Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

眠らない

2010/08/02 23:45:12
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今朝方、めーりんに「紅魔館:紅魔館使用人連盟定例会議の要項」を配りに行った時の話である。あたりはまだ薄暗く、薄っすらとかかった朝靄と随分低くなった気温に、咲夜は肩を震わせた。厚い外套を羽織っているはずなのに、こんなに寒いとは・・・。と咲夜は自分の手に息を吐きかけて思う。彼女の肩からは膝元まである長いコートが羽織られており、その質感から高級なものであることをうかがわせる。だが、この際、咲夜にとってコートの値段やブランドなどはどちらでもいいことであった。ぶっちゃけた話、暖かければ安いビニールのジャンパーでもよかった。
「ありゃ、咲夜さんじゃないですか」といつも早起きな門番が太極拳の構えをといて「おお寒い寒い」と近寄ってきた咲夜に「おはようございます」と丁寧に挨拶する。昼間寝るくらいなら朝少し遅くまで寝ていれば良いものを・・・。と咲夜は思いつつ、汗をタオルで拭く美鈴に挨拶を返す。
「朝からせいが出るわね」
「ええ!朝はこれをしないと一日中落ち着かなくて」一日中寝てるくせに何を抜かすか。と咲夜はあえて言わずに、ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を美鈴に渡す。
「ほえ?なんですか?」と美鈴は咲夜の手から紙を受け取って開く。
「えぇと、紅魔館使用人連盟定例会議の要項・・・・?」と小首をかしげる美鈴の顔には「なにこれ?」と書かれている。
「なんですか?これは?」と顔に書いてあるとおりのことを聞いてくる美鈴に、咲夜は答える。
「これは紅魔館の使用人たちが、労働環境を良くしようと設立した、いわば、労働者組合よ。三ヶ月に一度のペースで行われているわ」と咲夜が告げると、美鈴がさも不思議そうに小首をかしげる。
「へぇー、そんな連盟があったんですねぇ。私知りませんでしたよー」
「そう、やっぱり知らなかったの。でも、驚くべきことにあなたもこの連盟に入っているのよ?」と咲夜に告げられて美鈴は驚く。
「えぇ!?いつ入ったんですか!?わ、わわ、私!そんなの入るって言ってないですよ!?」と慌てふためく美鈴に、咲夜が大きなため息をつく。
「あなたは、この紅魔館の門番になった直後に、すでに連盟に入っているのよ」
「えええ!?じゃ、じゃあ、私はここ数十年・・・・会議には一度たりとも出席していないことになってるんですか!?」
「"出席していないこと"じゃなくて"出席してない"のよ。実際」と呆れた様子の咲夜に美鈴は大慌てで問う。
「どどどど、どうしましょうどうしましょう!欠席日数が多いと、お給料減らされたりとか、色々無いですか!?」
「さっきも言ったけど。紅魔館使用人連盟は労働者組合だから、あなたの配給には全く関係は無いわ。私も労働者組合の中でお嬢様に反抗するようなクーデターが起きないように見張っているだけだし」と咲夜が言って美鈴を見据える。
「問題は、あなたのサボり癖を良く思っているメイドが一人も居ないって事よ」
「・・・・え?」美鈴が小首をかしげる。
「孤立しないうちに、会議に出てきなさいよ?」
「・・・・はい」なぜだか凄く意気消沈した様子の美鈴を見て、咲夜は少し胸が痛んだ。実のところ、美鈴の"お昼寝"は一部の妖精メイドたちの間で大人気である。なんでも無防備なあの寝顔が世知辛い世の中の辛さを忘れさせてくれるらしい。咲夜にしてみれば、緩みきって知能を失った猿の寝姿にしか見えないのだが、そこはまあ、人それぞれならぬ、メイドそれぞれの嗜好である。
で、あるからして、美鈴が多々サボったところで、彼女が孤立することなど無いのだが。いい加減、ビシッと締まるところは締まってもらいたい。咲夜はそう願い、美鈴に「孤立する」などと嘘を吐いたのである。
「これで少しはまともになるといいんだけど・・・・」彼女の呟きは、朝もやの中に消えた。






