私はいつものように庭を掃除していると、有り得ない光景を目にした
「久しいな、妖夢」
「…師匠?」
そこには生き別れた師匠が立っていた
「儂の顔を見忘れたか?」
そんなことはない忘れるわけがない、忘れられるわけがない
「今日はどのような用件で来られたのですか?」
私は師匠を客間へ通しお茶を出しながら質問した
「うむ、今日はな…」
「あら妖忌、妖忌じゃない、久しぶり~」
その時、師匠の言葉を遮り幽々子様が奥の部屋からから出てきた
「おぉ幽々子様、お変わりありませんかな?」
「当たり前じゃない」
私ははしゃぐ幽々子様をよそに台所へ向かった、我が主はお茶を飲むと何か食べたいと言ってくるためだ
何をお出ししようか、そういえばこの前紅魔館に訪れた際に貰ったカステラがあったな、私は心の中で呟きカステラを切り分け茶の間へと向かった
「…というわけでここに来たのです」
「成る程、あなたも大変ね」
襖から漏れ聞こえる会話に思わず聞き耳を立てたくなるが重要な部分は聞こえなかったため断念、そのまま私は襖を開け茶の間へと入る
「幽々子様、師匠、お茶請けの菓子を持って参りました」
「あら妖夢、ありがとう」
うん?おかしい、いつもならばすぐに「ねぇねぇ何のお菓子?」と聞いてくる幽々子様がカステラに反応しない、それどころかまっすぐ師匠を向いたままだった
そして師匠は目を瞑り腕を組んだままだった。
…なんだろう、この居心地の悪さは、そう心の中で呟いた瞬間、師匠は目を開き静かに言葉を吐き出した
「…妖夢、道場で待っていろ」
「は?」
「聞こえなかったか」
「いいえ、しかし何故?」
師匠は答えず、ただ私を睨んでいた、質問など許さない、そう目が言っていた
「…分かりました」
私は師匠の真意が分からぬまま道場へ向かった
久しぶりだ道場に入ったのは、師匠がいた頃は毎日のようにここで訓練を行っていた
「…懐かしいな、ここ」
私はそう呟き一人正座して目を閉じた、道場に行けと言われたのはきっと稽古を付けてくれるのだろう、正直私はまだ教えて欲しいことがたくさんあったのだ
「…準備は、出来ておるか?」
道場の入り口で師匠が私に聞いてきた
「はい」
私は迷うことなくその言葉を紡ぎ出した
「稽古を、付けて頂けるのですね、師匠」
しかし師匠は黙ったまま私に木刀を差し出した
「…師匠?」
「構えろ、妖夢」
その一言が悪夢の始まりを告げた
木刀を構えた瞬間襲い来る斬撃、私はかろうじて身を捩らせてかわしたと思った瞬間、背中に師匠の蹴りが命中した
「ガハッ」
苦しい、呼吸が、上手く出来ない
「エホッ、エフッ」
地面に落ちそうになる膝を引き留め木刀を構える
「斬撃をかわしたと思っても油断するな!」
師匠の叱責、その言葉が突き刺さる
私は師匠を睨み付け斬撃を繰り出す、しかし難なくかわされてしまう
縦に振り下ろし、横に薙ぎ、突き出し、しかしそのどれもが届くことはなく空しく空を切る
そしてすっかり疲弊しきった私を師匠の一閃が捕らえた
「~~~~~~~ッッッッッ」
私は声にならない叫び声を上げ膝をついた
「ハァハァ、ゴホッ」
息が、出来ない、肺に酸素が…
「…次で終わりだ、妖夢」
正常な機能を果たしていない脳が、その一言だけを捕らえた
私は必死に、懸命に上を見上げた
既に正常な働きをしていない眼球が、目の前の異様な光景を捕らえた
「(誰だ?誰なんだ、そこにいるのは)」
無論師匠なのであろう、しかし何かが違う、師匠ではない、誰か
「(そして、ここは何処だ?)」
無論道場だろう、しかし何かが違う、沈んでゆく、まるで底なし沼だ
「(取り殺される…)」
誰に?師匠に
「(沈んでゆく…)」
何に?道場に
逃げたい、逃げ出せない、その前に躯が動かない、動こうとしない
