今年も夏が来た。
去年は、思わぬ伏兵にしてやられたが、その教訓を活かすべく、今年は密かに準備を進めて来た。
そして、今日、私、十六夜咲夜は必勝の決意を胸に博麗神社を訪れた。
神社では霊夢が境内の掃除をしていた。
「ご機嫌よう、霊夢。」
「咲夜じゃない。今日はどうしたの?」
「一寸、聞きたいことがあったから来たの。」
「そうなの?取敢えず、座ったら?」
「掃除は良いの?」
「休憩よ。」
そう言いながら霊夢はさっさと縁側に座る。
「お茶飲むでしょ?」
そう言いながら、霊夢は私の返事を待たずに湯飲み二つに急須からお茶を注ぐと一つを渡してくれた。
「ありがとう。」
私は霊夢からお茶を受け取り、霊夢の隣に座った。
お茶を一口飲むと冷たく、お茶特有の甘味とほのかな渋みが口に広がる。
「美味しい。」
「でしょ。やっぱり夏は冷茶よね。」
嬉しそうに答える霊夢。可愛い。
「で、聞きたいことって何?」
「今年の夏の霊夢の予定を聞きに来たのよ。」
「私の予定?」
「そうよ。一昨年は紅魔館、昨年は守矢神社に避暑に行っているでしょ?」
「紅魔館でなく霧の湖、守矢神社でなく山の上の湖。」
「でも、結局は紅魔館や、守矢神社にそのまま泊まってるじゃない。」
「良いじゃない。」
「えぇ、構わないわ。だけど、来ることがわかっていれば、色々準備しておけるの。」
「そんなものなの?」
「そんなものよ。それで、どうするつもり?」
「ん~~~どうしようかしら。」
「それとこれは忠告だけど、去年、日焼けで苦しんでいたでしょ?」
「そうなのよね。いつもと同じくらいしか外にいなかった筈なのに、真っ赤になっちゃって、大変だったわ。」
「その事でパチュリー様や永琳に聞いの。そしたら、太陽の光の中には紫外線って言う光があって、それに当たり過ぎると酷い日焼けになったり、病気になったりするらしいのよ。それで、その紫外線は山の上の方が強いらしいの。」
「そうなの?」
「えぇ。それと山の上の湖の水が冷たいって言っていったでしょ?あまり冷たい水に入っていると身体に負担がかかって心臓麻痺を起こす危険もあるらしいわよ。」
「結構、恐いことしたのね。」
「そうね。今年も守矢神社に避暑に行くのなら気を付けなさい。」
「そんな話聞いたら、行く気なくなるわよ。今年は霧の湖に行くわ。レミリアにそう伝えておいてよ。」
「わかったわ。」
(勝った!)
私は喜びを堪え、平静を装いながら私は霊夢に答える。
「でも」
勝利の余韻に浸る私に霊夢は言葉を続ける。
「あんたも一緒に遊びなさいよ。一昨年行った時は、魔理沙は図書館に行ったら帰って来なかったし、レミリアは仕方ないとしても、あんたなんかメイド服着たままレミリアと一緒にパラソルの下にずっといて、私一人ではしゃいでバカみたいだったんだから。」
霊夢と一緒に水遊び……二人で湖岸を追い駆けっこしたり、水のかけ合いをしたり、寄り添って夕日を見て、そして……良い、凄く良い。
「わかったわ。お嬢様に頼んでみるわ。」
「そうしてよ。一人で泳いだってつまらないんだから。」
「泳ぐ?」
「そうよ。」
えっと、私、泳げた?今迄生きてきた記憶の中を探しても泳いだ記憶がないのだけど。
「どうしたのよ?」
「あのね……霊夢……」
「なに?」
「実はね?」
「うん。」
「……かもしれない……」
「は?」
「……泳げないかもしれない……」
「誰が?」
「私が……」
「あのね、自分の事なんだから、泳げるかどうかぐらいわかるでしょ。」
「……仕方ないじゃない。泳いだ記憶がないんだから。」
「あんたね~自分が泳げるかどうかもわからずに誘ったわけ?何、考えているの。」
「……そうしないと霊夢が遊びに来てくれないと思ったんだもの……」
「何、言ってるの。咲夜が『遊びに来てっ』て、言えば行くわよ。」
「本当?」
「本当よ。ついでに、泳げるように特訓してあげるわよ。」
「えっ?」
「言っておくけど、私の教え方は厳しいからね。覚悟しておきなさいよ。」
「ありがとう、霊夢。じゃぁ、お礼に水着作ってあげるわ。」
「水着?」
「そうよ。どうせ、貴方の事だから、また、さらしとドロワーズで泳ぐつもりだったんでしょ?」
「いけない?」
「あのね、さらしだと濡れると透けるわよ。水着作ってあげるわ。」
