Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

かんちがいなお祭り

2010/10/31 01:21:46
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※CAUTION※

この作品には、以下の要素が含まれています。

・ねじが何本か抜けている小悪魔
・レミリアとフランドールの喧嘩
・ほとんど出番のない美鈴と咲夜
・けっこう苦労人なパチュリー

以上の要素に苦手な点がある場合、また
文章中に耐えられない箇所があった場合は、
すぐにブラウザの戻るを押してください。ごめんなさい。

※CAUTION※





陽が沈んで辺りが騒がしくなり始める頃、小悪魔はふと思い出したかのように言った。

「パチュリー様、今日は何の日かご存知ですか?」

しかし、聞かれた側は気分を害したのか、むっとした表情でいる。

「……。それは今話さないといけないことなの?」
「だって、本の整理ばかりじゃ退屈――」
「月符『サイレントセレナ』」
「日符じゃない優しさが身にしみるうぅぅぅ」

一瞬の轟音の後、陽が昇っていた頃よりも静かになったことに満足したのか、表情を緩める。
しかし、遠くで聞こえ始めた騒がしい喧騒に気づくと、すぐにため息を漏らした。

「……はぁ、今日も騒がしい一日になりそうね」



物語は、少し時間を遡った頃から始まっていた……






いつものようにメイドを侍らせてお茶を飲んでいるけど、どうにも気分が盛り上がらない。
昨日のお茶会が楽しすぎたのがいけなかったのかもしれない。

「咲夜、退屈だと思わない?」

面白い返事に期待しつつ聞いてみる。
瀟洒なメイド長は、こういうこともさらっとやってのけるに違いない。

「お嬢様がそう思うのであれば、私もそう思います」
「あなたの意見を聞いているのだけど」
「では、僭越ながら申し上げます。掃除に終わっていないので、それどころではありません」
「……それは悪かったわね。私のほうはもういいから、仕事に戻りなさい」
「御意に」

予想を超える答えにげんなりしてしまった。
まさかここまでとは……もう少し主である私に気を遣ってほしいものね。
とりあえず仕事に戻らせたものの、今度は今まで以上に退屈になってしまった。

「……はぁ、退屈ねぇ」
「……フランは大丈夫かしらね。様子を見に行きましょう」

きっと何か面白いことをしてるに違いない。
一人遊びの天才になっているかもしれないから、何かやっていたら教えてもらおうかしら。
けど、手ぶらで行くのもなんだか……お茶を持っていけば大丈夫だろうか。
咲夜にお茶の淹れ方を教わったこともあるし、いけると思う。いや、むしろいい案だと思う。
近くの妖精メイドにあの子のカップの場所を聞いて、ついでにお湯の用意もしてもらう。
すぐ横にいた料理担当のメイドが「ポットのお湯を使っていい?」なんて聞いてくるんだもの。
しかも「うん、いいよー」の二つ返事。軽く頭を小突いてやったら、泣かれてしまった。
その泣き声に反応して続々と集まってくる他のメイド達。つまみ食いがそこかしこで発生していたらしい。
そして騒ぎを聞きつけた咲夜に叱られてしまった。何でか私も一緒に。
……妖精メイドは相変わらずねぇ……


... ... 少女移動中 ... ...


そんなこんなでやって来ました地下の部屋。
これといって暴れた様子もないので安心しつつ、ノックをして声をかけてみる。

「フラーン。ちゃんと大人しくしてるー?」

ちょっと軽過ぎたかしら?
とにかく、ひたすら返事を待つ。
いきなり扉ごと攻撃されるかも、なんてことも思ったけど、いまさらどうしようもない。

「退屈だよー……」

退屈すぎて答えるのも億劫だったのか、力の抜けた声が返ってきた。
それとも退屈すぎて眠かったのかしら。
ベッドに寝転んでぐったりしている姿を思い浮かべて、思わず笑ってしまう。
いけないいけない、こんなところを見られたらまた勘違いされてしまうわ。
ただでさえ今までの処遇をよく思われていないんだもの、もっと緊張感を持たなきゃ。

「……お、お茶を持ってきたのだけど、一緒にいかが?」

思えば、こうして部屋でお茶を飲むのは初めてだったかもしれない。
というか緊張し過ぎてどもってしまった。
思い込みでここまで気持ちを切り替えることができることを誇りに思う。
……長い沈黙。
気分を害してしまっただろうか?

