Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

トリックオアトリート

2010/10/31 03:15:54
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「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃいますよっ!」
「……」

 霊夢がぼーっと縁側で煎餅を齧っていると、文が目の前に舞い降りて冒頭の一言。
 何故か、無言。霊夢は煎餅を持ったまま、動かない。文の方を、じーっと見ている。ただ、無表情で見ている。
 天気は良いが、もう冬のような寒さ。吹く風が、肌に痛い。
 そしてなんとなく、滑った感が漂う空気だ。文は額に嫌な汗が流れるのが分かったが、あえて笑顔とポーズはそのまま。先に動いたら、滑ったのを認めてしまって負けたような気がするからだ。
 すると、止まっていた霊夢が動き出した。横に置いてあった煎餅を一つ手に取り、笑顔のままの文の口に、無言のまま押しつける。

「え、ちょ、れいむさ……普通こういうときは洋菓子系で――」

 ぐいぐい。
 霊夢はもう片方の手に、もう一枚煎餅を手に取り、それも文の口に押しつける。
 もちろん、無表情かつ無言のままだ。

「あ、ちょっとしょうゆの匂いがっ、しょうゆ味の匂いがっ! やめ、というか、なんで無言無表情なんですかっ! こわっ、むぐ、怖いですからっ!」

 ぐいぐい。
 文が霊夢の目を見ると、なんとなく「ほら、あんたがお菓子寄こせって言ったんじゃない。食べなさいよ、ほらほら」と訴えてるように思えた。
 口に押しつけられる、二つの煎餅。
 文が何度か喋るたびに、何回か歯にあたっていて割と痛い。

「あーもう、すみませんでしたっ! 私が悪かったですからぁ!」
「いいから煎餅食べなさいよ。鬱陶しい。せっかくの私のお煎餅タイムを邪魔して……」

 やっと喋った霊夢。
 文はぶつぶつと文句を言っている霊夢から煎餅を二枚受け取り、横に腰掛けた。そして、煎餅を齧る。特別美味しいわけでもないが、不味いわけでもない。そんな、ごく一般的なしょうゆ味が口の中に広がった。

「まったく、あんたで五人目よ」
「え? 五人目?」
「最初はレミリア、次に魔理沙、そしてルーミア、まさかの魅魔、そしてあんたよ。流石に温厚な私も、笑顔でぷちっときちゃったわ」
「いやいやいや、思いっきり無表情だったじゃないですか。凄く怖かったですよ」
「家の中にある洋菓子系は、根こそぎ奪われたわ」
「それは……なんと言いますか、ご愁傷様です」

 文の脳内に「持ってかないでー」と叫ぶ霊夢が浮かんだが、それはどこぞの魔女の台詞だと思ったので、想像をやめる。
 はぁ、とため息を零している霊夢。
 それを見た文は、軽く苦笑いを浮かべつつ、もう一枚の煎餅を一口だけ齧った。ぱきっと心地良い音とともに、再び口内に広がるしょうゆ味。やはり、美味しくも不味くも無い。

「……よくよく考えたらさ、なんで私がお菓子をあげる立場なのよ! 私だって貰う立場でも良いじゃない! なんでみんな私のところに来るのよ!」
「ちょ、私に言われましても……そんな苛々しないでください。ほら、私の煎餅あげますから」
「それあんたの食べかけな上に、私があげたやつじゃない!」
「まぁまぁ、食べればきっと落ち着きますって。どうせお腹空いてるから、苛々してるんですよ」
「あんた、私を子ども扱いしてない?」
「あははー私にとっては、十分子どもですよ。はいっ」
「むぐっ」

 霊夢は反論しようとしたが、その口は文の持っていた食べかけの煎餅によって塞がれた。仕方なく、煎餅を齧る。ジト目で文を睨みながら。
 煎餅を口に咥えながら睨まれても、まったく怖くはない。文はわざと、とっても良い笑顔を返す。
 すると霊夢は悔しそうに、ぷいっと文から視線を外した。
 バリバリ。
 ぱくぱく。
 ごっくん。

「……美味しいですかー?」
「……別に」
「ですよねー」
「で? あんたはわざわざ、トリックオアトリートって言うためだけに来たの?」
「まぁ半分以上はそうですねー。あとは、逃げてきたって言うのもあります」
「逃げてきた? 何から?」

