注:霊夢さんが変態です。
「ところで霊夢さん、私髪を染めようと思うんですが」
「ブゥーーーーッ!」
いつものように二人で神社の縁側でお茶を飲んでいたのは、射命丸文と博麗霊夢である。そんな中、突然発した文の言葉に霊夢は飲んでいたお茶を口から噴出してしまった。
「ゴホッゲホッ」
「黒はちょっと飽きてきた頃だしイメチェンも兼ねて」
「ゲホッゲホッ」
「それでどんな色がいいかなと思いまして」
「ゲホッ」
咳き込む霊夢。しかし文の言葉はそれほどまで驚くべきことだろうか。実は、霊夢にはちゃんとした驚くに値する理由があった。霊夢は文の黒髪を気に入っていたのだ。いや、気に入っていたというよりは、溺愛していた。
文の髪は艶やかで、引き込まれるような黒をしている。流れるようにまっすぐで、しかしながら微妙なカーブを(中略)まさに芸術品である。後に霊夢はそう語っていた。
なので霊夢は文が神社に来る度に文の髪が見られると嬉しくなるのだが、それを表に出すことはしなかった。恥ずかしいのである。そしてついつい、変態パパラッチとか小汚いドブガラスとか言ってしまうのであった。
しかしながら、文はこの程度の言葉では帰らないと知っているからこそ霊夢は存分に暴言を吐けるのである。
文が神社にいる間、霊夢は自分のこの嗜好を知られたくなかったので、じっと文の髪を見つめるということは無い。しかし、隙を見ては文の髪を凝視していた。
二人並んでお茶を飲んでいたりすれば、文があらぬ方向に顔を向ける度に、霊夢は文の髪を目を皿のようにして見つめるが、文が霊夢に向き直ると再び視線をお茶に戻してたりしていた。
そして文が神社で昼寝をしたりすればこれは好機と、見るばかりでなく起こさない程度に髪に軽く触れ、霊夢は文の髪が指をすり抜ける度に身悶えしていた。、
文の艶やかな黒い髪の感触は、まるでシルクのようで繊細で、それでいてしっかりと(中略)まさに芸術品である。後に霊夢はそう語っていた。
さらに、つい先日のことだが、霊夢はとある事情により文を神社に泊めたことがあった。博麗神社には布団が一組しかないため必然的に一緒の布団に入ることになる。
そのチャンスを利用し文が寝入ったのを見計らい霊夢は触るに止まらず文の髪に顔を埋め、髪の匂いを堪能したのであった。
霊夢は、味もみておこうとも思ったがさすがに美しい髪に自分の唾液をつけるのは霊夢の髪哲学に反するらしい。
唇の先で軽く咥えるだけで我慢した。はむはむしたり、くいっと持ち上げてみたりするだけであった。
艶やかな文の黒髪は、とても甘い果実のような香りがするが、しかしそれだけではなく野生の雌(中略)まさに芸術品である。後に霊夢はそう語っていた。
この晩、霊夢は興奮して目が冴えてしまい結局朝まで眠れなかったという。
眺めてよし、触れてよし、匂ってよしと三拍子揃った文の髪の毛である。なんと素晴らしい髪の毛。
しかし、文はその髪を染めると言い出した。髪が染まればその黒は失われ、また染め剤により髪の質感もどうなるか分からない。
霊夢は思った。文の髪が汚らわしい染料によって陵辱されてしまう、陵辱してもいいのは私だけ、なんとしても阻止せねばならない、と。
「髪を染めるなんて絶対反対よ!」
考えるより先に言葉が出てしまった。文は言葉を返す。
「……何故ですか?」
「それは……ええと」
霊夢は文に考え直してもらおうとする。しかし、どう言えば良いか分からない。文の黒の髪が綺麗だからなんて本当のことは恥ずかしくて言えたものじゃない。とにかく理由を並べよう。
「なんか不良っぽくない?」
「元々私はそんなに真面目じゃないですよ」
「ほら、髪染めたりすると軽い女に見られるわよ」
「いやむしろそれが狙いだったり、黒って重過ぎるかなと」
「面接で悪い印象を与えてしまうわ」
「私今からどっかに就職するんですか!?」
「いい年して色気だしてんじゃないわよ」
「見た目少女ならいいじゃないですか」
「幻想郷で黒髪じゃないとかワロス」
「むしろ黒髪の方が少ないような」
「黒って熱を吸収するから温かいらしいわ」
「頭は常にクールでなければならないんで」
「黒ってなんかかっこよくてイカす色じゃない?」
「イカすとか久々に聞きました」
「私14歳の頃には黒い物を集めてたわ、なんかかっこいいと思って」
「まあそういう年頃だったんでしょうね」
「黒豆ダイエットって流行ってるらしいわね、テレビでやってたわ」
「マスコミの情報が全て真実とは限らないわ」
「黒米、黒酢、黒胡麻、黒砂糖、黒小豆!」
「これでもう病気知らずですね、まあもともと病気もなんにもないのが妖怪ですけど」