「…………。咲夜のお茶がいいなー」

やっと答えたと思ったら、私の本心をそのまま表現したような言葉。
咲夜の淹れる普通の紅茶は絶品で、正直私には真似できない味がする。
この声もきっと届いているはずだけど、咲夜は一向に姿を現さない。
……自分で淹れるしかないみたいね。
大丈夫、私だって咲夜に何度も教わった身。
限りなく咲夜のお茶に近い、オリジナルの味を出すことができるはず。

「贅沢言わないでちょうだい。咲夜は仕事で忙しいのよ」

先ほど会った咲夜は本当に忙しそうだった。
妖精メイド一人一人にナイフを投げつけて一言「真面目にやりなさい」と言って私を強制移動。
その後つまみ食いを阻止できなかった料理担当の子達と一緒にお説教されて、最後に拳骨ももらった。
主に手を上げるなんて、と言いたかったけど、仕事の邪魔をしたのは本当に悪いと思っていたから、おとなしく黙っていた。
その後、咲夜が本物のティーカップとお湯を用意してくれた時、やっぱり最高の従者を持っているなと再認識した。
……返事がないのでよく耳を澄ましてみると、小さくうなる声が聞こえる。
うーん、うーん、でもなぁ、だけどどうしよう……なんとかかんとか。
真剣に考え込んでしまうほどの事態なのだろうか。というか、本当に嫌だった?

「しょうがないなー」

やっと返事を聞けたと思ったら、今度は騒がしくなる。
ガタガタ、バサバサ、ドタタタタ……
本当に何かの邪魔をしてしまったのかしら。
あぁ、気になって仕方ない。私はもしかして、とんでもない失態を犯してしまったのかもしれない。
扉の奥から弾幕が飛んでくる様を思い浮かべ、体が強張る。
……ここは避けずに全弾直撃するくらいの覚悟が必要かもしれない。

「はい、どうぞ。ちょっと散らかってるけど……」

そんな緊張を吹き飛ばしてくれる、我が妹のはにかむ笑顔。
よかった。本当によかった。追い返されるかもとか一瞬でも考えた私を責めてちょうだい。
視界が霞んでよく見えないけど、きっと天使のように可愛いに違いない。
なんて思いながら突っ立っていると「ほら、はやくはやく」と背中を押しながら部屋に押し込んでくれるフラン。

「ありがとう。お邪魔するわね」

これから何を話そうかしら。
今までしてきたことを謝ろうかしら。
お茶が美味しいか聞こうかかしら。
あぁ、話したいことがありすぎて頭の中がまとまらないわ……







お姉さまが部屋に来てくれたのはびっくりしたけど、嬉しかった。……あまり話が弾んでないけど。
紅茶を淹れてくれたのも嬉しいけど、お湯が冷めちゃうと美味しくなくなっちゃった。
これといってやることもないし、退屈。

「「退屈ねぇ」」

お姉さまと声が被っちゃった。
お姉さまも気づいたのか、優しく笑って私のほうを見てくる。
なんとなく、恥ずかしいなぁ……
何か話してごまかさないといけない気がしてきた。

「お姉さま、今日はお日柄もよろしい限りですし、弾幕で遊びませんこと?」

できる限り丁寧な言葉で提案してみた。
けど、すぐに首を横に振った。もう、なんでいつもそうなのよ。

「お嬢様風に言ってもダメよ。咲夜の仕事が増えちゃうじゃない」
「えー。退屈退屈退屈ー!」
「駄々をこねていると、いつまでたっても一人前のレディになれないわよ」
「なれなくていいもん。暇だよー」

確かパチュリーが、退屈は全ての妖怪の敵だ、なんて言ってた気がする。
退屈は妖怪をダメにして、ダメになった妖怪は博麗の巫女に成敗されちゃうとか何とか。
……ん、パチュリー?

「そうだ。お姉さま、パチュリーは起きてるの?」
「あぁ、それはいい考えね。遊びに行きましょうか」
「でもその前に、お茶は飲んでしまいましょう」
「えー、お姉さまの淹れたやつ美味しくないー」

冷めた紅茶が不味いだけなんだけど、口から出てしまったものはしょうがない。
それとなくお姉さまの顔を見てみると、仕方ないって感じの顔をしてた。
ごめんなさいって謝りたいけど、言ってしまったことを取り消すことはできないと思う。
こういうとき、考えていることとは違うことをしゃべってしまう自分の口に腹が立つ。

