近頃アイパッドというものが香霖堂にスキマ経由で納品されたらしい。
真っ先に見つけたのは山の上の神社に居る巫女で、彼女は開口一番、「つ、ついにできたんですね……! 」と震える声で喜んでそれを買って行ったという。
それを聞いた私がまず思ったことは、「あんたにそんな物必要ないだろう」という怒りと憎しみの篭った心の叫びであった。
その日は門番の休日の日で、彼女が昼間香霖堂へ買い物をしていたところに出くわしたといった事を聞いた。
私は丁度、館内の掃除を終えた所だった。
「咲夜さん、すごいんですよあのアイパッドという新しい商品!値はちょっと張りますが、なんと言っても機能性とフィット感! 」
門番はとても嬉しそうに私に話してくれた。私はずっと彼女の揺れる胸元を見ていた。
何がそんなに嬉しいのだろうか。私をおちょくっているのではないだろうか。
そんなブラックな考えが私を支配していた。
「いやぁ、あんなに薄いのにあの機能! 河童もびっくりですね! 」
しかし、その考えは、彼女のその一言によって一気に現実へと引き戻された。
「薄い? 薄いってどういうことよ」
「へ? 」
「美鈴、薄いってどういうことよ」
「いやあ普通のに比べてとてもコンパクトというか」
「アイなのに? アイなのに薄いの? コンパクト? 」
「ええ、とっても。とってもコンパクトでした」
なるほど、アイなのに薄い、しかも機能性もフィット感も抜群。
ということは、おそらく素材が良いのだろう。とても薄くてもアイまで大きく見せることができるということなのだから。
美鈴の言う事が本当ならばそういうことになる。流石は外の世界の物、侮れない。
「それにね、すごく軽いんですよ! 持ち歩くのに便利だなぁ、と思いました! 」
「そんなに軽いの? 」
「ええ、とっても! とっても軽いんですよ~、全然荷物になりません! 」
軽いというのはとても魅力的ね。周りは知らないだろうけれど、結構肩こりが激しかったりするのよね。
軽くて持ち歩きに便利というのは日常生活に支障が出ないかもしれない。ますます欲しくなったわ。
「私も欲しいなぁ、アイパッド」
「美鈴」
「なんですか? 」
「何か言ったかしら」
「はい! アイパッド欲しいなぁって」
「美鈴! 」
「はいっ! 」
「今欲しいって言った? 」
「はい」
「今欲しいって言った? 」
「え、ええ、言いましたけれど」
「美鈴! 」
「は、はいっ!! 」
門番が、あのいつも胸を揺らしている門番が、新商品が欲しいと言った。
瞬間、自分の殺気がMAXになったことが自分でもわかった。
いけない、いけない。ここで自分を抑えなければ、瀟洒とは言えないではないか。
自分の欲望を知られないように、努めて冷静に私は門番に聞いた。
「在庫はどこなのかしら。香霖堂? 」
「在庫はもうないと思うんです」
「えっ」
「アイパッドは偶然、外から紛れ込んできたものなんですって。だから幻想郷にはおそらく一つしか」
「美鈴」
「はいっ」
「それは山の巫女のところにあるってことね? 」
「はい、おそらくは」
「ありがとう、わかったわ。明日休みでいいから、あと半日館をよろしくね」
「え、い、いいんですか、明日も休みで……あ、ちょっと咲夜さん!? 咲夜さん!? どこ行くんですか咲夜さん! 」
なんということだろう。あろうことに、あの巫女に持っていかれてしまったのが最後の一つだったなんて!
たとえジーがアイになったところでそう変わらないではないか! これは急いで取り返しに行かなくては!
「咲夜さん……なんであんなに急いでいたんだろう。まぁいっか。明日もお休みもらえたし、なんだかラッキーだなぁ」
私は全力で山の上の神社まで飛んでいった。
「さなえ~、それなぁに?」
「ふふふ、これはですねぇ」
山の上の神社の裏に、私は件の巫女が幼女と遊んでいる所を発見した。
見つからないように裏に隠れていたためにあまりよく見えなかったが、声で山の巫女だとわかった。
あの巫女もついに幼女の魅力をわかるような年になったのね、とか感心している場合ではない。
そんな場合ではないのだ。
「ここ触ると、ほら」
「うわぁ、う、うごいたっ」
「驚いた? 」
「お、驚いてなんかないやいっ! 」
な、なにしているのよあの巫女は !幼女に自分の胸を触らせるなんて何を考えているのかしら !たとえそれがアイパッドだといえ !