「ちょっと待ってね、髪染め 危険性、っと」ポチッ
「何してるんですか」
「ええと、髪染め剤には、ぱら、えっと、ぱらふえに、れん?……何とかが入ってて、あな、あなふいらき……」
「説明がそんなんじゃググった意味ないじゃないですか、無理しないで下さい!」
「とにかくアナが危ないんですって!」
「今のセリフの方が危ない!」
「……」
「もういいですか?私もツッコミ疲れました」
霊夢はまだ色々とブツブツとつぶやいていたが、文は霊夢の肩に手を置きこう言う。
「そんなに私に髪を染めて欲しくなければ本当の理由を言ってください。そんなに引き止めるなら何か重大な理由があるはずですよね」
「そ……その」
口ごもる霊夢。
「ならしょうがないですね、じゃあ今から里に行って髪を染めてもらいに行ってきます」
文はそう言うと霊夢に背を向け里の方へ飛び立とうとする。
「待ちなさい!」
「どうしたんですか?私は忙しいのですが」
「言うわ、本当の理由を言うわ」
「仕方ないですね、聞きましょう」
少しの間の後、霊夢はついに話し始めた。
「……文の」
「はい?」
「髪が……だから……」
「なんて言ってるか聞こえませんよ」
文の言葉に吹っ切れたのか霊夢は急に声を大きくして話す。
「文の髪の黒が綺麗だから、だから髪を染めて欲しくないの!」
口調が激しくなる共に霊夢の顔も紅くなる。
「文の髪が好きなの!艶やかな黒が好き!風にさらさらとなびく髪が好き!それなのに染めちゃったら台無しじゃない!」
霊夢は自分の思いを必死になって言った。そしてその直後である。
カシャッ。
「え?」
「えへへ、今の顔いただきました!」
文は顔の前からカメラを外すと呆然する霊夢にそう言った。
「霊夢さんが私の髪を気に入っていることくらい知っていましたよ」
「な、え、ちょ、な、えっ!?」
霊夢は困惑してうまく言葉が出ない。霊夢は文に問いただす。
「なななななんで知ってるのよ!」
「視線に気付いたのはなんとなくでした。霊夢さんが私を見ている気がする、でも気のせいだと思ってました。」
霊夢の顔に冷たい汗が伝う。文は続けた。
「先日ここにお泊りさせていただいたときにですね」
「え?あの時?」
「あと少しで寝入るところだったのですが何か髪に違和感を」
「うわ、うわ、やめて、やめて、やめて」
「後ろからすんすん音がしてですね、そしたら髪が何かに引っ張られる感触が」
「いやああああああああああっ!」
突然叫んだかと思うと霊夢は文の襟につかみかかった。
「分かったわ、何でもするわ、お金以外だったら何でも望みを叶えてあげるわ!何が望みなの、さあ言いなさい!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ。全部話しますから落ち着いてください」
「フッー!フッー!」
まるで獣のように息が荒くなる霊夢をなだめる文。仕方が無いと言って霊夢に真実を話しはじめた。
「髪を染めるって話、実はウソなんです」
「へっ?」
時間が止まったかのように固まる霊夢の顔、しかし構わず文は続ける。
「ちょっとからかおうと思っただけですよ。」
「……」
「霊夢さんが何かを必死に隠してると分かったら、それをかからかわずにいられるでしょうか。」
突然饒舌になる文。
「そもそも私だって自分の髪に自信を持ってるんです、自分のこの黒い美しい髪を染めるなんてするはずないじゃないですか。これでも結構手入れしているんですよ、シャンプーは河童特製の物だし、お風呂は基本的に行水だけど髪は丁寧に洗います。あ、霊夢さんの髪もなかなかだと思いますよ。でも私の髪には敵わないかなぁ」
顔を下に向けた霊夢の手は握り締められ、震え始めていた。
「まあ霊夢さんが私の髪を好きになるのも仕方ないですね。こんなにも美しいのですから。でも私、霊夢さんに髪だけじゃなく」
「文ああぁっ!」
霊夢は文の言葉を遮った。突然の強い口調に文はつい背中を仰け反る。
「は、はいなんでしょう!」
「良かったぁ……」
「えっ?」
てっきり怒ったかと思った文だが、霊夢の意外な反応に困ってしまった。
「文の髪はこれからも綺麗な黒のままなのね」
「ええ、そうですよ」
「心配させるんじゃないわよ、馬鹿」
そう言うと霊夢は文の手を掴んで握りしめる。
「私、文の黒髪がないと生きていけないの。文が染めるなんて言ったときはこれからどう生きていこうか考えてしまったわ」
「そんな霊夢さん……私の髪でよければどんなに触ってもいいですよ」
「えっ!いいの!?」
「もちろんです。傷まなければどんなことをしてもいいですよ」
「なでなでとかいいの?髪を指にくるんと巻きつけたりしていいの?」
