前作、『平穏とはなんぞや』の続編です。
一応、読んでいなくても読めるようには書いたつもりですが、読んでいただくとよりいっそうわかると思います。
平穏シリーズというタグを共通でつける予定ですのです。
なにぞと、よろしくお願いします。
―紅魔館・門前
この日、中華風の服を着た門番の少女は、自分の雇い主が住む館――血に染まったように不自然までに紅い館――の一部から突然紅い閃光が噴出したのを目撃した。
だが、中華風の服を着た門番の少女。紅美鈴はそれを日常とし、とくに慌てることなく門番業務にせいをだしていた。
紅魔館から光が噴出すことの、数時間前。
「美鈴さん。通りますねー」
「おぉ中国、ご苦労様だぜ」
「お邪魔するわよ」
「はいはーい。そこの来訪記録に記名をおねがいしまーす」
青、黒、赤の服を着た少女3人が紅魔館を訪れたのである。
少女たちは美鈴の横を抜け、紅魔館へと向かっていった。
――紅魔館・エントランス
「ふー。とりあえず紅魔館にきたぜ」
黒の服を着た少女、霧雨魔理沙は帽子の埃を払いながら青の服の少女に向き合った。
「はい。とりあえず、ここ。この紅魔館から調べましょう!」
青の服の少女、東風谷早苗は力強くうなずくと3人の先頭をあるいていく。魔理沙も帽子をかぶり直すと早苗の後に続き紅いエントランスを進んでいく。ただ一人、赤い服の少女、博麗霊夢だけどこか気だるげな顔で2人の後をついていく。
「いまさらなんだけど、異変起きてないのよね。……なにしに来たのよ私は……」
「霊夢。ぼやいたところで事実は変わらないぜ。あの早苗に連れ出されたんだ。あきらめて楽しんだら言いと思うぜ」
「そうね。お茶の一つや二つもらって帰りましょ」
「ついでに茶菓子もだぜ」
霊夢の気だるげな理由は簡単である。ここ、紅魔館にくる前。突如現れた早苗の変なテンションによってここまで引っ張られてきたのである。ただ、霊夢自身、掃除をサボる口実としてここにきている以上、文句が言えた立場でないということは確かである。
そして、二人を連れ出した張本人である早苗はというと。
「さ、魔理沙さん霊夢さん。張り切っていきましょー! 手始めにレミリアさんですね。あの人は問題児ですから、まめに様子を見てあげないといけませんからね」
と意気揚々と紅魔館の中を闊歩していく。
早苗の姿を確認した、メイド服姿の妖精が物珍しそうに早苗に近寄るが、すぐ後ろを歩く霊夢、魔理沙の顔を確認するとクモの子ちらすかの様に逃げていくが、しばらくすると仕事そっちのけでまた3人の後に続いており。気づけば妖精のメイドによる大行列が出来上がっていた。ただ、後ろのほうの妖精にいたってはこれが何の行列か知りもせず、並んでいたからとかそこに行列があるからなどという理由で並んでいる始末である。
「私らはいつから大名行列になったのよ……」
「妖精の行動を気にしたら負けだぜ? 状況を楽しむんだぜ」
「いつもおもんだけど、広すぎるのよこの館! 外見通りのサイズでありなさいよ」
霊夢がぶつく愚痴を言うとおり、紅魔館内部はただっぴろい。下手な廊下に当たると突き当たりの壁が見えないほど長い廊下があるぐらいである。
そして、この奇妙な行列の先頭を行く早苗の歩みは自身に満ち溢れたもので迷いがない。
だが、
「困りました。レミリアさんはどこに居るのでしょう。そしてここはどこでしょう」
それは道に迷った上での歩みだった。
早苗の独り言は、談笑する霊夢と魔理沙には聞こえなかったが、ただ一人その言葉を聴くものがいた。
「お待たせいたしました。わが主、レミリア・スカーレットお嬢様はお三方のご来館を歓迎するとのことです。ご案内いたします」
音もなくこつ然と現れたメイド姿の少女、十六夜咲夜である。彼女は慇懃に一礼をすると3人に背を向け、歩み始めた。
「よう咲夜。遅いお出迎えじゃないか。どうしたんだ?」
「しょうしょう立て込んだ案件がありましたので」
