今日のお嬢様はどこかの紅い狼さんに影響されたようだ。
では。
「お嬢様。おきてくださいお嬢様」
「ふあぁ。…おはよ、咲夜」
「爽やかな朝ですね。今日は何か良いことでもありそうです」
「やな天気ね。ってこらカーテン開けるな」
最近、霊夢たちと遊ぶのが楽しいので生活習慣を夜型から昼型にした。日中の行動には中々制限がつくがまぁ概ね楽しい生活を送っている。
時期的には大体、あの紅霧異変が起こってからだ。あの異変は失敗に終わったが、おかげで年中暗かったこの館の面々も明るくなってきたと思う。吸血鬼としての威厳はどうなのかとも思うが、何、私はまだ若い。今はこんなものでもいいだろう。威厳が堕ちるよりも退屈なほうがいやだし。
「ま、いいよ。咲夜、何時もの」
「はい。おはようのキスでございますね」
「ちげぇよ紅茶だよ」
「かしこまりました」
しかし最近思うことがある。明るくなるのはいい。しかし、どうも最近何か明るくなりすぎな、いやおかしくなりすぎな気がするのだ。
「お待たせしました」
「ありがと。ん?なんか変な色。咲夜、何入れた」
「希少品にございます。なんでも里では滅多に手に入らないとか」
「へ~」
ま、退屈凌ぎには丁度いいぐらいだし。こっちは咲夜がちゃんと仕事してくれたらそれでいいし。
それにしても今日は何だか暑い…夏日だろうか、汗が出てきた。しかし咲夜を見ても汗一つかいていない。ん…体の奥から熱が湧き上がってくるような。心なしか息が荒い。頭が霞がかっていく。下半身がとても…ってこれまさか。
「最新式妖怪用超強力媚薬だとか」
「ああ確かに希少品だなあ!?」
「ああ怒った顔も可愛らしい…しかしながら、赤面して目を潤わせながら睨まれたって私のナイフが火を噴くだけですわ?」
「…こいつだめだ」
「いやですわ比喩ですよ今のは」
完全に駄目だ、目が据わっている。つーか待て、何故胸元を緩める?顔真っ赤だぞ?あれ、さっきと違ってかなり汗かいてないか?まさかとは思うが…。
「当然ですわ。私も飲みましたから。人間用ですけど」
「何故飲んだ!?」
「主一人に背負わせることなど出来ません。私はあなた様にこの身全てを捧げる従者。私にも背負う義務と権利がありましょう」
「何良いこと言ったみたいな顔してんだよ。つーかよるな」
「大丈夫ですわお譲様。痛くなどいたしません。むしろ私に…」
「ひっ…」
「失礼します…って咲夜さん!!なにやってるんですか!?」
「ハートブレイク!!」
間一髪のところで美鈴が入ってきた為に咲夜に隙が出来き、私はそこに向かって勢い良く紅い槍をぶん投げた。勿論直撃はさせない。いくら二人が人間離れしていても(美鈴は実際に人じゃないが)このスペルの直撃など食らえば無事ではすまされない。こんなしょーもないことをする従者でもやはり私の大切な従者。傷つくところなど見たくはない。とにかく咲夜と距離をとる。
「なんてことしてるんですか咲夜さん!!」
「い、いや…あまりにもお嬢様の寝顔が可愛くてムラムラしてしまったから」
「咲夜さん…あなたは…なんで」
やはり美鈴だけだろうか常識人なのは。毎日風雨に負けずに立ちっぱなしで頑張る彼女だ。健全な肉体には健全な精神が宿るというもののいい例えだ。この機に少しはシフトを見直して休みを増やしてやるべきか。
「なんで…なんで私も誘ってくれなかったんですかぁ!?」
「め、美鈴!ごめんなさい!」
「楽しいことも嬉しいことも私と共に分かち合ってくれると、そう言ってくれたじゃないですか!!」
「…!そうだったわね。ごめんなさい美鈴!あなたの言う通りね!共にお嬢様を分かち合いましょう!!」
「咲夜さん!!」
「美鈴!!」
…やっぱり直撃させておくべきだった。
…
とりあえず私はその場から逃げ出してきた。二人にはミゼラブルフェイトをかまして身動きを封じて。媚薬効果はまぁ、吸血鬼の気合で相殺している。と言っても所詮はやせ我慢。さっきから衣服が体にまとわり付くように擦れて鬱陶しい。小突かれるとモロに変な声を上げてしまいそうだ。
