星が瞬く夜空に、ほんの数秒花が咲く。
咲いたと思えば消え、消えたと思えばまた咲く。
今日は夏祭り。年に一度、空に花が咲く日だ。
「うわー綺麗ですねー!」
そう言いながら、私の隣りに居る文は笑みを浮かべながら花火を撮影している。
「まぁ、そんなに楽しそうなら来て良かったわ」
「はい!」
相手が楽しそうにしていると、自然と自分も楽しくなる。
そもそも、何故文と私が一緒に花火を見ているかというと、そこには地底の様に深そうに見えて実は紙より浅い事情があるのだ。
◇◇◇
朝、何時もの様に縁側でお茶を飲んでる所に文がやって来た。
「霊夢さん、お祭り行きませんか?」
「お祭り?」
「はい。今日里でやるんですよ」
「知ってる」
「そうですか!さぁ一緒に行きましょう!」
「い、嫌よ面倒くさい」
「えー!?」
境内に風が吹いた。暑いので熱風以外の何者でもない。
「何よ?」
「行かないんですか?」
「行かない」
「綿あめですよ?」
「いらない」
「金魚すくいですよ?」
「飼わない」
「射的ですよ?」
「封魔針」
「うわっ! ……焼きとうもろこしですよ?」
「歯に詰まる」
「夏祭りですよ? 花火ですよ!? 的屋ですよ!!? 行かないなんて馬鹿のする事ですよ!?霊夢さん、貴女が阿呆だという事は前々から知っていました。でも貴女は阿呆に加え馬鹿だったんですか!?」
「よし、その喧嘩買った」
「!……ふふ、良いでしょう。私が勝ったら、一緒にお祭りに行ってもらいます!」
「『夢想天生(時間無制限)』」
「万に一つも勝てなーい!?わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ピチューン
「うっ……卑怯です……夢想天生を時間無制限なんて……勝てる訳が無いじゃないですか……」
「神社じゃ私がルールよ」
「酷いです……」
「さ、勝ったから何か言う事聞いてもらおうかしらねぇ~」
「ちょっと!?そんなのナシでしょう!?」
「神社じゃ私がルールよ」
「うぅ……」
「そうね……そうだ」
「……何ですか?」
「今日一日一緒に居なさい」
「え?」
「どうせアンタの事だから、祭りをネタに何か書くつもりだったんでしょう?」
「まぁそうですが……」
「だからそれを封じてやるわ。ハッハッハ」
「うぅ~……くたばれいむ!」
「夢想封印・瞬」
「にゃーーーーっ!?」
***
「里の方は賑やかねー」
「クソッ、本当なら今ごろ私はあそこで貴女と一緒に屋台で遊んでいる筈だったのに……霊夢さん、やっぱり――」
「往生際が悪いわよ。諦めなさい」
「うぅ」
ぉーぃ。
「ん?」
「何、どうしたの?」
「声が……?」
霊夢ー
「上?」
「上ですね」
「よぉ霊夢……っと、文も一緒だったか」
「あやや、魔理沙さんじゃないですか」
「どうしたのよ?」
「いや、慧音に頼まれてな。お前を呼びに来た」
「へっ?」
「何か低級の妖怪が的屋で次々に騒動起こしてるらしい。一人じゃキリが無いから静めてくれだそうだぜ」
「……それは、私に祭りに行け、って事?」
「広い意味じゃそうだな」
「何で私なのよ?魔理沙が行けばいいじゃない」
「里に行くなんて死んでもゴメンだぜ。あのクソ親父に会ったらって考えるだけで駄目だ」
「………………(チラッ」
「ふふーん(ニヤニヤ」
「ねぇ魔理沙、やっぱりアンタが……」
「往生際が悪いですよ。諦めて下さい!」
「ちょっと待って、ってコラ! 担ぐな!」
「一分一秒でも惜しいので、飛ばしますよー!」
「やーめーてー! 攫われるー! 助けて魔理沙ー!」
「お土産は綿菓子でいいぜ。私は和食派だからな」
「了解しました!」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
***
「……で、コレでいいの?」
「あぁ、済まないな」
「あやや……『博麗の巫女、低級にも容赦無し! 妖怪だった何かに聞く、博麗の巫女の強さ!』一本書けそうですね……」
「書いたらアンタの眼球捻り潰すわよ?」
「怖っ!?やめて下さいよ!」
「盛り上がってる所、いいか?」
「ん、あぁ何?報酬?」
「まぁそうだ」
「いくら?いくら?」
「そ、それがな……今は手持ちが無いんだ。だから……」
「私の体で払います、ですか?」
「ち、違う!」
「『人里の守護者、自らを報酬とする! 空に咲く花と、守護者の花園』……文、スクープよ!」
「あややや、霊夢さんも中々センスがありますね」
「ふふ、でしょ?」
「やめろ!そんな事書いたらお前達の歴史を消すぞ!?」
「「おぉ、怖い怖い」」
「全く……ホラ、報酬はコレだ」
「ん。何々……『的屋無料券』?」
「あぁ、それがあれば、タダで全部の的屋が利用できる」
「へー……でも私もう帰るし……」
「えーーーーーーっ!?」
「な、何よ?」
「折角里に来たんですよ!?遊びましょうよ!楽しみましょうよ!フィーバーしましょうよ!」
「フィーバーと聞いて」
「「歩いて帰れ!」」
「わぁぁぁぁぁああん!総領娘様ーーー!」
