Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

まるで妻のような気持ちで

2010/10/31 15:43:58
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誰が考えたのか知らないが、全くもって厄介な文化が幻想郷に入ってきてくれたものだ。

オレンジ色の陽の光を背に浴びながら、博麗の巫女たる私は秋の寒空を飛ぶ。
到着した現場では、カボチャの被りものを被った妖怪が人間たちから持ち物を簒奪していた。
どこに行っても同じ光景ばかりでうんざりしつつ、ものの10秒で雑魚妖怪共をおとなしくさせる。

人間たちからの感謝の言葉を上辺だけで聞き、すぐさま出発した。
まだまだざわめく妖気を肌は感じており、だんだんと鬱陶しくなってきてしまった。
いくら解決しても、すぐに別な場所で異変紛いの事件が起きる。それの繰り返し。
犯人を懲らしめてもフラストレーションは溜まる一方で、今日という日が早く終わることだけを考え始めている。

まだ、日は暮れきっておらず、祭りは始まってもいない。
宵闇の到来は人間に恐怖しか与えず、私には苛立ちしか与えていなかった。


そう、今日はハロウィン。
博麗の巫女が一年で一番忙しい日。



~~~~~~~~~~



どこからどのように情報が入り込んだのかはわからないが、ハロウィンという祭りはいつのまにか幻想郷でもメジャーなイベントの一つになっていた。
幻想郷でのハロウィンとは『カボチャのランタンや被り物を身につけ、西洋妖怪の仮装をし、色んな人からお菓子を貰い、もらえなきゃいたずらで制裁』というもので、祭りを楽しむということに関してこの知識は間違っていないと、魔法使いの友人が言っていた。
紅魔館ではパーティーなども開かれて楽しい夜を過ごしているらしいが、そんなことは私には関係が無くどうでもいいことだ。

問題は、ハロウィンで調子に乗る馬鹿どもが溢れかえっていることである。
祭りだからと言って何をしても良いわけではない。最低限の節度とマナーを守らねばならないことは子供にも分かるはずだ。
しかし、『お菓子をもらえなきゃいたずらで制裁』という言葉を聞いた祭り好きの妖怪たちは、限度を超えた『悪戯』をあちこちで行い、ターゲットにされた人間たちは身の危険に恐怖していた。

カボチャのランタンに人間を入れて転がしただの、湖の上空から飛べない人間に紐無しバンジーをやらせただの、頭が痛くなるくだらない事ばかり行っている。
そんなくだらないことで人命を失ってはいけないと、珍しく激怒している上白沢慧音からの依頼で、私はこうして幻想郷全土を飛び回らなくてはいけなくなってしまっているのだ。


「――ってわけなのよ!もう、イラつく!ムカツク!頭に来る~!」
「わかったから落ち着きなさいな」


今までの経緯を矢継ぎ早に語った私は、少し息を切らせながら湯のみの茶を喉に流し込んだ。
卓袱台の向こうでは、燕尾服を着こんで作り物の牙と翼を生やしたアリス・マーガトロイドがどうでもよさそうに頬杖をついていた。どうやら吸血鬼の仮装らしい。


「ってわけで、折角の誘いだけど今日は楽しむ余裕なんてないの!」


差し入れのパンプキンパイを一切れ手に取り、齧りつく。
すると、ほのかな甘みとサクサクの食感が口いっぱいに広がり、快音が耳に心地よく響いた。


「…………」
「どう、美味しいかしら?」
「……うん、まぁ、中々ね」


未だに心はざわついていて真っ当な評価はできていないが、腹の奥に積もり溜まっていた苛立ちがほんの少し消化されたのが自分でもわかった。


「まぁ、来てくれたのは嬉しいわ。私はまたすぐに出なきゃいけないと思うけど、良ければゆっくりしていって」
「あら嬉しいわ。今日のあなたはカリカリしていて、まともな対応なんかしてくれないのかと思ってた」
「うぐぅ」


実際そうなりかけていたからぐぅの音もでない。
誤魔化そうにも良い言葉が思いつかないので、とりあえず手もとのパイを全て口に放り込んだ。


「……ふぐ?んぐぅう!」


そしてまた、妖気の流れを感じた。
怒りの言葉を列挙し、立ち上がる。


「霊夢?何言ってるかわからないわ、どうしたの?」
「んふぅぐ!うぐぐぎゅぐぅ!……んっぐ……い、行ってくるわね!」


アリスの言葉を聞いてようやく言葉が言葉をなしていなかったことに気づき、とりあえずパイを呑みこんで飛び出した。

太陽は半分以上隠れており、もうじき夜がやってくる。
ここからが本番だと思うと、先ほどの苛立ちがぶり返すのだった。