「構いませんよ、でもその代わり髪だけじゃなく」
「匂いかいでもいい?口づけしてもいい?味をみてもいい?そうだ今度髪洗ってあげるわ!」
「……もう好きなようにして下さい!」
「やった!」
霊夢は掴んでいた手を放し今度は文の背中にまわし、強く抱きしめた。
「文、大好きよ!」
「え!?あ、あの霊夢さん?」
「私、今ね、とっても幸せなの。文に自分の思いをぶつけて、そして受け入れてもらえた」
「霊夢さん……」
「でもね、一つ言いたいことがあるわ」
急に沈んだ顔になった霊夢。二人はお互いにまわす腕の力を強めた。
「何でしょうか、私になら何でも言ってください」
「私の反応をみて面白がっていたことについてはお仕置きしなくちゃね!」
そう言うと霊夢は文が逃げないようにがっちりと背中を押さえる。
霊符「夢想封印」 ―ZERO―
霊夢は文に抱きついた状態でスペルカードを発動させた。
「え?待ってくだ、ぎゃあああああああああああ!」ピチューン、ピチューン、ピチューン……
動けない文はもちろん避けれるはずもなく全弾命中。
ちなみにZEROとは単にゼロ距離という意味で深い意味はない。霊夢は14歳の頃にゼロという言葉を気に入りよく使っていた。現在でもたまに使う。発音する時は「ズィーロゥ」と、それっぽくするのが霊夢のこだわり。
全弾命中により文の服はところどころ破け、肌にも砂埃が付いていた。霊夢のスペルカードをゼロ距離で一身に受けた文は、まだ回復できず地に伏したままであった。話すこともかなわない。ただし、髪の毛だけは全くの無傷であった。
「早く立ちなさい、お風呂行くわよ」
「……」
文は僅かな反応すらできない。しょうがないわね、と言いながら霊夢は文を背負って風呂まで行く事にした。
「ふふふ、文の濡れた髪を好き勝手できるなんて考えただけでもゾクゾクするわ」
すっかりご機嫌になった霊夢の背中で文はただただ黙っていた。そして、霊夢の背中で一人こう思うのみであった。
(結局言わせてくれなかったけど……いつか言える日が来るといいな。髪だけじゃなく私のことも見てください、って)
――あの巫女が私を見ている?全てを平等に見るはずの博麗の巫女が?いやまさか……
それから私は神社に行く度に巫女を妙に意識してしまっていた。
気付いたらそれは千年生きてきて初めての感情、恋と呼べる感情に変化していた。
しばらく私は巫女を観察し、確信した。やっぱり巫女は私を意識している。そして私も巫女が好き。
私達の幸せは遠くない未来に、そう思っていたのに……
あの晩私は全てを知った。
まさか自分の髪の毛に嫉妬するとは思わなかった。
私は涙を堪えながら寝たふりをするのに必死だった。
それでも首筋にかかる巫女の荒い吐息をありったけ感じようとそこに意識を集中してしまった。
そんな自分を後で思い出してとても情けなくなった。
いじわるな巫女、罪深い巫女。
この巫女は一回くらい懲らしめたほうがいい、そう思った。
ならこの髪の毛を使おう。とても愛しい、美しい、けど憎らしいこの髪の毛を――
私も射命丸の髪をもぐもぐした(ry
私も射命丸の髪を(ry
>―ZERO―
私もよくやったなぁ(遠い目
甘いな霊夢。
それは私が二日前に通った道だ!(何
その手つきにドキドキしちゃう文さんを書くんだ!
文の髪綺麗すぎてたまらんよ。霊夢さんの髪もちゃんと手入れされてるんだろひゃっほー!
>>奇声を発する程度の能力様 ありがとうございます。こんな私に期待なんかして下さりなんと申しあげたらよいものか。感謝です。
>>唯様 ありがとうございます。 私はこの拙作を書いてから少し使うようになりました。
>>4様 ありがとうございます。もちろん霊夢さんも自分の髪を愛してますから、かなり手入れされているでしょうね。続きに関しては全く考えておりませんでした。機会がありましたら挑戦してみたいと思います。
>>5様 ありがとうございます。なんともったいないお言葉!ほんの少しでも楽しんでいただけたら仕合わせです。
これから文ちゃんは霊夢色に染められてしまうのですね。いろいろと。
今後文ちゃんが懲らしめるために霊夢の髪を弄って褒めたおして真っ赤になってあうあう言ってる霊夢という光景が目に浮かびます。
いい関係の二人でした。次回がありましたら期待してます。
ありがとうございます。
そう妄想はとても良いものですね。御馳走さまです。にやにや。
次回は今の私の状況が落ち着いたらと思っています。しかしいつになるやら……
期待してくだっさているのに申し訳ありません。
しかしながらもう書かない訳じゃないので気長に待っていただけると助かります。