…ふう、興奮して鼻血が出てきてしまった。いけない、いけない。
「さわり心地いいね、早苗」
「そうでしょ」
さわり心地がいいだなんて、いいだなんて……。
どうやら薄いだけじゃなくって、さわり心地も本物に近いのね。
ますます巫女にはやれないわね。というか触りまくるなんて、どういう教育しているのかしらねここの神社は。
「ねー、早苗」
「なあに? 」
「向こうに誰かいるよ」
「え? 」
ぎく、ば、ばれた。こうなったら出るしかないだろう。
元々盗むなんて私の柄じゃないものね。よし、時を止めてっと。
「居ないじゃない、誰も」
「あれぇ、わちきの気のせいかな」
「うーん、そうじゃない? 」
先ほど私が居たところを探している二人に、私は声をかけた。
「こんにちは、今日はお休みなのかしら」
「あら、これは」
まずは、背をぴんと伸ばして腰から曲げて深めの挨拶。
第一印象を良くするためである。
勿論笑顔も欠かせない。
「だあれ? 」
「お客さんよ」
「ふうん」
「こんにちは。今日はお休みなんですか? 」
「ええ、ちょっと休暇を頂きまして」
ニコリと笑って顔を上げた瞬間だった。
巫女の大きなアイパッドが目の前に見えた。
私は動揺した。
それはまさしく本物の乳であった。
ふくよかな二つの砂丘は体にジャストフィットし、繊細な巫女服が逆にそれを強調しているかのよう。
ただ大きいだけではなく形も理想そのもの。まるでミロのヴィーナスのような完璧なる円錐型。
あんなに本物に近いなんてっ……! 恐るべしアイパッド……!
「あの」
「は、はい」
その時だった。私は風祝に声をかけられたことに気が付いた。
いけない、いけない。
一刻も早く相手の胸からアイパッドを取り返したいが、こんな所でそんなことをしたら瀟洒である私が台無しである。
「私の胸……何か付いていますか? 」
「!」
しまった、この巫女勘が良い。
麓の巫女ほどではないが勘が良い。
それとも見すぎてしまったせいでばれてしまったのかもしれない。
冷や汗が背中を伝う。が、そんな場合ではない。
「大したことではないんです。ただ」
「ただ、なんでしょう」
「すごく……」
「はぁ、すごく」
まずい、まずいぞ十六夜咲夜! ここでしくじったら瀟洒な従者の名が泣くわ!
「すごく……形がいいなと思いまして」
「あ、あの」
「なんでしょう」
「あ、ありがとうございます……」
「いえ、とんでも」
しまった、つい本音が出てしまった。もしかしたら、私がアイパッドを狙っていることを彼女に知られてしまったかもしれないではないか。
しかし、ここで取り乱してはさらに状況が悪くなる。ここは努めて冷静に答えることにした。
「私、そんなこと言われたの、初めてです」
「それはよかったです」
そりゃそうだ、と突っ込む余裕もなかった。
しかし彼女の様子を見る限り、ピンチを切り抜けることは成功したようだ。
「あの、それで」
「はい」
「こちらにはどのような用件で?」
「え、っと、実は」
あ、しまった、いきなりここに現れたら不審に思われるに決まっている。
明らかにアイパッド狙いなことがバレたらいけないわね。
全く考えていなかったわ。
「実は」
どうしよう、にっこり挨拶したはいいけれど、理由など考えていなかった。
しかしここでヘマをしたら巫女の持っているアイパッドは手に入らない。
「実は」
何かを言わなくてはいけない。
こういうときに涼しい顔をするのは得意なのであるが、涼しい顔だけでは切り抜けられないこともある。
考えてみれば、客を館に招くということは多々あれど、客として出向くことは数少ない。
大概はお嬢様のお付だったり、もしくはお嬢様の留守を館で守っていたりしていたわけであって。
お使いとしていくことは勿論あるが、こうして自分の目的のために向かうということはあまりない事であり。
「実は」
ええと。
どうしよう、なんて言えばいいのだろう。
いつもお嬢様は霊夢になんて言っていたっけ。
「れいむ~」
「あっづい! 離れろ! 何しに来たのよ! 」
「貴女に会いに来たの」
「あ、そう」
「正確には、貴女の血を吸いに来たのよ」
「帰れ」
「冗談よ、咲夜がクッキー焼いてくれたのよ」
「!」
「あとついでにマフィンも」
「レミリア、外暑かったでしょ。大丈夫だった? 今お茶出すから中に入って。そこの座布団3枚使っていいわよ。今戸をあけて風通し良くするから。今日はゆっくりして行きなさいね」
こ、これだ……!
これでいけばいい!
あの時もあの巫女は悔しいながらもお嬢様の魅力にイチコロだった。
ずっとお嬢様を膝の上にのせて、朝までにゃんにゃんしていたらしい。私見てないけれど!部屋までついて来るなって言われたから見てないけれど!
