※好き合っている前提の話。短いです。
朝の寒さが一段落してようやく太陽の恩恵を受けられるようになったお昼頃。
咲夜は手編みのマフラーを首に巻きつけて、紅魔館の正面扉よりゆっくりと外に歩み出た。
いつもより一枚多く服を着こんでいるのだが、さすがにそれだけで隙間風を全て防げるわけでもなく、背中から伝わる寒さに咲夜は身震いする。
震える片手に持った竹細工のバスケット。中身は自分と美鈴の分の昼食だ。
辺りに漂うのは香ばしいパンと紅茶の匂い。先ほど廊下ですれ違った妖精メイドの何匹かはよだれが垂れるのを抑えきれない様子であった。
咲夜の紅茶の腕は館外にもその名を轟かせるほどのものである。さらに彼女の能力により、その紅茶によく合うパンと一緒に出来たての味をいつまでも楽しむことが出来る。
そんな丹精こめたお弁当を食べられて、館の門番は何て幸せ者なのだろう。住人の誰しもがそう口々に囃し立てていた。さらに、ある者はそれを愛妻弁当と命名したり、館主に至ってはそれを餌づけとからかって呼んだりもしていた。
だが、そのような外聞を本人はさして気にしてはいなかった。
好きな人の幸せそうな表情を見るために作っているのだから、咲夜にとっては外聞も手間暇も全く関係はないのだ。
徐々に近づいて来る館の正門。その奥で待っている人のことを思い出すうちに、背筋を震わせていた寒さも忘れ、咲夜の心も身体もぽかぽかとあたたかくなっていく。
さすがに鼻歌を歌いながら踊り歩くことはしないが、歩調も気持ちも随分と軽やかである。
「こんにちは、美鈴。昼食の時間よ」
辿り着いた門の前にはいつもと変わらぬ姿があった。
「あ、こんにちは、咲夜さん。いつもありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていいわよ。好きでやってるんだし」
開いた門扉の奥で恭しく頭を下げ感謝を述べる美鈴に、咲夜は少々困り顔で片手のバスケットを差し出した。
「この匂い……今日はクルミとレーズンのパンですか?」
「さすが、鼻がいいわね」
「ふふ、咲夜さんが作ってくれたものなら、何でも当ててみますよ」
あら言ったわね、と軽く笑い合う。
こういう自信たっぷりな物言いが可愛いと、咲夜はひそかに思った。
食事の後、暫く門の前で雑談を交わしていたが、懐中時計の長針が天辺を示したので、咲夜は話を切り上げ館に戻ることにした。
「名残惜しいけど時間ね」
「今日も美味しかったです。ありがとうございます」
「そう言ってくれるなら、作り甲斐があるわ」
美鈴が綺麗にしたカップとバスケットを受け取り、咲夜はゆっくりと踵を返す。
今夜にでもまた会おうと思えば会えるのに、好きな人と離れるのはやはり寂しいものである。
先ほどまであたたかいままだった心が、段々と冷えてくるのが咲夜自身にも分かった。
カップにかすかに残ったぬくもりをそっと握り締めて、咲夜は館へと戻っていく。
しかし突然、彼女のその手が後ろから掴まれた。
「美鈴?」
振り返るとそこには紅髪の門番がいた。
「背中が震えていますよ、咲夜さん」
「もう冬だしね、仕方ないわよ」
「……」
「ほら、美鈴。そろそろ行かなくちゃ」
それでも彼女は咲夜の手を離そうとしない。
「咲夜さん」
「何?」
「――寒かったらいつでも来て下さいね。いくらでもあたためてあげますから」
そう言って美鈴は目を瞑り、咲夜の冷えきった手を両手で優しく包みこむ。
失われたぬくもりがじわじわと戻ってくる。
それは身体だけではなく、心にも火を灯されたようなあたたかさ。
「馬鹿ね。それじゃあもっと離れ難くなるじゃない」
「ごめんなさい。何か咲夜さんのためにしてあげたいと思ったんですが、これくらいしか思い浮かばなくって」
目を開き恥ずかしそうに囁いて、美鈴はようやく両手を離す。
今度は不思議と心は冷たくはならなかった。
「いいカイロを貰っちゃったわ」
「それはよかった」
幸せそうな表情を見せる美鈴に咲夜はそっと背を向ける。
「……また、よろしくね」
「はい!」
その顔には今日の冬空に負けないくらい晴れやかな笑顔が宿っていた。