「ふーん。でレミリアはどこ? いつもなら無駄に高いところから私たちを出迎えてるところよね? といかお茶くれない?」
「レミリアお嬢様は、ただいま妹様とパーティーホールで遊戯に興じてる最中でですので、お茶でしたらお嬢様をお待ちいただく間、テラスにてご賞味……」
「なら、そのパーティーホールに案内してください。すぐにレミリアさんに会いたいです!」
咲夜が突然現れることには慣れっこの3人は、咲夜の対応を当然のように受け、遠慮ない言葉をかける。咲夜もそれが当然として対応する。
「かしこまりました。では、こちらです。……とてもかわいらしい……いえ、勇ましいお嬢様をご覧になられますよ」
咲夜はもう一度、慇懃に頭を下げると、微笑をもって3人を誘うのであった。
――紅魔館・パーティーホール
時に宴会の会場。時に楽団を招きコンサートホール。と、多様の用途に対応した多目的ホール、それが紅魔館のパーティーホールである。
今回、紅魔館の主、レミリア・スカーレットの使用用途とは、
レミリアは真紅のマントを纏い、ホール中央に特設された舞台の上から、舞台の下にたつ妹フランドールを見下ろしていた。
「ふふふ、よく来た。超未来魔法少女フラン。いや、フランドール・スカーレットよ。貴様の親友、パチュリー・ノーレッジは私の手中にある。貴様に抵抗ができるというのか? この私、吸血鬼魔王レミリアにっ!」
台詞と共に一気に開く真紅のマントの下には、どこか気だるげなパチュリーと、フリルが要所要所にあしらわれたボンテージファッションのレミリアが現れた。
フランドールはというと、これもまたセーラー服をモチーフにしているのであろう、白と赤をベースにステンドガラスのように鮮やかなフリルとレースのあしらわれた魔法少女ファッションに身を包んでいた。その手にはレーバティンがしかと握られている。
「ふんっ。私を散々コケにしてきた超未来魔法少女フランの正体が、ただの町娘、フランドール・スカーレットとは気付かなかった。ほれ、先より黙っていてではないか、何をしている。悔しくはないのか?」
レミリアの手がパチュリーの顎をなぶる様に触る。
パチュリーはどこか棒読みな悲鳴を上げる。
「パチェを放しなさい!魔王レミリア!……くっ、パチェが近すぎてマジカル殺戮ステッキ『レーバティン』が使えない……」
「フ、フランちゃん……。大丈夫、私を気にしないで、ま、魔王を……」
フランの熱のこもった言葉。やはり棒読みのパチュリーの言葉。
二人の言葉に、レミリアは余裕の笑みをもって迎える。
「フフフ……、ファハハハハッ」
「レミリア、ご機嫌ね。ズズゥ……」
「カリスマを演出できて嬉しいんだぜ。きっと」
「お嬢様、ご立派です」
「ちょっ、咲夜。変なカメラ持ちながら鼻血出さないで」
「これは、8mmフィルムカメラです。これでお嬢様の勇姿をっ。あとこれは忠誠心とメイド長のプライドです」
いつの間にかホールの片隅に、設置されたテーブルには8mmフィルムカメラを構えつつ自称忠誠心を流す咲夜と、紅茶とケーキを自称忠誠心から非難させている霊夢、さらにやにやとレミリアの勇姿を眺めている魔理沙が座っていた。
早苗はというと、一人離れたところで、無造作に置かれた大量のお手製の台本らいき本を読んでいた。
「ちょ……な……」
「よう、フラン。パチュリー。遊びに来たぜ」
「咲夜、お茶のお代わりちょうだい」
「あら、魔理沙。また図書館の本を盗んでいくつもり? 正規の手続きを取れば貸してあげるっていくら言えばわかってくれるの?」
「あぁーっ! 魔理沙だー。やっほうー」
魔理沙に気付いたパチュリーとフランは、だっとレミリアから離れていき。レミリアはというと、わなわなと顔を真っ赤にして全身を震わせているのであった。
「魔理沙も一緒に遊ぼー。超未来魔法少女フランごっこ」
「な、なんだそりゃ」
「……あんたたち、どこから……」
