これは遠い遠い昔話。本当にあったかどうかも分からなくて、誰から聞いたかも忘れてしまったけれど、確かに私の記憶にある物語……
ある所に魔女が暮らす村がありました。その村では住人が皆仲良しで、困った時や苦しい時は皆で助けあいながら、ひっそりと暮らしていました。その甲斐あってか、人間は勿論力を持った妖怪でさえ滅多に近づくことのなかったその場所は、彼女達にとって世界そのものでした。魔女と言っても、大した力を持っていなかった彼女達は、その閉ざされた空間で一生を過ごすのが自らの【運命】であると考えていたのです。
そんなある日のこと、一軒の家に小さな生命が生まれました。村人は自分のことのように喜び、その子に名前を与えました。村以外では一生使われることのない名……「また一人、共に暮らす仲間が増えた」誰もが嬉しそうに笑みを浮かべ新たな命を祝福するお祭りを開きました。
それから十数年後、少女は大きなお屋敷に住んでいました。傍にいるのは契約を交わした悪魔の従者だけ。村の住人は彼女から逃げるようになりました。理由は簡単です。
彼女が魔女として誰よりも力を持っていたからです。きっかけは些細なことで、村を襲いに来た妖怪をその少女が殺したことです。他の皆が束になっても敵わなかったその妖怪は、少女が放った魔法により地に伏したのです。少女はただ村を守るためにその力を使ったのです。ですが、過ぎた力は恐怖と妬みを生み出します。気が付けば、少女は一人になりました。
それでも少女は村の皆が大好きだったから、黙ってお屋敷の中に入りました。きっと昔みたいに皆と過ごせる日が来ると、信じて疑わなかったからです。それでもやはり寂しかったのでしょう。本を読みながら、見よう見真似で魔方陣を書き、自分とそう変わらない少女を呼び出し「友達になって欲しい」と頼みました。呼び出された少女は、何がなんだか分からないといった表情でしたが、数秒後に笑顔を浮かべると「貴女は私のご主人様、残念ながらご友人になることは不可能です。ですが、何時いかなる時でも貴女の傍で貴女の味方でいることを誓います」と頭を下げました。
それから数年後、少女と悪魔の少女はすっかり信頼しあうようになり、楽しい日々を過ごしていました。しかし、幸せは長く続きません。その日は、従者の提案で彼女が見つけた花畑に二人で遊びに行く約束をしていました。少女の胸の中は不安と期待が入り混じっています。
お外に出るということは、当然村の皆に会うということです。皆はもう怖がっていないだろうか?もしまだ怖がられたらどうしようか?そんな考えが少女の頭を駆け巡ります。従者はそんな主を見て苦笑いを浮かべると、ただ一言「素敵な一日になるといいですね」とだけ言い、扉を開けました。
二人がお外に出るのと、数多の魔法が飛んでくるのは、ほぼ同時でした。先立っていた従者が少女を抱きしめ、自分の体を盾にします。「ご無事ですか?――様」そう言うと、気を失い床にベシャリと倒れ込みます。その様子を呆然と見ていた少女の視界に入ったのは、魔力を収縮させている魔女達の姿でした。
その瞬間、少女は全てを理解しました。――ああ、私が許されるわけなかったんだ。皆が私を殺そうとしている。私は皆から嫌われている。なら……生きている意味なんて……
全てを諦めかけた時に、足元に倒れている少女が視界に入りました。「貴女の味方でいることを誓います」、初めて会った時の誓いを彼女は守ってくれた。今だって私を守ってくれた……少女の目に再び力が戻り、静かに詠唱を唱え始めます。数秒後、少女を狙って放たれた魔力は空中で破裂し、消え去りました。少女が唱えたのは、防御壁の詠唱であり、お屋敷全体を包み込むほどの巨大なものでした。
「……今日はここまで」
「え~、何で~!?」
パタンと手にしていた本を閉じてそう言うと、フランは不満気に私を睨む。何でと言われてもね、ここからの展開は、もうちょっと先延ばしにした方がいいのよ。もう少しフランが大人になったら、その時に続きを話した方が面白いだろう。何しろこの後には、一番の盛り上がりが待っている……楽しみは取っておかないとね。
「私が疲れたのよ。これ以上続けると体に障るわ」
私の言葉を聞いて、更に顔をしかめて「嘘くさい~」と言って、パタパタと羽を動かす。まぁ、実際嘘だからね。流石に話してるだけで発作を起こしたりはしない……と思う。多分、おそらく、きっと。
これ以上は、どうあっても喋らないと言うことを理解したのか、フランは羽を止めるとベッタリとテーブルに伏せる。そして視線だけ私に向けると、ゆっくりと口を開く。
「……だけどさ、可哀想だよね。何も悪いことしてないのに」
「……これはただのお話なんだから。実際に閉じ込められてる貴女の方が可哀想よ」
「ん……でも私にはパチュリーやお姉さま、美鈴がいるから。その魔女さんと悪魔さん、幸せになれるのかな?」
「さあね。でも、一つだけ確かなのは……魔女さんはこの後、大切な宝物を手に入れるわ。ちょっと扱いに困る二つの宝物を、ね」