~~~~~~~~~~



各家庭の料理を氷漬けにして回っていたチルノを木にくくりつけて湖に投げ込んだ私は、重い体をなんとか浮かせて神社へと帰って来た。
すでに太陽は沈み、梟の鳴き声が周囲の木々から発せられている。

境内に降り立つと、母屋に明かりが灯っているのが見えて、それがまだアリスが居ることを示していた。
疲れたから休みたいのに、祭りで浮かれている悩み無き七色莫迦の相手をしなければならないのかと、考えただけでムカムカしてくる。
草履を乱暴に脱ぎ棄てて、廊下の突き当たりにある部屋へと向かう。
室内光を柔らかく受け止めている障子を思い切り開け放つと、何とも言えない良い香りが鼻腔をくすぐった。


「……え?」


目の前に広がっていたのは、豪奢なディナー。
黄色いスープに、何かの肉のステーキ、小麦色のパンと、ガラス製のグラスに注がれた赤黒い液体。
それら西洋の食事が日本古来の卓袱台に鎮座しており、奇妙な雰囲気を出していた。
そして卓袱台の向こうには、未だに仮装をしているアリスが座っていた。


「ほら、呆けてないで座りなさいな」
「え、うん」


言われるがままに座布団へと座り、目の前の桃源郷へと再び目を移す。
同時に腹の虫が威勢よく叫び、今日は昼から何も食べていなかったことを思い出した。
私の腹の音を聞いてクスクス笑っているアリスに、頭を巡る疑問を投げつけてみる。


「これは、なに?」
「なにって、ディナーに決まってるでしょ?」
「あんたが作ったの?」
「勝手にキッチンを使わせてもらったわ。ああ、食材は私が用意したものだから大丈夫よ」
「何で作ったの?」
「お菓子をあげなきゃ悪戯される日だからよ」


どうやら話す気はないようだ。菓子ならさっきパイを貰ったというのに。
だが、作ってくれたというのだから食べねば失礼だろう。というか、もう美味しそうで我慢できない。


「食べて、いいのよね?」
「どうぞ召し上がれ」
「じゃあ、いただきます」


手を合わせてからの行動は早かった。
使い慣れていないナイフとフォークで必死に肉を切り分けて口に運ぶ。
西洋の酒を飲みつつパンプキンスープを啜る。
向かいで共に食事をしているアリスと、他愛ないことを話して笑う。
なんというか、暖かくて気持ちよくて、さっきまでどうして苛立っていたのかも忘れてしまっていた。


そんなとき、また強大な妖気を察知したのだ。


私はキレた。


「……霊夢、どうしたの?」
「ごめんなさいねアリス。とても美味しくて楽しい夕食だけれど、どうやら馬鹿を殺してこなきゃいけないみたい」
「何を物騒な」


このひと時を潰してくれやがった妖怪は、本当の本気でぶっ潰してやろう。
再起不能にさせるべく、普段は持ち出さないラストスペルも持ち出して、アリスに一言だけ言ってから神社を飛び出した。