「私から説明するわ。レミリア脚本による、魔法を使い世界を陰ながらに守る少女の物語の劇よ」
「なんだそりゃ」
フランに抱き付かれながら、パチュリーの説明に耳を傾ける魔理沙の言葉は、お茶とケーキに夢中の霊夢言葉の代弁でもある。
だが、早苗だけは違った。パチュリーの説明に目を光らせていた。
「ほぉ……この脚本はレミリアさんが?」
「ええ、一週間で53本」
「約4クールですね。ふむ……」
「……何、断りもなく……」
早苗はちらりとレミリア、パチュリーを見るとまた手にした本へと視線を落とす。
「……そうですね。素人が短時間で書き上げたにしては出来はいいですね」
「えっ?そう?」
「ええ。この吸血鬼魔王レミリアが超未来魔法少女フランの生き別れの実姉だったりとか、親友のパチュリーに黒幕の巨悪魔王に取りつかれたり、それを敵同士だった二人が協力して立ち向かう辺りのストーリーはベタな展開ですが、素人は冒険をしないほうがベストな展開だと思います」
「へ~」
「ほ~」
「な、なに貴女全部読み終えたの?」
「現人神の私には造作もないことなのです」
奇跡の無駄遣いとは魔理沙の弁。有り難味がないとは霊夢の弁。レミリアと早苗を二人は生暖かい目で見る。
「ただ、私だったら、この吸血鬼魔王も、主人公同様に魔法少女にして、より協力しやすい立場しますし。他にも……」
「あぁ! その手があったか」
レミリアは、早苗の出す意見に目を輝かしながら聞き入っている。早苗もその状況が楽しいのか、次々と意見を述べていく。そんな早苗にフランが近寄っていき話しかけた。
「ねぇーねぇー。お姉さんだれ?」
「それでね、それでね。わたしはこう思うのわけよ。ここの設定は……」
「ん? 貴女がフランドールちゃんですね。私は東風谷早苗といいます。守矢神社の風祝の巫女にして現人神なのです」
早苗はばしっといい格好でポーズをとると、フランと視線を合わせるように屈んだ。
「かわいい格好ですね。誰が作ってくれたんですか?」
「サクヤっ! コーリンドーに置いてあった資料をもとに私をイメージしてサクヤが作ってくれたんだって!」
「っで、やっぱりこの後が悩みどころ。54話目なのだけど、この後の展開はやぱりこうしたほうがいいかしら?」
フランは一歩引くと両手を広げくるりと一回転。
早苗にその姿がよく見えるようにと回って見せた。
早苗も、頭をなでてから、かわいいとまた褒めて上げた。
「私の手にかかれば、お嬢様、妹様のお召し物、10着だろうが100着であろうが1日で作り上げてみせます」
「さすが生粋のメイドさん……。でも、あふれ出てるモノと場所は考えたほうが良いかもですね」
「メイドとして誇りそして忠誠心の表れです」
「貴女の意見を聞かせて欲しいのだけどいいかしら?」
ふと、気付けば先ほどまで霊夢に給仕をしていた咲夜が現れ、8mmフィルムカメラを片手に自称忠誠心を溢れさせていた。
「縫製すっごい凝っていますね。私もここまで作り込むとなると1ヶ月2ヶ月はかかりそうです」
「私には時間は関係ないもの。妹様たちの笑顔ためでしたら、不眠不休なんて安い代償でしかないわ」
「ええ。台詞と姿がマッチしたものでしたら私も全力で同意するところでした」
「ねっ! ちょっと貴女! 聞いていてっ!?」
会話の間も絶えず、魔理沙とじゃれあうフランを撮り続ける咲夜。
その言葉に、言葉だけなら同意しますとうなずく早苗。
「そういえば、サナエって強いの?」
「ちょっと貴女、私を……」
「そうですね。これでも現人神。そこにいる霊夢さんや魔理沙さんと比べると妖怪退治の経験は浅いですが、力じゃ負けませんよ」
「……無視してるでしょっ」
「じゃー、私と遊ぼ。弾幕ごっこで遊ぼ」
「ってフラン。貴女も私を無視してるでしょっ」
「弾幕ごっこですね。望むところです」
「……いい加減にしなさいよ……」
「じゃー私、カードは5枚でいくね」
「私も5枚でいきましょう」
「う~…………私の……私を……私を見なさいっ!! 紅符『不夜城レッド』」
