Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

悪戯

2010/10/28 02:23:32
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まさかのフライングハロウィンSS
レイアリはレイアリでも…?
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『トリックオアトリート!』
「はいはい並んで並んで、一杯あるからねー…はぁ」

本日、10月31日。もう11月だと言うのに冬の兆しなんてちっとも見えない今日この頃。ススキが靡き間を涼しげな風が吹き抜け、月と太陽の境界が見えるような黄昏の時間帯。幻想郷は人外の大行列に包まれた。

『お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!』
「はいはいお菓子ならあるからねー…ふぅ」

イカロスの如き翼を羽ばたかせる少年や額に白銀の一本角を輝かせる少女、包帯で全身ぐるぐる巻きにして隙間から片目を覗かせる男の子や、悪女を思わせるドラクルの衣装に身を包んだ女の子。そこらじゅう妖怪だらけに見えるが、勿論全員妖怪ではない。神社の石畳を妖精や小さな妖怪のようにはしゃぎ駆け巡る人間の少年少女。何時もの神社を知る者が見たらこの異様な空間に顔をしかめることだろう。

『巫女さま~』
「はいはい押さないでー。順番守ってねー。・・・ほぅ」
「さっきからため息ばかりだな霊夢。折角のハロウィンなのに」
「これがため息をつかない状況に見えるの?全く慧音センセーはお子様好きよねぇ」

10月31日…ハロウィン。ものの1,2年前までは只の月末でしかなかったのに、今じゃこの様だ。村の子供たちが先生の主導の下こうして神社にまで仮装しながらの練り歩きを披露して、お菓子を貰って満足しながら帰っていく。妖怪の仮装を披露されたって、人里ならともかく日常的に妖怪を見慣れている自分にとっては只の疲労でしかない。

「うむ。このような機会を作ってくれた紫には感謝すべきだな」
「絶対後で夢想封印してやる」
「まあそう言うな。そもそも相談を持ちかけたのはお前だろう?」
「…まあそうなんだけど」

そうだ。この機会を作ってしまったのは他ならぬ自分でしかない。だからこうしてため息を吐くことしかできないのだ。

ことの発端はここ博麗神社の深刻な信仰不足からだった。この場所は一応神社なのだが信仰など無いに等しく、巫女がサボってるだの妖怪の巣窟だの言われ続け、挙句神奈子には只の小屋だと言われる始末だ。これでは博麗の巫女の威厳に関わると危惧し、紫に相談を持ちかけた所、「なら行事を作って神社に人を寄せればいいじゃない」…とのことで幻想郷に誕生したのがこの「ハロウィン」である。10月31日には子供たちは仮装をして町を練り歩き、声高らかに「トリックオアトリート!」とのたまい悪戯と引き換えにお菓子をねだるのだ。順々に里を巡っていき最後にこの神社でお菓子を貰ってフィニッシュ、という内容。確か諏訪子が「神は人と共に居てこそ力を得る」と言っていた様な気がするが、少々ずれている気がしない訳でもない。

「まぁ、本来のハロウィンとは形式が違うが、そこはここのやり方というやつだ」
「あいつ絶対ただ騒ぎたかっただけね」
「本来ハロウィンとはケルト人の行う収穫感謝祭がカトリック地方に伝わり、キリス…」
「ああ、言わなくてもいいから」

とにかく、そんなことがあって今は里の子供たちがお菓子を集りに来ている。保護者兼雑用として慧音も来てくれてはいるが、正直子供というものは相手をしていて非常に疲れる存在で、さっきからため息しか出こない。

「まぁなんだ。可愛いだろう?」

確かに可愛いとは思うが、やはり元気すぎて見ているこちら側が疲れてくる。というかこの状況で元気になる奴なんてよっぽどのロリコンかショタコン以外ありえないだろう。
はぁ…。また一つため息が漏れる。元気に羽を上下させながら飛び跳ね笑いあっている幼子たち。全く、若いっていいじゃないの。

「…私から見れば霊夢もまだまだお子様なんだけどな」
「煩いわね…ってこらこらあんたたち、お菓子ねだる前に悪戯しない!!あーもう!」
「はは、お前たち、あまり巫女様に迷惑かけるんじゃないぞ?もしかけるなら私にちゃんと言うこと!」
「慧音!…もうっ!」
『トリックオアトリート!』