…とりあえず、霧の湖にでも行って風に当たり、迸る体を鎮めようか。…さっきから咲夜と美鈴がなにやら叫んでいるようだが気にしない気にしないっと。
「確か日傘は玄関ホールにおいてあったわね…」
そうして玄関に着いたわけだが…あれ?傘立てには一本も傘が置いてなかった。そこにはどこから入り込んだのか紫色した不気味な唐傘が立ててあるだけだ。…確かこの前花見で神社に出かけた後ここに置いていたはずだが。
「あ、お嬢様。日傘をお探しですか?」
「あなたはどこにあるか知らない?」
「それでしたら先ほど小悪魔さんが持っていきましたよ?なんでもパチュリー様のご命令だそうで」
「…パチェ。わかったわ。ありがとう」
どういたしましてと言ってその妖精メイドは去っていった。しかし、そうとなると日傘は図書館にあると言うことか。己の能力など使わずとも、この先に厄介な運命が転がっていることなど分かりきっていた。しかし、ここにずっと居るほうがずっと厄介だと思い、私は図書館に向かった。なんか泣き声が聞こえた気がするが気にしない気にしないっと。
「あの、パチュリーさま。お嬢様は来ますでしょうか」
「来るわ。あの子ならこの館に留まるほうが厄介だと確実に判断するはず」
「作戦、成功しますかね」
「そうね。とりあえずおさらいよ。あの子がここにきたらまずは」
「はい……して、これが…たら……のあと…ですね」
「…そうよ。こうなればレミィを丸裸にするなど簡単なこと。そしてそうなれば…」
「…」
うわぁ、入りたくないなんか丸裸とか聞こえてくるよなんだよあの変態どもは紅魔館どうしちゃったんだよ本当に。
しかし、良く見ればパチェのすぐ隣にはお気に入りの日傘が立掛けてある。…よし、丁度ここから直線コースだ。あちらはこっちに気づいていないようだし、扉をぶち破って一気に…。
覚悟を決めて、地に着けた足に妖力を込める。ここは確実に決めさせてもらう!
「破ッ!!」
「きゃっ!な、何ですか一体」
「はっ、レミィね!」
勢い良く扉をぶち抜いて全速疾走、一気に傘との距離を詰める。他のことなど目にも留めない。ただ、打ち貫くのみ、だ。
「この間合い、もらった!」
「そうはさせないわよレミィ!」
瞬間、私の周りに全身を覆うような大きな水疱がいくつも出現する。水符『ジェリーフィッシュプリンセス』だ。そんなことは先刻承知ずみ。むしろこれは囮だ。私がこれを無視してコースを変更したときに別の手段に転じるはず。だからあえてここを通らせてもらう。速度を殺すことなく腕に血を集めて鋭い爪の刃を形成する。いかに吸血鬼の弱点である水とて所詮、触れなければただの水。そのまま刃を飛ばして切り裂く。進路上の水泡が真っ二つに斬れて上下に分かれ、その間を目掛けてさらに地を蹴ろうとしたとき、
「やっぱりそうくるわね!オータムエッジ!」
待ってましたとばかりにパチェが隙間からスペルを飛ばしてくる。金属でできた魔法の刃。ここまで速度が付いた私にはかえってこういう物体の方が当たると痛いものだ。仮に避けてもその瞬間にスピードが落ちる。しかし、誰も避けるとも当たるとも言っていない。防げば、いいのだ。
「悪いけど当たらないよ!」
蝙蝠状に変形した紅い気を刃にぶつける。勿論、いくら金属とはいえ、たかが魔法で精製したそれの強度が私の弾幕に敵うはずもなく、粉々になって吹き飛んだ。だがその先には…。
「残念だけど大当たりよ」
「え…!?」
そう、これがただの属性弾幕ならよかった。しかしそれは金属、つまりは物体。砕かれたそれはさっき私が切り裂いた水泡に向かって飛んで行き、そして、
「な!?」
「さあレミィ、シャワーの時間よ?」
水泡を粉々(?)に砕き、極度に細かくなった水が広範囲に広がっていた。この中に入るということは、感覚的には川に突っ込むのと変わらない。まんまと嵌められた。こうなればもう、事態を脱するにはこれしかない!
