「ひぃぃぃやっほぉぉぉぉぉおおおお!」
それは、さながら真昼を貫く流星だった。
真一文字に空を切り裂いて飛んでいく。
昼間に星を落しながら、速く、ひたすらに速く飛んでいく。
目的地など忘れた。けれど、身体の衝動に任せて飛んでいくのだ。
縛るものはなにもない。ただ飛べばいい。自らが出せる最高速を解放して飛べばいい。
本能のまま、身体を動かす。
ホウキに跨り、いつもは自由自在に操るのだが、今だけはしがみつくことしかできない。
ぐっと押さえつけていないと、吹っ飛びそうになる。
ゴーグルで防備した目は開きっぱなしだ。。
耳元で、空気が破裂するような音が鳴る。そのたびに鼓膜が破れそうに思う。
けれど意識しない。考えない。ただただ速く、飛べばいい。
黒白魔法使いは空を行く。
なにより速く。
速く!
「ひゃああああっはぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
ごう、と音。
風を切り裂いて、並行する影。
鴉天狗だ。
天狗はにやりと笑って、魔法使いに接近する。
ぶつかる!
魔法使いはその速度を一瞬も緩めることなく重心をずらした。
落ちる身体。
ホウキとともに、地面に真っ逆さまに落ちていく。
風がごうごうとうなり、耳を刺激する。目を瞑って、魔法使いは精神を落ち着ける。
死ぬわけには、いかないからだ。
寸前、魔法使いは目を見開いた。
ぎゅり、とホウキを握る手が音をたてる。柄の先をぐぐっとあげる。
地面に墜落する、その瞬間に体勢を立て直し、魔法使いは空へと昇る。
遠くに、天狗の後姿が見えた。
「いいいいいいいいいいっやはぁぁぁあああああ!!」
魔法使いは加速する。
青い空の向こうに見える天狗の背へと。
深く、深く、体勢を低く構える。
空気抵抗を限界まで少なくして、魔法使いは星になる。
帽子が飛んで、落ちた。
気にしない。
駆け抜ける。
速度は最速。
一瞬たりとも落さない。
ぎじり、と音がする。
皮膚が爆ぜる。気にしない。額が痛い。気にしない。垂れた血が頬を流れる。
気にしない!
「ひょぉぉぉぉうっはぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
敵を撃ち抜くかのように、眼前の背中に視線を定める。
一瞬振り返って、天狗はこちらを見た。
にやっ、と笑った。
笑ったのだ。
魔法使いは笑う。
とびっきりの笑顔で、にやりと笑う。
天狗はもうこちらを見ていない。
まるで、ついてこい、とでも言いたげに、翼を一振りした。
魔法使いは翔る。
空を翔る流星。
「ひゃっはああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」
「ひょぉうぁぁぁあぁあぁぁぁあああああああああああああああ!」
翔る。
翔る。
頭上に広がるのはどこまでも青い空。
吸い込まれそうな、空。
かけたゴーグルの向こうに見える、青い景色。
翔る。
翔る。
ばぢり。
音。
脳内が疾走する。
思考が加速する。一瞬一瞬が遅い。どくん、どくん。心臓が身体中に血液を流し込む。
汗が流れた瞬間から乾いていく。電流が走るみたいな感触。ぎぢぎぢと頭が痛い。
痛い。
けれど、それには不快感は一つもなくて、ただ、自分がここにいることだけを感じさせてくれた。
ぞわ、と総毛立つ。
自分は興奮している。
そのことに、ようやく気がついて、魔法使いは笑みを深める。
それなら、負けられない。
そのとき、見えた。
青い景色。
あれがゴールだ。
そうだ! 思い出した。
にやり、と魔法使いは隣を行く天狗に視線を送る。
同様に、にやり、と笑って返された。
加速する。
最高速から、限界を突き破って加速する。身体が悲鳴をあげているのがわかる。
けれど、やめるわけにはいかない。
止めるわけにはいかない。
身体が熱い。
「ぃぃぃいいいいいっやはぁぁぁあぁあああああ!!」
「ひゃぁぁぁあああああああっほううううううう!!」
震える手。
そうして、魔法使いと天狗は紅魔館前の湖に突っ込んだ。
大きな水柱が立った。
「ひゃっはー! 水だ水だー!!」
「ひゃあっほー!!」
[暑いですから]
あとがきに凄く同意w
何処の世紀末だよwww
とか突っ込みたいが、暑いのならしょうがないな。