雨ね。雨なのね。
この暑い中、朝家を出るときは雨なんて降る気配ちっとも無かったのに、このスコールは何かしら。
試験も近くて論文もたまってていらいらしているときにこの雨かぁ。ざぁざぁだもんねぇ今。
傘は無いし家は遠いし、自転車までも遠いし。
隣の蓮子もさすがに……。
「うおー! あぁめぇだぁあ!」
叫んで両手を上げてどこか楽しそうに高笑いをしている。
「ちょっと蓮子なんでそんなに楽しそうなのよ」
「いつから人類は宇宙を忘れて生活し始めた! いつから人類は傘が無いと雨の中歩けなくなった!」
「鎌倉時代には番傘差してたんじゃない?」
ちょっと大学の屋根の部分から手を出して雨の感じを確認する蓮子。いやいや、もう雷も遠くで聞こえるし確認するまでも無いと思うのだけど。
ほら、もう一瞬で腕がびちょびちょじゃないの。
「ほら、さっさと走るよ!」
腕を掴まれて雨の中へ連れ出される。あぁもうびっしゃびしゃ!
「は、走るって、どこへ!」
「メリーのアパートまで! そこそこ近くて風呂つきだから!」
走って走って。靴の中雨でいっぱいにして。一歩一歩踏み出すたびに大きな水たまりに足を落とす。
蓮子があまりにもおかまい無しに走るものだから、こっちも気にしてられない。腕を引っ張られてるから気にするだけの余裕が無い。
服ももう気持ちが悪い。紫色の服で透けなかったのがせめてもの救いだと思う。
もう絶対鞄の中なんて駄目になってる。
周りを少し見れば、傘を持った高校生達が私達を見て笑っている。
サッカーボールを持った少年達が、雨宿りをしながら不思議そうに見ている。
でももうそんなこと気にしていられる状況じゃあない。ばか蓮子の暴走は止まらない。
「どうー? メリー? 気分はー?」
「さいあくー」
「そおー? 気持ちよくなーいー?」
「きーもーちーわーるーいー」
走りながら喋っているせいで、上手く聞き取れない。でもどうみても蓮子は笑顔だった。それも満面の。時々分からないところがあるけれど、これはさすがに分からない。
傘を差して慎重に歩く大学生達を追い越し、トラックに水を跳ね上げられてもおかまい無しに疾走する。
「まさか水はねられてまで気にならないとは」
「んー、メリーなんかいったー?」
「なーんでーもなーい」
風景なんて見てる余裕無い。
ざあざあと降り続ける雨の壁が視界を覆う。
そんな狭い視野の中でも、私の腕を取って一緒に走って、しっかりと進む方向を教えてくれる連子。
「あはっ」
「どーしたのーメリー?」
「なんだか楽しくなって来たわ」
「きーこーえーなーいー」
もう靴とか洋服とかバッグとか本当にどうでもいいくらい濡れて、顔の前に上げて雨を遮っていた手もおろして、走ることに専念する。
もはや別に気にならなくなって来たから不思議だ。
走って、走って。息もとっくに切れてるけど走って。
やっとこさ見た事のあるアパートへ到着した。
雨で汗が流れて行くようで、汗も気にならない。
「どうよ、傘ささないと雨の中歩けない人類さん、感想は」
「確かに結構楽しかったわね」
「あぁ、そうか。メリーって人類かどうか怪しいもんね」
「ちょっとそれどういう意味よ!」
「いいからさっさと家入りましょ」
そういうとどこから取り出したのか、蓮子は私の部屋の鍵を使ってさっさと部屋に入ってしまう。
「まったく蓮子は」
上を見上げる。もはや痛いのレベルで降り続ける大粒の雨は、確かに大学を出る前は鬱陶しいものだった。
しかし今は気分がいいとすら思っている。
人間って思い切ればなんでも出来るんだなぁ。
蓮子とずっといれば、もっとこういう感覚に出会える。だからきっと私はこんなに面倒くさい道でも蓮子の後ろを付いて行くんだろうなぁ。
「メリーはやくー風呂わいたよー」
「今行くわ」
人の家の玄関から風呂場までの床をしっかり濡らしている蓮子に対し、本来なら腹を立てるところだけれど、この雨のせいでどうでもよくなってきた。
水に流しましょう、なんてね。
。 。 。
「へっくしょい! ふふぇっくしょい! だーなんで風邪なんかひくのよへっくしょい!」
「だろうね! あれだけ濡れればそりゃ風邪くらいひくわよ!」
「でなんでメリーは無事なのよへっくしょい!」
「日頃の行いが良いから。蓮子は日頃の行いが悪すぎるから」
「やっぱメリーは人類かどうか怪しいねへっくしょい!」
「褒め言葉として取っておきますわ」
土砂降りの中、走ってみるのも悪くないかもしれませんねw
ジュディ♂さんの作品は会話のテンポが凄く好きです
素敵なふたり
濡れた服が体に張り付いてボディーラインがあらわに(省略されました・・
ちょっとした日常を取り上げたこの感じが、もう大好きです!
この作品にはそんな雰囲気が溢れてて、楽しい気分になれました。
羨ましい青春だぜ
>brownkan様
ありがとうございます!
土砂降りの中走るのは気持ちいいですけど、お体には気をつけてくださいね。楽しいですが、人類が傘を発明した理由を知る事にもなるので。古傘ちゃんまじ歓喜。
>2様
秘封初めて書いたのですが、それらしくなったようでよかったですん。
会話のテンポがいいって嬉しいですね。会話、会話かぁ。そうかぁ良かったのかぁ。
>3様
もちろん走りましたよー。ダッシュですよ。猛ダッシュ。誰も腕とってくれなかたし、誰の腕も掴んで無かったんですけどね。
>奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます! いやぁ私も走ったときは「いつから雨に濡れるのを嫌だと感じるようになったんだろうなぁ」と思いました。まぁ冷静になればかなり昔から傘はあったのですけどね。でもまぁ忍者は雨でも傘ささなそうですかね。
>5様
ありがとうございます。こういう友人を持っている二人がすっごく羨ましいですん。いいなぁ。私もこういう友達が欲しい。鬱気味の内気だから、どっちかというと引っ張ってくれる友人が欲しい。
>6様
でもきっとナイスバディですよ。と見せかけて最近は体重を気にs(屍のようだ
>けやっきー様
ありがとうございます!
実話というか体験談というか。そんな感じです。最近急な雨多かったですからねぇ。
>8様
そうなんですよ! そこなんですよ! 本当にもうどうにでもなれー! って気分になるのです。
うがあああって感じというか、うおっしゃああああって感じというか。強くなった気分になるというかとにかくそういう感じなのです。いやぁ空気が上手く伝わったみたいでよかったです。
>9様
羨ましいですねー。こういう青春送ってみたいなぁ。まだ私ギリギリジュブナイルな歳なので、ラストチャンスですねぇ。まぁ無理そうですが。
私は土砂降りの中を歩いてインフルエンザにかかりました…