「くっ、なれば!紅符『不死城レッド』!」
このスペルなら周りに飛散する水を全て蒸発させ、全てを五分五分に持っていけるはずである。私の数あるスペルの中でも最高ランクを誇るカード。伊達や酔狂でこんな名前をつけている訳ではない。これで私の勝ちだ。たとえこの次にパチェが水符を展開しようとしても、この距離なら展開前に傘を手に入れることなど簡単だ。後は天井の窓を突き破ってでも逃げればいい。しかし、パチェの次の一言により、私はやってはいけないことをやってしまったことに気づいた。
「ああ、レミィ。あなた媚薬の効果が最大まで出ていると言うのにそんな全身にエネルギーを行き渡らせるスペルを使ったら…」
「…っ!!か、はぁ…!?」
忘れていた。私はさっきまで媚薬の効果やせ我慢してたんだった。全身にエネルギーの奔流が駆け巡る。本来なら痛みとして認識できる刺激、しかしそれは媚薬の効果により快感に変換され全身を駆け巡る。気絶しそうなほどの刺激だ。しかしもしここで気絶でもしたら…。私は奥歯を食い縛ってそれに耐えた。口内に鉄の味が広がるほどに。
「はぁ…はぁ…こんなもんに負けてたまるものか…!?」
「はぁ。必死に何かに耐えようと険しいお顔をされたお嬢様も素敵ですわ…」
「咲夜さん、何かって何でしょう」
「何を言いますか美鈴さん。快感ですよカ・イ・カ・ン」
え?何時の間に全員集合してるのこれ。
「スペルブレイク…かしら、レミィ?」
「くっ…」
まだだ!まだ負けるわけには…っ!!
死力を振り絞り腕に力を込める。こうなれば仕方ない。魔道書数冊には犠牲になってもらうしか。
「…あなたまさか」
「そのまさか!」
これが最後の跳躍となるだろう。狙いはみんなの後ろにある大型本棚の上部分。ここに衝撃を加えれば一斉に本が棚からパージされ降り注ぐことになり、そうなればいくらこの人数差でもまだなんとか持ち直せる。懐から自身の汗に濡れたスペルを取り出す。パチェも後ろから阻止しようと追いすがるが、踏み込みのスピードなら負けないっ!!
「止めなさいレミィ!そんなことをしてもあなたの負けよ!」
「どうだか!最後に勝つのは夜の王であるスカーレットデビルよ!」
神槍「スピア・ザ・グングニル」―――。貫け、奴よりも速く。
「きゃあー!!私の可愛い書物たちがぁ!?」
「もらっt――「キュッとしてドカーン!!」
…え?
目の前に全力投球した神の槍は儚くも砕かれてしまう。誰に?そんなの簡単だ。幻想郷広しと言えこのグングニルを砕ける奴などそうはいない。それに、この声を聞き間違えるわけがない。振り向けばそこには愛しき我が妹、フランドールの姿が。
「ふ、フラン…」
「お姉さま、確かに…」
そう言って私の前まで歩を進めるフラン。その後ろで手をワキワキさせている紅魔館メンバー。…詰んだ、かな。
「確かに最後に勝つのは夜の王、スカーレットデビルだったね」
「―――ッ!?」
そういって軽く私の平らな胸を小突くフラン。ぎりぎりまで張り詰めていた私の体はそこで限界を迎えた。
ああ、この後酷いんだろうなぁ。覚悟しなくてはならないな。…しかし、気を失うときに盗み見たみんなの笑顔は、その瞳の奥に私への確かな確かな愛情に満ちていた。
…まあ、いいかな。と私の頭が簡単に考えてしまうあたり、私もみんなのことを馬鹿にはできないな…と思うのだった。
では。
「お嬢様。おきてくださいお嬢様」
「ふあぁ。…おはよ、咲夜」
「爽やかな朝ですね。今日は何か良いことでもありそうです」
「やな天気ね。ってこらカーテン開けるな」
最近、霊夢たちと遊ぶのが楽しいので生活習慣を夜型から昼型にした。日中の行動には中々制限がつくがまぁ概ね楽しい生活を送っている。