突如告げられたスペルカード宣言。
ホール全体を紅く染める閃光は、天井を貫き。そしてホールにいる者すべてを紅く染め上げる。…………はずだった。
「うるさいなぁ……お茶が不味くなるわ。夢符『二重結界』」
「とりあえず妹様を『咲夜の世界』」
「……っ!? 秘術『忘却の祭儀』」
そのけたたましい紅い閃光は、すべて霊夢の結界によって防がれ、咲夜も時間を止めフランを連れ立ってその結界の中へと逃げていた。
そして、早苗はというと
「祭儀とは、不可侵である。それは言わば誰にも犯すことの出来ないということ。ってもーレミリアさん突然なんですか。びっくりするじゃないですか」
平然としていた。
「だ、だって突然、貴女が私のこと無視するんだもん。みんなして無視するんだもん」
「えっと……?」
「無視してないわ。気に留めてないだけ。あ、お茶がなくなっちゃった……」
「わたしはパチュリーと魔法で大事な話をしてるだけだぜ」
「私がお嬢様を無視とか……。ごらんになられますか? お嬢様たちの勇姿。ちゃんと撮れてますよ。あ、現像はすぐに終わりますからすぐにごらんになられますが、今のお姿を先に撮らせてください」
突然、うーうーとわめき散らすレミリアに霊夢、魔理沙は平然と対応し、早苗はたじろぎ、咲夜はカメラを自称忠誠心を流しながら回している。
「……あ、サクヤありがとー。ってお姉ちゃん。お姉ちゃんいつもいってるじゃん。『スカーレット家である以上、みだりに取り乱したらだめよ』って言ってるじゃん。 お姉ちゃんめっ!!」
「ふ……フラン……」
咲夜の元から早苗のそばに駆け寄ってきたフランがレミリアに指を突きつけながらぷりぷりと怒る。
レミリアは、ショックを受けたというよりは、感極まって声が出ないといった様子である。何気に咲夜はちゃっかりいい撮影ポジションを確保している。
「そうだぜ。お姉ちゃん。お姉ちゃんが言い付け守んないと妹も守んないぜ。めっ」
「そうね。大人気ないわね。めっ」
魔理沙と霊夢がフランの口調に同調して次々にレミリアをからかう。
「もうっ!霊夢さん、魔理沙さん。レミリアさんはまじめなんですからからかっちゃ駄目です。それが寂しい寂しいと泣く小さな女の子にする態度ですか!」
「……ちょっ……。あの……」
泣きそうな顔をしていたレミリアの顔が固まり、魔理沙霊夢も一瞬ほうけた表情で固まる。
ただただ、8mmフィルムカメラの稼動音だけが響く、静かな間が出来上がった。
その静寂を破ったのは、まず魔理沙。それについで霊夢の笑い声である。
「ちょっ、あなた達なに笑ってるのよっ!! ってこの子に私の歳言ってないの!?」
「あぁ、悪い悪い。つぼにハマっちまって……。ひどい事言って悪かったなレミリア」
「いまさら同情するなっ! てか始めっからすんなっ!」
「いいじゃない。どうせ永遠に紅い幼き月なんだし。小さい女の子で間違いないじゃない」
「間違ってなければいいってモノじゃないわ。てか、私が幼いって意味じゃないわよ」
「大丈夫。お嬢様は正常いつも通り美しく可愛らしいです。素敵です。ビューティフルです」
「咲夜。あんた人のこと舐めてるのっ!? それといい加減カメラ止めなさいよ! あと、その自称忠誠心も!!」
「お姉ちゃん。取り乱しちゃ駄目なんでしょ? めっ だよ」
「あぁ!!もうっ!! 時には取り乱してもいいわよっ!! 誰か収拾つけなさいよ」
「では恐れ多くも、この私、現人神である東風谷早苗が事態を収めたいと思います」
早苗は、すぅっと深く息を吸い声高らかに宣言した。
「紅魔館の異変無事解決! 一件落着これにて周囲円満! 紅魔館は今日も平穏な日常を取り戻しましたっ!」
「あんたたちが来なければこんな事にはならなかったわよっ!」
こうして、紅魔館を訪れた早苗、霊夢、魔理沙は紅魔館の異変を解決し、次なる目的地へと向かったのである。
