で、着いたのは人里。
お昼時ともあって、人里内は大変賑わっている。
そんな中をずんずん進んでいくパチュリー。
その後ろを、ますます分からないといった顔で喋っている魔理沙と美鈴。
「おいおい・・・。ついに人里まで来ちまったぜ?」
「なんか、一番パチュリー様に似合わない場所に来ちゃったって感じですよね。」
確かに、この魔女が人里に自ら出向くなんて、今までに無かったことじゃないのだろうか?
多くの人妖が行き来するこの人里内であっても、2人にはパチュリーの姿が浮きまくっているようにしか見えない。
はっきし言って、それくらい違和感がある。
その中を、まるで目的の場所は一つと言わんばかりに迷い無く進んでいくパチュリー。
その隣を何事も無いように並んで歩く小悪魔。
そして、前方の2人が立ち止まる。
「・・・ここで間違い無いわね、小悪魔?」
「はい、チラシに載ってある店名と同一ですね。」
魔理沙と美鈴も立ち止まり、その建物を見上げる。
そこの看板に書かれている文字は・・・。
「『丼物 ごくつぶし』?」
魔理沙が読み上げる。
名前から察するに、どうやら飲食店のようだが。
「あ、ここ私知ってますよ。最近人里にオープンした食事処です。確か先日門番やっているときに文さんから渡された新聞にココのチラシが入ってましたよ。あまりよく読まないまま咲夜さんに渡したので詳細は知りませんが・・・。」
そう美鈴が思い出すかのように話していると。
「あぁ、この店ね。私も咲夜に渡されて一度目を通したことあるわ。」
突然の声に2人が後ろを振り向くと・・・。
「お嬢様?」
「レミリアじゃないか。お前、なんでこんなところにいるんだ?」
「お前らもう頭の中から私の存在デリートしやがってるな!?」
2人のあんまりといったらあんまりな発言に喚くレミリア。
「どうしたんですかお嬢様。そんなボロボロなお姿で。また階段から転げ落ちましたか?」
「『また』とか言うな!そんなにしょっちゅう転げ落ちてないわよ!!さっきパチェのトラップで天井に打ち付けられていたの見えてなかった!?あなた私の従者よね!?もっと気にかけてよ!心配してよ!!あなたまでにそんな事言われたら仕舞いには泣くわよ!!マジで!!」
「あぁ、そういやそんなこともあったな。で、どうした?あのメイド長も連れてないで吸血鬼がこんな真昼間から。」
「いいかげんにしなさいよ、この白黒!私もパチェに呼ばれたの知ってるでしょ!?あんたらが助けもしないでさっさと行ってしまうから私がどれだけ想像を絶する脱出劇を繰り広げたと思ってるのよ!!」
その想像を絶する脱出劇は今回横に置いておこう。
ともかく、みんなに置いていかれない様に必死に脱出して、自ら日傘をさして急いで駆けつけたレミリア。
そんな健気なレミリア様に追い討ちをかけるように。
「・・・あら、レミィ。こんなところで奇遇ね。」
「パチェーーーーーーーーーーーー!?」
お前が呼んだんだろうとかトラップ云々の文句をすべてすっ飛ばして力いっぱい叫ぶレミリア。
呼んだ張本人、しかも親友にまでそんなことを言われて崩れ落ちる寸前である。
そんなお嬢様を見かねたのか、小悪魔がそっとレミリアの肩に手を置き、優しく語り始める。
「大丈夫ですよお嬢様。みんな悪気があっての発言ですし。」
「あるの!?」
まぁ、それはともかく。
店に入るパチュリー一行。
店内はいたってシンプル。
カウンター席と4人がけのテーブルが数個。
まぁ、どこにでもあるような食事処だった。
「レミリアは、ここがどういった店かちゃんとチラシに目を通したのか?」
そう尋ねる魔理沙に。
「え、ええ。なんでもリーズナブルで量が多いっていうのがウリの店だったと思うけど。」
「ふむ、量が多い・・・。・・・、え、まさか?」
ふと、頭によぎった美鈴のパチュリーの目的。
その呟きに答えるかのようにパチュリーが店内の張り紙を指差した。
「そう。私たちが挑戦するのはアレよ。」
皆がその張り紙に目を向ける。
『超ド級メガトン爆肉どんぶり制限時間内に完食してみろや!!』
なにやらイヤに挑戦的な文面ではあるが。
いや、問題はそこではない。
制限時間内に完食?
