まさかのハロウィンネタ2連発。
ジョバンニなみに急いで書いたので質はよくない。
咲アリ(アリ咲)だが咲夜さんの性格がちょっとおかしい。
それではどうぞ。
「…ハロウィンパーティーのご案内。紅魔館より。この度紅魔館でハロウィンパーティーを開催いたすことに決定いたしました。必要なものは他に自慢できるような仮装とお菓子。わたくし自慢の庭園にて31日、21時集合ですのでお待ちしております。…か」
魔法の森にもそろそろと冬の兆しが見え始めた頃、肌寒い朝の食事を作ろうと紅茶用のお湯を沸かしていたときだ。外に何者かの気配を感じて確認してみると、何時もは魔界からの便りしか入っていない自宅のポストにこんなものが入っていた。恐らくレミリアが執筆したのであろうハロウィンパーティーの招待状。練習でもしたのか以前見た彼女の字形よりも達筆で美しくなっていたが、敬語以前に招待状の形態を全く成していない。大体パーティーの招待状をパーティー当日に送るなんて中々に前衛的だ。更に出席するとこを前提し書くとはまた酷く強引な。全くパチュリーは彼女に何も教えていないの?
「…今度手紙の書き方を教えてやる必要があるわね」
「できればそうしてくれる?お嬢様もパチュリー様も録に手紙なんて書いたことがなくてね」
「そのぐらいはお安い御用よ。あ、紅茶私も淹れてね」
「茶葉勝手に使っちゃったけどいいわよね。後何で何も突っ込んでくれないのよ」
「もう慣れたからね」
振り返るとテーブルには作りかけだった朝食が完成状態で並べられており、隣には何食わぬ顔で紅茶を淹れている咲夜の姿があった。さっき感じた気配はこいつのものだったのか。周知の通り咲夜の思考回路は常人とは大きく異なっている。一般人にはとても理解のできない行動を平然と、あたかもそれが常識であるかのようにやってしまうのだ。常識に囚われないどこかの風祝とは全く逆の方向で常識に囚われていないと思う。今のように気づいたら真横で紅茶を淹れられていたなんてもう何回あったことか。
「どうぞ召し上がれ、アリスお嬢様」
「その呼び方はちょっとね」
「昔を思い出すから?」
テーブルに腰掛け何時もより見栄えのいい朝食に舌鼓を打つ。使ってる食材は同じなのに味に違いが出るなんて、相手がメイドだと分かっていても少し悔しい。まぁお菓子は私の方がおいしく作れるからおあいこかしらね。
「咲夜は食べてかないの?」
「あんまり館を放置しすぎると妖精メイドたちがすぐにだれるから。この紅茶を頂いたらお暇するわ」
「あらそう…」
以前あなたに「妖精たちは自分の世話で手一杯だからせいぜい館の見栄えと侵入者に対する壁にしかならない」と聞いたが、そんなに役立たないものなのだろうか?頼んでくれれば我が自慢の人形軍団でお手伝いしてあげるというのに。
「今日来るでしょう?21時だから間違えずにね」
「ええ。仮に断ったってどうせあなたのことだから時を止めてでも私を連れてくでしょうしね」
「流石にそこまではしないわよ。じゃ、待ってるわ」
次の瞬間にはもう姿が見えなくなっている。これにももう慣れた。こちらの話をあまり聞かないが彼女のことだ、多分、私がどう言うか分かって行動しているんだろうと思う。理解が進んでいると言えば聞こえはいいが…。まぁ、パーティー自体は嫌なわけじゃないし、いいかな。皆の仮装が見れるのは新鮮だろうし、彼女の何時のメイド服とはまた違った服装を見てみたいというのもある。今日は実験の予定もないし、気晴らしには持って来いだろう。
「さて、それじゃあどうしようかしら。ハロウィンだし甘めのお菓子がいいかしら。幸い生地は今手元にあるし…とりあえずキャラメルクッキーと…あとフィナンシェはカボチャを練りこんでみようかしら。あ、チルノやリグルたちも来るかもしれないし、キャンディもあれば十分かしらね…あの子達って見たまんま仮装状態だから楽よねぇ」
「シャンハーイ!」
「ホラーイ!」
「うん、二人とも手伝ってね。さて…まずはっと」