ふう、殺気で幼女は柱に隠れてしまったわね。
体と傘を震わせて、涙目になってこちらをみているわ。
だめよ、幼女がそんなそそる顔をしていたら。食べられちゃうわよ。
あんな顔をさせるなんて、よほど怖い顔していたのね私。
まあいい。ここはお嬢様の言葉を借りることにしよう。
「実は」
「実は? 」
「その、実は」
「実は」
「実は……貴女に会いに来たの」
「あ、あの」
「なにかしら」
「どうして私に? 」
「貴女の胸に惚れたの」
「えっ」
「その胸のアイ……アイの篭った胸に惚れたわ」
危ない危ない、もうちょっとでアイパッドっていいそうだった。
目的を言っては手に入らない。危ないところだった。
「そ、そんな、私愛なんて持っていませんよ」
「そんなことないわ。貴女はアイに満ち溢れているじゃない」
「そんなことないです……! 私が持っているのは、えっと、奇跡を起こす力だけです」
「奇跡、じゃあきっとこれは奇跡ね。私は貴女のアイを見つけたのだから」
「……っ! 」
いいわ、完璧。まさしく瀟洒ね。
巫女は物凄く顔を紅くしているわ。
柱に隠れた幼女から私に対するものすごい殺気を感じるけれど、気にしたら負けよね。
ここでこの巫女とにゃんにゃんする振りをして、アイパッドを手に入れるわ。
「あ、あの」
「なんでしょう」
「貴女の名前は」
「十六夜咲夜よ」
「咲夜……」
本当はあの柱で殺気を発している幼女の方が好みなんだけれども…
今はアイパッドを手に入れるのが先決よね。
大丈夫、あの幼女もあとでたっぷり愛してあげるわ。でも今は目の前のアイのほうが大事なの。
「咲夜、さん」
「はい」
「少し、上がっていってください。ここだとその」
「ええ、是非。貴女のアイをもっと見せて欲しいもの」
「そ、そんな」
よし、これでアイパッドは手に入ったも同然だ。
さすが私ね。瀟洒でパーフェクトなメイドに不可能はないわ。
「よろしくね、山の巫女さん」
「あ、あの」
「なあに? 」
「山の巫女じゃないです。そ、その、早苗って呼んでください」
「早苗、早苗っていうのね」
「はい」
「ふふふ、今日は永い夜になりそうね」
「あ、え」
「安心して。貴女のアイを私にみせてくれればそれでいいわ。ね、早苗」
「咲夜さん……」
「咲夜でいいわ」
「咲夜……」
柱の裏からものすごい幼女の殺気を感じたが、私は気にしない振りをした。
大丈夫、もしもアイパッドが手に入ったら、あの幼女もまとめて相手にするわ。
そしたら文句はないでしょう。これぞ瀟洒、パーフェクト。
顔を紅くした彼女を横目に見ながら、私は山の神社の母屋に入った。
繋いだ手は、かすかに汗ばんでいたような気がした。
衝撃的な事実であった。外の世界のものがまさかこんなブラックボックスだったとは知らなかった。
彼女に色々と話を聞いたところ、どうやら私の勘違いである可能性が高いことがわかった。
いや、完全に私の勘違いであった。
更に驚いたことといえば、アイが本物のアイだったといことであった。
私は憤慨した。外の世界というものはこんなにアイに満ちているのかと思うと憤慨した。
そういえば神社にいる神様もアイが詰まっているのだった。
けれど彼女の元へ行ったことを私は後悔していない。
何故なら彼女が私に教えてくれたからだ。大きさだけではなく、大事なのは愛であると。
「咲夜さんは、とても愛のつまった人です。大きさはちょっと……アレですけどね☆ 」
そう言われた瞬間に殺人ドールであったが、奇跡の力で彼女はそれを回避したようだった。
「けれど私は幼女体型が好きなので」
これもまたミスディレクションであったが、ミラクルフルーツによって相殺された。
まあいい。
とにかく私は愛こそが大事であるということを学んだのだった。
彼女と一晩過ごした結果、ほんのちょっぴり、私の愛が大きくなったようであったのだから。
「あの巫女、以外と経験豊富だったんですね! 咲夜さんの胸がちょっぴり大きくなったように見えます! 」
私の胸を見てそう言った門番を、ジャックナイフで吹き飛ばしておいた。
彼女の胸はやはり大きなメロンのように揺れていた。
そう、一番ミラクルなこと……それは私と彼女の立場が一晩で完全に逆転してしまったことだった。
悔しいのでそれだけは決して言わない。
言わないが、私の愛が大きくなった気がするのは、そのせいのような気がしてならないのだった。
完
iPad私も欲しいよ…後iPodも…
愛したい。そして早苗さんのアイも見せてほしい。
って誤字よくみるけど、もしかして俺が間違っているのか?
やっぱiは偉大ですよね。