注意事項
・○○年後の幻想郷です。
・そのため独自解釈・設定が含まれてます。
それでもいいという心の広い方は40行ほど下にある本文へどうぞ。
[ある日の白玉楼]
広大なこの庭に一際目立つ大きな樹。
以前、この樹を満開にさせようとしたことがあった。
幻想郷中の春を集めればきっと満開になると必死で集めた。
結局、異変を解決しに来た巫女とか白黒とかメイドに邪魔されて咲かなかったけど。
師匠は満開の姿を見たことがあるようなことを言っていた。
同時に二度と咲かないと。
何故かは教えてくれなかったけど。今も理由はわからない。
あれから何度も季節が巡り、色々な人がこの幻想郷に来て、
その度に異変があった。
その度に宴会が賑やかになっていった。
今もそれは変わらない。
◆
「妖夢~」
庭で物思いに耽っていると、自分の名を呼ばれた気がする。
「妖夢~、何処~?」
また呼ばれた。空耳ではなかったか。
「妖夢~?あら、ここにいたのね。」
そこまで来て幽々子様の声だとわかった。
「おや、幽々子様?どうされましたか?何か御用でしょうか。」
「小腹が空いたわ妖夢。」
「戸棚に羊羹がありますからご自由にどうぞ。」
「用意してくれないの?」
「私は世話係じゃなくて庭師ですから。」
「・・・最近妖忌に似てきた気がするわ貴女。」
「孫ですから。」
「うわ~ん紫ぃぃ~、妖夢が反抗期にぃ~」
「違います。」
◆
結局、涙目でこっちを睨んで来る幽々子様にお茶と羊羹を用意する。
縁側で並んで一緒にお茶を飲む。
まだ日差しが強く、暑いがここは日陰になっていて風通しもよく、気持ちが良い。
「暑い日が続きますねぇ。」
「そうねぇ。」
なんとも言えない穏やかな休息。いつもと変わらない穏やかな時間。
「そういえばさっき庭でボーっとしてたけどどうしたの?暑さにやられたのかしら?」
そんなに呆けているように見えたのだろうか。
「従者が刀を抜き身のまま空を見上げて突っ立ってたら不思議に思うでしょう?」
そういえば仕事の途中でふと物思いに耽っていたのだった。
なんだかすぐに思考が回らない。暑さにもやられたかな?暑さにやられるようではまだまだ修行不足だろうか。
あと、人の心を読まないでください。さとり妖怪じゃないんですから。
「細かいこと気にしてはいけないわ妖夢。そんなことでは大きくなれないわよ?」
「体はともかく、半霊がこれ以上大きくなるのは困りますね。」
桜花異変と呼ばれた事件からもう何年も、何十年も、いやそれ以上だろうか。長い時が経っている。
半人半霊の私もそれなりに成長した。
半霊も成長した。成長するんだ、あれ。自分でも驚きだ。
今は直径が私の背の7割くらいある。あんまり大きいとはっきりいって邪魔だ。
自分の体の一部だから捨てるわけにはいかないけど。
でも幽霊は温度が低いから夏場は冷たくて気持ちが良い。
「夏場には最適の抱き枕よね。程よく弾力があって最高よ~。」
「あの、あんまり抱きつかれると流石に暑いので程々にしてくださいよ。」
「あら良いわね幽々子。うちにも一つくれないかしら?」
目の前にいきなり紫様の顔が現れる。
ちょっとびっくりした。
「い~や~。これは私のなの。」
「いえ、私の半霊ですから。あと紫様、急に出てこないでください。」
「ふふふ、ついでに驚かそうと思ったのに意外と冷めた反応ね。昔みたいに可愛い叫び声聞きたかったのに。」
悪趣味ですな。
流石の私も慣れましたよ。
「最近妖忌に似てきてなかなか昔みたいに弄れないのよ。」
「うふふ幽々子。そういう子を弄ってこそ、真の一流よ?」
「なんの一流ですか。というか本人の目の前でその会話はどうなんですか。」
「これから弄るという宣戦布告ですわ。とりあえず、脱ぎなさい。」
「いきなりセクハラ発言ですか。紫様、あとその手の動きやめてください。そのまま近寄ってこないでくください!」
「私も加勢するわ紫!」
変態が二人に増えた。
最近セクハラの割合が増えている気がする。
流石に不味いと思う。でも半分諦めている自分がいる。昔やられすぎて弄られ癖がついてしまったのか。
「ふふふ、妖夢は弄られて嬉しいのよね?」
「断じて違います!いい加減にしないと紫様とはいえ斬りますよ?」
「あら怖い。」
そういいながら手をワキワキさせて近づいてくる変態が一人……じゃない二人。
師匠、この人達斬っていいですか?