それはつまり・・・。
「えーっと、パチュリー様。もしかして目的は大食いの挑戦?」
あまりにもらしくない挑戦に、困惑気味の美鈴が尋ねる。
だが、当のパチュリーは。
「えぇ、そうよ。」
と、返答する。
「お、おいマジかよ!?」
魔理沙が驚くのも無理はない。
この紫もやしの別名で通っている引きこもり魔女が大食い?
いや、普通に考えたら無理でしょうが。
「そういや、私があのチラシを読み終わった後、小悪魔が持っていったんだっけ?・・・いやいや、そんなことどうでもいいわよ。」
レミリアがパチュリーに問い詰める。
「貴方、普段からそんなに食欲旺盛じゃなかったじゃない。いや、確かに3食ちゃんと食べてるけどさ。だからって大食い!?貴方そんな特技でもあったの!?」
「ふっ、甘いわねレミィ。」
そう何故か勝ち誇ったように笑みを浮かべるパチュリー。
そして、自信に満ち溢れた顔で、こう告げた。
「特技なんかではないわ。これは私にとって生まれてきた意味でもある重要なファクターなのよ!」
グッと拳を握り締めて、生き生きとした瞳を輝かせている。
「いや、お前魔女だろ?なにいきなりフードファイターに鞍替えしてんだよ。」
魔理沙が半眼でツッこむ。
なんか色々アレな展開で頭が痛い。
「さて、とりあえず私たちの目的はアレの完食よ。」
そういって、張り紙を指差すパチュリー。
「まぁ、私はタダで沢山食べれるのはありがたいんですが。完食できたらの話ですけど。」
もうどうでもいいや、って感じの美鈴。
「なんか、私は完全に巻き込まれた感じだな。一体どれだけの量を食べることになるんだ?」
魔理沙も、まあ上手くタダ飯にありつけるならいいかなって感じで。
そんなこんなで話していると、小悪魔が駆け寄ってきた。
「パ、パチュリー様!」
「どうしたの、小悪魔?ルールとかちゃんと店員に聞いてきた?」
「は、はいそれなんですが・・・。」
小悪魔による情報によると。
参加できるのは最大4名まで。
一人一杯、全員が時間内に完食したら勝利。
人数によって量が変わるが、一人一杯という計算になるので、一人が食べなくてはいけない量は人数に関係しないということ。
4名という制限は、ただテーブルが最大4人までしか席がないというだけのこと。
ただ、参加する人数が多いほど、完食したあとの賞金が上がるということ。
他にも条件はあるが、こうなると5人の中から最適なメンバーを4人選ばないといけないということになる。
「当然、私は出るわよ。」
そう高々に宣言するパチュリー。
「・・・いや、もうお前が自ら挑戦すると言い張ったからいいんだけど。本当に食べれるんだろな?」
未だにパチュリーのスペックに疑問を持つ魔理沙に対して。
「任せなさい。私は勝算の無い挑戦はしないわ。」
自信を持って宣言するパチュリー。
そして。
「美鈴。あなたも必須ね。自信はあるでしょ?」
そのパチュリーの問いに対して、一つ溜息をつき。
「・・・任せてください。普段から鍛錬とかで体は動かしてますし、今日は昼ご飯前です。食欲なら大いにあります。」
その言葉に、2人目の挑戦者は決まった。
「・・・で、魔理沙。」
「賞金は幾らか貰えるんだろうな?そうじゃなかったら私に参加する意味は無いぜ?」
「安心しなさい。私の目的は、ただ完食のみ。賞金なら残りのメンバーで分けなさい。」
どうやら、パチュリーの目的は本当に完食のみらしい。
「ま、それなら参加してもいいかな。」
で、最後の一人であるのだが。
「小悪魔。あなたは当然イけるわよ「って、ちょっと待ちなさいよ!!」」
パチュリーの発言に慌てて割り込む吸血鬼が一人。
もちろん、レミリアのことである。
「ちょっとパチェ、アンタ私に声をかけておいて参加させないなんてどういうことよ!?」
「なんでって・・・。貴方小食だから戦力外。」
「じゃあ何で私に声かけた訳!?」
呼んでおいて戦力外告知されたら、流石のレミリアだって憤慨する。
せっかくの親友の頼みとあって出向いたというのに、いきなりトラップで天井に叩き付けられたり。
それでも必死になって脱出を試みて、自ら真昼間に人里まで追いかけてきたのにである。
それなのに。
「いくら貴方が親友とあれども、私は紅魔館の主!呼ばれて、酷い目にあって、それでもわざわざ日が昇っているうちから人里まで追いかけてきたのよ!?ここまでして来たのだから、ここで参加できないなんて私のプライドが許さないわ!パチェ、4人目は私にしなさい。」
強い意志を持って言い張るレミリア。
こうなっては意地でも動かないのが、この吸血鬼の短所でもあり長所でもある。
そんなレミリアを見て、考え込んだのは一瞬。
「分かったわ。4人目はレミィよ。」
その一声で、挑戦者が全員揃うことになった。