「血の入っていない紅茶はまだ早かったかしら……」

でも、今はそれ以上に腹の立つことがある。
5歳くらいしか変わらないのに、子ども扱いされてる気がする。

「分かったわよ、飲めばいいんでしょう、飲めば」
「……これでいいんでしょう」
「よくできました」

一瞬私に向かって手が伸びてきたけど、途中で止まってしまった。
……何か悪いことしたかなぁ……

「……その前に、少しこちらにいらっしゃい」
「早く行こうよー」
「ほら、髪がまとまりきってないわよ。あぁもう、リボンもこんな結び方で……」
「だって、どうせ誰も見ないもの」

本当は急いで整えたからなんだけど、口が滑っても言えない。
部屋に来てくれたのが嬉しかったなんて、絶対に言えない。

「常に身だしなみが整っているのは女として最低条件よ。例え誰にも会わないと分かっていても」
「あぁもう、小言は後で聞くわ。ほら、さっさとなおしてよ」
「……姉に対してその口調はいただけないわね。言い直しなさい」

あ、怒らせちゃった?
……どうしよう、こういうときはどうすればいいんだろう。
何か言わないといけないんだけど、なんて言ったらいいんだろう。

「何が姉よ。退屈なときだけ顔を見に来て、あれこれ小言を言いに来るのが姉だって言うの?」
「む、そんな言い方はないでしょう。私はあなたが心配だからこうしてわざわざ――」
「頼んでも無いのに来るんじゃないわよ!」
「頼まれたら絶対来ないわよ!」
「「むむむむむむ……」」

怒ったふりをしてにらみ合っているけど、本当は後悔してる。
だって、あんなに嬉しかったのに、ちょっと意地を張っただけなのに……
たまに会いに来てほしいから、いつかお願いしようと思ってたのに、絶対来ないって言われてしまった。
お姉さまは本気で怒ってるみたいで、顔だけでなく耳まで真っ赤になっちゃってる。
……どうしよう、もう会いに来てくれないのかな……

「……ここはパチェに聞いてみましょう」

しばらくして、お姉さまがぽつりと一言言った。
確かに、パチュリーならきっと何とかしてくれると思う。

「そうね。お姉さまがお姉さまじゃないことを証明してもらうにはちょうどいいわ」
「ふん。私の親友がそんなことを言うはずないわよ」
「一人で勘違いしてるだけなんじゃないの?」
「むきー! パチェは私の親友よ!」
「それは本人に聞けば分かることよ。ほら、さっさと行きましょう」
「パチェは絶対親友だもん! 親友だもん!」

けど、私の口は思ってもいないことをどんどん喋ってしまって……
もう、どうしたらいいんだろう……





最初は遠くで聞こえた喧騒が、今私の目の前で繰り広げられている。
二人とも色々と私に聞いてくるのだけど、いまいち内容が分からない。

「……で、私はどうすればいいわけ?」

さり気なく言っただけで、二人に睨まれてしまった。
危ない危ない、迂闊な発言で身を滅ぼすところだったわ。

「パチェは私の親友よね!?」
「こんなの、私のお姉さまじゃないわよね?」

改めて二人の目元を見ると、やけに潤んでいる。
二人とも本気でそう思っているのだろうか?
なんにせよ、とりあえず気を静めさせないといけないのは確か。

「はぁ……とりあえずお茶でも飲んで落ち着きなさいな」
「小悪魔ー、お茶を――」
「だが断る」

どうしてこう、気を使うことができないのか。
昔の貴方は従者として優秀だったのだけど。

「うだうだ言ってないでさっさと用意しなさい」
「あぁ、人を見下すその視線がたまりません!」

漏れる!濡れる!と喧しかったので、一冊本を投げつけておいた。
……どこで道を選び間違えたのかしらね。
とりあえず用意はしてくれるようだけど……妹様に悪影響を与えかねない。

「…………。悪いわね、最近おかしいのよ」
「小悪魔、喜んでたの?」
「フラン、あなたはあんな使い魔を持っちゃダメよ。パチェみたいになるから」
「それはどういうことかしら?」
「言った通りじゃない。事あるごとに咳き込む虚弱体質になるってことよ」
「全く、言いたい放題言ってくれるわね」