「……とにかく! ここで帰るというのは、○延に「ここにいるぞ!」と言って斬らないのとほぼ同義ですよ!?霊夢さん、やはり貴女は阿呆と馬鹿に加え駄目な○岱だったのですか!?」
「よし、三國志ごっこしましょう。今日は文が○徳で私が○羽ね!」
「私斬首されるー!?わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ピチューン
「……ま、そういう訳だから。それは自分で使いなさい」
「いや、それじゃあ他の報酬も用意できないんだが……?」
「ゑ?」
「だから、ここは素直にそこの鴉天狗の言う事を聞いたらどうだ?」
「えーでも……」
「そうですよ霊夢さん!魔理沙さんの綿菓子もありますし!さぁさぁ行きましょう!」
「ちょ、ちょっと文、押さないでよ!」
「往生際が悪いですよー♪」
「あーもう!わかった!わかったから!」
「よーし!じゃあ先ずは射的に行きましょー♪」
「はいはい……って、ちょ、引っ張るなー!袖取れるー!」
◇◇◇
「あーそういえばそうでしたねー霊夢さんがお祭りに参加した切欠って」
「そうでしたねじゃないわよ……」
隣りで林檎飴を食べる文を見てそう言う。
勝手に誘っておいてよく言う。
「あ、そういえば霊夢さん。一つ気になる事があるんですけど」
「何?」
「何でお祭りに来る事嫌がってたんですか?」
「え」
「来たら来たで楽しんでるし……分からないんですよ」
「そ、それは……」
「何でですか?」
「うぅ……」
言いたくない。文にだけは言いたくない。
「何でですか?」
「そ、それは、そのぅ……」
「な・ん・で・で・す・か・?」
駄目だ。こうなった文は聞き出すまで終わらない。
「……たのよ」
「んん?聞こえませんよ?」
「……たのよっ」
「何ですって?声が小さいですよ?」
「い……」
「い?」
「一緒にいる所見られたら、は、恥ずかしいじゃない!だから嫌だったのよ……」
「………………」
あぁ、文が凄い驚いた顔で私の事見てる。嫌われちゃったかな……
「あ、文?」
「……いぃ」
「え?」
「あーもう霊夢さん可愛過ぎです!可愛いっ!」
「わ、ち、ちょっと文!」
文が私に抱きついてきた。柔らかい髪の毛が顔に降りかかる。あ、文の良い匂い。
「は、放してよぅ……」
「いーや、駄目です。こんなに可愛い霊夢さん、もうずっと放しません!」
あぁもう、可愛いとかこんな間近で言うな!顔が赤くなるでしょうが!
「困る!放せ!」
「いーやーでーす!」
わいわいぎゃあぎゃあと暫くはしゃぎ、針で脳天刺すぞって脅したら放してくれた。
***
「もうすぐ花火も終わりですねー」
不意に、文がそんな事を言った。確かに、花火も激しくなってきた。そろそろ終わりだろう。
「あーそうね」
適当に相槌を返す。
「あ!そうです!」
「どうしたの?」
「霊夢さん、ちょっと待ってて下さい!」
「え?うん……」
言って、文は走っていった。どうしたのだろう。
あっちには確か、焼き鳥屋と八目鰻の出張屋台が対面で並んでいたはずだ。他には……
「るぅえうぅいむぅうすぅわあああああああああああああああああああん!!!」
文が戻ってきた。奇声を上げて。
「煩い馬鹿鴉」
取り敢えず封魔針。話はそれから。
「フッ、甘いですよ霊夢さん」
「ひゃぁあ!?」
後ろから文の声が聞こえた。さっきまで目の前にいたのに……いきなりだったから変な声出ちゃったわ。
「な、何してたの?」
「あぁ、コレですよ」
言って、文が手に持っていたものを私に差し出した。
「……風鈴?」
「はい、風鈴です」
そう、風鈴。
少し青みがかった硝子に、二羽の鴉が描かれた、風鈴。
「これが?」
「霊夢さんにあげます」
「へー。まぁ貰えるなら貰っとくわ」
「返品は受け付けませんからね?はい」
「アリガト。ふーん……可愛いわね」
言いながら、不良天人が売ってた天界の桃で作ったジュースを一口飲む。
「はい。私からの霊夢さんへの愛の証ですから!」
「ぶっふぉお!?」
吹いた。
ものの見事に吹いた。
正面に居た龍宮の遣いにぶっかかった。
「うわぁぁぁぁん!総領娘様ー!」
「「………………」」
まぁ無視して大丈夫だろう。
「愛の証って何よ!?」
「私の霊夢さんに対する思いですが、何か?」
「ふざけないで!いらないわよこんなの!」
「返品不可ですよ?」
「ぐっ……」
なら壊せばいいのだが、生憎私はそこまで非情じゃない。
「……帰る」
「へ?」
だから帰る。これ以上ここにいたら恥ずかしさで紅魔館も真っ青の真っ赤になる。
「帰るって言ってるの!」
「ちょ、何でですか!?」
「煩い!帰る!」
「でも花火……」
「知らないわよ!帰る!」
「あ、ちょ、霊夢さーん……」
文が何か言っていたが、そんなのは知らない。
ただただ一心不乱に飛び続け、神社に着いたら、すぐに布団敷いて寝た。
「愛の証とか……そんな軽々しく言わないでよ……!」
その一言で、どれだけ私の心が掻き乱されたか。
「……馬鹿鴉」
遠くで聞こえる花火の音が、不思議と煩かった。
***
「霊夢さーん」
次の日、また文がやって来た。時間からして新聞を配り終わったのだろう。此処を休憩所か何かと勘違いしているんじゃないでしょうね?