「じゃあ、私はタイムキーパーをやりますね。」
そう言って、ストップウォッチを店員に借りてくる小悪魔。
「悪いわね小悪魔。本当なら貴方も参加できたら良かったんだけど。」
苦笑しながらそう詫びるパチュリー。
「いえいえ。私は横で皆さんの応援をしておきますので。」
そう微笑みながら答える小悪魔。
「でもよぉ。」
そこに会話に割り込んでくる魔理沙。
「本当に勝算はあるのかパチュリー。レミリアの事も不安なんだが、私にとっちゃお前も同じくらい不安なんだが。どんだけの量が出てくるかは知らんが、タダ飯にありつけて、尚且つ賞金が出るんだから並大抵の事じゃないと思うぞ。」
「まぁ、確かにそうですよね。」
その問に答えたのは美鈴。
ただ。
「挑戦すると言ったのはあくまでもパチュリー様です。失礼ですが、パチュリー様がガツガツ食べる様子は私にも想像できません。でも、自ら挑戦すると言ったからには、やはりパチュリー様が必須になることは、ある意味当然かと。」
「あら、分かっているじゃない美鈴。」
その率直な感想に僅かながら嬉しそうな笑みを浮かべるパチュリー。
「任せなさい。さっきも言ったでしょ。勝算のない挑戦はしないって。本当なら私と小悪魔2人だけで参加してもよかったんだけどね。ただ、この闘いには賞金の量とは別に、人数が多いとメリットがあるのよ。それは『5人目』の小悪魔がいることにも関係あるわ。」
それはおいおい分かるとして。
パチュリーが店の壁の方を指差す。
「以前、小悪魔にどんな感じの店か様子を見てきてもらったことがあるのよ。で、そこで見つけたのが・・・。小悪魔。」
そう言って、続きの説明を小悪魔に促す。
「はい。私が目にしたのは、パチュリー様が指差しているところ。つまり、今までの挑戦者で見事勝ち抜いたメンバーです。あそこにあるのは、それを記念としたメンバーの名前と写真ですね。見てください。」
全員がその方向へ目を向ける。
店が出来て間もないということもあるのかもしれないが、それでも今までに完食できたのは3組だけだった。
一組目は、ご存知冥界組。
従者のほうも限界まで頑張ったのだろう。
写っている写真には、青い顔をして苦しそうなみょんと、全然余裕な感じの亡霊主。
二組目は、なんと人里の寺の2人。
小さな小さなダウザーと、入道遣いだった。
なんか寺のメンバーで一番小食そうな2人が完食しているという証拠が、そこにはあった。
で、三組目なのだが・・・。
「・・・おいおい、マジかよ。」
そこに写っている2人組を見て、思わず戦慄する魔理沙。
「・・・よく、あの小さな身体で完食できたものですね。」
流石に、美鈴もこれには驚愕した。
「・・・てか、なんであの2人はこんなことに参加したのよ?予想外にも程があるわ。」
半眼で呟くレミリア。
3人が驚くのも無理は無い。
そこに写ってる2人組は、なんと紅魔館の近くの湖に住んでいる氷精と相方の妖精だったからだ。
いつも通り、一体何処からその満ち溢れた自信が出てくるのか分かんない氷精が満面の笑みでピースしている。
その横で、ちょっと恥ずかしそうにカメラに目をやっている大きい妖精ちゃん。
「分かったでしょう。妖精でさえ完食できたという事実が、私たちの目の前にあるわ。・・・負けられないわ。この『動かない大図書館』パチュリー・ノーレッジの名にかけて、私たちは絶対に負けられないのよ。」
一人で勝手に盛り上がってるパチュリー。
はっきし言って、何で大食いに自分の名をかけるのかは意味不明だが・・・。
「いや、『私たち』って・・・。フードファイターっぽくなってるパチェはともかく、他の私たちに絶対に負けられない戦いがそこにはあるみたいな感じで巻き込まれても。」
「・・・レミィ、貴方妖精ごときに負けてもいいってわけ?」
その言葉に、一瞬レミリアの眉がピクッと上がる。
「あら、別にいいのよ?レミィはちんまいし、妖精とどっこいどっこいだものね。小食だし妖精ごときに遅れをとっても何も問題なi「やってやるわよぉーーーーーー!!このレミリア・スカーレット様があんなザコ妖精どもに遅れをとるわけないじゃない!!大食いだろうがなんだろうが、この私の実力を存分に見せてやろうじゃない!!」」
結構単純にパチュリーの挑発に乗ってしまってる我らがおぜうさま。
なんかカリスマとは別の、ある意味情けないオーラ全開のレミリア様ヒートアップ中。
「さ、話も纏まったことだし・・・。さぁ、始めるわよ・・・!」
着席した選ばれし戦士たちに声をかけるパチュリー。
その声とともに小悪魔が厨房の方を見る。
不敵な笑みを見せる店長。
それを合図となったか。
厨房が、一気に戦場と化した。
フライパンから溢れる炎。
その中にはこれでもかというくらいの肉、肉、肉!