全くキリがない。最近人里で子供が多くなってきているそうだが、一体どういうことか。外の世界では子供が減っているのか?…それとも只単に里の連中が盛ってるだけか。お菓子が足りるか心配だ…もし足りなくて悪戯されても相手は子供だしあまり酷い仕返しはできないだろう。うっかり紫と同じように夢想封印なんて撃ってしまったら大惨事だ。

「…物騒なこと考えてないか?」
「失礼ね。鼠をトラバサミに掛けるような大人気ない真似しないわよ」

とにかく、この微笑ましくも頭の痛い光景は今しばらく続きそうだ…。


・・・


「ふぁ~…疲れたぁ」

縁側でだらしなくも大きな欠伸を一つこぼす。今は神社には人っ子一人いず、ススキがさやさやと揺れる音とグラスにお酒を注ぐ音とが静かに聞こえてくるだけである。

「あー落ち着くわねやっぱり。適度な運動もしたしお酒もおいしいし、これならぐっすり眠れそう」

涼しげな風が酒気を帯びた頬を撫でる。流石にもう鈴虫は鳴かなくなったが、それでもまだまだ冬とは言えない気候が続いている。とは言え、流石に掛け布団が薄いままでは風邪を引きかねないため注意が必要だろう。そんなことを漠然と考えた後、最後の一杯を飲み干し縁側から立ち上がって奥に引っ込もうとしたときだ。誰かが神社の階段を駆け上がる音が耳に届いたのは。

「はぁ、はぁ…あ、良かったまだ起きてるっ」
「へ?…どちら様?」

アルコールに浸かりはっきりしない頭に何処かで聞いたような…綺麗な鈴を転がしたかのような音色が届いきて、不思議に思って振り返える。するとそこには一人の非常に可愛らしい少女が息を切らして佇んでいた。今はもう9時を回っており、子供たちは全員慧音に連れられて帰路に着いたはずだ。もしかしたら途中で皆と逸れて戻ってきたのだろうか?しかし、思い返して見るとその子の纏う服装は慧音たちの中には見当たらなかったし、それこそこんな可愛い子をものの数時間で忘れるとは思えない。こんなに素直に可愛いと思ったのはあの子以外初めてだ。

「えっと…あんた、迷子?」
「この服装見て言ってるのなら心配ないよ?」

…なんだろうか。何処かで見た気がしないこともないような不思議な感覚を覚えた。改めて全身を見渡すとハロウィンを意識したのか全体的にオレンジ系の色合いに包まれた愛らしい魔女服を着用している。魔女服と言っても、魔理沙の着ているような古風なものではない。スカートは丈が短くフリルがふんだんにあしらわれており、少しでもジャンプしたらその下が見えそうだ。薄紅色のソックスが腿の辺りまで伸びており、スカートとの間で俗に言う絶対領域と言うものを生み出している。上半身もフリルなどが服飾されており、大きなモスグリーンのリボンを胸元にあしらい、背中には小さく丸っこい蝙蝠の羽の刺繍が入っていた。頭にはダークグリーンのフリル付きカチューシャが揺れ、手にはリボンで装飾されたキャンディスティックを握っている。
なんというか、趣味丸出しな服装だ…こんな服装でここまで良く来れたものだ。今宵は妖怪も人間も鳥目なのかもしれない。…いやそれよりも、きわどい服装以前に問題はそれを着こなしている彼女だ。人形のように整った顔つきに白い陶磁器のような肌。顔なんか世の芸術家たちがため息を漏らしそうなほど綺麗に整っていて。瞳はまるでサファイアを光に照らしたかの様に澄んだ蒼色をしているし、風に揺れる金糸はまるで月光を鏡写ししたかのように美しく輝きサラサラと靡いている。そしてもっとも目を引くのが髪をかきあげるその指。長くしなやかで傷一つ見当たらないその指に触られたらさぞ気持ちの良いことだろう。成程、さっきの子達と違っていい意味でこの派手な服に着られていない。しっかりと着こなしているじゃないか。


