『幻想戦隊ゲンソウジャー』
「なんですか？その頭の中がメルトダウンして思考能力を失った人語を解するサルが突発的に叫びそうな戦隊名は」
「例えが全然ワケ分からないわよ」と霊夢が文に言って、今朝の新聞の折込チラシを見つめる。
「大体、このチラシもアンタのところで刷ったんでしょ？」と霊夢がそのチラシを文に見せるが、文は首を振る。
「違いますよ？ほら、私の刷ったヤツは全部左下に「文々。」って書いてありますから」と文が言って、霊夢の手に握られた新聞の左下を指差す。なるほど、確かに「文々。」と書かれているではないか。言われなければ気づかないほどの存在感だが。
「ところで、そのソンゲンジャーって言うのはなんですか？」
「ゲンソウジャー。ソンゲンジャー違う」
「ゲンソウジャーってなんなんですか？」と文が言い直す。
「さぁ、良くは分からないけど・・・。なんでも幻想郷を守る人たちみたいよ」と霊夢がチラシを見て答える。
「へぇ、そんな大層な組織がいつからできたんですかね？」
「ていうか、そんなモノ組織してるなら異変解決くらいしろって話よね」二人してうーむと唸る。境内のもみじは大分色付き始め、秋の到来を感じさせる。そうか、そろそろお芋の季節か・・・。霊夢がそんなことを思って頷く。
今年は少し早めに甘い焼き芋が食べられるかもしれないな・・・・。
「ゲンソウジャー？」紫は小首をかしげていた。彼女とて幻想郷に住まって１０００余年。色々、おかしなものを見たり聞いたり体験したりしてきた。だがしかし、そのおかしなモノの大半は「なんであるか」は理解でき「なぜ、かくもこうあるか」が理解できないが故に「おかしなモノ」にカテゴリーされているものばかりであった。しかし、今回、彼女の目の前に現れた「おかしなもの」はそもそもの根底「なんであるか」が理解できなかった。それゆえに、紫はすっかり戸惑っていた。
「・・・・ゲンソウジャー・・・ゲンソウジャー・・・・ああ、弦楽奏者のことかしら・・・・？それとも・・・・減額亡者・・・？あら、大変、不況？」だのと、今朝の折込チラシを前にして小首をかしげるばかりである。
「おや、紫様。おはようございます。今朝は早いですね」と藍がふすまを開け放って紫に挨拶するが、紫の集中力は意味不明なチラシに全て注ぎ込まれており、藍の挨拶は彼女の耳まで届かなかったようだ。
小首をかしげてチラシを見つめる紫を藍は不思議そうに見つめて隣に座り込む。
「どうしたんですか？」
「んー・・・・これがね・・・？なんなのかなぁ・・・と」と紫がチラシを藍に見せると、藍が「あぁ」と頷く.。
「最近、森の妖精たちの間で有名な戦隊ですよ。なんでも幻想郷を守るために結成されたとか何とか・・・・」
「んーと、分からないことは一杯あるんだけど、そもそも戦隊ってなにかしら？」紫が頭の上に疑問符をクルクルと浮かべて問う。
「えぇ、まあ簡単に説明すると戦う部隊のことですね」と藍。
「それって軍隊じゃないの？」
「軍隊と違って、戦隊はハイテクなのです」
「そんなもんなの・・・？」
「そんなもんなのですよ」と頷く藍に、紫は腑に落ちない様子で唸ってチラシを見つめ続ける。なんとなく、なんとなくゲンソウジャーがなんだか分かったのだが、なぜだろう、なぜこうも腑に落ちないのだろう。紫は頭を悩ませるのであった。
「妖夢ぅ」幽々子がいつも通り、眠そうな表情で机に突っ伏して妖夢を呼ぶ。数秒と待たぬうちに、妖夢が勝手場から姿を現して、頭に巻いた手ぬぐいを解いて幽々子の対面に座った。
「なんですか？幽々子様」
「ゲンソウジャーって・・・何？」
「あぁ、それなら・・・・・・すみません。もう一度お願いします？何が何ですって？」
「だから、ゲンソウジャーって何？」
「・・・・・なんですかその頭の悪い何かは」と妖夢が明らかに幽々子を痛い目で見つつ問う。