 文が逃げるほどのこととは、なんだろうか。霊夢は少し首を傾げた。
 訊かれた文は、何故か苦笑いを浮かべている。

「いやー、実は妖怪の山でもトリックオアトリートだらけでして」
「は?」
「もう私の家に食べ物ありませんよ」
「どんだけあんたの家に押し掛けられたのよ……。というか、食べ物ないって、お菓子だけじゃないの?」
「お菓子が無いって言ったら、同僚には米を持ってかれ、知り合いの河童には野菜を持ってかれ、知り合いの哨戒天狗には果物を持ってかれました。ちょっとした強盗ですよ、これ」
「あんたなら、拒絶することも出来たんじゃないの? 実力だってあるし」

 霊夢からすれば、文が素直に渡すなんて到底思えなかった。
 相手が何人だろうと、紫や萃香などのジョーカー的存在でさえなければ、簡単に追い返せる実力を持っているのが文だからだ。

「同僚ならともかく、友好関係の河童や身分が下の哨戒天狗に攻撃仕掛けちゃあ、私が悪者じゃないですか。そんなことしたら、同僚に『射命丸文、ハロウィンを否定? 家に来た罪の無い河童や哨戒天狗をボコボコに!』とか書かれるのが目に見えてます」
「あー……新聞って怖いわね」
「空気の読めない射命丸文、なんて噂流されたくないですし」

 ため息を零す文を見て、意外に苦労してるんだなぁと珍しく同情心が湧く霊夢。
 霊夢も洋菓子の類は魔理沙たちに持って行かれたが、流石に食糧全ては持ってかれてない。どう見ても、文の方が悲惨だった。
 少し、可哀想にさえ思える。

「あんた、ご飯とかどうするのよ?」
「まぁ幸いお金に余裕はありますし、人里かどっかで何か買ってこようかなーって思ってます」
「良かったら、食べてく? 簡単なものしか作らないけど、そろそろお昼だし」
「本当ですか!?」
「うあっ!?」

 霊夢の言葉を聞いて、文はまるで子どものように目をきらきらと輝かせた。
 そして、霊夢の両手を包み込むようにぎゅっと握る。冷たい風にあたっていたから、手は冷え切っていた。
 霊夢は文の突然の行動に、目を丸くする。

「た、食べてく?」
「是非お願いします!」
「それと、手離しなさい。あんたの手、冷たいのよ」
「手が冷たい人は、心が温かいのですよ?」
「そんなことはどうでもいいの。寒いってば」
「では温めてあげます!」
「は? どうやってよ?」

 文は霊夢の手を自分の手のひらで、優しく揉み始めた。女の子らしい柔らかい肌が、ぷにぷにとして心地良い。
 だが、霊夢としては少しくすぐったさを覚える。
 ぷにぷに。さわさわ。すりすり。
 その動作一つ一つが、気恥かしさとくすぐったさを霊夢に与えている。

「ちょ、んっ……くすぐったいし、やめなさいよ」
「温まってきません?」
「そりゃ、ちょっと温かいけど……」
「なら良いじゃないですか。ほら、もう片方の手も」
「あ、ちょ、だから良いってば!」

 腕をぶんぶんと振って、文の手から逃れようとする。

「あーあー霊夢さん、そんな腕を振っちゃったら腋が見えますよ。ほら、腋チラしちゃいますって」
「何よ腋チラって!」
「腋チラリズムの略ですよ。マニアにはたまらないそうです」
「……あんた、お昼ご飯なしにするわよ?」
「超すみませんでした」

 速攻謝罪した。
 無駄に格好良い声で謝罪した。
 白い歯、爽やかな笑みを浮かべつつ、謝罪した。
 そんな文に対し、霊夢はとても良い笑顔で一言。

「うん、なんかウザい」
「酷い!?」







 ~少女料理中~



「霊夢さーん、何作るんですか?」
「何か食べたいのある?」
「霊夢さんが食べたいなー、なんちゃって」
「あっ、なんか五秒後くらいに包丁握るの失敗しちゃって、そっちにぶん投げるかもしれない」
「怖っ!? じょ、冗談ですってば! あ、あははー」
「で? 結局何か食べたいものある? 無茶なものじゃなければ、リクエスト受け付けるけど」
「んー霊夢さんの料理ならなんでも良いですよ、美味しいって分かってますし。あ! でも、鶏肉使った料理はご遠慮願いたいです」
「ん、分かったわ。けど、あんまり期待しないでよね? そんなハードル上げられても、特別美味しいものなんて作れないわよ」
「いえいえ、宴会のときに出される料理の中で、私は霊夢さんの料理が一番好きですから」
「妖夢や咲夜の方が、美味しいの作ると思うけど……。でも、褒められて悪い気はしないわ。ありがと、文」
「楽しみにしてますねっ」