なんだかんだ言って、今からパーティーを楽しみにしている自分がいるのだった。
・・・
「シャン…」
「…ホーイ」
「これは一体どういうことかしらね…」
クッキーはさっくりふっくら綺麗に焼けた。フィナンシェもカボチャのアクセントを程よく利かせた自信作だ。キャンディだって色とりどりの物を用意した。衣装も西洋の魔女を彷彿とさせるような黒いローブと三角帽だし、人形たちの衣装も当然ハロウィン仕様。見上げれば綺麗な月にたなびく雲。正に絶好のハロウィン日和だ。
…だと言うのに。
「誰もいないって…どういうことぉ」
21時ぴったりに着いたのに、まず正門に門番さんが居なかった。もしかしたら門番さん自体パーティーに出席しているのかと思い勝手に入らせてもらったが、館内は妙に静かで人の気配を全く感じない。自慢の庭園とやらに着くもやはり人っ子一人居らず、只綺麗に片付けられたテーブルがいくつかと庭園中央に位置する妙に寂しさを感じる発表台のようなものが一つあるのみだった。どうしたものかと人形たちがおろおろするなかこれ見よがしに風が吹き、テーブルに飾られたジャックランタンの蝋燭の火が揺れてまるで笑っているかのように見える。…なんて場違いな自分の格好。
「え?何これ新種のドッキリ?サプライズイベント?実は屋内でやってるとか?それとももうお開きした後?…泣いてもいいよねこれって」
「アリスナカナイデー」
「ワタシノムネデオナキヨー」
慰めて(?)くれる人形たち。とりあえず蓬莱の胸で泣いたって泣き顔を人形で隠してるようにしか見えないだろうから遠慮したい。
というかこれは明らかにパーティーが終わった後だ。良く目を凝らすと所々にお菓子の粉が落ちているのが分かる。21時開始ではなかったのか。…まさか21時終了だったっと言うのか?まさかの手違いか?
もういいわよわかったわよ帰って一人寂しくお菓子を食べるわよ。妖怪だから太る心配ないしもうやけ食いよ。
「はぁ…上海、蓬莱。帰りましょう…」
「アリス・マーガトロイド様、本日は私の主催するハロウィンパーティーにようこそお越しいただきました」
「…え、誰?」
突然背後から凛々しい声が聞こえ、咄嗟に振り返るとそこには見知らぬ紳士がいた。
黒いタキシードに包まれた華奢な体と長い手足のライン。純白のドレースグローブと漆黒のシルクハット。月明かりを受け仄かに光を放つ銀糸と深紅に輝く瞳はまるで星空に浮かぶ月のよう。うっすらとルージュのひかれた口元からは長い牙を確認できる。月光をバックに従え佇むそれはまさしく―――。
「…って何やってるのよ咲夜」
「見て分からない?吸血鬼よ吸血鬼」
相変わらず都合のいい頭だ。何のコスプレをしているかを聞いているのではないと言うのに…まぁこの際どうでもいい。問題は別だ。
「ちょっと、これって一体何のつもり?パーティーは21時からじゃなかったの?もう終わった後じゃないの」
「ええ。お嬢様主催のパーティーはね」
「ええ?それって一体どういう…。…?」
ふと、違和感を感じ、慌てて懐に仕舞っていた招待状を開く。そこには朝見たものと同じ綺麗な字が書いてあるだけだ。しかし、よくよく考えてみるとレミリアがこんなに綺麗に字を書けるわけがないのだ。差出人も紅魔館よりとしかないし、良く見ればこの手紙にはレミリアのサインがない。あの子は必ず手紙の最後に名前を書く習慣があった筈だ。それにわたくし自慢の庭園?…確かこの庭園は常に花を咲かせた状態を保つ為に一部に咲夜の能力を使用していると聞く。
すでに行われたであろうパーティーと咲夜のコスプレとも取れる格好。つまりこれは…
「…あの招待状、レミリアのじゃなくてあなたの個人の招待状だったのね…」
「理解が早くて助かるわ?…改めて、本日は”十六夜咲夜”主催のハロウィンパーティーにお越しいただきありがとうございます」
「何故こんな回りくどいことを?」
あなたはさも当然というかのようにその白い牙を見せながら笑った。
「アリスの仮装を見ていいのもお菓子を食べていいのも悪戯してもされていいのは私だけよ」