「なんだか分からないから聞いてるんじゃないのよぉ・・・・。大体、さっき「あぁ、それなら」って言ったじゃないの。結局知らないの？」と幽々子が若干ふて腐れた様子で上目遣いに妖夢を見上げる。
「幽々子様の知らないことは一般常識が多いので、私が説明できる場合が多いのですが・・・・今回は違ったみたいですね」と妖夢がサラッと酷い事言うので、幽々子は少しつまらなそうな顔をして「そーですかー」と頬を膨らませた。
「それにしても、なんで唐突にそんなモノが何かだなんて私に聞いたんですか？」と妖夢。勝手場からは御飯の炊ける匂いが薄っすらとしてきていた。うぅむ、この匂いから察するに炊けるまで後１０分、いや１２分３２秒といったところだろうか・・・。と幽々子が予想しつつ、半分ほど聞き流していた妖夢の質問に寝起きの頭をフル動員して答える。
「えっとえっと、これよ、これ」と幽々子が自分の膝のすぐ近くに置いておいた一枚のチラシを妖夢に手渡す。寝起きの頭ゆえ、フル動員しても答えはこの体たらくである。
「はぁ・・・・・ゲンソウジャー・・・。あなたの幻想を守る幻想戦隊。近日参上・・・・。なんですかね、これは」と妖夢も怪訝顔でそのチラシを机の上に置く。
「きっとあれよ。食べ物とかを届けてくれる義賊みたいな人たちよ」
「もし義賊だとしたら、私達は届けられる側じゃなくて盗られる側だと思うんですけどね・・・」
「なんですって！許せないわ！今すぐ食物蔵にダイナマイト仕掛けなさい！」
「落ち着いてください。先走りすぎです」と扇子を開いて臨戦態勢となった幽々子を座らせて妖夢は諭すように幽々子に言う。
「いいですか？まだゲンソウジャーが義賊と決まったわけじゃないです。だからやっつけるのは後にしましょう」
「なるほど、妖夢は頭が良いわね・・・！」幽々子様の頭が少し弱いんです。とは妖夢は言えずに、微笑を浮かべて勝手場へと戻るのであった。
「映姫様ぁ、それ、何読んでるんですか？」と丁度、昼時の休みの時間に映姫の執務室に顔を出した小町が怪訝そうな顔をして映姫の呼んでいる本を見つめる。
「・・・・・た、ただの雑誌です」と映姫が慌てて引き出しに隠そうとするので、小町はその手からサッとその雑誌を奪い取る。
「『謎の戦隊ゲンソウジャーを追え。～真実に迫るか！？記者が遭遇した不思議な体験談～』あー、やっぱりどこもゲンソウジャーブームで一杯ですねぇ。文々。新聞もついにこんな特集雑誌まで作っちゃって。ていうか、映姫様も意外とミーハーですねー？ゲンソウジャーが気になるんですかぁ？」
「ばっ、べっ、別に！別にそんなんじゃないですっ！」と映姫が首をブンブン振って小町の手から雑誌を奪い取る。
「ふふ～？可愛いですねぇ、映姫様ぁ？あたいはそういうちょっと意地っ張りな映姫様が大好きですよー？」と小町は雑誌を胸に抱きしめて上目遣いで自分をにらみつける映姫の頭の上に手をポフと置いた。
「べ、別に・・・・ちょっと興味があっただけなんですから・・・・」とすっかり真っ赤になった映姫の頭をグシグシと撫でる小町。
「ふ～ん？そうなんですかぁ～？」さらにグシグシ。グワシグワシ。グワシングワシン。徐々に乱暴に映姫の頭を撫でくり撫でくりする小町。
―こ、これは楽しい！―小町が上司を苛める快感に目覚めたその瞬間であった。
「ちょ、う、し、に、乗るなぁッ！！！！」悔悟の棒で思いっきりぶん殴られて小町は昇天するのであった。
「ゲンソウジャーだろ、知ってるぜ？赤と緑と・・・・なんかカラフルな連中が幻想郷を守るらしいぜ」
「ゲンソウジャー・・・？んー・・・私が知ってるのはイエローが元特殊工作員って話くらいかしらねぇ」
「ゲンソウジャー？あたいの方が最強ね！」
「ブルーが変態らしいよ？ゲンソウブルー」
「実はピンクが男なんですよ」