今のやり取りで熱が冷めたのか、いつも通りのレミィに戻ってくれた。
正直、目の前であんなやり取りをされたら私も冷めるわ。氷点下まで。

「……ねぇパチュリー。私も小悪魔に――」
「駄目よ。あれは私のだし、妹様の力にも耐えられないわ」
「そう……」

案の定、といったところかしら。
危うく変な道を選ばせてしまうところだった。
全く、あとでお仕置きね。
……効果があるのかは置いておいて。

「で、私は何を聞かれたのかしら。早すぎて聞き取れなかったわ」

二人とも落ち着いたようなので、改めて聞いてみる。

「えっと、パチュリーがお姉さまの親友なのかってことと……」
「私がフランの姉であることを証明しなさいってことよ」

妹様は怖気づくような声で、レミィは威厳のある言葉でそれぞれ言う。
なんともやりづらい。

「……どう説明したらいいものかしらね」
「説明するまでも無いわよ。パチェは私の親友であるから、私はパチェの親友である」

圧倒的に一方的な理論を軽々しく発言するその軽率な行動に遺憾を表明――

「そうやって、一方的に決め付けるのはよくないんじゃないの?」
「……え、違う、の?」

妹様の的確な反論に、大きなダメージを受けたらしいレミィ。
途端に声が小さくなり、手を胸の前で合わせつつ、上目遣いで私を見つめてくる。
妹様も不安になったのか、同じように見つめてくる。

「さて、どうしたものかしら……」
「ぱ、パチェ……。私は貴方の、親友じゃ、ないの……?」
「パチュリー、親友じゃなかったの?」

背中の羽まで縮んでしまったレミィ。主として、姉としてどうなのかしら。
そして……妹様は、なんとなくだけど、親友であると分かっている上で聞いてきている様子。
どうして喧嘩になったのか、その理由を確かめる必要がありそうね。

「心配しなくても、私はあなたの親友だし、あなたは私の親友よ」
「よ、よかった……」

本当に安心したのか、目元を指で拭うレミィ。
基本は回りを気にせずまっすぐ突き進む、れっきとした吸血鬼なんだけど、変なところで弱弱しい。
まぁ、だからこそ私が支えてあげるわけだけども。

「レミィ。館の主ともあろうものが、この程度のことで弱気になってどうするのよ。しゃんとなさいな」
「ん、そうだったわね」
「ぶー、お姉さまばっかりずるいー……」

背中の羽が威厳を取り戻したから、レミィはもう大丈夫。
妹様はなんだかご機嫌斜めの様子。
なんとなく理由が分かった気がするけど、確証がほしいところね。

「さて、次は……なんだったかしら?」
「私がフランの姉であることを証明せよ。期待してるわよ、親友」

しかし、元に戻ったら戻ったで鬱陶しいわね。
こんなのに付き合う物好きなんているのかしらね……私以外に。

「……レミィ、あなたはどう思ってるの?」
「ん? 私はフランの姉なんだから、フランが私の妹でないわけがない」

相変わらずの、理論と呼べるかすらも怪しい理論。
けど、今回はその理論に乗ってみましょうか。

「……とのことなんだけど、どう思う?」
「お姉さまが私のお姉さまなのか怪しいから、私がお姉さまの妹であるかも怪しい」
「まぁ、当然そうよね」
「そんなの疑うまでも無いわよ。姉を信用しなさい」
「むぅ。その高慢ちきなところが嫌いなのよ」
「こ、紅魔……なんですって?」
「こーまんちきよ! お姉さまみたいな性格をそういうのよ!」
「そ、それは当たり前じゃない。私は貴方の姉であり、紅魔館の当主なんだから」
「……レミィ、言葉の意味分かってるの?」
「……当たり前じゃない……」

ちゃんと分かっているらしい。
これはもう、レミィの性格が招いた災いね。
妹様も慣れてくれると助かるのだけど、それは将来に期待しましょう。
今はなんとか仲直りさせないと。
ただでさえ緊張する関係なんだから……

「それじゃあ、こういうことでどうかしら」
「私はレミィの親友。妹様は――」
「フランって呼んで」

妹と呼ばれることすら嫌がるほどだったのだろうか。
しかし、ここは素直に従っておきましょう。
名前で呼べるほうが色々と便利だし。

「わかったわ。フランはそのことをどう思う?」
「お姉さまとパチュリーは仲がいいし、本当だと思う」
「ふん、そんな当たり前のこと――」
「レミィは少し黙ってて」
「うー……」

余計なことを言うから拗れる、というのを理解しようとしないから困る。
膝を抱えて丸くなったけど、大丈夫でしょう。
そこに小悪魔が本を乗せているけど、別に問題ないでしょう。
というか、お茶はどうしたのかしらね。

「私は、レミィが私を親友だと思ってくれているのと同じ理由で、フランが妹であると思うわ」
「……それっておかしくない?」
「別におかしくないわよ。当人同士がそうであると思えば、その関係は成り立つの」
「つまり、私がパチュリー様の恋人であるというのも夢では――」
「黙りなさい」