「楽しいひと時をありがとう」


普段は絶対に言わない感謝の言葉。
本当、ありがとうなんて言ったのは何年ぶりだろうか。
飛び出した私は、爛々と輝く満月へと全速力で向かったのだった。



~~~~~~~~~~



満月の光をパワーに変換し、変形巨大ロボへと姿を変えた紅魔館……いや、超巨大ロボット『スカーレット・パンプキン』を陰陽鬼神玉×5で押しつぶし、動けなくなったところで『夢想天生』を7回くらい発動してから帰って来た。
とりあえず、草一本も残らなかったとだけ言っておく。

流石に暴れすぎてもうふらふらで、ようやく帰りついた時にまだ明かりが灯っている母屋を見て胸がきゅんとした。
寒くて暗い場所に戻る毎日だったのに、今日は当り前のように暖かく輝いていて、アリスが迎えてくれるんだろうと考えただけで心の中まで暖かくなっていた。

玄関を開けると廊下の奥からアリスが歩いてきた。
普段の服装に戻っており、どうやら彼女のハロウィンは終了したらしい。


「お帰りなさい霊夢」
「……ただいま」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも――」
「あ゛ー、それ以上ふざけるとあんたにも夢想天生よ」
「祭りの夜だっていうのに、本当怖くて無粋な巫女だこと」


二人で居間へと移動すると、隣の寝室の襖が開いており、そこにはすでに布団が敷かれていた。


「そうそう、お風呂沸かしておいてから入って頂戴ね」
「そんなことまでしてくれたの?」
「疲れきってるみたいだし、私が用意しなきゃ汗まみれのまま布団にくるまって寝ちゃうでしょ?そんなんじゃ風邪をひいてしまうわ」


その甲斐甲斐しさに暖かさを感じつつも、同時に冷たい何かも感じていた。
異常なほどに世話を焼く姿は、魔法だけあれば良いという普段のアリスからは全くそぐわない。


「アリス、あんたどうしてそこまで――」
「霊夢!」


私の言葉を遮るように声を張り上げ、アリスは少し真剣な顔でこちらを見た。
驚き、つい姿勢を正してしまった私に、低い声で言う。


「トリック・オア・トリート?」
「……は?」


つい間抜けな声を出してしまい、それを聞いたアリスは満足したのか、口元をゆるめて、笑顔とも言い難い表情でクスリと笑った。
両手を突き出して来て、どうやらここに菓子を乗せろということらしいと察した私は、この娘もほかの妖怪と同じだったのかと心を

冷やしながら、棚の上に置いておいた饅頭を手に乗せた。


「さぁ、次は霊夢の番よ」
「へ?」


アリスは微笑を浮かべたままこちらを真っ直ぐに見つめており、ジロジロと見まわされているとこが少しだけ恥ずかしい。
どうやら言わなきゃ満足しないようなので、とりあえずお決まりのセリフを吐くことにした。


「トリック・オア・トリート」
「はい、これ」


先ほど渡したばかりの饅頭を返される。
ますます意味がわからず混乱していると、アリスはまた言った。


「トリック・オア・トリート?」
「……」
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうわよ?」
「……ああもう、やかましい!」


再び饅頭を手渡す。
するとアリスは「さぁ、霊夢」と柔らかく言った。まだこんな茶番を続けるというのか。

「トリック・オア・トリート」
「はい、これ」
「ん」
「トリック・オア・トリート?」
「……」
「ありがとう」
「うん」
「さぁ、霊夢?」
「……トリック・オア・トリート」
「はい」
「……」
「トリック・オア・トリート?」


よくわからないやり取りを繰り返し、何度も魔法の呪文を唱える。
そういえば、トリック・オア・トリートって言ったのは今日が初めてだったなと、頭のどこかで考えながら。


「トリック・オア・トリート」
「トリック・オア・トリート?」
「トリック・オア・トリート」
「トリック・オア・トリート?」


世話になったし、アリスが満足するまで付き合ってやろうと思っていた。


「トリック・オア・トリート」


私の呪文でアリスは饅頭を私に手渡す。
そして、またアリスの呪文を待っていると、突然饅頭を奪い取られてしまった。


「あ!」
「トリック・オア・トリート?」


そして、したり顔でアリスは言う。
この家にある菓子は饅頭一つきりで、それは今敵の手の中。
やられた。どうやらこれを狙っていたらしい。


「あーもう、はいはい、お菓子はありませんよ」
「そうなの?じゃあ悪戯ね」
「もう、どうでもいいから好きにしたらいいじゃない」
「なら今日は泊まらせてもらうわね」


アリスはそういうと、寝室に入っていってしまった。
そして、着替えやら寝巻きやらを手に廊下へと出て行く。


「どこが悪戯よ」


不意打ちに反応できず、アリスが風呂に向かったのだと理解するまでさらに1分ほどの時間がかかったのだった。