「ここだけの話、ゲンソウジャーには隠しキャラでゴールドがいるらしい・・・」
「ゲン・・・ソウジャー・・・・？しらない・・・・眠い・・・・帰って・・・・」
「あーーーー！」霊夢は境内の中心で叫んだ。
「全くゲンソウジャーが何者なのか掴めませんねぇ・・・・」と文が霊夢の隣に座り込んで言う。
「あんた・・・・ゲンソウジャー専門誌みたいな雑誌出版しといて何言ってるのよ。あんたが一番知ってそうじゃない・・・」と霊夢が文に言うが、文は「ちっちっち」と人差し指を三回振って得意気に語りだす。
「あの本は延命措置です。こういう風にブームが来てるときに、ああ言う本を出して噂の寿命を延ばすんですよ。そうすると、噂が生きているうちに深いところまで探りをいれられますから」
「このマスコミが・・・」
「褒め言葉ですよね？」文が小首を傾げるので、霊夢は深くため息をついた。空は薄暗くなり始めている。霊夢が暇つぶしとばかりに始めた「ゲンソウジャーの正体を暴く」というちょっとした娯楽を始めて今日で２週間が経過しようとしていた。だがしかし、未だに彼女の調査は聞き込み調査どまりであり、ゲンソウジャーの尻尾を掴んだ様子はまるでない。
それこそ、雲を掴むような話だ。チラシ一枚で良くもまあ、あそこまで大層に噂は膨れ上がるものだ。と霊夢は感心する。よっぽど暇なのか、はたまた、想像力が無駄にたくましいのか・・・・。とにかく、もはや、どれが真実で、どれが虚実か分からないほどに、ゲンソウジャーという存在は霊夢にとって計り知れないものとなっていた。ある意味、今までであったどんな異変よりも恐ろしい。
「それにしても・・・・ホントにゲンソウジャーってなんなんですかねぇ・・・・」と文が仰向けに寝転ぶ。予想よりも境内の石畳が冷たかったのか、寝転んだ拍子にわずかに体を強張らせていたが、どうやらそれなりに気持ちが良いらしく、口元に静かな笑みが浮かんでいた。
「何よ、楽しそうじゃない」と霊夢が文を見下ろす。
「楽しいに決まってるじゃないですか。記者としての喜び、幸せは、分からないものを追いかけてるその瞬間なんですから」文が屈託なく微笑むので、霊夢はなんだか馬鹿らしくなってしまった。
「分からないものを追い求めるねえ・・・・」なぜか釈然としない霊夢は、もう一つため息をついて空を見上げる。
「あ、一番星」と文が指差す。
「違うわよ。あっちが一番星」
「違いますよ、あっちのはさっきから出てましたよ」
「何言ってるのよ、あんたが指差してる星のほうが先に出てたわよ」
「いいえ！違います！私の方が先でした！」
「違うわよ！私の方が・・・・！」
「私の方が・・・！」
「私の・・！」
「私・・・！」
「・・・！」
「・・！」
「！」
「・・・・・・もうむり」机に突っ伏して、紫はため息をついた。深く深いため息。人間だったらこのため息で魂まで抜けてしまうんじゃないだろうかってくらいの深い深いため息。
「二週間目ですね」
「そーですね」紫が自分の目の前にお茶を置く藍に言う。
「で、収穫はどの程度あったんですか？」と藍が紫に問うと、紫はキッと藍を見る。
「無理よ無理！話に尾ひれがつきすぎて、元が戦隊だってのも怪しいわよ！」とまくし立てる紫に藍は「そうですか」と頷く。
「全く・・・・。大体『ゲンソウジャーは世界を救う宇宙ヒーロー』ってあたりで見切りをつけて帰ってくれば良かったわ・・・。詳しく知っている人物が～とか言うからついていったら、妖精の悪徳新興宗教団体の巣窟よ・・・。大暴れして帰ってきてあげたから、二度と復興しないだろうけど・・・」紫が拳を握り締めてギリギリと歯軋りをする。
「悔しい！悔しいったら無いわ！」ダンッ！と机を叩く紫に、藍もまた深くため息をつく。
「実はゲンソウジャーなんていないんじゃないですか？」と藍が言って紫の隣に座る。