一応、読んでいなくても読めるようには書いたつもりですが、読んでいただくとよりいっそうわかると思います。
平穏シリーズというタグを共通でつける予定ですのです。
なにぞと、よろしくお願いします。
―紅魔館・門前
この日、中華風の服を着た門番の少女は、自分の雇い主が住む館――血に染まったように不自然までに紅い館――の一部から突然紅い閃光が噴出したのを目撃した。
だが、中華風の服を着た門番の少女。紅美鈴はそれを日常とし、とくに慌てることなく門番業務にせいをだしていた。
紅魔館から光が噴出すことの、数時間前。
「美鈴さん。通りますねー」
「おぉ中国、ご苦労様だぜ」
「お邪魔するわよ」
「はいはーい。そこの来訪記録に記名をおねがいしまーす」
青、黒、赤の服を着た少女3人が紅魔館を訪れたのである。
少女たちは美鈴の横を抜け、紅魔館へと向かっていった。
――紅魔館・エントランス
「ふー。とりあえず紅魔館にきたぜ」
黒の服を着た少女、霧雨魔理沙は帽子の埃を払いながら青の服の少女に向き合った。
「はい。とりあえず、ここ。この紅魔館から調べましょう!」
青の服の少女、東風谷早苗は力強くうなずくと3人の先頭をあるいていく。魔理沙も帽子をかぶり直すと早苗の後に続き紅いエントランスを進んでいく。ただ一人、赤い服の少女、博麗霊夢だけどこか気だるげな顔で2人の後をついていく。
「いまさらなんだけど、異変起きてないのよね。……なにしに来たのよ私は……」
「霊夢。ぼやいたところで事実は変わらないぜ。あの早苗に連れ出されたんだ。あきらめて楽しんだら言いと思うぜ」
「そうね。お茶の一つや二つもらって帰りましょ」
「ついでに茶菓子もだぜ」
霊夢の気だるげな理由は簡単である。ここ、紅魔館にくる前。突如現れた早苗の変なテンションによってここまで引っ張られてきたのである。ただ、霊夢自身、掃除をサボる口実としてここにきている以上、文句が言えた立場でないということは確かである。
そして、二人を連れ出した張本人である早苗はというと。
「さ、魔理沙さん霊夢さん。張り切っていきましょー! 手始めにレミリアさんですね。あの人は問題児ですから、まめに様子を見てあげないといけませんからね」
と意気揚々と紅魔館の中を闊歩していく。
早苗の姿を確認した、メイド服姿の妖精が物珍しそうに早苗に近寄るが、すぐ後ろを歩く霊夢、魔理沙の顔を確認するとクモの子ちらすかの様に逃げていくが、しばらくすると仕事そっちのけでまた3人の後に続いており。気づけば妖精のメイドによる大行列が出来上がっていた。ただ、後ろのほうの妖精にいたってはこれが何の行列か知りもせず、並んでいたからとかそこに行列があるからなどという理由で並んでいる始末である。
「私らはいつから大名行列になったのよ……」
「妖精の行動を気にしたら負けだぜ? 状況を楽しむんだぜ」
「いつもおもんだけど、広すぎるのよこの館! 外見通りのサイズでありなさいよ」
霊夢がぶつく愚痴を言うとおり、紅魔館内部はただっぴろい。下手な廊下に当たると突き当たりの壁が見えないほど長い廊下があるぐらいである。
そして、この奇妙な行列の先頭を行く早苗の歩みは自身に満ち溢れたもので迷いがない。
だが、
「困りました。レミリアさんはどこに居るのでしょう。そしてここはどこでしょう」
それは道に迷った上での歩みだった。
早苗の独り言は、談笑する霊夢と魔理沙には聞こえなかったが、ただ一人その言葉を聴くものがいた。
「お待たせいたしました。わが主、レミリア・スカーレットお嬢様はお三方のご来館を歓迎するとのことです。ご案内いたします」
音もなくこつ然と現れたメイド姿の少女、十六夜咲夜である。彼女は慇懃に一礼をすると3人に背を向け、歩み始めた。
「よう咲夜。遅いお出迎えじゃないか。どうしたんだ?」
「しょうしょう立て込んだ案件がありましたので」
「ふーん。でレミリアはどこ? いつもなら無駄に高いところから私たちを出迎えてるところよね? といかお茶くれない?」