その笑顔は少年のような無邪気さと少女のような可憐さを併せ持った、とても魅力的なものだった。
やれやれ、全くあなたは人の話を聞かない人だ。…まぁ、それだけ私のこと理解してるんだから文句のつけようもないんだけどね。
「さぁアリス?…トリックオアトリート」
・・・
所変わって咲夜の部屋。
詳しく聞いたところ、ことの真相はこう言うことだ。
レミリアは6時からパーティーを開宴すると言った。しかし、咲夜は私の仮装やお菓子が霊夢や魔理沙に取られると感じたのか私への招待状を自分のものと交換し、時間をずらし二人っきりのパーティーにしようと考えたのだと。喜んでいいのか怒っていいのか…。
「わくわくするわね。あなたのお菓子は何時もおいしいもの」
「そう?」
「ええ。悔しいけど、お菓子に関してはあなたのほうが上手いもの」
ま、その他の料理は私のほうが上手いからおあいこね。と笑う彼女を見て私も笑う。さて、わたくし自慢のお菓子を上げて更にその笑顔を拝ませてもらおうか。持ってきた籠の中から自信作のクッキーを取り出そうとする。だが…。
「慌てないの。お菓子ならここに…。…え!?」
「どうしたの?…あらあらぁ」
持ってきた籠の中にはお菓子は一つも入っていなかった。何故だおかしい、門前で確認したときは確かにあったのに。思い込みな訳はないし、ここに来る途中に落したというのも無理な話だ。どういうことかと顔を上げるとそこには…。
「じゃあお菓子ないのね?」
「………」
咲夜の満面の笑みがあった。ああ、お菓子を上げてこの顔をさせられたらどんなに嬉しかったことだろうか。しかし今こんなものを見せられたって怒りしかわいてこない。折角上手くできたお菓子をあなたにあげようと思ったのに。これでは意味がないではないか。
「咲夜?あなた時間をとめ…」
「ならトリック。悪戯ね」
今回ばかりは本気でその笑顔が憎たらしいと思った。
結局悪戯を受けることにした私だが、正直私は激しく拍子抜けしている。
咲夜のことだから、例えば時間を止めて下着だけ抜き取ってしまうとか、気づいたら紅魔館メイド雇用書に指印を押されているとか、一風も二風も変わった悪質で悪意のない悪戯をしでかすかと思っていた。正直今後の人生ならぬ妖生の転換覚悟をしようかとも思うほどに。
しかし
時間を止められ、次に気づいたときには目の前にオレンジ色の光を放つ小さなシャンデリアと咲夜の顔が映っていた。頭には我が家で使っている枕なんかよりもはるかに柔らかい感触。髪の毛を咲夜に優しく撫でられる。ああ、膝枕されてるんだな、と理解するのにあまり時間を要さなかった。
「…これが悪戯?」
「私思うのよ。大掛かりな悪戯一つよりも小さな悪戯をいくつかのほうがお得なんじゃないかって」
「ああそう…」
やはり咲夜は一風も二風も変わった悪戯をしてくれるんだと何故か安心してしまった。
言葉の通り、その後も小さな悪戯は続いた。
髪の毛を丁寧に梳いてくれて椿油で手入れしてくれたり、図書館で見つけたという良く分からないグリム童話の絵本を読み聞かされたり、膝の上に座らされてひたすら頭を撫でられたり…などなど。
本人はいたって悪戯よと言ってはいるがこれはまさしくあれであろう。
「ねぇ咲夜」
「何かしら」
「別に甘えて欲しいのならそうと言えばいいのに」
頭を撫でる手が一瞬ぶれる。振り向くとなんとも奇妙な、まるで親に嘘がばれた子供のような顔をしている。
「私はただ悪戯してるだけよ?」
「いいじゃないの気にしなくったって」
「何がよ」
次第にふてくされた表情になるあなたを見て、メイド長なんて呼ばれて頼られてるけど、実際はまだまだ子供なんだなと微笑ましい気分になる。
「私に仮装を見せるのが恥ずかしいからってわざわざレミリアにハロウィンパーティーの開催を進言したのよね」
「う」
「二人で一緒に居るところを見られるのが恥ずかしいから時間をずらしたのよね」
「うう」
「素直に甘えてって言うのが恥ずかしかったからお菓子を隠して「悪戯」の名目で甘えさせたのよね」