「・・・・・何？私の二週間を否定したいのかしら・・・？」と紫がジトっとした目で藍を見つめる。
「いえ、別にそういうわけじゃ・・・・・。ただ・・・」
「ただ・・・？」
「ただ・・・ゲンソウジャーは幻想郷を守るんじゃなくて、幻想を守ってるんじゃないんでしょうか・・・・って、思っただけです。みんなの大切な幻想。想像を守るゲンソウジャー。ゲンソウジャーは幻想を守るからこそ、実体が無い幻想、なんじゃないでしょうか？ほら、それならゲンソウジャーの正体が分からない理由が分かったじゃないですか」と藍。
なるほど、自分の従者ながら上手いことを言うものだ・・・。紫は感心しつつ、頬を膨らませた。
「それじゃあ、私は実体のないものを追い求めて二週間を費やしたって言うの・・・？無駄じゃない・・・・」
「無駄じゃないじゃないですか。ほら、ゲンソウジャーのおかげで色々面白いことがあったじゃないですか？今日も、久しぶりに暴れられて楽しかったんじゃないんですか？」
「うっ」図星を突かれた。確かに、近頃、本気で暴れてなかったから今日みたいに暴れられるのは爽快であった。
「だ、だからなんだって言うのよ・・・」と紫が藍を見上げる。
「だから、幻想は楽しいものなんですよ。ゲンソウジャーのおかげで、二週間、暇じゃなかったですよね」微笑む藍に紫はなんだか疲れがドッと押し寄せてきて、また一つ大きなため息をつくのであった。
「ねぇ」言い争い続けて疲れた霊夢が、境内に横たわって静かに口を開いた。
「あんた、さっき『分からないものを追いかけてる間が一番幸せ』って言ったじゃない・・・」
「えぇ・・・いいましたよ？」と、文も境内に横たわって答える。空にはもうどれが一番星だったのか分からないほどに無数の星が散りばめられていた。
「じゃあ、もし、分からないものがなんなのか、分かってしまったら・・・・それは幸せじゃないの？」霊夢が文に問うと、文は静かに首を振った。
「分からないものはいずれ分かるもの。分かるために追いかけてるんです。だから分かったその瞬間はゴールです。いままで組み合わせてきたピースがかみ合ったその瞬間。それこそ、至高の幸せだと思います」と文が語って、少し自嘲気味に微笑んだ。
「でも、私は、分からないことを追い求める。徐々に答えに近づいていくワクワク感が・・・ドキドキがどんどん加速していくのを感じるのが・・・・好きなんです。だから、知ってしまったその瞬間よりも、分かろうとしていたその瞬間の方が、私は好き。それだけです」文が微笑んで「なんだか良く分からないですね」と付け足した。その顔は、やっぱり楽しげで、彼女が本心からそう言っているのが感じられた。彼女は根っからの記者なのである。
「・・・・・分からない幸せ・・・・か・・・」霊夢は小さく呟いて。目を閉じた。なるほど、そんな幸せもあって良いかもしれない。
「へくちっ！」
「ん？体、冷えた？」
「うー・・・少しだけですけどね・・・」と肩を抱きかかえる文。
「・・・・・今日は・・・家に泊まってきなさいよ。お風呂、すぐに沸かすから」
「ふえっ！？ホントですかぁ！やったぁ！」
「今日だけよ、今日だけ」
「これはまたとないチャンスです！前々からお聞きしたことが山ほどあるんですけど！！」
「やっぱ帰れ」
「えぇ！？酷いですー・・・」
境内を楽しげに話しながら歩く少女達の姿は、ひょっとしたら、ゲンソウジャーが守ったものだったのかもしれない。
幻想戦隊ゲンソウジャー。少女達の幻想を、いつまでも、いつまでも守り続ける戦隊。
ひっそりと、妖精の森で語られる、都市伝説ならぬ森伝説染みたその噂は・・・・今日も、誰かの話のネタとなるのであった。
「なんですか？その頭の中がメルトダウンして思考能力を失った人語を解するサルが突発的に叫びそうな戦隊名は」