「…あなた、少し見すぎよ。もう少し遠慮できないの?」
「私が一方的に見せられてるだけよ」

ふーん?どうだか。と訝しげに漏らしつつ軽やかにステップを踏みながら近づいてくる。ふわふわとスカートが揺れ、絶対領域が見え隠れしているのが何とも眼福で…じゃない。どうやら相当酔いが回っているようでまともな思考ができない様だ。コツコツと石畳を軽快に弾く音が木霊する。少女は目の前でふわりと一回転し、キャンディスティックを造作もなくトワリングしながら、無垢な笑顔を浮かべもう今日は聞き飽きた言葉を口にした。

「というわけで霊夢お姉ちゃん、トリックオアトリート!」
「…はぁ…。…?」

今普通に名前呼ばれなかった?アルコールによって思考が麻痺した頭で必死になって考える。いや、自分は博麗の巫女であるから普通に人里でも名前を知っている者は多いはず…でも大概の子供たちは私のことを巫女様と呼ぶし、大体こんな金髪金眼の女の子は人里にも知り合いにも居なかったはずだ…。あー。頭が上手く回転せず思い出すことができない。こんなときはどうする?ああ、聞けばいいか。酒に酔った頭でも簡単な答えぐらいはすぐに出るものだ。

「えっと…あなた…」
「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ?」
「…」

その黄金の目をキラキラと輝かせ上目遣いしてくる少女。…無駄に破壊力が高いがそんなものに惑わされる私ではない。まぁ、名前を聞くのはお菓子を上げてからでも良いか。

「はいはい。ちょっと待ってなさい」
「別に無理にお菓子を用意する必要はないよ?」
「子供の悪戯は嫌いなの」

縁側に置いてある袋をごそごそと探る。正確に測ってるわけでもないが、結構用意していたから一つくらいは残っているだろう。それを掴ませて早い所お帰りいただこう。彼女の格好はある意味目に毒だ。

「えーっと、確かこの中に…」
「わくわく」
「…」
「わくわく?」
「じゃ、お休み」
「ちょっとちょっと」

華麗にすり抜け寝室に逃げ込もうとした腕を掴まれる。うん。やっぱり思ったとおり彼女の指は気持ちがいい感触だ。…じゃない。こいつめ、私の渾身のスルースキルを平然と無視しやがって。

「お菓子は?」
「因果地平の彼方にスキマ送りされたんじゃないの?」

心底嫌そうに少女を見やるが、少女は心底楽しそうに目を輝かせて、嫌味なほどに嬉しそうに声を発した。

「お菓子がないの?」
「ここは神社よ?お菓子が欲しいなら人里でも行きなさい」
「お菓子がここにないってことは、覚悟はできてるんでしょうね! 」

全く…だから子供は嫌いなんだ。

「失礼な人。自分だってあんまり変わらないのに」

どうやら声に出ていたようだ。彼女は私に遠慮することなく隣に腰掛け、足をぶらつかせ無邪気に笑いながら悪戯をどうするか考え始める。
…何だろう。何時だったかはもう忘れたが、昔もこうして縁側に腰掛けお茶でも飲みながら誰かと話してたような気がする。それも魔理沙ではない誰か。誰かは露がかかって思い出せないが、神社の掃除を一緒にして、休憩するときにこうして…。頭をひねるが、酔った頭では中々思い出せない。

「決めた!!」
「さっさとしてくれない?私もう寝たいの」
「ふふ、霊夢お姉ちゃんへの悪戯はねぇ…」

そういえば、思い出せないその人に「お姉ちゃん」とも言われたことがあるような気がしないこともないが…まあ良いか。さっさとこいつの悪戯とやらを片付けたあとで物思いに更けこむとしよう。さて、どんな悪戯をする?今は慧音も居ない訳だし悪戯の内容によってはそれなりのお仕置きを覚悟してもらう必要があるが…。
しかし、彼女の取った行動は私の予想を大きく外れるものだった。

「ほっ」
「のわっ!あ、あんた何してんのよ!?」
「何って…悪戯?」
「降りなさい」
「それじゃ悪戯にならないよ?それに私言うほど重くないからあんまり気にならないでしょ?」
「それも悪戯にならないじゃないの…とにかく離れなさいって!」

何をするのかと思えば、いきなり彼女は私の肩に跳び乗ってきたのだ。所謂肩車と言う奴だ。本人の言う通りとても軽くあまり苦痛ではないが、それでも恥ずかしいのでブンブンと頭を振るう。だが彼女は離れまいとしがみ付いてきて一向に剥がれる気配がない。いやむしろしがみ付くことによって色々な部分が押し付けられて余計に恥ずかしいことになってしまうためかえって逆効果だ。