「昨日の夏祭り!記事にしましたよー!」
ほら、と言って新聞を差し出す。
最初に目に飛び込んできたのは、『ミスティア・ローレライ逮捕!』だった。
「そう。やっぱり捕まったのね」
「いやー何時かやるとは思ってましたが遂にやりましたね」
「嘘吐け」
「えへへ」
そう言いながら、文は縁側に腰掛ける。
「霊夢さん」
「ん?」
「昨日、楽しかったですか?」
「……まぁ、それなりには」
「そうですか」
「………………」
「………………」
無言がその場を支配する。
「………………」
「………………」
その無言の時間を終わらせたのは、文だった。
「……まぁ」
「え?」
「私も楽しかったです」
「……そ」
「はい」
文は、それに、と続けた。
「それに、昨日の霊夢さん可愛かったですし」
「なっ……!」
不意打ちだった。
「可愛かったですよ?霊夢さん」
「うぅ……」
駄目。顔赤くなっちゃう。
「まぁ記事にはしませんよ」
「……なら、いい」
文になら、いい。
「暑いですねー」
「……そうね」
私の顔は、気温とは別の要因で暑くなっている。
「………………」
「………………」
境内に風が吹いた。涼しくなるかと思ったけど、気温が暑いから熱風以外の何者でもない。
「フフッ」
文が、笑った。
「霊夢さんって、素直じゃないですね」
「な、何ですって!?」
「だってホントの事じゃないですか……フフフ……」
「何かムカツクわ。退治してあげる!」
「うわぁ、酷い八つ当たり!」
針を投げる私。避ける文。
わいわいきゃあきゃあと縁側で騒ぐ所に、また風が吹いた。
ちりーん。
縁側の上に吊るした二羽の鴉が、涼しい声で鳴いた。
るぅえうぅいむぅうすぅわあああああああああああああああああああん!!!
祭だー!!!!あやれいむひゃっほい!
あやれいむ祭はすばらしいものだ。
ここだけじゃなくて世界中に広まるといいなぁ……
いいなぁいいやなぁ…実にキモい顔をしてる自分。
どうでもいいことですけど、おやとあやって一字違いだな、って思いました。
そこまで考えてたならまじやばいっすすげえっす
大好きだけどw
衣玖さん可愛いwww
だがあやれいむが好きならそれでいいじゃない!
コメ返しでーす。
>>奇声を発する程度の能力 様
祭りです!あやれいむひゃっほい!
>>2 様
そう言って頂けると嬉しいです!
>>ケトゥアン 様
衣玖さんは犠牲になりました。えぇ。
世界に広まれば戦争が無くなるかもしれませんねw
>>拡散ポンプ 様
つんでれいむは最強です。えぇ。
>>5 様
私もこれ書いてるとき顔キモかったですw
>>UC 様
エ?モチロンカンガエテカイテマシタケド?
(訳:その発想はありませんでした。貴方が神か)
>>華彩神護 様
今回の衣玖さんは可愛く書きました。
読んでくれた全ての方と、私をあやれいむに目覚めさせたあやれいむ布教委員会会長に感謝!
途中でセリフが重なるところなどなんだかんだで仲のいい二人だなと感じました。
>百合は苦手だぁ……。
登場させるキャラみんなに女性らしさを感じさせる表現をすれば百合ん百合んになるのでは!
ただ、この作品は百合作品として胸をはれる素晴らしいものだと思いますよ!
ニヤニヤしてくれましたか!
なんだかんだであの二人は仲が良いと思うんです。
成程、そういう表現が良いんですか!
素晴らしいなんて……勿体無い御言葉です!
頬がつり上がって戻らない、どうしてくれる
そして後書きの天子、いいぞもっとやれ
拷問レベルですかw
も、もっと!?もっとは無理ですー!w