「ううう」
「何時もあんな堂々とした物言いもできるし、こっちが恥ずかしいことならしれっとできるのにこんなときだけ恥ずかしがるなんてずるいわ?」
「うううう~」
全く、何時も予想もできないような行動、それでいて私が拒否しないような行動を取れる器用さを持っている癖して「甘えて」の一言すら言えないなんて、可愛すぎるにも程がある。まぁ、私もパーティーに何か裏があるんじゃないかってうすうす予感はしていたが。
つまりは「私に仮装を披露して、尚且つ甘えさせる行為を正当化させるためにパーティーを開き、その上で私の出席時間をずらして二人で居ようと思った」訳だ。なるほど確かに合理的だ。用意している衣装が見つかったってパーティーで着る服だと言っておけばいいし、パーティーに皆を出席させることにより、それが終わった後紅魔館には誰も居ないと思わせることができる。レミリアも騒ぎ疲れて眠るだろうから二人で居るところを見られて弄られることもないし、甘えさせるのも悪戯と言う名目にすれば恥ずかしくない。と言うことか…。
「咲夜」
「何よ…」
自分でも分かるくらいに意地悪な声が出る。でも仕方ないじゃないか、可愛い子にはなんとやらと言う奴だ。あなたも私のことを理解しているから、恨めしそうに睨んでくるだけ。結構なことだ。こんなこともああろうかとあらかじめ自身に魔法を掛けておいてよかった。
「咲夜、見て?」
「どうしたのよローブ脱いで」
ローブを脱ぎ捨て何時もの服装に戻る。くるっと一回転して咲夜に合図を送った後、私は自身に掛けていた魔法を解いた。欺く為の変身魔法を。
「え?アリ…な、なぁ!?」
「どうかしらこれ」
薄紅色のフリルをあしらった深紅のドレス。ノースリーブのそれは脇から腰に掛けてスリットを入れたちょっと大胆なもの。同じくフリルのついたリストバンドと紅く塗った爪、頭から顔を覗かせる猫の耳とスカートから飛び出した尻尾。口元からは猫を思わせる八重歯を覗かせる。
「たべちゃうぞー…ってね」
「あ、いやその…かゎぃ…じゃなくて」
「顔真っ赤よ?」
時を止めることすら忘れて後ろを向いてしまうあなたがどうしようもなく可愛いものだから、私は気づいたら背中から抱きしめていた。どくどくと脈打つ鼓動が伝わってくる。真っ赤な耳がなんとも可愛らしくて、私は耳元で囁いた。
「ねぇ咲夜」
「な、何かしら?」
「私だって思ってるのよ?」
「何を?」
抱きしめる腕にぎゅっと力を込め逃げられないようにしてから、意地悪ではなく愛しさを込めて。
「私の仮装を見せるのもお菓子を食べさせるのも悪戯されるのもするのも咲夜だけよ」
「ア、アリス…」
「だからね」
だから今度は私の番。さぁ、あなたにも甘えてもらおうか。たとえお菓子をくれたって今の私には関係ない。何故ならそう。あなたの可愛さに当てられた今の私は両方とも欲しているのだから。
「トリックアンドトリート」
ジョバンニなみに急いで書いたので質はよくない。
咲アリ(アリ咲)だが咲夜さんの性格がちょっとおかしい。
それではどうぞ。
「…ハロウィンパーティーのご案内。紅魔館より。この度紅魔館でハロウィンパーティーを開催いたすことに決定いたしました。必要なものは他に自慢できるような仮装とお菓子。わたくし自慢の庭園にて31日、21時集合ですのでお待ちしております。…か」
魔法の森にもそろそろと冬の兆しが見え始めた頃、肌寒い朝の食事を作ろうと紅茶用のお湯を沸かしていたときだ。外に何者かの気配を感じて確認してみると、何時もは魔界からの便りしか入っていない自宅のポストにこんなものが入っていた。恐らくレミリアが執筆したのであろうハロウィンパーティーの招待状。練習でもしたのか以前見た彼女の字形よりも達筆で美しくなっていたが、敬語以前に招待状の形態を全く成していない。大体パーティーの招待状をパーティー当日に送るなんて中々に前衛的だ。更に出席するとこを前提し書くとはまた酷く強引な。全くパチュリーは彼女に何も教えていないの?