「えへへ~どう?私の悪戯は」
「今すぐトラバサミに挟んでやろうかしら」
「挟まれてるのはお姉ちゃんのほうだよ?」

誰がうまいこと言えと言ったか。いやまぁ本音を言うなら柔らかい腿の感触とか子供特有の高めの体温とかが心地よく、私にとっては悪戯と言うより、むしろご褒美に近いものを感じてはいるが。…いやいや、それじゃ私がロリコンみたいじゃないか。私は博麗の巫女。誰にも何にも分け隔てなく接しているだけ。つまりそれが幼子だろうと老人だろうと変わらないのだ。だから私はロリコンではない。…と思いたい。

「あはは、何か神社の縁側で肩車してるって不思議な光景だね」
「そう思うんだったらどきなさい」

こんなことになるんだったらもう少しお酒を控えるべきだったか。まともに思考は働かないのに、無駄に感覚が鋭くなって。今だって上に乗る少女の感触とかはダイレクトに脳に伝わってくるのに、肝心の理性は蚊帳の外で体育座りしている状態だ。ある意味今すぐ彼女を退けないと翌日慧音から頭突きを受けそうだ。…お茶でも飲んどくべきだったか。今更後悔しても遅いが。

「霊夢お姉ちゃん髪綺麗だね」
「え?」
「サラサラでつやつや。月の光を吸い込んで光ってるみたい」
「…そう?」
「うん。そう」

そう言って、上から髪の毛を弄ってくる。…不味い、心地いい。頭を撫でられ、指で髪を梳かされる。彼女の指は心地よすぎる。
…いや、待てよ?この感覚どこかで味わったような…しかも最近。何時だったかが思い出せない。こんなことならやっぱり酒なんて飲むんじゃなかった。誰だ私に度数の高い日本酒渡したのは。鬼殺しなんて我慢できるはずがないと言うのに。

「きれい…」
「…っ」
「きゃっ、どうしたの急に立ち上がって」
「…散歩行くわよ」

これ以上ここに留まっていると本気で変な気を起こしてしまいそうだと即座に判断した私は、とりあえず散歩でもして夜風に当たることにした。そうでもしないと本当に頭突きを食らいそうだったし、月夜の散歩ならこの子も喜ぶだろう。

「あ、飛ぶんだよね」
「?そうだけど何?」
「はいこれ!プレゼント!」

目の前に何かが垂れ下がってくる。見るとそれはオレンジ色のごつごつした物体、カボチャだった。手乗りより少しほど大き目のカボチャをくり貫いて、目と口を作り中に蝋燭を入れ糸で吊り下げている。

「ジャックランタン?」
「ハロウィンだし」
「私カボチャは食べる方が好きだけどね」

「ま、ありがたく貰っとくわ」とだけ伝えてそのカボチャのランタンを目の前に照らす。ゆったりとした優しいオレンジ色の光が何とも綺麗だ。
トンと地面を蹴り上げて空に舞い上がる。目標は見晴らしのいい小高い丘の上。視界は薄暗いが何、このランタンがあればぶつかることはないだろう。私たちは特に急ぐわけでもなく、ふよふよと漂うように、散歩に出発するのだった。


・・・


「ねえ、霊夢お姉ちゃん」
「んー?」
「今更だけど私重くない?」
「んー、少し重めのダンベルだと思えば楽よ」
「…喜んでいいのかわかんない」

肩車をしたまま二人でゆったりと飛ぶ。穏やかな風が酒やその他もろもろで火照った体に心地いい。
下に目を向けるともう暗く静かになった人里にゆらゆらと光が揺れているのが見える。何時もは木々の緑や提灯の青白い光ばかりが目立つ人里も、ランタンの温かなオレンジ色の光に照らされて仄かに見え隠れしているのは中々に幻想的だ。

「…はい、ついたわよ」
「ん、ありがとお姉ちゃん」
「…まだ降りる気はないようね」

人里をすり抜けて少し進むと目的の丘に到着する。周りを遮る木々はないし視界を遮る岩もないただだだっ広いだけ丘。少し薄暗いが、その方がランタンの灯りが際立つというものだ。そのまま着地して、丘の中央に移動する。丁度腰掛けるのによさそうな場所を見つけそこに座り込む。程なくして、頭上からわぁ!と声が返ってきた。