「お、珍しく起きてるな」と魔理沙が美鈴に言うと、美鈴は死んだ魚のような目を虚空から魔理沙へと移動させて頷く。
「ひゃい、お元気でしたか、魔理沙さん」全く抑揚の無くなった声で美鈴が言う。
「・・・・大丈夫か?」と流石に心配になった魔理沙が美鈴に問うが、美鈴は「にへら」と笑って頷く。
「私はいつもどおりですよ、元気百倍ですえへへー」両手をダランと体の横に下ろして、「えへへへ」と小さく笑い続ける美鈴に、魔理沙は軽い寒気を覚える。
「具合が悪いようだから今日は帰ることにするぜ・・・・あんまり、無理するなよ?」
「はいー、ありがとうございます。お構いもできずにすみましぇん・・・」と深々と頭を下げる美鈴に、魔理沙は疑念のまなざしを向けつつ後ずさりしていなくなった。



「咲夜。美鈴が気持ち悪いわ」と窓から門の様子を見ていたレミリアが事も無げに言った。
「そうですか?今日はマトモに仕事をしているので関心しているのですが」
「見なさい、咲夜」とレミリアが美鈴を指差す。みると、美鈴は自分が寝ないようにするためなのか自分の手をガジガジと噛んでいる。しかも無表情で。
「・・・・・・・」さすがに咲夜も軽い寒気を覚えて、レミリアを見やる。
「実は・・・・その、今朝方、美鈴に昼寝をこころよく思っているメイドが居ない・・・と嘘をついたのですが・・・」と咲夜がレミリアに告白すると、レミリアはフムと頷く。
「それで必死に起きてるってワケね」
「恐らくは・・・・」と咲夜が再び美鈴を見やる。どうやら手を噛むだけでは眠気に耐えることができなくなったらしく。自分の頬を全力でビンタし始めた美鈴を咲夜は痛ましい目で見るめる。流石にお昼寝を封じるのは少し彼女には厳しいかもしれない。




「美鈴」
「ふえぇ?咲夜さん?」と目の下に巨大なクマを作った美鈴が振り返る。様々な方法で自分を痛めつけて必死に起きていたらしい美鈴は壮絶な戦闘から戻ってきた兵士のように肉体的にも、精神的にも疲弊しているのが見て取れた。
「少し、休みなさい」
「でも、私はしっかり仕事しないと孤立しちゃいますし」と口元に薄く笑みを浮かべた美鈴が語る。
「その・・・・・えと・・・・」と咲夜が言いよどむ。彼女の上司という立場もあってか、素直に嘘をついていたことを切り出せない。
「咲夜さんも、お仕事がんばってくださいね」と抑揚無く言って、今の彼女ができる精一杯の笑顔を向けられて、咲夜はとうとう嘘をついていたことを言うことができなくなってしまった。だって、もし嘘をついていたなんて言ったら・・・・・彼女のいままでの、半日の努力が全て水の泡になってしまうではないか・・・・。






「今日は珍しく魔理沙が来ないわね」とパチュリーが事も無げに言って、咲夜から受け取った紅茶を口に含む。
「えぇ・・・・」と咲夜がどこか上の空で答えるが、パチュリーは特に気にかけずに本をめくる。
「そういえば、今日は門の方で爆発音やらなんやらが聞こえないわね・・・・・。普段は騒がしいだけだけど、こうして何も無いのも拍子抜けするわね」と言って再び紅茶を口に含むパチュリー。
「美鈴が・・・・寝ずにがんばって門番をしていますから」
「ぶっ!」パチュリーが紅茶を吹いた。
「だ、だいじょうぶですか!?」と慌てて咲夜がポケットからハンカチを取り出してパチュリーに手渡す。
「美鈴が、寝てないの!?」とパチュリーが珍しく驚いたように声を大きくする。
「えぇ・・・」
「なに?具合が悪いのかしら・・・それとも、他に何か・・・・・えぇと、なにか薬を渡した方がいいかしら?」と大いに心配するパチュリーを咲夜が静止して、ことの顛末を語る。



