※ この話は、ジェネリック作品集75、『小傘と子猫』からのシリーズものとなっておりますのでご注意ください。
寅丸さんは猫の扱いが、とってもお上手です──って何も不思議じゃないですね。
だって寅丸さんは名前の通り、寅の妖怪で、寅は猫科の動物なのできっと通じるものがあるのでしょう。
先程から私の部屋で小猫と楽しそうに戯れてます。
にゃ! にゃあ! にゃあー!
「ふむふむ……それは立派な心掛けですね。」
そのうえ言葉まで通じ合っている様子……小猫があんなにも饒舌に鳴いているのを初めて見ました。
「あのぉ……寅丸さん? 小猫は、その……なんて話しているのですか?」
そしてそれが気にならない筈が有りません。
普段からなんとなく意志の疎通はとれているつもりですが、流石に何を考えているのかまでは知りようが有りませんから。
「星で良いですよ。変わりに私も小傘、と呼ばせて頂きますので。よろしいですか?」
「それじゃあ星……さん……で良いですか?」
物腰の柔らかさは聖さんに負けない星さんですが、どこか凛とした気配を漂わせています……やはり毘沙門天の代理を任される方は私なんかとは格の違いを感じてしまいます。
ですから、やっぱり呼び捨てはちょっと遠慮したいです……。
「……まあ良いでしょう。何も強要する事は有りませんからね。それよりこの仔ですが、凄く賢いですよ!」
ちょっとだけ残念そうな顔した星さんでしたが、小猫の事になると一変して顔を輝かせました。
「そ、そうですか!?」
なんとなく、私自身が誉められたような気分になって思わず声に出てしまいました。
小猫が賢いことなんて出会った時から分かってた事なんですけどね?
「そうなんですよ! 実に立派な夢をこの仔は持っています!」
「夢……ですか?」
夢なんて猫が抱くものなんでしょうか?
それとも夢を持っている時点で猫としては随分お利口な部類になるってことでしょうか?
いまいちピンとこない私を、どうやら驚いていると解釈された星さんはとても誇らしげに言いました。
「驚くのはこれからですよ、小傘。この仔の夢とはなんと──」
「な、なんと……?」
焦らすようにわざと間を空ける星さんについつい釣られる形で、私は復唱してしまいました。
「──そう、将来は傘になりたいそうです。貴女のような立派な傘に、ね?」
ぶわっ……!
「小猫……あなたそんな事を……」
嬉しすぎて、思わず涙が溢れてしまいました……。
小猫を引き寄せぎゅっと抱き締めます。
にゃ、にゃあ……。
「あっ。『く、苦しい』だそうです。」
「ご、ごめん!」
とっさに手を離してしまいましたが、小猫はしっかりと着地してくれました。
「それにしても……便利ですね、猫とお喋り出来るなんて。」
正直羨ましくて仕方有りません。
やっぱり私も小猫とお喋りしたいです。
「小傘…………大事なのは言葉だけでは有りませんよ。」
静かに、そっと私の手をとったと思ったら、薄く笑みを浮かべて星さんは言いました。
「でも……お喋りできた方が何かと便利じゃないですか?」
私の率直な疑問に星さんは、確かにと言って頷きました。
「貴女の言うとおり、意思疎通を行うのに言葉はとても便利なものでしょう。しかし、言葉は時として大切な人を傷付けてしまう事もあります。
そんなものに頼らなくても貴女たちは強い絆で結ばれている……それだけで十分だとは思いませんか?」
「そう……ですね。」
星さんの問い掛けに素敵だなって私は思いました。
これが教えを説くという事なのでしょうか?
「目に見える物より、都合の良い言葉より、私たちが信じるべき物……それが心です。」
「心……。」
にゃあ?
星さんに促されるようにして私は小猫と向き合いました。
それは顔を合わせるって意味じゃなくて、小猫の事を心から想うということ。
私にはどうしても小猫に伝えておかなくちゃいけないことがあるから……。
「ねえ、小猫? 私の言葉、全部通じなくても良いから……聞いて欲しい。」
にゃ。
じっと私を見上げる小猫。
やっぱり、この仔は私の言っている事を理解しているんだと思う。
「傘はね……生き物じゃないんだよ。だから小猫は傘にはなれないんだよ?」
さっきは余りの嬉しさについ我を忘れてしまいましたが、冷静になって考えれば小猫の抱くその夢はとても叶えられる代物じゃありません。
にゃあ……?
