Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

秋雨の中、傘をさすことなり

2010/10/30 23:27:47
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「まいったなあ……」


早苗は空を見上げて呟いた。
彼女が買い物をしている最中は機嫌の良かった空も、すっかり泣き出していた。
そこまで強い雨ではないが、かと言って濡れて帰るには辛い。
判断に迷うような雨を樹の下で避けながら早苗はどうしようかと考える。

急いで帰る必要はないのだけれど、このまま止むまで待つというのも億劫だ。
しかし、ここから神社までは結構な距離がある。
この時期の雨は冷たく、シャワー代わりにはなりそうもない。


「お嬢さん、お困りですかな」


まとまらない思考を遮ったのは、どこか芝居がかった幼い声だった。
水たまりを見つめていた視線を上げた先にはどこか得意そうな笑みを浮かべた小傘がいた。

早苗は若干驚きつつ言う。


「小傘ちゃん、どうしたんですか?」
「やっほ。私は散歩。雨降ってるから楽しいよ」


そう言って小傘は無邪気な笑顔を見せる。傘の妖怪だけあって雨の日は機嫌が良くなるようだ。


「それで早苗。今困ってる?」
「まあ、困ってるといえば」
「じゃあ、妖怪が人間を助けたら驚く?」
「それは……驚くかも知れません」


まあ、実際はそうでもないでしょうけど。その言葉は胸中に留める。小傘は肯定することを期待しているようだったのだ。

どうせ新しい驚かし方を考えているのだろう。
早苗はその程度に考えていたのだが、続く小傘の言葉は少し意外だった。


「傘、入れたげよっか」


いくらかの照れくささと不安さを見せながら小傘は申し出る。


「いいんですか?」
「驚いてくれるならいいよ。それで平等になるでしょう?」


言ってしまったら、驚きようがないのですが。
が、その言葉も胸にしまっておく。
驚かせるため、というのは建前だろう。気恥ずかしいからそう言った。
ただそれだけのことだろう。

不安そうにこちらの表情を伺う小傘に、早苗は息を吐いて微笑む。
なんとも健気な妖怪ではないか。


「ああ、妖怪が人間を助けてくれるなんてびっくりです。今夜は眠れません」
「むう、なんかわざとらしい」
「気のせいですよ」


不満げに唸る彼女の頭を撫でてやると、すぐに不満を引っ込め頬を緩める。


「それでは、参りましょう。お嬢様」
「はい、宜しくお願い致します」


芝居を演じるかのような小傘に早苗はうやうやしく手を差し出し、柔らかく細い手をしっかり握りしめた。



しとしと降り注ぐ雨が傘を叩く。
傘の下の広くはない空間を二人は共用しながら、肩が触れそうになれば少し距離をとりながら、ぬかるんだ道を歩く。
小傘は鼻歌を歌い、いつもよりも機嫌が良さそうだった。
傘の妖怪だけあって雨の日の方が調子がいいのか。それとも隣に誰かがいるからか。


「丁度小傘ちゃんがいてくれて助かりました。ありがとうございます」
「え、いや、そんな。私はただ通りかかっただけだから、お礼なんて……」


小傘は照れくさそうに頬を掻く。
人に褒められたことがあまりない小傘はくすぐたっさを感じていた。


「あれ、私を驚かそうとしたんじゃなかったんですか?」
「え……あ、そう! 私は早苗を驚かすために傘を貸したの!」
「はいはい」
「むう……」


からかうような早苗を小傘は睨みつけるが、幼い顔立ちのせいで威圧感よりも可愛さが先立ってしまっていた。

可愛いな……。

「あ、う……」
「っと、すいません。つい」


無意識のうちに小傘の頭を撫でていたようだ。
青空みたいに透きとおった髪は、柔らかくて心地良い。赤面して顔を俯かせているのも、何と言うか、すごく、いい。弄りたくなる気質が出ている。そう小傘ちゃんがいけないのだ……私は悪くない……。


「さ、早苗? 顔がなんか怖い……」
「ああ、なんでもありませんよ」


早苗は名残り惜しそうに頭から手を離す。
解放された小傘は息を吐き、呼吸を整える。
そして、まだ赤いままの頬を向け、恨みがましそうな視線を突き刺す。


「子ども扱いしないでよ、私の方が年上なんだよ」
「本当ですか?」
「本当だよ! ……たぶん、きっと、おそらく」


言っているうちに自信がなくなってきたのか、段々と小声になる。


「歳だけ重ねても意味はないんですよ。中身も成長しないと」
「むう……」


小傘は再び恨めしいとばかりに視線を向ける。早苗はそれを軽く受け流しながら歩き続ける。

しかし、小傘が子どもっぽいというのも無理はないだろう。
付喪神となってから他人と触れ合うような機会は殆ど無かったはずだ。
一人でふらふら風の吹くまま、地に足をつけることもなく生きてきた。
持ち主のいない傘はただ風に飛ばされるだけ。


「さ、早苗……。私は子供じゃないってば」


知らず、また小傘の頭を撫でていた。
どうしてだろう。彼女を一人にさせたくない。もっと誰かと過ごす時間を持って欲しい。
そんなことを思ってしまう。
自分はこんなに世話焼きだっただろうか。

あるいは。

早苗は照れくさそうに目元を下げる小傘をみる。

彼女だからだろか。


「……小傘ちゃん。夕飯食べていきませんか?」


その言葉に、白い鴉を見つけたかのように驚く小傘。


「え? ど、どうしたの? 早苗が優しいなんて……」
「普段どんな目で私を見ているのかよくわかりました」
「い、いや、違うよ? 早苗は普段からすごく優しいよ?」


わたわたと必死に否定する小傘。


「まあ、いいですけどね。どうしますか?」
「いいの?」
「疑問文に疑問文で返すとテスト零点になるんですよ」


なんとなく小傘の頬を引っ張ってみる。
餅みたいに伸びて、マシュマロみたいに柔らかい。


「いふぁい」
「で、どうしますか?」
「いふゅ」
「よろしい」


手を離すと小傘は頬をさする。


「痛た……早苗ってば強引」
「小傘ちゃんが可愛いから悪いんですよ」
「そ、そう? なら、いいよ」


適当に言った早苗の言葉を信じる小傘。世間知らずというかアホの子というか。

まあ、可愛いというのは嘘じゃないですけどね。

無邪気に鼻歌を歌う小傘を横目に早苗はそう思った。
「折角ですから泊まっていきますか?」
「あ、知ってる。布団の中で好きな人の名前を言い合うんだよね」
「言わないとわかりませんか?」
「いーや(ぎゅっ」
すねいく
https://twitter.com/kitakatasyurain
コメント



1.ぺ・四潤削除
はふぅん……
何か言いたいけど言葉が出ない。ああもう可愛いな。
2.奇声を発する程度の能力削除
こがさなひゃっほい!
3.名前が無い程度の能力削除
うおおおおお!!可愛い!!
4.拡散ポンプ削除
雨の中をほのぼのと歩いている二人が見えました。
ああ、可愛い。
5.名前が無い程度の能力削除
良い! すばらしい! もう結婚しちゃえよ!
6.名前が無い程度の能力削除
んー小傘可愛いw
あと多分 彼女だからだろか。のところは 彼女だからだろうか。 のほうがいいと思いまする