飛びかかって来る小悪魔に本を向けて、少し力を込める。
するとものすごい勢いで風が吹き出て、小悪魔はものすごい勢いで吹き飛んでいく。今日は黒のガーター。
吹き飛ばされた小悪魔は屈んだレミィの頭上を飛び越えて本棚にぶつかり、降り注ぐ本の下敷きになった。
まぁ、いつものことだし大丈夫。

「ひ、ひどい……」
「これに懲りたなら、少し反省したら?」
「パチュリー様の愛が重いです……がくっ」

重いのは本でしょうに。
それにしても、最近下着が大胆になってきてるわね。
まさかとは思うけど、私に見せ付けているのかしら?

「はぁ、困ったものね……」
「小悪魔はパチュリーの恋人なの?」

純粋なフランがまぶしい。
今後一切、小悪魔を近づけないようにしよう。

「そんなわけないじゃない。さて、さっきの続きだけど」
「レミィから見て、フランはレミィの妹。じゃあ、フランから見てレミィはどうなの?」
「お姉さまは、その……」
「ほら、さっきからお姉さまって言ってるじゃない。レミィはお姉さんなんでしょう?」
「……うん」

うつむき加減で髪をいじりまわすフラン。
売り言葉に買い言葉で始まって、お互い引くに引けなくなったってところかしらね。
全く、よく似た姉妹なんだから。

「レミィはフランを妹と思い、フランはレミィを姉と思っている。よって、二人は姉妹である」
「……なんかずるい」
「ずるくて結構。ところで、どうしてそんなことを言い出したの?」
「え、だって」
「「退屈だったから」」

いつの間にか元気になったレミィの声まで重なっている。
……本当によく似た姉妹なんだから……

「姉妹そろって、惚れ惚れするほど見事な吸血鬼っぷりね」
「褒めないでよ。照れるじゃない」
「パチュリー、それって褒めてるの?」

妹様は偉大なお姉様と違って謙虚さが垣間見えるわね。
顔がにやけている辺り、根っこの部分はそう変わりないみたいだけど。

「褒めてるわよ。さて、今日は西暦ではいうと10月31日……」

手近にある本を適当にめくってみる。
外の世界は毎日何かしらの記念日だった気がするから、こういうときに悩まないで済む。
さて、今日は一体何の日かしら……

「この本によると、今日は安部清明の命日記念日らしいわね。陰陽師ごっこなんてどうかしら」
「いいわね。紅白がそれっぽいし、招待しましょう」

あっさり承諾。まぁ、退屈がしのげれば何でもいいんでしょうけど。

「パチュリー、陰陽師ってなに?」
「妖怪を退治する人間のことよ」
「じゃあ、他の人も招待してよ。魔理沙とか、赤くないほうの巫女とか」
「あれも一応人間だったわね。招待状を送りつけておくわ」

山のほうの巫女は神様だったような気がするけど……
きっと既に招待状を送ってしまっているだろうから、もう手遅れ。

「お姉さま、咲夜はどうするの?」

フランはレミィと違って勢いだけで物事を判断しないみたいね。
姉よりも優れた妹って、案外珍しくないのかもしれない。

「咲夜は料理の準備で忙しいんじゃないかしら」
「じゃあ、お菓子でいいんじゃない? 昨日、いっぱいあるって言ってたし」
「あら、この館のお菓子は私が食べつくしたわよ。昨日」

どうしていつもろくでもないことばかりするのだろうか。
咲夜のことだから、うまくやってくれてると思うけど。

「レミィ、咲夜が本当に全部持っていくと思ってるの?」
「…………」
「じゃあ、咲夜も参加ね!」

あ、睨まれた。分かってはいたのね。
不機嫌なレミィと違って、フランは嬉しそうね。
羽が忙しなくはためいている辺り、かなりご機嫌の様子。

「他に人間といえば……里にたくさんいるわね」

またそんな無茶を言う。
レミィ、それは分かって言ってるのよね?
突っ込まれること前提で言っているのよね?