「例えが全然ワケ分からないわよ」と霊夢が文に言って、今朝の新聞の折込チラシを見つめる。
「大体、このチラシもアンタのところで刷ったんでしょ？」と霊夢がそのチラシを文に見せるが、文は首を振る。
「違いますよ？ほら、私の刷ったヤツは全部左下に「文々。」って書いてありますから」と文が言って、霊夢の手に握られた新聞の左下を指差す。なるほど、確かに「文々。」と書かれているではないか。言われなければ気づかないほどの存在感だが。
「ところで、そのソンゲンジャーって言うのはなんですか？」
「ゲンソウジャー。ソンゲンジャー違う」
「ゲンソウジャーってなんなんですか？」と文が言い直す。
「さぁ、良くは分からないけど・・・。なんでも幻想郷を守る人たちみたいよ」と霊夢がチラシを見て答える。
「へぇ、そんな大層な組織がいつからできたんですかね？」
「ていうか、そんなモノ組織してるなら異変解決くらいしろって話よね」二人してうーむと唸る。境内のもみじは大分色付き始め、秋の到来を感じさせる。そうか、そろそろお芋の季節か・・・。霊夢がそんなことを思って頷く。
今年は少し早めに甘い焼き芋が食べられるかもしれないな・・・・。
「ゲンソウジャー？」紫は小首をかしげていた。彼女とて幻想郷に住まって１０００余年。色々、おかしなものを見たり聞いたり体験したりしてきた。だがしかし、そのおかしなモノの大半は「なんであるか」は理解でき「なぜ、かくもこうあるか」が理解できないが故に「おかしなモノ」にカテゴリーされているものばかりであった。しかし、今回、彼女の目の前に現れた「おかしなもの」はそもそもの根底「なんであるか」が理解できなかった。それゆえに、紫はすっかり戸惑っていた。
「・・・・ゲンソウジャー・・・ゲンソウジャー・・・・ああ、弦楽奏者のことかしら・・・・？それとも・・・・減額亡者・・・？あら、大変、不況？」だのと、今朝の折込チラシを前にして小首をかしげるばかりである。
「おや、紫様。おはようございます。今朝は早いですね」と藍がふすまを開け放って紫に挨拶するが、紫の集中力は意味不明なチラシに全て注ぎ込まれており、藍の挨拶は彼女の耳まで届かなかったようだ。
小首をかしげてチラシを見つめる紫を藍は不思議そうに見つめて隣に座り込む。
「どうしたんですか？」
「んー・・・・これがね・・・？なんなのかなぁ・・・と」と紫がチラシを藍に見せると、藍が「あぁ」と頷く.。
「最近、森の妖精たちの間で有名な戦隊ですよ。なんでも幻想郷を守るために結成されたとか何とか・・・・」
「んーと、分からないことは一杯あるんだけど、そもそも戦隊ってなにかしら？」紫が頭の上に疑問符をクルクルと浮かべて問う。
「えぇ、まあ簡単に説明すると戦う部隊のことですね」と藍。
「それって軍隊じゃないの？」
「軍隊と違って、戦隊はハイテクなのです」
「そんなもんなの・・・？」
「そんなもんなのですよ」と頷く藍に、紫は腑に落ちない様子で唸ってチラシを見つめ続ける。なんとなく、なんとなくゲンソウジャーがなんだか分かったのだが、なぜだろう、なぜこうも腑に落ちないのだろう。紫は頭を悩ませるのであった。
「妖夢ぅ」幽々子がいつも通り、眠そうな表情で机に突っ伏して妖夢を呼ぶ。数秒と待たぬうちに、妖夢が勝手場から姿を現して、頭に巻いた手ぬぐいを解いて幽々子の対面に座った。
「なんですか？幽々子様」
「ゲンソウジャーって・・・何？」
「あぁ、それなら・・・・・・すみません。もう一度お願いします？何が何ですって？」
「だから、ゲンソウジャーって何？」
「・・・・・なんですかその頭の悪い何かは」と妖夢が明らかに幽々子を痛い目で見つつ問う。
「なんだか分からないから聞いてるんじゃないのよぉ・・・・。大体、さっき「あぁ、それなら」って言ったじゃないの。結局知らないの？」と幽々子が若干ふて腐れた様子で上目遣いに妖夢を見上げる。
