なまあたたかい風がふく、まるで妖怪でも出てきそうな夜。
それでも辺りに見当たらないのは、こんな蒸し暑い夜には動きまわりたくないからだろうか。
月明かりにてらされて佇む家がひとつ、障子に映るふたつの影。
戸は開けない。虫と熱気が入るだけ。猫?なんのことだろうか。
八雲藍はもくもくと箸を動かしている
主は手がお留守だ。口は忙しいのに。
――を覗いたらね
む、絶妙な焼き加減だ
――それでね、烏天狗が
こちらは酸味が足りないか
――霊夢ったら
あぁ、やはり油揚げは美味い
――もう可愛くって
今度橙にも…
「藍、聞いてるの?」
もちろん、聞いていますよ
「…藍?」
「なんでしょう?」
「………」
「………?」
「まあいいわ。…あら、今どこまでしゃべったかしら?」
「烏天狗が博麗の巫女に膝枕をしていたと」
「そうそう、それでね霊夢ったら照れちゃって…」
うんうん、頷いてまたしゃべりだす。
しかし今日はよくお話になる。それでも料理が順調に減っているのは、これが大妖怪と呼ばれる所以か。おや、どこかで蛍が鳴いた。
仕事から帰っての夕食時、頭はもうお休みだ。
「いいわよねぇ、膝枕」
「ええ、いいですね膝枕」
この油揚げもなかなか…、今度橙にも…
「じゃあちょっとしてもらおうかしら、膝枕」
「ええ、いいですよ」
ふぅ、満腹だ。ちょうど紫様も食べ終わったようだ。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
月の下、屋根から白い煙が立ちのぼる。なびかずに、立ちのぼる。
庭の木々は鬱蒼と、中に光は届かない。ときおり茂みが揺れるのは、どこかの猫か泥棒か。盗むものは何もない。
汗を流し程よく火照ったからだには、しかしすぐに汗がにじむ。
ふろにも入った、他にすべきことはない。そろそろ寝よう。
「よいしょっと」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃないわよ…膝枕してくれるって言ったじゃない」
「…そんなこと言いましたか?」
「言ったわよ」
「そうですか」
「やっぱり聞いてなかったのね」
「申し訳ございません」
「…まぁいいわ。ほらほら、正座正座」
よいしょ、可愛らしく呟いて頭が膝に乗せられる。
まったく子供みたいな方だ。
「あぁ、やわらかくて気持ちいいわね。ねぇ、しっぽも」
もふもふ、そんな音が聞こえてきそうだ。そんなに幸せそうな顔をされたら尻尾冥利に尽きるだろう。
しかし不思議なものだ。なぜ膝枕というものは、している方も心地よいのか。知らずに頭がたれて…
「あら、藍?寝ちゃったかしら」
「…起きていますよ」
「そう。…ありがとう、とても気持ちよかったわ」
「おや、もうよろしいのですか?」
「ええ。なんか新鮮味がないのよねぇ。霊夢たちみたいな」
「新鮮味、ですか…ふわぁ」
「くすっ、おねむかしら」
「すみません」
「いいのよ、もう寝ましょう。………そうだ、腕枕なんてどうかしら。昔はよくしてあげたじゃない。ね、そうしましょう」
「この年になってですか?」
「あら、嫌なの?」
「しかし、蒸し暑いですよ。余計に暑く…」
「嫌なら別にかまわないけど?」
「………」
「………」
むぅ、紫様はいじわるだ。そんな風に問われては…
「う、…お願いします」
「ふふっ」
何年ぶりだろうか。昔はよく無邪気にねだったものだ。
しかしいつからか、八雲の名もいただき、素直に言うのが恥ずかしくなって……顔が熱い。これは夏のせいに違いない。
「ほら、はやく来なさい」
「…失礼します」
やはり恥ずかしい。なんだか子供に戻ったようで。
「そんなにかたくなってないで、ほらほら」
ごろん、紫様の左半身が私を覆う。
…暑い。暑いが、言葉にできな安心感。柔らかく私を包み込んでくれる、絶対的な結界。あぁ、この方の式で本当に良かった。心からそう思う。
力が抜ける。意識が遠のく…。願わくばいつまでも、この温もりを…
「藍…すっかり大きくなっちゃって。でも私がいるうちは、あなたのことは………」
相も変わらず月の下。邪魔しちゃいけない、とばかりに風は凪いでいる。
少し涼しくなったか。いやいやそんなことはない。夜はまだまだこれからだ。これからだけれど住人は今夜は起きてこないだろう。深い深い安らぎの中。庭の
暗い茂みの中、かさこそと音がする。ぴょこんと可愛い尻尾が二つ。泥棒ではないようだ。