「どんなもんよ」
「凄いいい眺め!」
「でしょう?狭い幻想郷、こんなに景色のいい場所は他にないわ?」
「ほんと、きれい…」

うっとりとしながら景色を眺めている。ここは自分の最も気に入っている場所だ。魔理沙にも教えていないのだから。しきりにきれいきれいと呟く彼女を見ているとまるで自分のことを褒められているかのように嬉しくなる。

「お星様も凄く近く見える!」
「ええ。お気に入りの場所なんだから誰にも内緒よ?」
「うん!ありがと霊夢お姉ちゃん!」

屈託のない笑顔を見せる彼女を見ていると肩に感じる重みも全く気にならないと言うものだ。彼女となら何時までもこれを見ていても飽きはしないだろうが、アルコールが適度に抜けてきた頭は、彼女に色々と確認しなくてはならないことがあると判断を下している。

「ねぇ、あんた」
「ん?」
「実際、何の用よ」
「え?だからハロウィ…」
「どうせ建前でしょう?何のために私のところに来たの?」

問いただすと、彼女は途端に顔を赤くしてあーとかうーとか唸りだす。さっきまでの活発さがなりを潜め、モジモジと恥ずかしそうにな仕草が顔をだす。

「えーっと…言わなきゃだめ?」
「その方が身のためだわ」

口元をリボンで隠し、上目遣いで聞いてきたって自分の首を絞めることにしかならないと言うのに。只でさえ可愛らしい仮装をしているのに、そこに可愛らしい仕草まで混ぜられると非常に危険だ。心拍数が上昇するのが分かる。今までどんな強力な妖怪と対面しても、親友の着替え中に遭遇しても全く変化すらしなかったのに。こんなこと、あの子と一緒に居るときぐらいしか経験がない。

「えっと、笑わないでよ?」
「保障はないけどどうぞ?」
「う、うー…」
「あーはいはい」

手を伸ばし、ぽんぽんと背中を叩いてやる。どのくらいだろうか、恐らく数分ほどの時間をかけたあと、彼女は今にも消え入りそうな声でいった。

「霊夢お姉ちゃんと…す、好きな人と一緒に行事を過ごしたかったの…」
「…へ」

しかし、風が吹く以外に音のない、私たち二人以外には誰も居ないこの空間ではそんな小さな声もしっかりと耳に届いていた。
普段の私なら「あらそうありがとう」と適当に返して笑うところだろうが今はそれ所ではない。バクバクと心臓が波打ち、血流が加速する。顔が自然と熱くなっている。多分、彼女と変わらないくらいには赤くなっているだろう。何故だ?何故こうも恥ずかしく、嬉しくなる?あの子以外でこんなになることなんてないと思っていたのに。予想外の事態に返しがしどろもどろになってしまう。

「えっとその…ありがと…」
「う、うん…どういたしまして…」

それっきりお互い黙り込み言葉が出てこなくなる。突然の告白にも似た暴露を受け、頭が混乱しているのか。さっきまで何を話していたかすら思い出せない始末だ。とにかく何か話さなければ…そうだ、名前だ。そういえばまだ名前を聞いていなかったのだった。もやもやする感情を頭から追い出して強引に会話を続ける。

「名前!!」
「え!?」
「…えっと、あんた、な、名前は?」
「あ、そ、そうだ、この状態では覚えてなくて当たり前だよね!えっと…」

この状態?一体何のことかは分からないが、今の思考状態ではそんなことを気にしている余裕はなかった。

「私の名前はアリ…きゃあっ!!」
「どうしたの…ってうわぁ!!」

正に今名乗りを上げようとしたその瞬間、彼女の体が急に発光を始める。眩い光はランタンの灯りを飲み込み、私の視界を奪い、尚も強く輝きを放つ。
そんな輝きの中、肩に感じる重みが急に増し、体を支えることができずに咄嗟に後ろに倒れこんでしまう。