立ち上がりたい、立ち上がれない、何かに抑えられているようだ
潰される、握られる、この空間に
怖い、このままこの得体の知れない空気に、空間に潰されてしまいたい
その時、頭の中で何かが聞こえてきた
何を語りかけているか解らない、だがこの得体の知れない空気から少しでも離れていたい、私は頭の中で響き続けている声に耳を傾けた
『…は、……を…つその…にこそ、……する』
なんだ、何を伝えたい
『人は、…怖を…つその間にこそ、……する』
段々と聞こえてきた、ひょっとして、これは
『人は、恐怖を待つその間にこそ恐怖する』
あぁ思い出した、これはまだ師匠に稽古を付けて貰っていた頃に聞いた話だ
「(ははは、やっと解った、これが、『恐怖』なんですね、師匠)」
私は、昔教えられた言葉の意味を理解すると同時に師匠の一撃を食らい、昏倒した
私が目を覚ましたときにはもう既に日は落ちていた
「あら、目が覚めたのね、妖夢」
「幽々子、様」
そして隣には師匠が居た
「…良く耐えたな、あの空間に」
それが、師匠の第一声だった
「死ぬかと思いました、師匠」
「だろうな、儂もお前を殺そうとしたもん」
「え?」
「良いか妖夢よく聞け、戦いとは常に命を賭けるものだ」
「…はい」
「だからこそ稽古ですら相手を殺そうとする勢いでやらねばいけないのだ」
「はい」
そして師匠はお茶を啜りさらに続けた
「もし、もしお前が儂を殺さんとする勢いで立ち向かっていたら、今寝込んでおるのはお前ではなく、儂だったかもしれん」
「…『かも』や『もし』は御法度じゃなかったんですか?師匠」
私がそう言うと師匠は満面の笑みを浮かべ言った
「うむ、良く言った、やはりこの職をお前に預けて正解だった」
そう言って師匠は私の頭を多少乱暴に撫でた
「ねぇ~妖忌、妖夢、お腹減ったわ~」
幽々子様の悲痛な叫びを聞き、私は師匠と共に台所へ向かい、夕食の支度をしたのであった
「久しいな、妖夢」
「…師匠?」
そこには生き別れた師匠が立っていた
「儂の顔を見忘れたか?」
そんなことはない忘れるわけがない、忘れられるわけがない
「今日はどのような用件で来られたのですか?」
私は師匠を客間へ通しお茶を出しながら質問した
「うむ、今日はな…」
「あら妖忌、妖忌じゃない、久しぶり~」
その時、師匠の言葉を遮り幽々子様が奥の部屋からから出てきた
「おぉ幽々子様、お変わりありませんかな?」
「当たり前じゃない」
私ははしゃぐ幽々子様をよそに台所へ向かった、我が主はお茶を飲むと何か食べたいと言ってくるためだ
何をお出ししようか、そういえばこの前紅魔館に訪れた際に貰ったカステラがあったな、私は心の中で呟きカステラを切り分け茶の間へと向かった
「…というわけでここに来たのです」
「成る程、あなたも大変ね」
襖から漏れ聞こえる会話に思わず聞き耳を立てたくなるが重要な部分は聞こえなかったため断念、そのまま私は襖を開け茶の間へと入る
「幽々子様、師匠、お茶請けの菓子を持って参りました」
「あら妖夢、ありがとう」
うん?おかしい、いつもならばすぐに「ねぇねぇ何のお菓子?」と聞いてくる幽々子様がカステラに反応しない、それどころかまっすぐ師匠を向いたままだった
そして師匠は目を瞑り腕を組んだままだった。
…なんだろう、この居心地の悪さは、そう心の中で呟いた瞬間、師匠は目を開き静かに言葉を吐き出した
「…妖夢、道場で待っていろ」
「は?」
「聞こえなかったか」
「いいえ、しかし何故?」
師匠は答えず、ただ私を睨んでいた、質問など許さない、そう目が言っていた
「…分かりました」
私は師匠の真意が分からぬまま道場へ向かった
久しぶりだ道場に入ったのは、師匠がいた頃は毎日のようにここで訓練を行っていた
「…懐かしいな、ここ」