「…今度手紙の書き方を教えてやる必要があるわね」
「できればそうしてくれる?お嬢様もパチュリー様も録に手紙なんて書いたことがなくてね」
「そのぐらいはお安い御用よ。あ、紅茶私も淹れてね」
「茶葉勝手に使っちゃったけどいいわよね。後何で何も突っ込んでくれないのよ」
「もう慣れたからね」
振り返るとテーブルには作りかけだった朝食が完成状態で並べられており、隣には何食わぬ顔で紅茶を淹れている咲夜の姿があった。さっき感じた気配はこいつのものだったのか。周知の通り咲夜の思考回路は常人とは大きく異なっている。一般人にはとても理解のできない行動を平然と、あたかもそれが常識であるかのようにやってしまうのだ。常識に囚われないどこかの風祝とは全く逆の方向で常識に囚われていないと思う。今のように気づいたら真横で紅茶を淹れられていたなんてもう何回あったことか。
「どうぞ召し上がれ、アリスお嬢様」
「その呼び方はちょっとね」
「昔を思い出すから?」
テーブルに腰掛け何時もより見栄えのいい朝食に舌鼓を打つ。使ってる食材は同じなのに味に違いが出るなんて、相手がメイドだと分かっていても少し悔しい。まぁお菓子は私の方がおいしく作れるからおあいこかしらね。
「咲夜は食べてかないの?」
「あんまり館を放置しすぎると妖精メイドたちがすぐにだれるから。この紅茶を頂いたらお暇するわ」
「あらそう…」
以前あなたに「妖精たちは自分の世話で手一杯だからせいぜい館の見栄えと侵入者に対する壁にしかならない」と聞いたが、そんなに役立たないものなのだろうか?頼んでくれれば我が自慢の人形軍団でお手伝いしてあげるというのに。
「今日来るでしょう?21時だから間違えずにね」
「ええ。仮に断ったってどうせあなたのことだから時を止めてでも私を連れてくでしょうしね」
「流石にそこまではしないわよ。じゃ、待ってるわ」
次の瞬間にはもう姿が見えなくなっている。これにももう慣れた。こちらの話をあまり聞かないが彼女のことだ、多分、私がどう言うか分かって行動しているんだろうと思う。理解が進んでいると言えば聞こえはいいが…。まぁ、パーティー自体は嫌なわけじゃないし、いいかな。皆の仮装が見れるのは新鮮だろうし、彼女の何時のメイド服とはまた違った服装を見てみたいというのもある。今日は実験の予定もないし、気晴らしには持って来いだろう。
「さて、それじゃあどうしようかしら。ハロウィンだし甘めのお菓子がいいかしら。幸い生地は今手元にあるし…とりあえずキャラメルクッキーと…あとフィナンシェはカボチャを練りこんでみようかしら。あ、チルノやリグルたちも来るかもしれないし、キャンディもあれば十分かしらね…あの子達って見たまんま仮装状態だから楽よねぇ」
「シャンハーイ!」
「ホラーイ!」
「うん、二人とも手伝ってね。さて…まずはっと」
なんだかんだ言って、今からパーティーを楽しみにしている自分がいるのだった。
・・・
「シャン…」
「…ホーイ」
「これは一体どういうことかしらね…」
クッキーはさっくりふっくら綺麗に焼けた。フィナンシェもカボチャのアクセントを程よく利かせた自信作だ。キャンディだって色とりどりの物を用意した。衣装も西洋の魔女を彷彿とさせるような黒いローブと三角帽だし、人形たちの衣装も当然ハロウィン仕様。見上げれば綺麗な月にたなびく雲。正に絶好のハロウィン日和だ。
…だと言うのに。
「誰もいないって…どういうことぉ」
