「パチュリー。」
友人レミリアの呼びかけに、パチュリーは本に落としていた視線を上げる。
「何?」
本ばかりが群れなすように溢れかえっている部屋の中では、少女二人の声は簡単に吸収され、小さくなる。
「…はどうなの?」
「はっきり言って。聞こえないわ。」
本に視線を戻しながら、促すようにはっきりとした声音で言った。
「フランは、どうなの?」
パチュリーが教育のようなことをしているフランドールの様子を、姉レミリアは尋ねたのだった。
見開きの二頁を読み終え、次の頁に移るときに答えた。…問いで。
「…気になるの?」
曖昧な返事が、レミリアの口から誤魔化しのために漏れた。
「うん、まぁ。ね…。」
その答えを聞くと、そっけない一言で会話は途切れた。
「特に変わりないわ。」
「そう…?」
口ではそう言っておきながら、パチュリーは胸の内で呟いていた。
『前に比べれば、なんてことない。でも、』
『レミリア、貴女だけが唯一の不安要素。』
暗い。
太陽、日の光に弱いのだから仕方ない。
でも、この暗闇は、自分の中の不安がわだかまってできた代物のように感じた。
何に対しての不安なのかと問われたら、まず『不安』なのか、はたまた別の何かなのかというところから始まるのかもしれない。
『不安』というよりは『確定要素』。
悲しい、『確定要素』。
それは確定事項。
私、フランドール・スカーレットの姉、レミリア・スカーレットは、お姉様は私が、
『嫌い』
ということ。
でなければ、約五世紀もの間閉じ込めたりなんかしない。
別に部屋の中にいることは嫌とは感じていない。
けれど、何故閉じ込められているのかを考え始めると、ひどく憂鬱になる。
パチュリーから借りた、辞書のように分厚い上下巻完結のミステリの途中に薄いレースのリボンを栞代わりに挟んで閉じた。
自分の心も、一緒に閉じた。
『パチュリーはああ言っていたけれども…、大丈夫かしら。』
そう思ったレミリアは、広い館の中、フランドールのいる部屋に足を運んでいた。
誰にも知らせず、こっそりと一人で。
理由は特にあったわけではなかったが、話せるなら、二人で話そうと考えていた。
…浮かれていたのだった。
様々なことに考えを巡らせながら、進めていた足取りは止まる。
フランドールが一人でいる部屋。
その前に、いつのまにやら着いていた。
流石に、緊張から溜まった唾液をごくり、喉の奥へと追いやり、飲み下した。
軽く握った掌には、湿り気を感じていた。
そして、震えていた。
やはり、緊張は自分が思う以上に大きかった。
扉に付けられた厳かな雰囲気をまとっているドアノックを握り、息を一つ吐いて、鳴らした。
コンコン
小気味良い音が、部屋に響いたのがわかった。
レミリアは首をかしげた。
何故なら、咲夜から聞いていた話と違っていたのだから。
普段なら一度返事をして、少ししてから扉を開けてくれるらしい。
というのに、だ。
一向にその気配はない。
『眠ってるのかしら。』
だとしたら、眠りの妨げとなるのも面倒だと思い、踵を返し、引き返そうとしたところに、
パァンッ
何かが勢いよく破裂する音が、先の一つを区切りに立て続けに何度も聞こえてくる。
そうとなったら、睡眠なんてとっているはずもなく、扉を遠慮なくレミリアは蹴破った。
「フランッ!?」
扉を開けたその先には、目を焼くような緋があった。
館で大量に雇っている妖精メイドのもしかしたら百近い数が、フランドールの能力によって殺戮、もとい破壊されていた。
人間や獣のそれよりも明るい緋を撒き散らしていた。
また、暴れでもしたのだろう。
部屋を飾るためだけのカーテンは引き裂かれ、眠るためのベッドシーツも悲惨なことになっている。
そんな空間の中で、フランドールは呆然としており、虚空にぼんやりと紅を向けていた。
その瞳は、つぅ、と一筋一筋涙の雫を頬へ伝えていた。
ギギギ、という音がしそうな動作で首を回し、レミリアの方を見た。
「お、ねえ、さま…?」
「フラン、何があっ「…よ、」
レミリアは混乱しかけていた頭で話しかけると、フランドールはそれを遮った。
「え?」
よく聞こえず、聞き返す。
そうしたら、フランドールは己の声帯すら破壊しかねない音量で叫んだ。
「お姉様は私のことが嫌いなのよっ!!!」
フランドールが右手の掌を開き、何かの『目』を移動させたのをレミリアは素早く気付き、破壊されるであろう物を探す。
そして見つけ、『破壊される』という運命を思い切り捻じ曲げる。
「咲夜!」
器用貧乏という言葉の似合う、似合ってしまう紅魔館のメイドの名を呼ぶ。
すると、レミリア、フランドールの時が止められたのだろう、一瞬でその場には銀髪のメイドが立っていた。
「お嬢様、いったい何g「今すぐ時を止めてフランの両の掌を開いた状態で壁に固定しなさい!!」
ほんの数秒、咲夜は躊躇う。
「でも、おじょうさm「どうせ、もう…、」
「嫌われてるもの。」
涙の滲んだ声を最後に、もう一度時は止められた。
「これ以上嫌われたくないのに、こんなことしかできないなんて、皮肉ね。でも。」
「もう嫌!こんな風にしかできないない自分が一番…!でもまだ、」
「「好きでいる自分がいるの。」」
.