ある所に魔女が暮らす村がありました。その村では住人が皆仲良しで、困った時や苦しい時は皆で助けあいながら、ひっそりと暮らしていました。その甲斐あってか、人間は勿論力を持った妖怪でさえ滅多に近づくことのなかったその場所は、彼女達にとって世界そのものでした。魔女と言っても、大した力を持っていなかった彼女達は、その閉ざされた空間で一生を過ごすのが自らの【運命】であると考えていたのです。
そんなある日のこと、一軒の家に小さな生命が生まれました。村人は自分のことのように喜び、その子に名前を与えました。村以外では一生使われることのない名……「また一人、共に暮らす仲間が増えた」誰もが嬉しそうに笑みを浮かべ新たな命を祝福するお祭りを開きました。
それから十数年後、少女は大きなお屋敷に住んでいました。傍にいるのは契約を交わした悪魔の従者だけ。村の住人は彼女から逃げるようになりました。理由は簡単です。
彼女が魔女として誰よりも力を持っていたからです。きっかけは些細なことで、村を襲いに来た妖怪をその少女が殺したことです。他の皆が束になっても敵わなかったその妖怪は、少女が放った魔法により地に伏したのです。少女はただ村を守るためにその力を使ったのです。ですが、過ぎた力は恐怖と妬みを生み出します。気が付けば、少女は一人になりました。
それでも少女は村の皆が大好きだったから、黙ってお屋敷の中に入りました。きっと昔みたいに皆と過ごせる日が来ると、信じて疑わなかったからです。それでもやはり寂しかったのでしょう。本を読みながら、見よう見真似で魔方陣を書き、自分とそう変わらない少女を呼び出し「友達になって欲しい」と頼みました。呼び出された少女は、何がなんだか分からないといった表情でしたが、数秒後に笑顔を浮かべると「貴女は私のご主人様、残念ながらご友人になることは不可能です。ですが、何時いかなる時でも貴女の傍で貴女の味方でいることを誓います」と頭を下げました。
それから数年後、少女と悪魔の少女はすっかり信頼しあうようになり、楽しい日々を過ごしていました。しかし、幸せは長く続きません。その日は、従者の提案で彼女が見つけた花畑に二人で遊びに行く約束をしていました。少女の胸の中は不安と期待が入り混じっています。
お外に出るということは、当然村の皆に会うということです。皆はもう怖がっていないだろうか?もしまだ怖がられたらどうしようか?そんな考えが少女の頭を駆け巡ります。従者はそんな主を見て苦笑いを浮かべると、ただ一言「素敵な一日になるといいですね」とだけ言い、扉を開けました。
二人がお外に出るのと、数多の魔法が飛んでくるのは、ほぼ同時でした。先立っていた従者が少女を抱きしめ、自分の体を盾にします。「ご無事ですか?――様」そう言うと、気を失い床にベシャリと倒れ込みます。その様子を呆然と見ていた少女の視界に入ったのは、魔力を収縮させている魔女達の姿でした。
その瞬間、少女は全てを理解しました。――ああ、私が許されるわけなかったんだ。皆が私を殺そうとしている。私は皆から嫌われている。なら……生きている意味なんて……
全てを諦めかけた時に、足元に倒れている少女が視界に入りました。「貴女の味方でいることを誓います」、初めて会った時の誓いを彼女は守ってくれた。今だって私を守ってくれた……少女の目に再び力が戻り、静かに詠唱を唱え始めます。数秒後、少女を狙って放たれた魔力は空中で破裂し、消え去りました。少女が唱えたのは、防御壁の詠唱であり、お屋敷全体を包み込むほどの巨大なものでした。
「……今日はここまで」
「え~、何で~!?」
パタンと手にしていた本を閉じてそう言うと、フランは不満気に私を睨む。何でと言われてもね、ここからの展開は、もうちょっと先延ばしにした方がいいのよ。もう少しフランが大人になったら、その時に続きを話した方が面白いだろう。何しろこの後には、一番の盛り上がりが待っている……楽しみは取っておかないとね。
「私が疲れたのよ。これ以上続けると体に障るわ」
私の言葉を聞いて、更に顔をしかめて「嘘くさい~」と言って、パタパタと羽を動かす。まぁ、実際嘘だからね。流石に話してるだけで発作を起こしたりはしない……と思う。多分、おそらく、きっと。
これ以上は、どうあっても喋らないと言うことを理解したのか、フランは羽を止めるとベッタリとテーブルに伏せる。そして視線だけ私に向けると、ゆっくりと口を開く。
「……だけどさ、可哀想だよね。何も悪いことしてないのに」
「……これはただのお話なんだから。実際に閉じ込められてる貴女の方が可哀想よ」
「ん……でも私にはパチュリーやお姉さま、美鈴がいるから。その魔女さんと悪魔さん、幸せになれるのかな?」
「さあね。でも、一つだけ確かなのは……魔女さんはこの後、大切な宝物を手に入れるわ。ちょっと扱いに困る二つの宝物を、ね」
それにしても、何で自分の事が書かれた本を持っているのか…