~~~~~~~~~~



風呂からあがり、強烈な睡魔に襲われている私は、一直線に寝室へと向かった。
そこにはいつの間にか布団が一式増えており、二つのせんべい布団の片方には蒼い寝巻きを着たアリスが寝息を立てている。
その無邪気な寝顔を見てつい苦い笑いを漏らしながら、私はもう一方の布団へともぐりこんだ。

まったく、今日は振り回されてばかりだ。
馬鹿どもにも、七色莫迦にも。


闇の中、遠くから祭囃子が聞こえてくる。
紅魔館を潰したことで流石にバカをやろうと考える妖怪はいなくなったようで、人間たちが楽しむ音だけが聞こえてきていた。
しかしまぁ、西洋の祭りで祭囃子とは流石は幻想郷というべきか。


疲れを溜め込んでいた私は、そのまま眠ろうと思ったのだが、そのとき隣の布団からアリスが起き上がった。
そしてなにやら外へと出て行く。厠だろうか。妖怪も厠に行くのだろうか。

しばらくすると戻ってきて、布団の中に体を滑り込ませた。
そして、突然右手が冷たい何かで覆われた。

声が出そうになるのを、なんとか抑える。
それはアリスの手のようで、秋の寒さに冷やされたせいか、はたまた妖怪だからか、まるで氷のようだった。


「……れいむ」


隣から、甘ったるいような苦しんでいるような声が聞こえてきて、耳を疑った。
そして、手に手を絡ませられるなか、アリスは一言つぶやいた。


「……すき」


はっきりと聞こえたその言葉が、今日の出来事を鮮明に思い出させていく。
アリスの行動の意味を理解したと同時に、眠気がどこかへ吹き飛んだ。


しばらくすると、アリスは再び寝息を立て始める。
その細くて力無い手を握り返し、私は心の中でつぶやいた。



ごめん。
女の子同士の恋愛は否定しないけど。
私はあんたをそういう風には見れない。



独り言を聞きたくなんて無かった。
聞かなきゃいつもどおりでいられたし、アリスもそれを望んでいたと思う。
だって、あいつは本気を出さない卑怯者だから。


これは神様の悪戯なのだろうか。
だとしたら、巫女なんて辞めてやろうか。
そんなことを考え、八百万の神々に心の中で悪態をついた。





ハロウィンが嫌いで。
ちょっと好きになって。
暖かくなって。


でも、やっぱりハロウィンは嫌いだ。


多分、これからもずっと。




FIN?
お久しぶりです。
ハロウィンと言うことで甘めの話になりました!……アマメデスヨ!
以前本家に投稿した別の話と被っているような部分がある?ソンナバカナ。
はいすいません。大急ぎで創ったので色々とおかしな部分もあるかもしれないです。

テーマは「接近」です。
今回も読んでくれた方はありがとうございました。
ほむら
http://magatoronlabo.web.fc2.com/index.html
コメント



1.なるるが削除
さすがだぜジョバンニ!
と言わせていただこう。
あなたの書くアリスは非常に人間らしいような妖怪らしいよいな…不思議な感じがして魅力的です。
素晴らしいハロウィンSS、ありがとうございました!
2.名前が無い程度の能力削除
これで終わるとか許されざるでござるよ!?
3.奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
連続でレイアリとかマジで素晴らしいな!!
この感じが堪らない…
4.名前が無い程度の能力削除
甘くほろ苦いぞ!
5.名前が無い程度の能力削除
接近、お互い距離を保つ二人だからこそですね。
アリスが好きなのに一定距離を取ろうとしているのに胸キュン。
もう、このアリス可愛いなぁ!

そして、狙ったような連続レイアリ作品に喜びを隠しきれないww
6.BANk削除
中盤までのやり取りが、どうみても夫婦にしか見えない……。

FIN?って事は、この設定のままクリスマス→元旦と続くわけですね!?ヤッター!
7.Yuya削除
好き。この作品