それでも辺りに見当たらないのは、こんな蒸し暑い夜には動きまわりたくないからだろうか。
月明かりにてらされて佇む家がひとつ、障子に映るふたつの影。
戸は開けない。虫と熱気が入るだけ。猫?なんのことだろうか。
八雲藍はもくもくと箸を動かしている
主は手がお留守だ。口は忙しいのに。
――を覗いたらね
む、絶妙な焼き加減だ
――それでね、烏天狗が
こちらは酸味が足りないか
――霊夢ったら
あぁ、やはり油揚げは美味い
――もう可愛くって
今度橙にも…
「藍、聞いてるの?」
もちろん、聞いていますよ
「…藍?」
「なんでしょう?」
「………」
「………?」
「まあいいわ。…あら、今どこまでしゃべったかしら?」
「烏天狗が博麗の巫女に膝枕をしていたと」
「そうそう、それでね霊夢ったら照れちゃって…」
うんうん、頷いてまたしゃべりだす。
しかし今日はよくお話になる。それでも料理が順調に減っているのは、これが大妖怪と呼ばれる所以か。おや、どこかで蛍が鳴いた。
仕事から帰っての夕食時、頭はもうお休みだ。
「いいわよねぇ、膝枕」
「ええ、いいですね膝枕」
この油揚げもなかなか…、今度橙にも…
「じゃあちょっとしてもらおうかしら、膝枕」
「ええ、いいですよ」
ふぅ、満腹だ。ちょうど紫様も食べ終わったようだ。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
月の下、屋根から白い煙が立ちのぼる。なびかずに、立ちのぼる。
庭の木々は鬱蒼と、中に光は届かない。ときおり茂みが揺れるのは、どこかの猫か泥棒か。盗むものは何もない。
汗を流し程よく火照ったからだには、しかしすぐに汗がにじむ。
ふろにも入った、他にすべきことはない。そろそろ寝よう。
「よいしょっと」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃないわよ…膝枕してくれるって言ったじゃない」
「…そんなこと言いましたか?」
「言ったわよ」
「そうですか」
「やっぱり聞いてなかったのね」
「申し訳ございません」
「…まぁいいわ。ほらほら、正座正座」
よいしょ、可愛らしく呟いて頭が膝に乗せられる。
まったく子供みたいな方だ。
「あぁ、やわらかくて気持ちいいわね。ねぇ、しっぽも」
もふもふ、そんな音が聞こえてきそうだ。そんなに幸せそうな顔をされたら尻尾冥利に尽きるだろう。
しかし不思議なものだ。なぜ膝枕というものは、している方も心地よいのか。知らずに頭がたれて…
「あら、藍?寝ちゃったかしら」
「…起きていますよ」
「そう。…ありがとう、とても気持ちよかったわ」
「おや、もうよろしいのですか?」
「ええ。なんか新鮮味がないのよねぇ。霊夢たちみたいな」
「新鮮味、ですか…ふわぁ」
「くすっ、おねむかしら」
「すみません」
「いいのよ、もう寝ましょう。………そうだ、腕枕なんてどうかしら。昔はよくしてあげたじゃない。ね、そうしましょう」
「この年になってですか?」
「あら、嫌なの?」
「しかし、蒸し暑いですよ。余計に暑く…」
「嫌なら別にかまわないけど?」
「………」
「………」
むぅ、紫様はいじわるだ。そんな風に問われては…
「う、…お願いします」
「ふふっ」
何年ぶりだろうか。昔はよく無邪気にねだったものだ。
しかしいつからか、八雲の名もいただき、素直に言うのが恥ずかしくなって……顔が熱い。これは夏のせいに違いない。
「ほら、はやく来なさい」
「…失礼します」
やはり恥ずかしい。なんだか子供に戻ったようで。
「そんなにかたくなってないで、ほらほら」
ごろん、紫様の左半身が私を覆う。
…暑い。暑いが、言葉にできな安心感。柔らかく私を包み込んでくれる、絶対的な結界。あぁ、この方の式で本当に良かった。心からそう思う。
力が抜ける。意識が遠のく…。願わくばいつまでも、この温もりを…
「藍…すっかり大きくなっちゃって。でも私がいるうちは、あなたのことは………」
相も変わらず月の下。邪魔しちゃいけない、とばかりに風は凪いでいる。
少し涼しくなったか。いやいやそんなことはない。夜はまだまだこれからだ。これからだけれど住人は今夜は起きてこないだろう。深い深い安らぎの中。庭の
暗い茂みの中、かさこそと音がする。ぴょこんと可愛い尻尾が二つ。泥棒ではないようだ。
お得な感じ!
あやれいむも好きだけどゆからんの方が好きだ
和んだよ
あやれいむ!ゆからん!ヒャッハー!