いえ、片方は主人なんですが。主人の道を正すのも従者の役目ですよね。そうですよね。
ああでも主人に剣を向けるわけには──
「さあ、観念しなさい妖夢!」
「──っは!?」
まずい!ちょっと迷ってるうちに接近されてた。
時既に遅し、幽々子様が飛び掛ってきた!?
「一番のりいぃぃぃぃ!!」
「みょん!?」
◆
そんなやり取りがしばらく続いた。
敵の前で迷うとはまだまだ私は未熟だ。
一通りからかわれた後、幽々子様が口を開いた。
「それで、妖夢は何を考えていたのかしら?」
さっきまでのやり取りですっかり話の内容を忘れていたから何のことかわからなかった。
少し考えて何の話か思い出す。
「ああ、ふと昔のことを思い出していたのですよ。」
私達が異変を起こした時のことを。
あの西行妖を咲かそうとした異変のことを。
一つ一つ思い出しながら語る。
不思議なほどはっきりと思い出せる。
いきなり春を集めて来いと言われて困惑したこと
春なんてどうやって集めればいいのか悩んだこと
集めてたらなかなか冬が終わらないことに気付いてさらに困惑したこと
そして、異変を解決しに彼女達が来たこと。
◆
時間を忘れて語りに没頭していたようだ。
いつの間にか日が傾きかけている。
語っている間、紫様も幽々子様も昔を懐かしむように聞き入っていた。
語りを終えて一息ついたところでお茶が冷め切っていることに気が付いた。
「随分前のことなのに不思議ねぇ…。昨日のことのようだわ。」
「あれからどれくらい経ったかしらねぇ。よく覚えてたわね妖夢。」
「不思議とはっきり思い出せたのですよ。あの時は大変でした……」
あの頃は幽々子様の気紛れに振り回されるばかりの日々だった…。
「そういえば未だに咲いたことないのよね~西行妖……」
師匠は二度と咲かないと言っていた。
師匠は満開の西行妖を見たことがあると言っていた。
でも、二度と咲くことは無いと言った。何故だろう。
何か、咲かない理由が……いや、もしかしたら「咲いてはいけない」という意味で言ったのか?
「そうだわ!ねえ紫。ちょっといいかしら?」
「どうしたの幽々子?」
なにやら内緒話をしているようだ。
そして話を聞いている紫様の表情が変化していく。
不思議そうな顔からちょっと驚いたような顔へ、そして…
悪戯をしようとしている微笑へ
──ああ、これは……
なんとなく予想がついた、ついてしまった。
ああ、この予想が外れてくれれば良いのに。でも絶対当たってる。
いまや予想は確証へと変わっている。
きっと、いや間違いなく幽々子様がこれから言う言葉は──
「ねえ妖夢。」
「はい、幽々子様。」
「今から春を集めましょう。夏から集め始めれば春になるころにはきっと西行妖を咲かせれるくらいに集めれるわ!」
やっぱりか、前のときよりも大変なことになるだろう。
でも、私の答えは決まっている。
「はい、わかりました、幽々子様!」
きっと前のときのように終わらない冬がやってくるだろう
再び私達が異変を起こすのだ
そしてかつて彼女達が来たように、必ず誰かが異変の解決に来るだろう
そして──
「うふふ、今度はどんな子が解決に来るのかしらね?今から春が楽しみだわ~。」
──来年の春はきっといつも以上に賑やかになるだろう。
とても面白かったです!
妖夢が変わっているような変わっていないような感じで、良かったです。
台詞からキャラの表情が浮かんでくるようです!
人が変わっても、その雰囲気そのものは変わりそうにないですよね。
…って、全部読んだんですか!
色んな世界観が見れてそうで、ちょっと羨ましかったり。
今度、やってみようかなぁ…