「幽々子様の知らないことは一般常識が多いので、私が説明できる場合が多いのですが・・・・今回は違ったみたいですね」と妖夢がサラッと酷い事言うので、幽々子は少しつまらなそうな顔をして「そーですかー」と頬を膨らませた。
「それにしても、なんで唐突にそんなモノが何かだなんて私に聞いたんですか？」と妖夢。勝手場からは御飯の炊ける匂いが薄っすらとしてきていた。うぅむ、この匂いから察するに炊けるまで後１０分、いや１２分３２秒といったところだろうか・・・。と幽々子が予想しつつ、半分ほど聞き流していた妖夢の質問に寝起きの頭をフル動員して答える。
「えっとえっと、これよ、これ」と幽々子が自分の膝のすぐ近くに置いておいた一枚のチラシを妖夢に手渡す。寝起きの頭ゆえ、フル動員しても答えはこの体たらくである。
「はぁ・・・・・ゲンソウジャー・・・。あなたの幻想を守る幻想戦隊。近日参上・・・・。なんですかね、これは」と妖夢も怪訝顔でそのチラシを机の上に置く。
「きっとあれよ。食べ物とかを届けてくれる義賊みたいな人たちよ」
「もし義賊だとしたら、私達は届けられる側じゃなくて盗られる側だと思うんですけどね・・・」
「なんですって！許せないわ！今すぐ食物蔵にダイナマイト仕掛けなさい！」
「落ち着いてください。先走りすぎです」と扇子を開いて臨戦態勢となった幽々子を座らせて妖夢は諭すように幽々子に言う。
「いいですか？まだゲンソウジャーが義賊と決まったわけじゃないです。だからやっつけるのは後にしましょう」
「なるほど、妖夢は頭が良いわね・・・！」幽々子様の頭が少し弱いんです。とは妖夢は言えずに、微笑を浮かべて勝手場へと戻るのであった。
「映姫様ぁ、それ、何読んでるんですか？」と丁度、昼時の休みの時間に映姫の執務室に顔を出した小町が怪訝そうな顔をして映姫の呼んでいる本を見つめる。
「・・・・・た、ただの雑誌です」と映姫が慌てて引き出しに隠そうとするので、小町はその手からサッとその雑誌を奪い取る。
「『謎の戦隊ゲンソウジャーを追え。～真実に迫るか！？記者が遭遇した不思議な体験談～』あー、やっぱりどこもゲンソウジャーブームで一杯ですねぇ。文々。新聞もついにこんな特集雑誌まで作っちゃって。ていうか、映姫様も意外とミーハーですねー？ゲンソウジャーが気になるんですかぁ？」
「ばっ、べっ、別に！別にそんなんじゃないですっ！」と映姫が首をブンブン振って小町の手から雑誌を奪い取る。
「ふふ～？可愛いですねぇ、映姫様ぁ？あたいはそういうちょっと意地っ張りな映姫様が大好きですよー？」と小町は雑誌を胸に抱きしめて上目遣いで自分をにらみつける映姫の頭の上に手をポフと置いた。
「べ、別に・・・・ちょっと興味があっただけなんですから・・・・」とすっかり真っ赤になった映姫の頭をグシグシと撫でる小町。
「ふ～ん？そうなんですかぁ～？」さらにグシグシ。グワシグワシ。グワシングワシン。徐々に乱暴に映姫の頭を撫でくり撫でくりする小町。
―こ、これは楽しい！―小町が上司を苛める快感に目覚めたその瞬間であった。
「ちょ、う、し、に、乗るなぁッ！！！！」悔悟の棒で思いっきりぶん殴られて小町は昇天するのであった。
「ゲンソウジャーだろ、知ってるぜ？赤と緑と・・・・なんかカラフルな連中が幻想郷を守るらしいぜ」
「ゲンソウジャー・・・？んー・・・私が知ってるのはイエローが元特殊工作員って話くらいかしらねぇ」
「ゲンソウジャー？あたいの方が最強ね！」
「ブルーが変態らしいよ？ゲンソウブルー」
「実はピンクが男なんですよ」
「ここだけの話、ゲンソウジャーには隠しキャラでゴールドがいるらしい・・・」
「ゲン・・・ソウジャー・・・・？しらない・・・・眠い・・・・帰って・・・・」