私はそう呟き一人正座して目を閉じた、道場に行けと言われたのはきっと稽古を付けてくれるのだろう、正直私はまだ教えて欲しいことがたくさんあったのだ
「…準備は、出来ておるか?」
道場の入り口で師匠が私に聞いてきた
「はい」
私は迷うことなくその言葉を紡ぎ出した
「稽古を、付けて頂けるのですね、師匠」
しかし師匠は黙ったまま私に木刀を差し出した
「…師匠?」
「構えろ、妖夢」
その一言が悪夢の始まりを告げた
木刀を構えた瞬間襲い来る斬撃、私はかろうじて身を捩らせてかわしたと思った瞬間、背中に師匠の蹴りが命中した
「ガハッ」
苦しい、呼吸が、上手く出来ない
「エホッ、エフッ」
地面に落ちそうになる膝を引き留め木刀を構える
「斬撃をかわしたと思っても油断するな!」
師匠の叱責、その言葉が突き刺さる
私は師匠を睨み付け斬撃を繰り出す、しかし難なくかわされてしまう
縦に振り下ろし、横に薙ぎ、突き出し、しかしそのどれもが届くことはなく空しく空を切る
そしてすっかり疲弊しきった私を師匠の一閃が捕らえた
「~~~~~~~ッッッッッ」
私は声にならない叫び声を上げ膝をついた
「ハァハァ、ゴホッ」
息が、出来ない、肺に酸素が…
「…次で終わりだ、妖夢」
正常な機能を果たしていない脳が、その一言だけを捕らえた
私は必死に、懸命に上を見上げた
既に正常な働きをしていない眼球が、目の前の異様な光景を捕らえた
「(誰だ?誰なんだ、そこにいるのは)」
無論師匠なのであろう、しかし何かが違う、師匠ではない、誰か
「(そして、ここは何処だ?)」
無論道場だろう、しかし何かが違う、沈んでゆく、まるで底なし沼だ
「(取り殺される…)」
誰に?師匠に
「(沈んでゆく…)」
何に?道場に
逃げたい、逃げ出せない、その前に躯が動かない、動こうとしない
立ち上がりたい、立ち上がれない、何かに抑えられているようだ
潰される、握られる、この空間に
怖い、このままこの得体の知れない空気に、空間に潰されてしまいたい
その時、頭の中で何かが聞こえてきた
何を語りかけているか解らない、だがこの得体の知れない空気から少しでも離れていたい、私は頭の中で響き続けている声に耳を傾けた
『…は、……を…つその…にこそ、……する』
なんだ、何を伝えたい
『人は、…怖を…つその間にこそ、……する』
段々と聞こえてきた、ひょっとして、これは
『人は、恐怖を待つその間にこそ恐怖する』
あぁ思い出した、これはまだ師匠に稽古を付けて貰っていた頃に聞いた話だ
「(ははは、やっと解った、これが、『恐怖』なんですね、師匠)」
私は、昔教えられた言葉の意味を理解すると同時に師匠の一撃を食らい、昏倒した
私が目を覚ましたときにはもう既に日は落ちていた
「あら、目が覚めたのね、妖夢」
「幽々子、様」
そして隣には師匠が居た
「…良く耐えたな、あの空間に」
それが、師匠の第一声だった
「死ぬかと思いました、師匠」
「だろうな、儂もお前を殺そうとしたもん」
「え?」
「良いか妖夢よく聞け、戦いとは常に命を賭けるものだ」
「…はい」
「だからこそ稽古ですら相手を殺そうとする勢いでやらねばいけないのだ」
「はい」
そして師匠はお茶を啜りさらに続けた
「もし、もしお前が儂を殺さんとする勢いで立ち向かっていたら、今寝込んでおるのはお前ではなく、儂だったかもしれん」
「…『かも』や『もし』は御法度じゃなかったんですか?師匠」
私がそう言うと師匠は満面の笑みを浮かべ言った
「うむ、良く言った、やはりこの職をお前に預けて正解だった」
そう言って師匠は私の頭を多少乱暴に撫でた
「ねぇ~妖忌、妖夢、お腹減ったわ~」
幽々子様の悲痛な叫びを聞き、私は師匠と共に台所へ向かい、夕食の支度をしたのであった
じいさんカワユス