「レミリアお嬢様は、ただいま妹様とパーティーホールで遊戯に興じてる最中でですので、お茶でしたらお嬢様をお待ちいただく間、テラスにてご賞味……」
「なら、そのパーティーホールに案内してください。すぐにレミリアさんに会いたいです!」
咲夜が突然現れることには慣れっこの3人は、咲夜の対応を当然のように受け、遠慮ない言葉をかける。咲夜もそれが当然として対応する。
「かしこまりました。では、こちらです。……とてもかわいらしい……いえ、勇ましいお嬢様をご覧になられますよ」
咲夜はもう一度、慇懃に頭を下げると、微笑をもって3人を誘うのであった。
――紅魔館・パーティーホール
時に宴会の会場。時に楽団を招きコンサートホール。と、多様の用途に対応した多目的ホール、それが紅魔館のパーティーホールである。
今回、紅魔館の主、レミリア・スカーレットの使用用途とは、
レミリアは真紅のマントを纏い、ホール中央に特設された舞台の上から、舞台の下にたつ妹フランドールを見下ろしていた。
「ふふふ、よく来た。超未来魔法少女フラン。いや、フランドール・スカーレットよ。貴様の親友、パチュリー・ノーレッジは私の手中にある。貴様に抵抗ができるというのか? この私、吸血鬼魔王レミリアにっ!」
台詞と共に一気に開く真紅のマントの下には、どこか気だるげなパチュリーと、フリルが要所要所にあしらわれたボンテージファッションのレミリアが現れた。
フランドールはというと、これもまたセーラー服をモチーフにしているのであろう、白と赤をベースにステンドガラスのように鮮やかなフリルとレースのあしらわれた魔法少女ファッションに身を包んでいた。その手にはレーバティンがしかと握られている。
「ふんっ。私を散々コケにしてきた超未来魔法少女フランの正体が、ただの町娘、フランドール・スカーレットとは気付かなかった。ほれ、先より黙っていてではないか、何をしている。悔しくはないのか?」
レミリアの手がパチュリーの顎をなぶる様に触る。
パチュリーはどこか棒読みな悲鳴を上げる。
「パチェを放しなさい!魔王レミリア!……くっ、パチェが近すぎてマジカル殺戮ステッキ『レーバティン』が使えない……」
「フ、フランちゃん……。大丈夫、私を気にしないで、ま、魔王を……」
フランの熱のこもった言葉。やはり棒読みのパチュリーの言葉。
二人の言葉に、レミリアは余裕の笑みをもって迎える。
「フフフ……、ファハハハハッ」
「レミリア、ご機嫌ね。ズズゥ……」
「カリスマを演出できて嬉しいんだぜ。きっと」
「お嬢様、ご立派です」
「ちょっ、咲夜。変なカメラ持ちながら鼻血出さないで」
「これは、8mmフィルムカメラです。これでお嬢様の勇姿をっ。あとこれは忠誠心とメイド長のプライドです」
いつの間にかホールの片隅に、設置されたテーブルには8mmフィルムカメラを構えつつ自称忠誠心を流す咲夜と、紅茶とケーキを自称忠誠心から非難させている霊夢、さらにやにやとレミリアの勇姿を眺めている魔理沙が座っていた。
早苗はというと、一人離れたところで、無造作に置かれた大量のお手製の台本らいき本を読んでいた。
「ちょ……な……」
「よう、フラン。パチュリー。遊びに来たぜ」
「咲夜、お茶のお代わりちょうだい」
「あら、魔理沙。また図書館の本を盗んでいくつもり? 正規の手続きを取れば貸してあげるっていくら言えばわかってくれるの?」
「あぁーっ! 魔理沙だー。やっほうー」
魔理沙に気付いたパチュリーとフランは、だっとレミリアから離れていき。レミリアはというと、わなわなと顔を真っ赤にして全身を震わせているのであった。
「魔理沙も一緒に遊ぼー。超未来魔法少女フランごっこ」
「な、なんだそりゃ」
「……あんたたち、どこから……」
「私から説明するわ。レミリア脚本による、魔法を使い世界を陰ながらに守る少女の物語の劇よ」
「なんだそりゃ」