朝の寒さが一段落してようやく太陽の恩恵を受けられるようになったお昼頃。
咲夜は手編みのマフラーを首に巻きつけて、紅魔館の正面扉よりゆっくりと外に歩み出た。
いつもより一枚多く服を着こんでいるのだが、さすがにそれだけで隙間風を全て防げるわけでもなく、背中から伝わる寒さに咲夜は身震いする。
震える片手に持った竹細工のバスケット。中身は自分と美鈴の分の昼食だ。
辺りに漂うのは香ばしいパンと紅茶の匂い。先ほど廊下ですれ違った妖精メイドの何匹かはよだれが垂れるのを抑えきれない様子であった。
咲夜の紅茶の腕は館外にもその名を轟かせるほどのものである。さらに彼女の能力により、その紅茶によく合うパンと一緒に出来たての味をいつまでも楽しむことが出来る。
そんな丹精こめたお弁当を食べられて、館の門番は何て幸せ者なのだろう。住人の誰しもがそう口々に囃し立てていた。さらに、ある者はそれを愛妻弁当と命名したり、館主に至ってはそれを餌づけとからかって呼んだりもしていた。
だが、そのような外聞を本人はさして気にしてはいなかった。
好きな人の幸せそうな表情を見るために作っているのだから、咲夜にとっては外聞も手間暇も全く関係はないのだ。
徐々に近づいて来る館の正門。その奥で待っている人のことを思い出すうちに、背筋を震わせていた寒さも忘れ、咲夜の心も身体もぽかぽかとあたたかくなっていく。
さすがに鼻歌を歌いながら踊り歩くことはしないが、歩調も気持ちも随分と軽やかである。
「こんにちは、美鈴。昼食の時間よ」
辿り着いた門の前にはいつもと変わらぬ姿があった。
「あ、こんにちは、咲夜さん。いつもありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていいわよ。好きでやってるんだし」
開いた門扉の奥で恭しく頭を下げ感謝を述べる美鈴に、咲夜は少々困り顔で片手のバスケットを差し出した。
「この匂い……今日はクルミとレーズンのパンですか?」
「さすが、鼻がいいわね」
「ふふ、咲夜さんが作ってくれたものなら、何でも当ててみますよ」
あら言ったわね、と軽く笑い合う。
こういう自信たっぷりな物言いが可愛いと、咲夜はひそかに思った。
食事の後、暫く門の前で雑談を交わしていたが、懐中時計の長針が天辺を示したので、咲夜は話を切り上げ館に戻ることにした。
「名残惜しいけど時間ね」
「今日も美味しかったです。ありがとうございます」
「そう言ってくれるなら、作り甲斐があるわ」
美鈴が綺麗にしたカップとバスケットを受け取り、咲夜はゆっくりと踵を返す。
今夜にでもまた会おうと思えば会えるのに、好きな人と離れるのはやはり寂しいものである。
先ほどまであたたかいままだった心が、段々と冷えてくるのが咲夜自身にも分かった。
カップにかすかに残ったぬくもりをそっと握り締めて、咲夜は館へと戻っていく。
しかし突然、彼女のその手が後ろから掴まれた。
「美鈴?」
振り返るとそこには紅髪の門番がいた。
「背中が震えていますよ、咲夜さん」
「もう冬だしね、仕方ないわよ」
「……」
「ほら、美鈴。そろそろ行かなくちゃ」
それでも彼女は咲夜の手を離そうとしない。
「咲夜さん」
「何?」
「――寒かったらいつでも来て下さいね。いくらでもあたためてあげますから」
そう言って美鈴は目を瞑り、咲夜の冷えきった手を両手で優しく包みこむ。
失われたぬくもりがじわじわと戻ってくる。
それは身体だけではなく、心にも火を灯されたようなあたたかさ。
「馬鹿ね。それじゃあもっと離れ難くなるじゃない」
「ごめんなさい。何か咲夜さんのためにしてあげたいと思ったんですが、これくらいしか思い浮かばなくって」
目を開き恥ずかしそうに囁いて、美鈴はようやく両手を離す。
今度は不思議と心は冷たくはならなかった。
「いいカイロを貰っちゃったわ」
「それはよかった」
幸せそうな表情を見せる美鈴に咲夜はそっと背を向ける。
「……また、よろしくね」
「はい!」
その顔には今日の冬空に負けないくらい晴れやかな笑顔が宿っていた。
もっと甘くていいです、是非!
美鈴の包容力に完敗です。
少女な咲夜さんかわいい!