 ~少女料理終了~



「文、これ持ってってー。私、お茶淹れてくるから」
「あ、はいー」

 料理を運び、卓袱台の上に並べる。一度では全て運ぶことは出来ず、何回かに分けて運ぶ。
 そして文が料理を運び終わって待っていると、霊夢がお茶を持ってきた。

「はい、お待たせ」
「それでは、いただきます!」
「はい、いただきます」

 二人とも、手を合わせていただきますをする。
 文は箸を手に取り、料理に手を伸ばす。

「ん、美味しいです」
「そう、良かったわ」

 文の言葉を聞いて、ほぅっと一息。
 そして霊夢も、料理に手を付け始めた。

「そんなほっとしなくても。私は最初から美味しいって信じてましたし。やっぱり霊夢さんのような人でも、不安になったりするのですか?」
「微妙に引っ掛かる言い方に聞こえるけど……。そうね、やっぱりちょっと不安にもなるわよ。特にあんたみたいに、期待してる人に食べさせるとなるとね」
「ふむ、そういうものなのですかね。私は誰かに自分の料理を食べさせるなんてこと、しないので分かりませんが」
「そういえば文って料理上手なイメージあるけど、宴会で手伝ってくれたことないわね」

 見た目でふと忘れがちになるが、文はこれでも霊夢の何十倍も長く生きている。料理の知識も経験も、霊夢より豊富だろう。
 出来るならば、食べてみたい。そんな欲求が、霊夢の中で生まれていた。

「ほら、私って手伝いとかする性格じゃないですし」
「自分で言うな。自覚してるなら手伝いなさいよ。いつも人手が足りないのは、料理作ってる私たちなんだから」
「嫌ですよー。ま、でも霊夢さんだけになら、今度作ってあげても良いですよ」
「え? なんでよ?」
「なんか食べてみたいーって目線で見られてますし、今日は御馳走になっちゃってますからね」

 霊夢の視線に込められた思いに、文は気付いていた。
 けど過度な期待はしないでくださいね、と文はおどけたように言って見せた。
そうは言われても、霊夢は期待してしまう。具体的な日は約束していないけれど、いつか近いうちに絶対食べさせて貰おう。そんなことを思った。

「あ、霊夢さん、おかわりいただけます?」
「あー少しは残ってかしらね。って、食べるの早いわね」
「幻想郷最速ですよ?」
「くたばるのが?」
「いえ、食べるのが。今くたばっちゃったら、霊夢さんに手料理を振る舞うことが出来ないじゃないですか」
「はいはい、ありがと。おかわり持ってくるから、ちょっと待ってなさい」
「はいー」

 霊夢は立ち上がり、皿を持って台所の方へと向かう。
 いつもより少し賑やかな食事は、どうやらまだもう少しだけ続くようだ。






「で、食べ終わったのになんであんたはまだ居るのよ?」
「コタツぬくぬくー」
「……」
「あぁ、コタツ捲らないでください! 寒いです!」

 食べ終わった後、コタツに入ったまま動かない文。
 霊夢は文が入ってるのとは反対側の方を捲り、わざと風を入れた。寒い寒いと、文はコタツの中で足をばたつかせる。そのせいで、短いスカートから白い布がちらっと見えた気がしたが、霊夢は見なかったことにした。

「大体、食べたら帰るだなんて、一言も言ってませんもーん」
「そりゃあ、そうだけど……」
「それともなんですか。霊夢さんは、私がここに居ちゃ迷惑だと言うのですか? あやややや、私悲しくて泣いてしまいます。このままじゃ、涙で溺れて死んでしまいます」
「もういっそ、くたばりなさいよ」
「酷いです。今の言葉、とっても傷付きました。傷付いたので、蜜柑を要求します」
「っ、こいつ……」