21時ぴったりに着いたのに、まず正門に門番さんが居なかった。もしかしたら門番さん自体パーティーに出席しているのかと思い勝手に入らせてもらったが、館内は妙に静かで人の気配を全く感じない。自慢の庭園とやらに着くもやはり人っ子一人居らず、只綺麗に片付けられたテーブルがいくつかと庭園中央に位置する妙に寂しさを感じる発表台のようなものが一つあるのみだった。どうしたものかと人形たちがおろおろするなかこれ見よがしに風が吹き、テーブルに飾られたジャックランタンの蝋燭の火が揺れてまるで笑っているかのように見える。…なんて場違いな自分の格好。
「え?何これ新種のドッキリ?サプライズイベント?実は屋内でやってるとか?それとももうお開きした後?…泣いてもいいよねこれって」
「アリスナカナイデー」
「ワタシノムネデオナキヨー」
慰めて(?)くれる人形たち。とりあえず蓬莱の胸で泣いたって泣き顔を人形で隠してるようにしか見えないだろうから遠慮したい。
というかこれは明らかにパーティーが終わった後だ。良く目を凝らすと所々にお菓子の粉が落ちているのが分かる。21時開始ではなかったのか。…まさか21時終了だったっと言うのか?まさかの手違いか?
もういいわよわかったわよ帰って一人寂しくお菓子を食べるわよ。妖怪だから太る心配ないしもうやけ食いよ。
「はぁ…上海、蓬莱。帰りましょう…」
「アリス・マーガトロイド様、本日は私の主催するハロウィンパーティーにようこそお越しいただきました」
「…え、誰?」
突然背後から凛々しい声が聞こえ、咄嗟に振り返るとそこには見知らぬ紳士がいた。
黒いタキシードに包まれた華奢な体と長い手足のライン。純白のドレースグローブと漆黒のシルクハット。月明かりを受け仄かに光を放つ銀糸と深紅に輝く瞳はまるで星空に浮かぶ月のよう。うっすらとルージュのひかれた口元からは長い牙を確認できる。月光をバックに従え佇むそれはまさしく―――。
「…って何やってるのよ咲夜」
「見て分からない?吸血鬼よ吸血鬼」
相変わらず都合のいい頭だ。何のコスプレをしているかを聞いているのではないと言うのに…まぁこの際どうでもいい。問題は別だ。
「ちょっと、これって一体何のつもり?パーティーは21時からじゃなかったの?もう終わった後じゃないの」
「ええ。お嬢様主催のパーティーはね」
「ええ?それって一体どういう…。…?」
ふと、違和感を感じ、慌てて懐に仕舞っていた招待状を開く。そこには朝見たものと同じ綺麗な字が書いてあるだけだ。しかし、よくよく考えてみるとレミリアがこんなに綺麗に字を書けるわけがないのだ。差出人も紅魔館よりとしかないし、良く見ればこの手紙にはレミリアのサインがない。あの子は必ず手紙の最後に名前を書く習慣があった筈だ。それにわたくし自慢の庭園?…確かこの庭園は常に花を咲かせた状態を保つ為に一部に咲夜の能力を使用していると聞く。
すでに行われたであろうパーティーと咲夜のコスプレとも取れる格好。つまりこれは…
「…あの招待状、レミリアのじゃなくてあなたの個人の招待状だったのね…」
「理解が早くて助かるわ?…改めて、本日は”十六夜咲夜”主催のハロウィンパーティーにお越しいただきありがとうございます」
「何故こんな回りくどいことを?」
あなたはさも当然というかのようにその白い牙を見せながら笑った。
「アリスの仮装を見ていいのもお菓子を食べていいのも悪戯してもされていいのは私だけよ」
その笑顔は少年のような無邪気さと少女のような可憐さを併せ持った、とても魅力的なものだった。
やれやれ、全くあなたは人の話を聞かない人だ。…まぁ、それだけ私のこと理解してるんだから文句のつけようもないんだけどね。