フランに抱き付かれながら、パチュリーの説明に耳を傾ける魔理沙の言葉は、お茶とケーキに夢中の霊夢言葉の代弁でもある。
だが、早苗だけは違った。パチュリーの説明に目を光らせていた。
「ほぉ……この脚本はレミリアさんが?」
「ええ、一週間で53本」
「約4クールですね。ふむ……」
「……何、断りもなく……」
早苗はちらりとレミリア、パチュリーを見るとまた手にした本へと視線を落とす。
「……そうですね。素人が短時間で書き上げたにしては出来はいいですね」
「えっ?そう?」
「ええ。この吸血鬼魔王レミリアが超未来魔法少女フランの生き別れの実姉だったりとか、親友のパチュリーに黒幕の巨悪魔王に取りつかれたり、それを敵同士だった二人が協力して立ち向かう辺りのストーリーはベタな展開ですが、素人は冒険をしないほうがベストな展開だと思います」
「へ~」
「ほ~」
「な、なに貴女全部読み終えたの?」
「現人神の私には造作もないことなのです」
奇跡の無駄遣いとは魔理沙の弁。有り難味がないとは霊夢の弁。レミリアと早苗を二人は生暖かい目で見る。
「ただ、私だったら、この吸血鬼魔王も、主人公同様に魔法少女にして、より協力しやすい立場しますし。他にも……」
「あぁ! その手があったか」
レミリアは、早苗の出す意見に目を輝かしながら聞き入っている。早苗もその状況が楽しいのか、次々と意見を述べていく。そんな早苗にフランが近寄っていき話しかけた。
「ねぇーねぇー。お姉さんだれ?」
「それでね、それでね。わたしはこう思うのわけよ。ここの設定は……」
「ん? 貴女がフランドールちゃんですね。私は東風谷早苗といいます。守矢神社の風祝の巫女にして現人神なのです」
早苗はばしっといい格好でポーズをとると、フランと視線を合わせるように屈んだ。
「かわいい格好ですね。誰が作ってくれたんですか?」
「サクヤっ! コーリンドーに置いてあった資料をもとに私をイメージしてサクヤが作ってくれたんだって!」
「っで、やっぱりこの後が悩みどころ。54話目なのだけど、この後の展開はやぱりこうしたほうがいいかしら?」
フランは一歩引くと両手を広げくるりと一回転。
早苗にその姿がよく見えるようにと回って見せた。
早苗も、頭をなでてから、かわいいとまた褒めて上げた。
「私の手にかかれば、お嬢様、妹様のお召し物、10着だろうが100着であろうが1日で作り上げてみせます」
「さすが生粋のメイドさん……。でも、あふれ出てるモノと場所は考えたほうが良いかもですね」
「メイドとして誇りそして忠誠心の表れです」
「貴女の意見を聞かせて欲しいのだけどいいかしら?」
ふと、気付けば先ほどまで霊夢に給仕をしていた咲夜が現れ、8mmフィルムカメラを片手に自称忠誠心を溢れさせていた。
「縫製すっごい凝っていますね。私もここまで作り込むとなると1ヶ月2ヶ月はかかりそうです」
「私には時間は関係ないもの。妹様たちの笑顔ためでしたら、不眠不休なんて安い代償でしかないわ」
「ええ。台詞と姿がマッチしたものでしたら私も全力で同意するところでした」
「ねっ! ちょっと貴女! 聞いていてっ!?」
会話の間も絶えず、魔理沙とじゃれあうフランを撮り続ける咲夜。
その言葉に、言葉だけなら同意しますとうなずく早苗。
「そういえば、サナエって強いの?」
「ちょっと貴女、私を……」
「そうですね。これでも現人神。そこにいる霊夢さんや魔理沙さんと比べると妖怪退治の経験は浅いですが、力じゃ負けませんよ」
「……無視してるでしょっ」
「じゃー、私と遊ぼ。弾幕ごっこで遊ぼ」
「ってフラン。貴女も私を無視してるでしょっ」
「弾幕ごっこですね。望むところです」
「……いい加減にしなさいよ……」
「じゃー私、カードは5枚でいくね」
「私も5枚でいきましょう」
「う~…………私の……私を……私を見なさいっ!! 紅符『不夜城レッド』」
突如告げられたスペルカード宣言。