時期的には大体、あの紅霧異変が起こってからだ。あの異変は失敗に終わったが、おかげで年中暗かったこの館の面々も明るくなってきたと思う。吸血鬼としての威厳はどうなのかとも思うが、何、私はまだ若い。今はこんなものでもいいだろう。威厳が堕ちるよりも退屈なほうがいやだし。
「ま、いいよ。咲夜、何時もの」
「はい。おはようのキスでございますね」
「ちげぇよ紅茶だよ」
「かしこまりました」
しかし最近思うことがある。明るくなるのはいい。しかし、どうも最近何か明るくなりすぎな、いやおかしくなりすぎな気がするのだ。
「お待たせしました」
「ありがと。ん?なんか変な色。咲夜、何入れた」
「希少品にございます。なんでも里では滅多に手に入らないとか」
「へ~」
ま、退屈凌ぎには丁度いいぐらいだし。こっちは咲夜がちゃんと仕事してくれたらそれでいいし。
それにしても今日は何だか暑い…夏日だろうか、汗が出てきた。しかし咲夜を見ても汗一つかいていない。ん…体の奥から熱が湧き上がってくるような。心なしか息が荒い。頭が霞がかっていく。下半身がとても…ってこれまさか。
「最新式妖怪用超強力媚薬だとか」
「ああ確かに希少品だなあ!?」
「ああ怒った顔も可愛らしい…しかしながら、赤面して目を潤わせながら睨まれたって私のナイフが火を噴くだけですわ?」
「…こいつだめだ」
「いやですわ比喩ですよ今のは」
完全に駄目だ、目が据わっている。つーか待て、何故胸元を緩める?顔真っ赤だぞ?あれ、さっきと違ってかなり汗かいてないか?まさかとは思うが…。
「当然ですわ。私も飲みましたから。人間用ですけど」
「何故飲んだ!?」
「主一人に背負わせることなど出来ません。私はあなた様にこの身全てを捧げる従者。私にも背負う義務と権利がありましょう」
「何良いこと言ったみたいな顔してんだよ。つーかよるな」
「大丈夫ですわお譲様。痛くなどいたしません。むしろ私に…」
「ひっ…」
「失礼します…って咲夜さん!!なにやってるんですか!?」
「ハートブレイク!!」
間一髪のところで美鈴が入ってきた為に咲夜に隙が出来き、私はそこに向かって勢い良く紅い槍をぶん投げた。勿論直撃はさせない。いくら二人が人間離れしていても(美鈴は実際に人じゃないが)このスペルの直撃など食らえば無事ではすまされない。こんなしょーもないことをする従者でもやはり私の大切な従者。傷つくところなど見たくはない。とにかく咲夜と距離をとる。
「なんてことしてるんですか咲夜さん!!」
「い、いや…あまりにもお嬢様の寝顔が可愛くてムラムラしてしまったから」
「咲夜さん…あなたは…なんで」
やはり美鈴だけだろうか常識人なのは。毎日風雨に負けずに立ちっぱなしで頑張る彼女だ。健全な肉体には健全な精神が宿るというもののいい例えだ。この機に少しはシフトを見直して休みを増やしてやるべきか。
「なんで…なんで私も誘ってくれなかったんですかぁ!?」
「め、美鈴!ごめんなさい!」
「楽しいことも嬉しいことも私と共に分かち合ってくれると、そう言ってくれたじゃないですか!!」
「…!そうだったわね。ごめんなさい美鈴!あなたの言う通りね!共にお嬢様を分かち合いましょう!!」
「咲夜さん!!」
「美鈴!!」
…やっぱり直撃させておくべきだった。
…
とりあえず私はその場から逃げ出してきた。二人にはミゼラブルフェイトをかまして身動きを封じて。媚薬効果はまぁ、吸血鬼の気合で相殺している。と言っても所詮はやせ我慢。さっきから衣服が体にまとわり付くように擦れて鬱陶しい。小突かれるとモロに変な声を上げてしまいそうだ。
…とりあえず、霧の湖にでも行って風に当たり、迸る体を鎮めようか。…さっきから咲夜と美鈴がなにやら叫んでいるようだが気にしない気にしないっと。