「さぁアリス?…トリックオアトリート」
・・・
所変わって咲夜の部屋。
詳しく聞いたところ、ことの真相はこう言うことだ。
レミリアは6時からパーティーを開宴すると言った。しかし、咲夜は私の仮装やお菓子が霊夢や魔理沙に取られると感じたのか私への招待状を自分のものと交換し、時間をずらし二人っきりのパーティーにしようと考えたのだと。喜んでいいのか怒っていいのか…。
「わくわくするわね。あなたのお菓子は何時もおいしいもの」
「そう?」
「ええ。悔しいけど、お菓子に関してはあなたのほうが上手いもの」
ま、その他の料理は私のほうが上手いからおあいこね。と笑う彼女を見て私も笑う。さて、わたくし自慢のお菓子を上げて更にその笑顔を拝ませてもらおうか。持ってきた籠の中から自信作のクッキーを取り出そうとする。だが…。
「慌てないの。お菓子ならここに…。…え!?」
「どうしたの?…あらあらぁ」
持ってきた籠の中にはお菓子は一つも入っていなかった。何故だおかしい、門前で確認したときは確かにあったのに。思い込みな訳はないし、ここに来る途中に落したというのも無理な話だ。どういうことかと顔を上げるとそこには…。
「じゃあお菓子ないのね?」
「………」
咲夜の満面の笑みがあった。ああ、お菓子を上げてこの顔をさせられたらどんなに嬉しかったことだろうか。しかし今こんなものを見せられたって怒りしかわいてこない。折角上手くできたお菓子をあなたにあげようと思ったのに。これでは意味がないではないか。
「咲夜?あなた時間をとめ…」
「ならトリック。悪戯ね」
今回ばかりは本気でその笑顔が憎たらしいと思った。
結局悪戯を受けることにした私だが、正直私は激しく拍子抜けしている。
咲夜のことだから、例えば時間を止めて下着だけ抜き取ってしまうとか、気づいたら紅魔館メイド雇用書に指印を押されているとか、一風も二風も変わった悪質で悪意のない悪戯をしでかすかと思っていた。正直今後の人生ならぬ妖生の転換覚悟をしようかとも思うほどに。
しかし
時間を止められ、次に気づいたときには目の前にオレンジ色の光を放つ小さなシャンデリアと咲夜の顔が映っていた。頭には我が家で使っている枕なんかよりもはるかに柔らかい感触。髪の毛を咲夜に優しく撫でられる。ああ、膝枕されてるんだな、と理解するのにあまり時間を要さなかった。
「…これが悪戯?」
「私思うのよ。大掛かりな悪戯一つよりも小さな悪戯をいくつかのほうがお得なんじゃないかって」
「ああそう…」
やはり咲夜は一風も二風も変わった悪戯をしてくれるんだと何故か安心してしまった。
言葉の通り、その後も小さな悪戯は続いた。
髪の毛を丁寧に梳いてくれて椿油で手入れしてくれたり、図書館で見つけたという良く分からないグリム童話の絵本を読み聞かされたり、膝の上に座らされてひたすら頭を撫でられたり…などなど。
本人はいたって悪戯よと言ってはいるがこれはまさしくあれであろう。
「ねぇ咲夜」
「何かしら」
「別に甘えて欲しいのならそうと言えばいいのに」
頭を撫でる手が一瞬ぶれる。振り向くとなんとも奇妙な、まるで親に嘘がばれた子供のような顔をしている。
「私はただ悪戯してるだけよ?」
「いいじゃないの気にしなくったって」
「何がよ」
次第にふてくされた表情になるあなたを見て、メイド長なんて呼ばれて頼られてるけど、実際はまだまだ子供なんだなと微笑ましい気分になる。
「私に仮装を見せるのが恥ずかしいからってわざわざレミリアにハロウィンパーティーの開催を進言したのよね」
「う」