「あーーーー！」霊夢は境内の中心で叫んだ。
「全くゲンソウジャーが何者なのか掴めませんねぇ・・・・」と文が霊夢の隣に座り込んで言う。
「あんた・・・・ゲンソウジャー専門誌みたいな雑誌出版しといて何言ってるのよ。あんたが一番知ってそうじゃない・・・」と霊夢が文に言うが、文は「ちっちっち」と人差し指を三回振って得意気に語りだす。
「あの本は延命措置です。こういう風にブームが来てるときに、ああ言う本を出して噂の寿命を延ばすんですよ。そうすると、噂が生きているうちに深いところまで探りをいれられますから」
「このマスコミが・・・」
「褒め言葉ですよね？」文が小首を傾げるので、霊夢は深くため息をついた。空は薄暗くなり始めている。霊夢が暇つぶしとばかりに始めた「ゲンソウジャーの正体を暴く」というちょっとした娯楽を始めて今日で２週間が経過しようとしていた。だがしかし、未だに彼女の調査は聞き込み調査どまりであり、ゲンソウジャーの尻尾を掴んだ様子はまるでない。
それこそ、雲を掴むような話だ。チラシ一枚で良くもまあ、あそこまで大層に噂は膨れ上がるものだ。と霊夢は感心する。よっぽど暇なのか、はたまた、想像力が無駄にたくましいのか・・・・。とにかく、もはや、どれが真実で、どれが虚実か分からないほどに、ゲンソウジャーという存在は霊夢にとって計り知れないものとなっていた。ある意味、今までであったどんな異変よりも恐ろしい。
「それにしても・・・・ホントにゲンソウジャーってなんなんですかねぇ・・・・」と文が仰向けに寝転ぶ。予想よりも境内の石畳が冷たかったのか、寝転んだ拍子にわずかに体を強張らせていたが、どうやらそれなりに気持ちが良いらしく、口元に静かな笑みが浮かんでいた。
「何よ、楽しそうじゃない」と霊夢が文を見下ろす。
「楽しいに決まってるじゃないですか。記者としての喜び、幸せは、分からないものを追いかけてるその瞬間なんですから」文が屈託なく微笑むので、霊夢はなんだか馬鹿らしくなってしまった。
「分からないものを追い求めるねえ・・・・」なぜか釈然としない霊夢は、もう一つため息をついて空を見上げる。
「あ、一番星」と文が指差す。
「違うわよ。あっちが一番星」
「違いますよ、あっちのはさっきから出てましたよ」
「何言ってるのよ、あんたが指差してる星のほうが先に出てたわよ」
「いいえ！違います！私の方が先でした！」
「違うわよ！私の方が・・・・！」
「私の方が・・・！」
「私の・・！」
「私・・・！」
「・・・！」
「・・！」
「！」
「・・・・・・もうむり」机に突っ伏して、紫はため息をついた。深く深いため息。人間だったらこのため息で魂まで抜けてしまうんじゃないだろうかってくらいの深い深いため息。
「二週間目ですね」
「そーですね」紫が自分の目の前にお茶を置く藍に言う。
「で、収穫はどの程度あったんですか？」と藍が紫に問うと、紫はキッと藍を見る。
「無理よ無理！話に尾ひれがつきすぎて、元が戦隊だってのも怪しいわよ！」とまくし立てる紫に藍は「そうですか」と頷く。
「全く・・・・。大体『ゲンソウジャーは世界を救う宇宙ヒーロー』ってあたりで見切りをつけて帰ってくれば良かったわ・・・。詳しく知っている人物が～とか言うからついていったら、妖精の悪徳新興宗教団体の巣窟よ・・・。大暴れして帰ってきてあげたから、二度と復興しないだろうけど・・・」紫が拳を握り締めてギリギリと歯軋りをする。
「悔しい！悔しいったら無いわ！」ダンッ！と机を叩く紫に、藍もまた深くため息をつく。
「実はゲンソウジャーなんていないんじゃないですか？」と藍が言って紫の隣に座る。
「・・・・・何？私の二週間を否定したいのかしら・・・？」と紫がジトっとした目で藍を見つめる。
「いえ、別にそういうわけじゃ・・・・・。ただ・・・」