「いったぁ…何よ一体」
「ごめんなさい霊夢…」
「…へ?」

急に耳元に聞き覚えのある声が入ってくる。聞き違うはずもないあの子の声。しかしそれが何故今聞こえるのだ。混乱しすぎた頭が遂に幻聴まで聞いてしまったのだろうか?未だ光の残像がちらつく目元を押さえながら、何とか左目だけでも開けて声の主の確認をとる。そこに居たのは尻餅をついているであろう小さな彼女…ではなく。

「…あはは…お久しぶり?」
「ちょ…!?ええ?なんでアリスがここにいるの!?」

何と目の前にアリスが居た。さっきまで少女の居た位置にすっぽりと収まるように。混乱に混乱を重ねた頭は完全に思考を停止しているようで状況が理解できない。あなたは乾いた笑い声を浮かべ、「う~、今までの記憶が鮮明に残ってる…恥ずかしい死にたい…」などと小声でぶつぶつ呟きながら顔を掌で隠している。凍結と再動を繰り返す頭を無理矢理回転させ何とか質問をひねり出す。

「え、これ一体どういうこと?」
「…お母さんの仕業ね。多分、幼くなる魔法を掛けられたんだと思うわ。全く…専用の衣装まで用意して…」
「え?神綺?」

これはまた懐かしい名前を出すものだ。あなたの母にして一世界の王であり、魔界に生きる万物を作り上げた神。何か大掛かりな魔法でも使ったのだろうか?幼体化なんてたいそれたことを。

「でも性格までも幼くなってしまったようね。そのまま自分の思うがままに行動してしまった結果がこれね…」
「えっと…とりあえずどういうことよ?」
「あー…恐ろしく馬鹿らしい理由よ?」


…話を聞いたところ、つまりこういうことだそうだ。
神綺はアリスとハロウィンがしたかった。しかし見た目も思考も大人のアリスはそれに応じなかったため、神綺は魔法を掛けてアリスを子供にしてしまった。体も頭脳も子供になってしまったアリスに神綺はご満悦でお菓子を上げようとしたが、子供と言うのは純粋で残酷なもので幼くなったアリスは神綺と過ごすより私と過ごす方がいいと馬鹿正直に神綺に言い放ち、彼女の腕をすり抜けて神社まで駆けて来た…ということらしい。恐ろしくアホだ。主に娘に幼体化の魔法を掛けてまでハロウィンをしようと言う考え事態が。
しかし…なるほどそれでか。今鮮明に思い出せた。そう言う訳か…。

「…だからだったのね…」
「え?何が?」

そうだあの時だ。あの少女はあなただった。だったら何処かで見たような気がしたのも、お姉ちゃん発言に覚えがあったのも、縁側でデジャビュを感じたのも、全てに納得がいく。
まだスペルカードルールもないころ、魔界の騒動があったあのとき。あの時あなたは私に負け、罰として神社で雑用をこなしていた。そのときに全てを体験したのだ。
あのときのあなたは丁度今さっきまでのあなたと同じ位の背だったし、最初こそ反発していたものの最後のほうには「霊夢お姉ちゃん」と懐いてきていた。それによく雑務のあと休憩がてらに縁側で一緒にお茶を飲んでいたものだ。

全てに納得が行き、やっと頭が正常な思考にもどる。

「…あってことは」
「何?」
「あんた小さくなってたときも今も考えは変わらないのよね」
「え?ええ。思考能力自体は子供のそれだけど、考えや好みはそのままね」

つまりはあのときの「好きな人と一緒に過ごしたかった」と言う発言はあなたの本心な訳で。思考能力が下がり、羞恥やその他の感情で言えなかった想いがポロリと零れ落ちてしまった、と。つまりは…。

「…あ、あはは…」
「…え、えへへ…」

互いに耳まで赤くして黙り込んでしまう。意識すると途端に頭の思考が鈍くなってしまうため、ごまかすように視線を泳がせてからふと、あることに気づいた。
さっきまで小さなあなたを肩車していて急に倒れた訳だから、当然お互い縺れながら倒れたわけだ。仰向けに倒れたあなたに被さるように倒れこみ、肩の隣に手をついているこの状態。何がどうしてこうなったのかは知らないが、まるで私があなたを押し倒したような形になってしまっている。
更に、あなたの全身を見渡して絶句してしまった。
弾けとんだカチューシャと乱れた金糸。スカートは完全に丈不足で視界を遮る機能を放棄しているし、伸びた身長に伴って服が釣り上がりお腹が露出してしまっている。そして何よりも、もう隠すのがやっとの状態で今にも千切れそうになった胸元の布。リボンの下から谷間が顔を出しているのが分かる。