だから私は小猫をぎゅっと抱き寄せて伝えます。
目を見て話すより、言葉で伝えるより、この方がずっと伝わる……そう思えたから。
「小猫の気持ちは嬉しいけど……嬉しいんだよ? でもね、小猫には生きていて欲しいな。」
私みたいに妖怪として生を受けることになったとしても、それはもう小猫であって小猫じゃない。
それに私だって本当は好きで妖怪になった訳じゃない……小猫にそんな辛い想いはして欲しくないよ……。
なう……
「小猫……?」
「大丈夫。貴女の想いは伝わってますよ。」
ごめんね。だけどありがとう。
気持ちだけ、受け取っておくね。
ペロッ。
「うん……これからもよろしくね?」
ペロペロ
「んもぅ。分かったってば。」
ペロペロペロペロペロペロ──
「ちょ!? 舐めすぎ! 舐めすぎだから!」
にゃ?
慌てて引き離すと、小猫は不思議そうに首を傾げていた。
もう……分かっているんだか分かっていないんだか……。
「ぷっ……くくくっ……あははははは!」
なんだかそれが無性に可笑しくて……。
私は声を抑えきれず笑い出しちゃった。
「ふふふっ……。」
気付いたら星さんも可笑しいのを我慢しているみたい。
にゃうぅ……。
どこか不服そうに鳴く小猫に私は笑いながら心の中で思いました。
ごめんね……だけど仕方ないよね?
君との日々がこんなにも満ち足りてるから……だからこんなにも笑顔が溢れてきちゃうんだ。
「ねぇ……小猫?」
笑い過ぎて零れてきた涙を拭いながら、私は小猫に向かって問い掛けました。
「小猫は今、幸せかな?」
にゃ!
間髪入れず返事が返ってきたから、私も迷わず小猫を抱き締めました。
「私もだよっ!」
きっとこの想いだけは伝わる筈だから。
寅丸さんは猫の扱いが、とってもお上手です──って何も不思議じゃないですね。
だって寅丸さんは名前の通り、寅の妖怪で、寅は猫科の動物なのできっと通じるものがあるのでしょう。
先程から私の部屋で小猫と楽しそうに戯れてます。
にゃ! にゃあ! にゃあー!
「ふむふむ……それは立派な心掛けですね。」
そのうえ言葉まで通じ合っている様子……小猫があんなにも饒舌に鳴いているのを初めて見ました。
「あのぉ……寅丸さん? 小猫は、その……なんて話しているのですか?」
そしてそれが気にならない筈が有りません。
普段からなんとなく意志の疎通はとれているつもりですが、流石に何を考えているのかまでは知りようが有りませんから。
「星で良いですよ。変わりに私も小傘、と呼ばせて頂きますので。よろしいですか?」
「それじゃあ星……さん……で良いですか?」
物腰の柔らかさは聖さんに負けない星さんですが、どこか凛とした気配を漂わせています……やはり毘沙門天の代理を任される方は私なんかとは格の違いを感じてしまいます。
ですから、やっぱり呼び捨てはちょっと遠慮したいです……。
「……まあ良いでしょう。何も強要する事は有りませんからね。それよりこの仔ですが、凄く賢いですよ!」
ちょっとだけ残念そうな顔した星さんでしたが、小猫の事になると一変して顔を輝かせました。
「そ、そうですか!?」
なんとなく、私自身が誉められたような気分になって思わず声に出てしまいました。
小猫が賢いことなんて出会った時から分かってた事なんですけどね?
「そうなんですよ! 実に立派な夢をこの仔は持っています!」
「夢……ですか?」
夢なんて猫が抱くものなんでしょうか?
それとも夢を持っている時点で猫としては随分お利口な部類になるってことでしょうか?
いまいちピンとこない私を、どうやら驚いていると解釈された星さんはとても誇らしげに言いました。
「驚くのはこれからですよ、小傘。この仔の夢とはなんと──」
「な、なんと……?」
焦らすようにわざと間を空ける星さんについつい釣られる形で、私は復唱してしまいました。
「──そう、将来は傘になりたいそうです。貴女のような立派な傘に、ね?」
ぶわっ……!