「ただ・・・？」
「ただ・・・ゲンソウジャーは幻想郷を守るんじゃなくて、幻想を守ってるんじゃないんでしょうか・・・・って、思っただけです。みんなの大切な幻想。想像を守るゲンソウジャー。ゲンソウジャーは幻想を守るからこそ、実体が無い幻想、なんじゃないでしょうか？ほら、それならゲンソウジャーの正体が分からない理由が分かったじゃないですか」と藍。
なるほど、自分の従者ながら上手いことを言うものだ・・・。紫は感心しつつ、頬を膨らませた。
「それじゃあ、私は実体のないものを追い求めて二週間を費やしたって言うの・・・？無駄じゃない・・・・」
「無駄じゃないじゃないですか。ほら、ゲンソウジャーのおかげで色々面白いことがあったじゃないですか？今日も、久しぶりに暴れられて楽しかったんじゃないんですか？」
「うっ」図星を突かれた。確かに、近頃、本気で暴れてなかったから今日みたいに暴れられるのは爽快であった。
「だ、だからなんだって言うのよ・・・」と紫が藍を見上げる。
「だから、幻想は楽しいものなんですよ。ゲンソウジャーのおかげで、二週間、暇じゃなかったですよね」微笑む藍に紫はなんだか疲れがドッと押し寄せてきて、また一つ大きなため息をつくのであった。
「ねぇ」言い争い続けて疲れた霊夢が、境内に横たわって静かに口を開いた。
「あんた、さっき『分からないものを追いかけてる間が一番幸せ』って言ったじゃない・・・」
「えぇ・・・いいましたよ？」と、文も境内に横たわって答える。空にはもうどれが一番星だったのか分からないほどに無数の星が散りばめられていた。
「じゃあ、もし、分からないものがなんなのか、分かってしまったら・・・・それは幸せじゃないの？」霊夢が文に問うと、文は静かに首を振った。
「分からないものはいずれ分かるもの。分かるために追いかけてるんです。だから分かったその瞬間はゴールです。いままで組み合わせてきたピースがかみ合ったその瞬間。それこそ、至高の幸せだと思います」と文が語って、少し自嘲気味に微笑んだ。
「でも、私は、分からないことを追い求める。徐々に答えに近づいていくワクワク感が・・・ドキドキがどんどん加速していくのを感じるのが・・・・好きなんです。だから、知ってしまったその瞬間よりも、分かろうとしていたその瞬間の方が、私は好き。それだけです」文が微笑んで「なんだか良く分からないですね」と付け足した。その顔は、やっぱり楽しげで、彼女が本心からそう言っているのが感じられた。彼女は根っからの記者なのである。
「・・・・・分からない幸せ・・・・か・・・」霊夢は小さく呟いて。目を閉じた。なるほど、そんな幸せもあって良いかもしれない。
「へくちっ！」
「ん？体、冷えた？」
「うー・・・少しだけですけどね・・・」と肩を抱きかかえる文。
「・・・・・今日は・・・家に泊まってきなさいよ。お風呂、すぐに沸かすから」
「ふえっ！？ホントですかぁ！やったぁ！」
「今日だけよ、今日だけ」
「これはまたとないチャンスです！前々からお聞きしたことが山ほどあるんですけど！！」
「やっぱ帰れ」
「えぇ！？酷いですー・・・」
境内を楽しげに話しながら歩く少女達の姿は、ひょっとしたら、ゲンソウジャーが守ったものだったのかもしれない。
幻想戦隊ゲンソウジャー。少女達の幻想を、いつまでも、いつまでも守り続ける戦隊。
ひっそりと、妖精の森で語られる、都市伝説ならぬ森伝説染みたその噂は・・・・今日も、誰かの話のネタとなるのであった。
初っ端から吹いたｗｗｗｗ
私もあのCD持ってるけどまだ聴いてない…聴いてみるか！文可愛いよ文
故に満ち足りることが無いのでしょうか。
だからこそ、知った時の幸福感というのは何にもかえがたいものなんでしょうね。
あのCDはどう聴いてもあやれいむにしか(ry
ありがとうございました。