「…ア、アリス…」
「え?どうしたの霊…ひゃあぁ!み、見ないで霊夢!!」

更に更に朱に染まるあなた。所々から見える肌もうっすらと色づいて、オレンジ色の衣装との境界をぼかしていく。

「…あ」

止まりかけだった思考が爆発的に回転を始める。勿論中身なんてない、空回りだ。目の前のあなたに視線が釘付けになって外せなくなる。
周りの風の音も草の揺れる音も聞こえなくなる。あなたに降り注ぐオレンジ色の光だけが眩くて、周りの光が暗くなっていく。凄まじく激しく、それで居てからからと音を立てて回る頭が最初に導き出した答えは。

「…アリス」
「う、ううう…何よっ」
「トリックオアトリート?」

「…へ?」








「…?」
「どうした妹紅」
「今何処かで声聞こえなかった?」
「…誰かが悪戯でも受けたんじゃないか?」
「しくしくしく…」
「いかがしましたか神綺様」
「アリスちゃんとね…うう、ハロウィンがしたくてね。ぐすっ…素直になってもらおうと魔法を掛けて昔みたいに小さくしたの」
「わが子にそんな非道ことする母親なんてあなたぐらいですよ」
「そしたらね…うううっアリスちゃんねっお、お母さんと居るより、霊夢お姉ちゃんと居るほうがいいって言って飛び出して行っちゃったのぉ。…うう…うわぁぁぁん夢子ちゃぁぁん!!!」
「はぁ。よしよし、泣き止んでください神綺様。…アリスの気持ち、少し分かります」
「夢子ちゃんまでそんなこと言うのね!?」

・・・

ハロウィン関係ないとか言わないでくださいごめんなさい只単にアリスと霊夢いちゃこらさせたかっただけなんですアリスにハロウィンの仮装と称して可愛い衣装着せたかっただけなんですごめんなさいでも自重できませんほんとごめんなさい。
フライングしてますが、何、日めくりカレンダーを少し早めに千切るのと変わりませんとも(え

最後に一言。神綺さま今回はカリスマなくてごめんなさい。
なるるが
http://sevenprismaticcolors.blog58.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
ひっさしぶりのレイアリ分補給!!
アリスの服が凄く見たい!!とても良かったです!
2.名前が無い程度の能力削除
レイアリだぁ!!
……さて俺も書くか
3.名前が無い程度の能力削除
レイアリだ!
4.名前が無い程度の能力削除
タグで「見知らぬ少女=アリス」が読めてしまった感はあるが
レイアリなのでおk。
5.名前が無い程度の能力削除
素晴らしいレイアリだ!
とてもよかったです!
6.名前が無い程度の能力削除
霊夢がロリコンの波動に目覚めたわけじゃなくてよかった……!
お菓子みたいに甘かったです。
7.名前が無い程度の能力削除
レイアリ…いやレイロリだと……許せる!
ハロウィンに相応しい甘さでした
8.拡散ポンプ削除
最高でした。にやにや。
可愛いなぁ。にやにや。
神綺様、ありがとう。
9.なるるが削除
コメントありがとうございます。

>>奇声を発する(ry in レイアリLOVE!さま
本当はもっと可愛らしいものを着せたかったのですが妄想力と言語力が足りない自分には無理でした…。精進あるのみです。

>>2さま
ぜひとも書くべきでございます!
共にレイアリを書いて行こうではありませんか。

>>4さま
特に隠す気はなかったので大丈夫ですとも。
私が書くのなんて基本レイアリかアリスですからw

>>5さま
ありがとうございます。
次の作品への糧となります!

>>6さま
裏コンセプトとしてハロウィンに出すお菓子をイメージしました。
ちなみに表コンセプトはアリスかわいいよアリスですが何かw

>>7さま
ロリスって旧作キャラなのにWin版のキャラたちと非常に親和性があると思うんです。
甘さを感じていただけたのならば幸いです。

>>拡散ポンプさま
ありごとうございます。
神綺様はこの後夢子さんたちとハロウィンを楽しんだそうですw
10.名前が無い程度の能力削除
レイアリやっほう!