それだけではない。
ただ量が多いというだけで満足する店長ではない。
秘伝の調味料を駆使し、己の全てを込めた味付けが行われていた。
コッテリとした旨み。
食欲を倍増させるような絶妙の辛味。
そう。
不味いもの作って食欲を下げようという魂胆は無い。
最高の腕を。
最高の料理を作り、そして尚且つ挑戦者を苦しめる料理を作り上げる。
その食欲をそそる絶品の味に仕上げて、なお挑戦者たちを苦しめてきた爆肉!
そうして数々の兵どもを苦しめてきた己の全身全霊を込めた一品。
だが、それを難なくクリアした者たちがいたということも事実。
一組目は、一言で言うなら『圧巻』だった。
己の全てを込めて、絶対完食できまいと出した一品は、あっというまに平らげられてしまった。
みるみるうちに丼から消えていく至高の一品。
あれだけの量が僅か数分足らずで消えてしまったのだ。
『ヤツは人間じゃない・・・!!』
店長は戦慄した。
この幻想郷には想像を絶する『怪物』がいる・・・!
完敗だった。
だが、ここであえて食べにくい不味いものを出すのはプライドが許さない!
味も変えない。
量も変えない。
来るなら来い!
この私が、この程度で屈するものか!
だが、その自信も二組目によって破られた。
寺の住人。
その2人が肉、しかも大食いに挑戦するというのだ。
無謀。
その言葉が頭によぎった。
だが。
あの小さなネズミは何者だ。
あの尼僧は何者だ。
鬼気迫る形相で瞬く間に平らげていく2人。
そして、食べ終わった2人の顔は、『満足』、その一言に尽きた。
総合タイムで言えば、今までの3組中最速だった。
だが、だが!
ここで折れる私ではない!!
量を増やそうなんて馬鹿な考えは毛頭無い。
味を落とすなんてもってのほか!
一料理人として、私は絶対に負けられな・・・。
なにやらブツブツ呟きながら料理を作っている店長。
「大丈夫か、あのおっさん?なんか怨念のように呟きながらフライパン振り回してるんだが。」
「何か嫌なことでもあったんですかね?執念と一緒に禍々しい『気』が溢れてるんですけど。」
そうヒソヒソと話している白黒と門番。
そんなこんなで10分程度はたったか。
店員が人数分の料理を運んできた。
ふぅ、と一息つき精神を集中させているような美鈴。
とりあえず参加するからには派手にいくぜ、と意気込む魔理沙。
私を舐めるな、と言わんばかりに目が血走っているレミリア。
そして。
いつものように、ただ静かに料理が運ばれてくるのを待つパチュリー。
ここに。
『丼物 ごくつぶし』におけるパチュリーたちの熱き闘いが始まろうとしていた。
そして店長怖いよww続きが楽しみです!
お嬢様・・・ガンバレ!www
続きが楽しみです!!
>みんな悪気があっての発言ですし
まぁ無くてもそれはそれで嫌だしねw
前作もそうだけど、御嬢様の扱いがwww何か恨みでもあるんですかw?
面白かったです。続きを千手観音みたいな形相で待ってます。
そう思わないと不憫でならないw
それはともかく、店名、ごくつぶしって…ww
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