「そんなの今更じゃないの。どうせ何度も一緒にお風呂に入っているんだから、気にすることないわよ。それに、こんなささやかな胸なんか見たい奴いないでしょ。」
「よくないわよ。烏に写真撮られて、幻想郷中に配られても良いの?」
「そこまでされると聞くと流石に嫌ね。じゃぁ、お願いするわ。」
「えぇ、霊夢に似合いそうな水着作ってあげるから楽しみにしていなさい。」
一時思わぬ事態になったのだけど、結果から見れば大勝利。
できたら、このまま霊夢とお喋りを続けたいのだけど、お休みを貰うとなると色々な雑務をこなしておかなければいけない。
霊夢から来る日付を確認し、後ろ髪を引かれる思いで私は紅魔館への帰途に着いた。
そして、約束の日。
霊夢は朝から、紅魔館にやってきた。
「おはよう。レミリアに休み貰えたの?」
「えぇ、休暇を貰えたわ。と言うよりも、お嬢様も一緒に遊ぶことになったわ。」
「あっそ。で、そのレミリアは?」
「今日が楽しみ過ぎて、朝まで起きていらして、つい先ほど眠りましたわ。」
「レミリアらしいと言えば、レミリアらしいわね。それで、結局、あんたは泳げたの?」
霊夢の問いに私は首を振り答える。
「そう。なら特訓ね。」
「宜しくお願いします。それと水着できているわよ。」
霊夢に真っ白なワンピースの水着を渡す。
「ありがとう。早速着替えて、湖に行きましょ。」
「えぇ。」
湖岸にビーチパラソルを立て、。真っ白な水着に身を包む霊夢と紺色の水着に身を包む私。結構、絵になっているのかもしれない。
しかし、湖に入ってすぐに、私は霊夢に手を引かれ、泳ぎ方を教えて貰っている。
傍から見れば、格好悪いのだろうけど、今だけでも霊夢を独占できている。だから、格好なんて気にしないで、ひたすら私は練習した。
「ほら、もっと体から力を抜きなさい。身体に下手な力が入っているとすぐ疲れるわよ。」
「霊夢、絶対に離しちゃ駄目だからね。」
「ちゃんと繋いでいるでしょ。それに、ここならまだ足が着くから、安心してバタ足しなさい。」
「絶対よ。本当に手を離さないでよ。」
「わかったわよ。なんだったら、ずっと手を繋いでいてあげるわよ。」
「えっ・・・それ……」
『それってどういう意味なの?』と言おうと思ったが、口に水が入って来る。おまけに慌てて呼吸をしようとしたので、今度は鼻からも水が入ってきた。
うぅ、鼻の奥が痛い。思わず足を着いてしまう。
「何やっているの。」
「鼻から水が入って痛いの。」
呆れたような霊夢の声に涙目になりながら答える私。うぅ、情けない。
「仕方ないわね。一寸休憩しましょう。」
そう言いながら、さっさとビーチパラソルまで行くと座り込んでしまう霊夢。
私も霊夢の言葉の意味を考えながら、湖から上がり、霊夢の隣に腰を下ろす。
先程の霊夢の言葉。『ずっと手を繋いでいてあげる。』
言葉の意味を深く考えれば、『ずっと傍にいてあげる。』と言うプロポーズとも取れる言葉。
しかし、相手は霊夢。言葉に深い意味など含ませると思えない。特訓では手助けしてやるって意味ぐらいなのだろう。
でも、やはり一寸ドキッとする言葉。思い出すと赤面してしまう。
「顔が赤いけど、疲れたの?」
「疲れてはいないのだけど……」
「じゃぁ、どうしたのよ。」
「……さっきの霊夢の言葉がちょっと。」
「私の言葉?」
「『ずっと手を握っていてあげるわよ。』って。」
「あぁ、あれ?別に深い意味はないわよ。」
やっぱりそうよね。勝手に想像を膨らましてしまった自分が情けなくなり、俯いてしまう。
「さっさと、嫁に来いって意味なだけ。」
そのまま続けられた霊夢の言葉に私は思わず顔をあげ、霊夢を見ると、霊夢は真剣な表情で私を見つめている。
「お嬢様に言ってみるわ。」
頭に血が上り、思考が纏まらず、そう答える私。
「レミリアのことはどうでも良いの。咲夜の答えを聴きたいのだけど。」
「私はその……霊夢が嫌でなければ……」
「じゃぁ、OKってことで良いわよね。」
「えぇ。」
私はそう答えると、瞳を閉じ、隣に座る霊夢に身を寄せた。
こうして、今年の私の夏は始まった。
夜寝ないで昼寝して待ってるから…
もうあれだ結婚だ結婚。
伏狗さん結婚しよう。
2828が止まらないZE!
霊夢さん、意味深すぎますよ!!
あぁ素敵…