「二人で一緒に居るところを見られるのが恥ずかしいから時間をずらしたのよね」
「うう」
「素直に甘えてって言うのが恥ずかしかったからお菓子を隠して「悪戯」の名目で甘えさせたのよね」
「ううう」
「何時もあんな堂々とした物言いもできるし、こっちが恥ずかしいことならしれっとできるのにこんなときだけ恥ずかしがるなんてずるいわ?」
「うううう~」
全く、何時も予想もできないような行動、それでいて私が拒否しないような行動を取れる器用さを持っている癖して「甘えて」の一言すら言えないなんて、可愛すぎるにも程がある。まぁ、私もパーティーに何か裏があるんじゃないかってうすうす予感はしていたが。
つまりは「私に仮装を披露して、尚且つ甘えさせる行為を正当化させるためにパーティーを開き、その上で私の出席時間をずらして二人で居ようと思った」訳だ。なるほど確かに合理的だ。用意している衣装が見つかったってパーティーで着る服だと言っておけばいいし、パーティーに皆を出席させることにより、それが終わった後紅魔館には誰も居ないと思わせることができる。レミリアも騒ぎ疲れて眠るだろうから二人で居るところを見られて弄られることもないし、甘えさせるのも悪戯と言う名目にすれば恥ずかしくない。と言うことか…。
「咲夜」
「何よ…」
自分でも分かるくらいに意地悪な声が出る。でも仕方ないじゃないか、可愛い子にはなんとやらと言う奴だ。あなたも私のことを理解しているから、恨めしそうに睨んでくるだけ。結構なことだ。こんなこともああろうかとあらかじめ自身に魔法を掛けておいてよかった。
「咲夜、見て?」
「どうしたのよローブ脱いで」
ローブを脱ぎ捨て何時もの服装に戻る。くるっと一回転して咲夜に合図を送った後、私は自身に掛けていた魔法を解いた。欺く為の変身魔法を。
「え?アリ…な、なぁ!?」
「どうかしらこれ」
薄紅色のフリルをあしらった深紅のドレス。ノースリーブのそれは脇から腰に掛けてスリットを入れたちょっと大胆なもの。同じくフリルのついたリストバンドと紅く塗った爪、頭から顔を覗かせる猫の耳とスカートから飛び出した尻尾。口元からは猫を思わせる八重歯を覗かせる。
「たべちゃうぞー…ってね」
「あ、いやその…かゎぃ…じゃなくて」
「顔真っ赤よ?」
時を止めることすら忘れて後ろを向いてしまうあなたがどうしようもなく可愛いものだから、私は気づいたら背中から抱きしめていた。どくどくと脈打つ鼓動が伝わってくる。真っ赤な耳がなんとも可愛らしくて、私は耳元で囁いた。
「ねぇ咲夜」
「な、何かしら?」
「私だって思ってるのよ?」
「何を?」
抱きしめる腕にぎゅっと力を込め逃げられないようにしてから、意地悪ではなく愛しさを込めて。
「私の仮装を見せるのもお菓子を食べさせるのも悪戯されるのもするのも咲夜だけよ」
「ア、アリス…」
「だからね」
だから今度は私の番。さぁ、あなたにも甘えてもらおうか。たとえお菓子をくれたって今の私には関係ない。何故ならそう。あなたの可愛さに当てられた今の私は両方とも欲しているのだから。
「トリックアンドトリート」
いい咲アリでした。
咲夜かわいいよ
>>奇声を発する程度の能力さま
咲夜さんは受けに回ると途端に弱々しくなると可愛いと思うのです。
>>2さま
まさしくそうなのですが、それを素直に認めない咲夜さんなのでしたw
>>3さま
アリ咲ちゅっちゅ
>>4さま
このようなSSで萌えていただけるとは…!ありがとうございます。
こいつらたまんねぇよ!!
見てるこっちの顔がぽっぽしてくるよこいつら本当たまんねえ!非常に良かった!