「確か日傘は玄関ホールにおいてあったわね…」
そうして玄関に着いたわけだが…あれ?傘立てには一本も傘が置いてなかった。そこにはどこから入り込んだのか紫色した不気味な唐傘が立ててあるだけだ。…確かこの前花見で神社に出かけた後ここに置いていたはずだが。
「あ、お嬢様。日傘をお探しですか?」
「あなたはどこにあるか知らない?」
「それでしたら先ほど小悪魔さんが持っていきましたよ?なんでもパチュリー様のご命令だそうで」
「…パチェ。わかったわ。ありがとう」
どういたしましてと言ってその妖精メイドは去っていった。しかし、そうとなると日傘は図書館にあると言うことか。己の能力など使わずとも、この先に厄介な運命が転がっていることなど分かりきっていた。しかし、ここにずっと居るほうがずっと厄介だと思い、私は図書館に向かった。なんか泣き声が聞こえた気がするが気にしない気にしないっと。
「あの、パチュリーさま。お嬢様は来ますでしょうか」
「来るわ。あの子ならこの館に留まるほうが厄介だと確実に判断するはず」
「作戦、成功しますかね」
「そうね。とりあえずおさらいよ。あの子がここにきたらまずは」
「はい……して、これが…たら……のあと…ですね」
「…そうよ。こうなればレミィを丸裸にするなど簡単なこと。そしてそうなれば…」
「…」
うわぁ、入りたくないなんか丸裸とか聞こえてくるよなんだよあの変態どもは紅魔館どうしちゃったんだよ本当に。
しかし、良く見ればパチェのすぐ隣にはお気に入りの日傘が立掛けてある。…よし、丁度ここから直線コースだ。あちらはこっちに気づいていないようだし、扉をぶち破って一気に…。
覚悟を決めて、地に着けた足に妖力を込める。ここは確実に決めさせてもらう!
「破ッ!!」
「きゃっ!な、何ですか一体」
「はっ、レミィね!」
勢い良く扉をぶち抜いて全速疾走、一気に傘との距離を詰める。他のことなど目にも留めない。ただ、打ち貫くのみ、だ。
「この間合い、もらった!」
「そうはさせないわよレミィ!」
瞬間、私の周りに全身を覆うような大きな水疱がいくつも出現する。水符『ジェリーフィッシュプリンセス』だ。そんなことは先刻承知ずみ。むしろこれは囮だ。私がこれを無視してコースを変更したときに別の手段に転じるはず。だからあえてここを通らせてもらう。速度を殺すことなく腕に血を集めて鋭い爪の刃を形成する。いかに吸血鬼の弱点である水とて所詮、触れなければただの水。そのまま刃を飛ばして切り裂く。進路上の水泡が真っ二つに斬れて上下に分かれ、その間を目掛けてさらに地を蹴ろうとしたとき、
「やっぱりそうくるわね!オータムエッジ!」
待ってましたとばかりにパチェが隙間からスペルを飛ばしてくる。金属でできた魔法の刃。ここまで速度が付いた私にはかえってこういう物体の方が当たると痛いものだ。仮に避けてもその瞬間にスピードが落ちる。しかし、誰も避けるとも当たるとも言っていない。防げば、いいのだ。
「悪いけど当たらないよ!」
蝙蝠状に変形した紅い気を刃にぶつける。勿論、いくら金属とはいえ、たかが魔法で精製したそれの強度が私の弾幕に敵うはずもなく、粉々になって吹き飛んだ。だがその先には…。
「残念だけど大当たりよ」
「え…!?」
そう、これがただの属性弾幕ならよかった。しかしそれは金属、つまりは物体。砕かれたそれはさっき私が切り裂いた水泡に向かって飛んで行き、そして、
「な!?」
「さあレミィ、シャワーの時間よ?」
水泡を粉々(?)に砕き、極度に細かくなった水が広範囲に広がっていた。この中に入るということは、感覚的には川に突っ込むのと変わらない。まんまと嵌められた。こうなればもう、事態を脱するにはこれしかない!