「なるほどね・・・・」と頷いたパチュリーはどこか達観した表情で咲夜を見つめた。
「それで、美鈴は未だに自分が孤立しないように必死になっているわけね?あなたの嘘で」とパチュリー。どこか棘があるが、それを全く感じさせない無感情な声。
「えぇ・・・」そうとしか返すことができずに、咲夜は柄にも無く少しうつむく。まるでいたずらをして説教を受ける子供のようだ。
「あなたは、まだ、美鈴に自分が嘘を吐いていたとは言ってないのよね。「美鈴のいままでの努力を水の泡にしたくない」だなんて自分に都合の良い嘘を自分にまで吐いて」
「はい・・・・」ますますに情けなくなってきた咲夜が最早パチュリーに視線を合わせることもできずに、更にうつむく。
「・・・・・反省はしているようね。なら、あなたのやることはただ一つ・・・・。分かっているわね、行きなさい」パチュリーにそう言われた咲夜は、時を止めることさえ忘れて走り出した。恥ずかしかった。紅魔館の使用人の頂点であるはずの自分が、自分の部下の体調や、部下が自己を正常に維持するために必要な行為を否定するだなんて。それに気づいたのに、自分に都合の良い嘘を、自分にまで吐くだなんて・・・。一つの嘘で、こんなにも嘘まみれになってしまう自分が情けない。


「美鈴!」
「ほえ・・・?」美鈴は虚ろな表情で振り向いた。最早、口元のわずかな笑みすらも消えはて、ただただつらそうな表情で門の前に立つ美鈴に、咲夜は心が痛んだ。
「美鈴・・・・ごめんなさい・・・・私・・・・」と咲夜が美鈴の肩を掴む。
「私、あなたに嘘を吐いていたの・・・・・ごめんなさい!」言って、咲夜は美鈴を抱きしめた。暫く無反応だった美鈴が、ゆっくりと咲夜の背中に手を回した。
「何を言っているんですか・・・・咲夜さん。私が門番の職務を怠っていたのは事実です・・・・それを、嘘をついてまであなたは諭してくれようとしたじゃないです・・・・悪いのは私なんです・・・・・」
「美鈴・・・・!」咲夜の肩が震えるのを感じて、美鈴は小さく微笑んだ。
「自分を責めないでくださいね・・・・・大丈夫です・・・・から」ただ、静かにしゃくりあげる咲夜を、美鈴は抱きしめ返した。












「と、言う夢をみました」レミリアの朝食にあたり、他の紅魔館メンバーの夕食にあたる食事の時間。珍しく、紅魔館のメンバーで長机を囲んで談笑していた時のことであった。美鈴が唐突にそんな話をしたので、一同はあっけにとられていた。こと、咲夜は殺意すらこもった目で美鈴をみつめていた。
「もう、夢の中の咲夜さんが可愛くて可愛くて仕方が無かったんですよー」と微妙な空気になったのも気づかずに陽気に喋る美鈴に、パチュリーとレミリアが顔を見合わせる。
「ちょっと美鈴」いよいよにして、理性のタンクが空になった咲夜が美鈴の首根っこを掴む。
「ちょっと私と一緒に来なさい」
「ほえ?どうしたんですか咲夜さん、ありゃ?ちょ、ちょっと!どこにつれていくんですか?そっちは何も無いですよ!そっちは倉庫、っは!その右手のナイフをどうするつもりですか!?」バタンとドアを閉めて、パチュリーとレミリアが見守る中、ドアの向こう側から美鈴の断末魔が聞こえてきたのは言うまでも無い。


















「お、珍しくおきてるな」と魔理沙が美鈴に言う。
「寝たら殺されますから」全く抑揚の無い声で、美鈴は言うのであった。
夢オチ万歳!夢オチ、万歳!
brownkan
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
夢オチかいwwwww
2.削除
禁断の「8/6a」だ……と……?
3.名前が無い程度の能力削除
まさかの夢オチwww
4.名前が無い程度の能力削除
なんでだろう、美鈴の夢オチは許せる