 人を怒らせるのが特技なのかこいつは。霊夢はそう思い、文をどうしてくれようかと考える。
 そこで視界に入ったのは、コタツを捲って見えている文の細い足。
 そして、今日という日。
 一つアイディアが浮かんだ霊夢は、とても楽しそうに、口元を歪めた。その霊夢の笑みを目撃したなら、誰もが逃げ出すであろうが、生憎今は誰も見ていない。

「ねぇ、文」
「はい? なんですかー?」
「トリックオアトリート?」
「……はえ?」

 霊夢の言葉に、文は思わず間抜けな声を出した。
 そしてそれと同時に、妙な危機感を覚える。何故なら、文の足首を霊夢ががっちりホールドしていたからだ。

「れ、霊夢さん、何故突然その言葉を?」
「私はまだ言ってなかったなーって思ってね。で、どうなの? トリックオアトリート?」
「あ、あのですね、霊夢さん? 言いましたけど、私は今もう食べ物すらない状態なんですよ? お菓子なんて渡せるわけが――」
「つまり、悪戯ね」
「え、ゃ、ちょ……」
「悪戯、で良いのね?」
「せ、選択肢がないように思えるのですが!」
「それじゃあ、仕方ないわよね。お菓子が無いなら、仕方ないわ。悪戯するしかないわよねー」
「ス、ストップ! ちょっとストップですって! 何靴下を脱がして……って、きゃうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 
さて、文ちゃんはどんな悪戯をされたのか。靴下を脱がされてくすぐられたのか、まさか足を舐められたのか、それともさらに奥へと手を伸ばされてスカートを取られたのか。
それは、悪戯をされた文ちゃんと、した霊夢さんだけが知っています。
というわけで、トリックオアトリート? お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ!
お菓子って良いですよね。家族と一緒に食べるのも、一人で食べるのも、ぽかぽかほんわか穏やかな気持ちになれます。
そんなこんなではありますが、少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです。
喉飴でしたー。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
一体どんな悪戯をしたんだ…
良いハロウィンでした!
2.Misaki削除
続きを切望しますっ(*゚∀゚)ノ
3.名前が無い程度の能力削除
いいないいな!やっぱり会長のあやれいむはいいな!
いったいどんな悪戯をし、されたというの・・・
4.名無しになる程度の能力削除
早く悪戯の内容を教えて下さい!ハアハア
5.削除
悪戯……あえて何も言いません。何故なら会長ならきっとやってくれると信じているから!
今回も最高でした!
6.名前が無い程度の能力削除
トリック・オア・喉飴! ですわ
7.名前が無い程度の能力削除
炬燵プレイと申したか
8.名前が無い程度の能力削除
あれだな、きっと焼き鳥のタレでも塗られたんだな。
9.幻蒼削除
なん・・・だと・・・!?
ちょっと行ってくる
10.拡散ポンプ削除
この後で、お煎餅を貰ったくせに悪戯をし返す文さんを幻視。
にやにや。
11.名前が無い程度の能力削除
いいあやれいむでした。こちそうさまです!

そして続きを期待しています!
会長ならきっとやってくれるはず!
12.ケトゥアン削除
余裕で間に合ってるじゃないですかーw
最後でちゃんとトリックオアトリート出してきたのはさすがです
どんな悪戯をされたか想像して…自分も大分汚れたなぁと再確認しましたw
もっかい読み返してきます!
13.名前が無い程度の能力削除
炬燵プレイってエロいッスよね(違

続きが某所に投稿されることを期待して全力で待機します!
14.名前が無い程度の能力削除
霊夢の炬燵プレイにより文の初めてが散りましたとさ。

めめめめ♪めめめめ♪

こんな感じの文が見えた俺はめめめめ末期だ。
15.名前が無い程度の能力削除
個人的にはくすぐられた文が反撃して二人でくすぐりあいっことかしてほしいなぁ……
それはともかく、もうによによしっぱなしです!
他の4人、特にルーミアの来たときの話も読んでみたいなと思いました。
16.オオガイ削除
手のひらぷにぷにいいですね。
ニヤニヤをありがとうございました。