「くっ、なれば!紅符『不死城レッド』!」
このスペルなら周りに飛散する水を全て蒸発させ、全てを五分五分に持っていけるはずである。私の数あるスペルの中でも最高ランクを誇るカード。伊達や酔狂でこんな名前をつけている訳ではない。これで私の勝ちだ。たとえこの次にパチェが水符を展開しようとしても、この距離なら展開前に傘を手に入れることなど簡単だ。後は天井の窓を突き破ってでも逃げればいい。しかし、パチェの次の一言により、私はやってはいけないことをやってしまったことに気づいた。
「ああ、レミィ。あなた媚薬の効果が最大まで出ていると言うのにそんな全身にエネルギーを行き渡らせるスペルを使ったら…」
「…っ!!か、はぁ…!?」
忘れていた。私はさっきまで媚薬の効果やせ我慢してたんだった。全身にエネルギーの奔流が駆け巡る。本来なら痛みとして認識できる刺激、しかしそれは媚薬の効果により快感に変換され全身を駆け巡る。気絶しそうなほどの刺激だ。しかしもしここで気絶でもしたら…。私は奥歯を食い縛ってそれに耐えた。口内に鉄の味が広がるほどに。
「はぁ…はぁ…こんなもんに負けてたまるものか…!?」
「はぁ。必死に何かに耐えようと険しいお顔をされたお嬢様も素敵ですわ…」
「咲夜さん、何かって何でしょう」
「何を言いますか美鈴さん。快感ですよカ・イ・カ・ン」
え?何時の間に全員集合してるのこれ。
「スペルブレイク…かしら、レミィ?」
「くっ…」
まだだ!まだ負けるわけには…っ!!
死力を振り絞り腕に力を込める。こうなれば仕方ない。魔道書数冊には犠牲になってもらうしか。
「…あなたまさか」
「そのまさか!」
これが最後の跳躍となるだろう。狙いはみんなの後ろにある大型本棚の上部分。ここに衝撃を加えれば一斉に本が棚からパージされ降り注ぐことになり、そうなればいくらこの人数差でもまだなんとか持ち直せる。懐から自身の汗に濡れたスペルを取り出す。パチェも後ろから阻止しようと追いすがるが、踏み込みのスピードなら負けないっ!!
「止めなさいレミィ!そんなことをしてもあなたの負けよ!」
「どうだか!最後に勝つのは夜の王であるスカーレットデビルよ!」
神槍「スピア・ザ・グングニル」―――。貫け、奴よりも速く。
「きゃあー!!私の可愛い書物たちがぁ!?」
「もらっt――「キュッとしてドカーン!!」
…え?
目の前に全力投球した神の槍は儚くも砕かれてしまう。誰に?そんなの簡単だ。幻想郷広しと言えこのグングニルを砕ける奴などそうはいない。それに、この声を聞き間違えるわけがない。振り向けばそこには愛しき我が妹、フランドールの姿が。
「ふ、フラン…」
「お姉さま、確かに…」
そう言って私の前まで歩を進めるフラン。その後ろで手をワキワキさせている紅魔館メンバー。…詰んだ、かな。
「確かに最後に勝つのは夜の王、スカーレットデビルだったね」
「―――ッ!?」
そういって軽く私の平らな胸を小突くフラン。ぎりぎりまで張り詰めていた私の体はそこで限界を迎えた。
ああ、この後酷いんだろうなぁ。覚悟しなくてはならないな。…しかし、気を失うときに盗み見たみんなの笑顔は、その瞳の奥に私への確かな確かな愛情に満ちていた。
…まあ、いいかな。と私の頭が簡単に考えてしまうあたり、私もみんなのことを馬鹿にはできないな…と思うのだった。
スピード的にレミリアはサイバスター
固さと再生力と超振動拳で美鈴はザムジードで
高パワーと火属性でフランはグランヴェール
さっきゅんとこぁが思い付かない…
それはともかく面白かったですgj
面白かったですw
>>1さま
なんと魔装綺神という手がありましたか!
>>けやっきーさま
やはりお嬢様は館全体から愛されているといいですよね。
>>3さま
天狗に出歯亀されるまで続いたとかなんとか。
>>4さま
姉上はまーまーとおっしゃられていました…。
>>奇声を発する程度の能力さま
レミィ「夜王『ドラキュラクレイドル』!!!」
パチェ「だかr」
レミィ「ぎゃああああああああああ!!!」