまた夢だと思ってたのにね」
文は背もたれに寄りかかり大きく息を吐いた
「…厄介なことになりました、そうだ椛」
「はい?」
「にとりさんは寝てしまったんですかね?」
「いや、今日は夜通し研究とか言ってたんでまだ起きてるんじゃないですかね」
文は椅子から勢いよく起きあがると椛に言い放った
「椛!自警団の演習場に潜入して射撃動画の撮影、そして新式銃の奪取をお願いします」
「分かりました」
椛は文に一礼すると河童の研究所へ走り去っていった
自衛隊が駐留する湖畔、盛岡達の仮の住処
裏で様々な勢力が奔走していることを知った村井は顔を強張らせて盛岡に問いかけていた
「…ってことは何か?私たちは爆破する準備が整った大量の爆薬のど真ん中にいるのと同じ事か?」
「違うよ、俺たちそのものが爆薬だ、それも核弾頭並のやばさらしい」
「らしいって、お前そんな無責任な!」
村井は机を激しく叩き激昂した
「私たちはこの世界で何をやるつもりもない!何も望んじゃいない!全員無事で帰れれば良いんだ」
「そうさ、だが現実は違う、今すぐにでも奴らが殺しに来るかもしれない、そんな世界に俺たちはいるんだ」
呆然とした村井に盛岡は続けた
「…昨日もあの文屋さんが来て情報を提供してくれた、里では密かに戦闘態勢が取られているらしい、大々的な攻勢は分からないが引き金はいつでも引けるようにしておけ」
力無く頷いた村井を見た盛岡は村井の肩に手を置き天幕の外へと出て行った
盛岡が立ち去った方向を見つめ、村井は胸ポケットに入っている写真を取り出し眺めた
「…何の因果でこんな世界に来なければならなかったんだ」
映し出された妻の写真にそう呟いて村井は眠りについた
翌日の早朝、村井は流れ込む冷気で目を覚ました
「…寒い」
天幕の外に出て朝の空気を胸一杯に吸い込む
「起きたか、村井」
「何だ、盛岡か」
掛けられた声に反応し振り向くとそこには銃を持ちテッパチを被った盛岡が立っていた
「やっぱ格好悪いよなぁ、66式は」
村井は盛岡の被っているヘルメットを指さしていった
「これか?」
「あぁ早く88式と全取っ替えしてくんないかな」
「お前等はクルー用のヘルメットだから良いじゃないか」
「そうじゃないんだよ、ヘリに乗っている奴らは全員88だろ?でもお前と谷岡は66だ、統一されてないと気持ち悪くてな」
「88式の余りヒューイとかに積んでないか?」
盛岡の言葉を聞いた村井は暫し考え込み言葉を発した
「…あった気がするな、探してみよう」
そう言って村井は目を擦りながらヒューイに歩み寄っていった
妖怪の山にある文のオフィス、ここには烏天狗と河童と白狼天狗が数枚の写真と数丁の小銃と共にプロジェクターに映し出された映像を見ていた
「…よくやってくれました、椛」
カメラの動画を確認しながら文はそう言った
「驚いたね、設計思想が我々の工房とは根本的に違うし工作精度も遙かに上だ、良くこんな物を…」
子供のように目を輝かせながら銃を持つにとりの呟きに文は映像を眺めながら言った
「ですがこの映像では何人かが操作を誤って装弾不良を起こしてますし、これは何処からか買い取った物でしょう」
「…そうです、この写真をご覧下さい、どうやらこの男性がその銃を持ってきているようです」
椛が示した写真には眼鏡を掛けた男性が写っていた
「…見覚えがありますが、分かりませんね、誰でしょう」
「だけど少なくともこの男はこれの使い方を熟知しているようだ、雑な引き延ばしだけどもそれは分かる、研究所だったらもっと映像を詳しく解析できたのに」
にとりは小銃を抱えながら言った
「…申し訳ありません、予想以上に隠れる場所が無く望遠を付けることなど叶わなかったので」
「良いですよ、椛、これを持って来れただけで上々です」
文は椛に労いの言葉をかけるとにとりに言い放った
「にとりさん!今現在進行中の研究をストップさせてこの新式銃と映像及び音声の解析を頼みます!」
「あいよ、やれるだけやってみます」
「椛は私に着いてきて下さい」
「はい!」
そう言って文は自動小銃を携え椛と共に自衛隊が駐留する湖畔へと飛んでいった
永琳と輝夜は永遠亭の一室で烏天狗から提供された自衛隊の写真を見つめながら互いの意見を出し合っていた
「…で、輝夜はどう見ます?彼らを」
「私たちには無関係そうに見えるけど、この報告書を見る限りでは危なそうね」
「まぁ一応は様子見ってところですかね」
そう言った永琳に輝夜は盛岡達が写された写真を眺めながら言った
「…これ、イナバには見せない方が良いかもね、月に攻め込んだ軍隊に少し似てるから」
「そうですか?私にはどうも…」
その瞬間部屋の扉が何者かに叩かれた
『師匠?姫?いらっしゃいますか?』
「あぁウドンゲ、どうしたの?」
声の主が解ると永琳も輝夜も若干安堵の表情を浮かべた
『いえ、そろそろ昼の支度が出来たのでお呼びに…』
扉の向こうから聞こえてきたのは昼食の支度が終えられた事の報告だった
「そう、解ったわ、今行く」
永琳は卓上に広げられた書類と写真を束ね部屋の扉を開けた
「ありがとね、ウドンゲ、今日の昼食は何かしら?」
「はい、お味噌汁に天麩羅です」
「楽しみね、行きましょう、輝夜」
輝夜は永琳の提案に賛同し持っていた写真を卓上に置くと席から立ち上がった
「あ、部屋の湯呑み片づけてきます、お二人は先に行っててください」
「あら、ごめんなさいね、ウドンゲ」
鈴仙は二人を先に行かせるともと来た道を戻り先程の部屋に入室した
「ん?この写真…」
湯呑みを持ち部屋から出ようとした時だった、その写真を見つけたのは
「……………」
握られていた湯呑みは鈴仙の手から滑り落ち音を立て砕けたそして鈴仙は写真に映し出された男を眼球に焼き付け部屋を出て歩き出した、永琳が待つ食卓ではなく自室へ
「…何年ぶりかしら」
自室に着いた鈴仙はそう呟くときっちりと施錠が施されたロッカーの鍵を外し中から現役時代に使用していた装備を取り出した
「…仇は、取ります」
そう言って弾倉を銃へ押し込みコッキングレバーを引き、鈴仙は永遠亭を飛び出した
用意され湯気が立ち上る昼食の前で永琳と輝夜はいつまで経っても来ない鈴仙を不審がっていた
「…どうしたのかしら、ウドンゲ」
「ねぇもう食べちゃいましょうよ、永琳、私お腹減って死にそう」
その時だった、てゐが勢いよく襖を開け血相を変えて食卓へ乱入したのは
「お師匠様!姫!鈴仙一体どうしたの?」
「…てゐ、どうしたって、どういう事?」
「今さっき鈴仙が銃担いで永遠亭から出て行ったんだ!」
その言葉を聞いた永琳と輝夜は急いでさっきの部屋へ戻った
先程の部屋で見た物は砕け散った湯呑みと無くなった盛岡の写真だった
「…姫!永遠亭は任せます!てゐ、私と一緒について来て」
「わかった」
そう言って永琳は輝夜を一人残してゐを伴って永遠亭を飛び出した
あと場面が変わる時はもうちょっと行間空けた方がいいとおもいますよ~
次回はどうなるやら・・・
次回も頑張って下さい、応援してます。
一気に読みました