「さすがに人数分用意できないわ。その三人プラスアルファで抑えておきましょう」
「やっぱり? 咲夜ー、今の聞いてたー?」
「はい。フランドールお嬢様はお菓子を奪う側で参加されますか?」
「うん!」
「では、早速準備にかか――」
「ちょっと、私には聞かないの?」

……聞かなくても分かるけど。
というか、奪う側ってどういうことかしら。

「……奪われる側で参加なさるおつもりですか?」
「奪う側に決まってるじゃない」
「かしこまりました。早速準備にかかります」
「で、なんで咲夜はあんなことを聞いてきたの?」

奪う、奪われる。はてさて、これらは一体何を意味するのか。
これからすることを話した覚えは無いけど、瀟洒なメイド長は何でも知っているのだろう。
そういえば、今日はお茶を持ってきてくれなかったわね。忙しかったのかしら。

「陰陽師ごっこなんだから、退治するされるの役割に分かれるのが自然じゃない?」

それっぽいことを言ってみたが、案外的を射ているようだ。
この幻想郷で妖怪を退治するということは、人間はどこかで命を奪われたということだ。
つまり、妖怪と人間に分かれて、人間が妖怪を退治すればいい。

「それもそうね。フラン、ちゃんと手加減するのよ?」
「がんばる!」

美鈴はともかく、レミィやフランは吸血鬼なだけに手加減をしないと非常に危ない。
しかし、遊びの上とはいえ、簡単に退治されてくれるとも思わない。
弾幕勝負なら手を抜いたままなんていうこともありえるけど、実際の妖怪退治に近い遊びだし。

「あとは細かいルールを決めるだけね」
「じゃあ、後は任せたわ。フラン、パーティーだから新しいドレスをプレゼントするわ」
「わ、本当に? お姉さま大好き!」
「も、もう一度言ってちょうだい」
「お姉さま大好き!」
「あぁ、生きててよかった……」

自重しない姉と、上機嫌に何でも言う妹。
ついさっきまで喧嘩していたはずなんだけど……。
こんなに楽しみにしてもらえているのなら、楽しんでもらえるように頑張らないと。

「人間的な意味では既に死んでるんだけどね。咲夜の仕事を増やさないでよ」
「「はーい」」
「さて、実際に殺伐とするわけにも行かないし、そうね……」

とりあえず妖怪側は攻撃禁止として、人間側は弾幕のみ可能。
……追尾するお札は禁止しておいたほうがよさそうね。あと、咲夜の能力も。
……いや、迎え撃つ程度の攻撃は可能にしたほうが……
うーん、一人で考えても……客観的な視点での意見が……
小悪魔は論外だし……レミィ達も……咲夜は……美鈴も……
あぁもう、鴉がうるさいわね……
…………。


―――――――――――――――――――――――――――

文々。新聞 号外第○号

  先日、悪魔の根城として名高い紅魔館で、謎の戦闘が繰り広げられた。
  謎の戦闘とは、いわゆる妖怪に分類される者がお菓子をたくさん持って
 逃げ回り、それを人間が追いかけて奪い取るというものだ。
  はたから見ると異様な儀式のように見えなくもないのだが、一名を除いて
 全員が楽しそうだったので、触れないこととする。
  人間側の参加者は各々の戦利品を手に嬉しそうに帰っていったが、博麗の
 巫女は弾幕に針を混ぜていたため没収されたようだ。
  霧の湖では妖精や門番が真似をして遊んでおり、微笑ましい限りである。
  里に住む人間の方々も、真似をして遊んでみてはいかがだろうか?

※ 遊びのルールや使用している写真の詳細は、清く正しい射命丸にお聞きください。

―――――――――――――――――――――――――――
「10月31日って言ったら普通、ハロウィンですよ?」
「……結果的に似たようなことをやったからいいじゃない。咲夜、どうして言ってくれなかったのよ」
「申し訳ありません。まさか陰陽師ごっこだとは思わなかったものですから」
「無駄に頑張った自分が恥ずかしいわ」
「けど、みんな楽しんでたから問題ないんじゃないですか?」
「紅魔館の食料が減ってしまったわよ」
「別にかまいませんわ、ちょっと買う物が増えるだけですし。それに、お二人の仲がよくなったのは嬉しい限りです」
「そうですよ。十分な成果じゃないですか」
「はぁ……。まぁ、いいか」




最後までお読みいただきありがとうございます。1年くらい熟成された生姜Aです。
この物語が、少しでも退屈を紛らわす作品になっていれば幸いです。

海の外ではメジャーなお祭りがあるようですが、国内ではこれといって何もない一日です。
まぁ、休日がいつもお祭り状態なので気にしてませんけど。

文章でうまく表現できていない箇所が多々あって読みづらかっただろうと思います。
一言何かしら言っていただけると助かりますので、気軽にコメントしてください。
それでは、よろしくお願いいたします。
生姜A
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