「小猫……あなたそんな事を……」
嬉しすぎて、思わず涙が溢れてしまいました……。
小猫を引き寄せぎゅっと抱き締めます。
にゃ、にゃあ……。
「あっ。『く、苦しい』だそうです。」
「ご、ごめん!」
とっさに手を離してしまいましたが、小猫はしっかりと着地してくれました。
「それにしても……便利ですね、猫とお喋り出来るなんて。」
正直羨ましくて仕方有りません。
やっぱり私も小猫とお喋りしたいです。
「小傘…………大事なのは言葉だけでは有りませんよ。」
静かに、そっと私の手をとったと思ったら、薄く笑みを浮かべて星さんは言いました。
「でも……お喋りできた方が何かと便利じゃないですか?」
私の率直な疑問に星さんは、確かにと言って頷きました。
「貴女の言うとおり、意思疎通を行うのに言葉はとても便利なものでしょう。しかし、言葉は時として大切な人を傷付けてしまう事もあります。
そんなものに頼らなくても貴女たちは強い絆で結ばれている……それだけで十分だとは思いませんか?」
「そう……ですね。」
星さんの問い掛けに素敵だなって私は思いました。
これが教えを説くという事なのでしょうか?
「目に見える物より、都合の良い言葉より、私たちが信じるべき物……それが心です。」
「心……。」
にゃあ?
星さんに促されるようにして私は小猫と向き合いました。
それは顔を合わせるって意味じゃなくて、小猫の事を心から想うということ。
私にはどうしても小猫に伝えておかなくちゃいけないことがあるから……。
「ねえ、小猫? 私の言葉、全部通じなくても良いから……聞いて欲しい。」
にゃ。
じっと私を見上げる小猫。
やっぱり、この仔は私の言っている事を理解しているんだと思う。
「傘はね……生き物じゃないんだよ。だから小猫は傘にはなれないんだよ?」
さっきは余りの嬉しさについ我を忘れてしまいましたが、冷静になって考えれば小猫の抱くその夢はとても叶えられる代物じゃありません。
にゃあ……?
だから私は小猫をぎゅっと抱き寄せて伝えます。
目を見て話すより、言葉で伝えるより、この方がずっと伝わる……そう思えたから。
「小猫の気持ちは嬉しいけど……嬉しいんだよ? でもね、小猫には生きていて欲しいな。」
私みたいに妖怪として生を受けることになったとしても、それはもう小猫であって小猫じゃない。
それに私だって本当は好きで妖怪になった訳じゃない……小猫にそんな辛い想いはして欲しくないよ……。
なう……
「小猫……?」
「大丈夫。貴女の想いは伝わってますよ。」
ごめんね。だけどありがとう。
気持ちだけ、受け取っておくね。
ペロッ。
「うん……これからもよろしくね?」
ペロペロ
「んもぅ。分かったってば。」
ペロペロペロペロペロペロ──
「ちょ!? 舐めすぎ! 舐めすぎだから!」
にゃ?
慌てて引き離すと、小猫は不思議そうに首を傾げていた。
もう……分かっているんだか分かっていないんだか……。
「ぷっ……くくくっ……あははははは!」
なんだかそれが無性に可笑しくて……。
私は声を抑えきれず笑い出しちゃった。
「ふふふっ……。」
気付いたら星さんも可笑しいのを我慢しているみたい。
にゃうぅ……。
どこか不服そうに鳴く小猫に私は笑いながら心の中で思いました。
ごめんね……だけど仕方ないよね?
君との日々がこんなにも満ち足りてるから……だからこんなにも笑顔が溢れてきちゃうんだ。
「ねぇ……小猫?」
笑い過ぎて零れてきた涙を拭いながら、私は小猫に向かって問い掛けました。
「小猫は今、幸せかな?」
にゃ!
間髪入れず返事が返ってきたから、私も迷わず小猫を抱き締めました。
「私もだよっ!」
きっとこの想いだけは伝わる筈だから。
すごく心が暖まりました。
雨の日でも晴れやかな気分でいられるというならばもう小猫ちゃんのその願いは叶えられてるんじゃないかな。