友人レミリアの呼びかけに、パチュリーは本に落としていた視線を上げる。
「何?」
本ばかりが群れなすように溢れかえっている部屋の中では、少女二人の声は簡単に吸収され、小さくなる。
「…はどうなの?」
「はっきり言って。聞こえないわ。」
本に視線を戻しながら、促すようにはっきりとした声音で言った。
「フランは、どうなの?」
パチュリーが教育のようなことをしているフランドールの様子を、姉レミリアは尋ねたのだった。
見開きの二頁を読み終え、次の頁に移るときに答えた。…問いで。
「…気になるの?」
曖昧な返事が、レミリアの口から誤魔化しのために漏れた。
「うん、まぁ。ね…。」
その答えを聞くと、そっけない一言で会話は途切れた。
「特に変わりないわ。」
「そう…?」
口ではそう言っておきながら、パチュリーは胸の内で呟いていた。
『前に比べれば、なんてことない。でも、』
『レミリア、貴女だけが唯一の不安要素。』
暗い。
太陽、日の光に弱いのだから仕方ない。
でも、この暗闇は、自分の中の不安がわだかまってできた代物のように感じた。
何に対しての不安なのかと問われたら、まず『不安』なのか、はたまた別の何かなのかというところから始まるのかもしれない。
『不安』というよりは『確定要素』。
悲しい、『確定要素』。
それは確定事項。
私、フランドール・スカーレットの姉、レミリア・スカーレットは、お姉様は私が、
『嫌い』
ということ。
でなければ、約五世紀もの間閉じ込めたりなんかしない。
別に部屋の中にいることは嫌とは感じていない。
けれど、何故閉じ込められているのかを考え始めると、ひどく憂鬱になる。
パチュリーから借りた、辞書のように分厚い上下巻完結のミステリの途中に薄いレースのリボンを栞代わりに挟んで閉じた。
自分の心も、一緒に閉じた。
『パチュリーはああ言っていたけれども…、大丈夫かしら。』
そう思ったレミリアは、広い館の中、フランドールのいる部屋に足を運んでいた。
誰にも知らせず、こっそりと一人で。
理由は特にあったわけではなかったが、話せるなら、二人で話そうと考えていた。
…浮かれていたのだった。
様々なことに考えを巡らせながら、進めていた足取りは止まる。
フランドールが一人でいる部屋。
その前に、いつのまにやら着いていた。
流石に、緊張から溜まった唾液をごくり、喉の奥へと追いやり、飲み下した。
軽く握った掌には、湿り気を感じていた。
そして、震えていた。
やはり、緊張は自分が思う以上に大きかった。
扉に付けられた厳かな雰囲気をまとっているドアノックを握り、息を一つ吐いて、鳴らした。
コンコン
小気味良い音が、部屋に響いたのがわかった。
レミリアは首をかしげた。
何故なら、咲夜から聞いていた話と違っていたのだから。
普段なら一度返事をして、少ししてから扉を開けてくれるらしい。
というのに、だ。
一向にその気配はない。
『眠ってるのかしら。』
だとしたら、眠りの妨げとなるのも面倒だと思い、踵を返し、引き返そうとしたところに、
パァンッ
何かが勢いよく破裂する音が、先の一つを区切りに立て続けに何度も聞こえてくる。
そうとなったら、睡眠なんてとっているはずもなく、扉を遠慮なくレミリアは蹴破った。
「フランッ!?」
扉を開けたその先には、目を焼くような緋があった。
館で大量に雇っている妖精メイドのもしかしたら百近い数が、フランドールの能力によって殺戮、もとい破壊されていた。
人間や獣のそれよりも明るい緋を撒き散らしていた。
また、暴れでもしたのだろう。
部屋を飾るためだけのカーテンは引き裂かれ、眠るためのベッドシーツも悲惨なことになっている。
そんな空間の中で、フランドールは呆然としており、虚空にぼんやりと紅を向けていた。
その瞳は、つぅ、と一筋一筋涙の雫を頬へ伝えていた。
ギギギ、という音がしそうな動作で首を回し、レミリアの方を見た。
「お、ねえ、さま…?」
「フラン、何があっ「…よ、」
レミリアは混乱しかけていた頭で話しかけると、フランドールはそれを遮った。
「え?」
よく聞こえず、聞き返す。
そうしたら、フランドールは己の声帯すら破壊しかねない音量で叫んだ。
「お姉様は私のことが嫌いなのよっ!!!」
フランドールが右手の掌を開き、何かの『目』を移動させたのをレミリアは素早く気付き、破壊されるであろう物を探す。
そして見つけ、『破壊される』という運命を思い切り捻じ曲げる。
「咲夜!」
器用貧乏という言葉の似合う、似合ってしまう紅魔館のメイドの名を呼ぶ。
すると、レミリア、フランドールの時が止められたのだろう、一瞬でその場には銀髪のメイドが立っていた。
「お嬢様、いったい何g「今すぐ時を止めてフランの両の掌を開いた状態で壁に固定しなさい!!」
ほんの数秒、咲夜は躊躇う。
「でも、おじょうさm「どうせ、もう…、」
「嫌われてるもの。」
涙の滲んだ声を最後に、もう一度時は止められた。
「これ以上嫌われたくないのに、こんなことしかできないなんて、皮肉ね。でも。」
「もう嫌!こんな風にしかできないない自分が一番…!でもまだ、」
「「好きでいる自分がいるの。」」
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