ホール全体を紅く染める閃光は、天井を貫き。そしてホールにいる者すべてを紅く染め上げる。…………はずだった。
「うるさいなぁ……お茶が不味くなるわ。夢符『二重結界』」
「とりあえず妹様を『咲夜の世界』」
「……っ!? 秘術『忘却の祭儀』」
そのけたたましい紅い閃光は、すべて霊夢の結界によって防がれ、咲夜も時間を止めフランを連れ立ってその結界の中へと逃げていた。
そして、早苗はというと
「祭儀とは、不可侵である。それは言わば誰にも犯すことの出来ないということ。ってもーレミリアさん突然なんですか。びっくりするじゃないですか」
平然としていた。
「だ、だって突然、貴女が私のこと無視するんだもん。みんなして無視するんだもん」
「えっと……?」
「無視してないわ。気に留めてないだけ。あ、お茶がなくなっちゃった……」
「わたしはパチュリーと魔法で大事な話をしてるだけだぜ」
「私がお嬢様を無視とか……。ごらんになられますか? お嬢様たちの勇姿。ちゃんと撮れてますよ。あ、現像はすぐに終わりますからすぐにごらんになられますが、今のお姿を先に撮らせてください」
突然、うーうーとわめき散らすレミリアに霊夢、魔理沙は平然と対応し、早苗はたじろぎ、咲夜はカメラを自称忠誠心を流しながら回している。
「……あ、サクヤありがとー。ってお姉ちゃん。お姉ちゃんいつもいってるじゃん。『スカーレット家である以上、みだりに取り乱したらだめよ』って言ってるじゃん。 お姉ちゃんめっ!!」
「ふ……フラン……」
咲夜の元から早苗のそばに駆け寄ってきたフランがレミリアに指を突きつけながらぷりぷりと怒る。
レミリアは、ショックを受けたというよりは、感極まって声が出ないといった様子である。何気に咲夜はちゃっかりいい撮影ポジションを確保している。
「そうだぜ。お姉ちゃん。お姉ちゃんが言い付け守んないと妹も守んないぜ。めっ」
「そうね。大人気ないわね。めっ」
魔理沙と霊夢がフランの口調に同調して次々にレミリアをからかう。
「もうっ!霊夢さん、魔理沙さん。レミリアさんはまじめなんですからからかっちゃ駄目です。それが寂しい寂しいと泣く小さな女の子にする態度ですか!」
「……ちょっ……。あの……」
泣きそうな顔をしていたレミリアの顔が固まり、魔理沙霊夢も一瞬ほうけた表情で固まる。
ただただ、8mmフィルムカメラの稼動音だけが響く、静かな間が出来上がった。
その静寂を破ったのは、まず魔理沙。それについで霊夢の笑い声である。
「ちょっ、あなた達なに笑ってるのよっ!! ってこの子に私の歳言ってないの!?」
「あぁ、悪い悪い。つぼにハマっちまって……。ひどい事言って悪かったなレミリア」
「いまさら同情するなっ! てか始めっからすんなっ!」
「いいじゃない。どうせ永遠に紅い幼き月なんだし。小さい女の子で間違いないじゃない」
「間違ってなければいいってモノじゃないわ。てか、私が幼いって意味じゃないわよ」
「大丈夫。お嬢様は正常いつも通り美しく可愛らしいです。素敵です。ビューティフルです」
「咲夜。あんた人のこと舐めてるのっ!? それといい加減カメラ止めなさいよ! あと、その自称忠誠心も!!」
「お姉ちゃん。取り乱しちゃ駄目なんでしょ? めっ だよ」
「あぁ!!もうっ!! 時には取り乱してもいいわよっ!! 誰か収拾つけなさいよ」
「では恐れ多くも、この私、現人神である東風谷早苗が事態を収めたいと思います」
早苗は、すぅっと深く息を吸い声高らかに宣言した。
「紅魔館の異変無事解決! 一件落着これにて周囲円満! 紅魔館は今日も平穏な日常を取り戻しましたっ!」
「あんたたちが来なければこんな事にはならなかったわよっ!」
こうして、紅魔館を訪れた早苗、霊夢、魔理沙は紅魔館の異変を解決し、次なる目的地へと向かったのである。
フランちゃんのめっが可愛かったです!
フランドールかわいい
レミリアは粗雑な扱いが似合うなw