「キスメ……い、いい加減私の胸から離れてくれないかな?」
「私のこと……嫌いなの?」
「そういう訳じゃなくてだね」
旧都の一角。様々な店の立ち並ぶ街道の隅にて。
黒谷ヤマメは困った顔で、自分の胸に抱き着く友人――釣瓶落としの少女、キスメの顔を見つめた。
「ほらさ。人の目とか、あるじゃない? 変な目で見られちゃうよ?」
「ヤマメちゃんとなら平気だもん」
そう言ってキスメは、ぎゅむーっと、ヤマメの豊満な胸の中に顔を沈める。
大胆なキスメの発言に、思わず顔を紅潮させてしまうヤマメ。
キョロキョロと周りを伺うと、過ぎ行く人々は、何だか微笑ましげな目でこちらを見ていた。
二人の体格差のおかげで、姉妹か何かに思われたのかもしれない。
ホッとしたの半分、ちょっぴりショックなのが半分。実際二人の関係は、姉妹の様なものなのだけれど。
「ヤマメちゃんのお胸……気持ち良い」
「本当、アンタは昔から成長しないねぇ」
クスクスと、ヤマメは微笑する。
「むっ……ちょっと馬鹿にされた気分だよ」
キスメは頬を膨らませて、笑うヤマメの顔を見上げた。
「何でヤマメちゃんのお胸だけ、こんなに大きくなるの……? 食べてるものはあんまり変わんないのに」
「揉むな揉むな」
「あイタっ」
ヤマメの拳骨がキスメの頭にゴッツン。
「アンタがインドア派過ぎるのさ。もっと外に出るべきなんだよ」
「むぅ……もう嫌だよ。この前外に出たら変な巫女にやられちゃったし」
「あれは特殊な例だってば」
たはは、と笑って、ヤマメはキスメの頭を撫でてやる。
「今度は、ずっと私が傍にいてあげるからさ。二人で地上の川にでも遊びに行こうよ。ね?」
「むぅ……」
キスメは再び、ヤマメの胸に顔を沈めた。
「私は狭い所が好き……桶の中と……」
「桶の中と?」
キスメは少し顔を赤らめさせて、上目遣いで囁く。
「ヤマメちゃんの、お胸の中」
「本当……馬鹿だねぇ」
今日は初めて、キスメと桶無しでデートした日。
狭い所に執着しがちなのを治そう、という狙いがあったのだけれど……どうやら失敗の様だ。
「じゃあ、好きなだけ抱き着いてて良いからさ。一緒に地上へ遊びに行くって、約束してくれる?」
「人の目が気になるんじゃ……なかったの?」
「んー?」
ヤマメはキスメの小さな身体を抱き上げて、笑った。
「どうだって良くなったのさ。キスメがあんまりに可愛すぎるもんでね」
「……バカ」
二人は歩く。旧都の雑踏の中を、並んで歩く。
「ねぇ、ヤマメちゃん。私達って……」
「何だい?」
「……何でもない」
ヤマメは小さく嘆息し、キスメの身体を抱き上げて、その唇を自分のもので塞いだ。
周囲の視線が集まる。キスメの顔が真っ赤に染まる。
長い長い、けれど短い口づけを終えて……ヤマメは微笑んだ。
「まだ、不安かい?」
――以下本編。
その日の晩のこと。
「ヤマメちゃんのおっぱいが大きい理由が分かったんらよ!」
「キ、キスメ、アンタ飲み過ぎだって」
「飲んれなんかいないんらよ!」
キスメは真っ赤な顔のまま、コップに入った日本酒をガーッと一気に飲み干した。
「私がず~~~っと、小さな頃からず~~~っと揉みに揉み上げてきたから! ヤマメちゃんはそんなたゆんたゆんなバストになったんらよ!」
「あ、アンタ、いつそんなことやってたんだい!?」
「ヤマメちゃんが寝た後らよ!」
アッサリととんでもないことを暴露するキスメに、ヤマメは茫然とする。
「そう言えば胸がちょっと痛いなと思う朝が――って、アンタ一体何やってんのさ!?」
「おっぱいを揉んでたんらよ!」
「そう言うこと言ってんじゃない!」
「うるさいんらよ! 猥符『釣瓶ボッシュート』!」
「うわわっ!?」
頭上から釣瓶が落ちてきて、ヤマメの頭にズッポリと嵌った。
これでは何も見えない。
「キスメ、ちょ、ちょっとこれ!」
「そう。これから遂に計画が実行されるんらよ!」
「……計画!?」
「土蜘蛛乳蜘蛛化計画」
「何それ!? 語呂悪っ!」
真っ暗な視界の中、ヤマメはキスメの足音が近づいてくるのを聞いた。
「ふふふ……ヤマメちゃんは今日、勇儀さんに匹敵する巨乳を手に入れるんらよ」
「要らない! 断固として、要らない!」
「私が見たいんらよ!」
「アンタ仕舞いにゃブッ叩くよ!?」
キスメはグヘヘへと下品を笑い声を立てた。
「ブッ叩かれる前に……ブッ揉むんらよぉぉぉぉおおお!」
「い、嫌ぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
――次の日の朝、胸に包帯を巻くヤマメに抱き着こうとしたキスメは、そのままジャーマンスープレックスを食らい、入院した。
つまりヤマメにもカリスマがあるということだ!
キスメちゃん俺とポジション代わってくれ!
ある意味、自業自得とはいえ…
哀れな(苦笑)