多分、『守矢、秘蔵の妖怪』の続き。でも読んでいなくても、問題ないです。
守矢神社。
今日も小傘は、家事のお手伝い。夕食の食器洗いに勤しんでいる。『さなえ』と書いてある、プラスチック製のネームプレートを首から提げ、鼻歌交じりに手を動かす。
そして、背伸びしながら細い腕で一生懸命洗う姿を、地面に這いつくばり、なんとかパンチラを拝めないものかと、早苗はローアングルから見つめていた。
背後から小傘に話しかける。
「あの、小傘さん」
「なあに?」
「小傘さんは傘の九十九神……あー妖怪でしたっけ?」
「うん、そうだよ」
「となれば、いわゆる、傘のスペシャリスト、という事ですよね?」
「うん!」
そこで早苗はニヤリと笑う。…決して、パンツが見えたわけではない。
「では、折り畳み傘はご存知ですか?」
「へ?」
小傘は皿を洗いながら、脳内に検索をかける。
(折り畳み傘…?聞いた事ない…。折り畳みって言うくらいだから、傘を折り畳むのかなぁ…?でも、そんな事したら傘壊れちゃうし…。知らない、なんて言ったら、早苗に馬鹿にされちゃう…)
だが、幻想郷には折り畳み傘は無い。小傘には知る由もないのだ。
「折り畳み傘、便利ですよね」
「う、うん。そうだね~」
「小さくて、持ち運びも便利」
「だ、だよね~」
「加えて、甘くまろやかな風味。とろけるような食感」
「そうそう」
全くわからないが、知らないと思われたくないので、相づちをする小傘。
「…では、小傘さんは持ち運びできますか?」
「へっ?」
話が全く見えない。小傘はポカンと口を開ける。
「ですから、小傘さんはハンドバッグに入れて持ち運びできますか?」
「できるわけないじゃん!」
「おや、小傘さんは傘のスペシャリストですよね?それ位の事できますよね?でないと、小傘さんは折り畳み傘以下という事になっちゃいますよ?」
「なっ!?それは聞き捨てならないよっ!」
パリン
小傘は興奮して、皿を一枚割ってしまった。
早苗にバレないように、こっそりと隅に寄せる。
「ですよね。じゃあ、小傘さん。明日楽しみにしてます」
「へっ?何を?」
「折り畳み傘のように、小さく、持ち運びも便利になってくれるんですよね。傘のスペシャリストさん、頑張ってくださいね」
「う、うん。私、頑張るよっ!」
一気にまくし立てて、ヨイショ。
早苗は人をその気にさせるのがうまかった。
(まぁ、不可能でしょうけど)
早苗は、次の日に、小傘をからかう事を楽しみにしているのだった。
「ああ、それと皿の件は今穿いている下着で手を打ちましょう」
「はい……」
小傘は涙する。
□ □ □
太陽が顔を見せた。
朝日に早苗は起こされる。
「ふぁ~あ」
大きな欠伸をしながら、身を起こした。
寝ぼけ眼のまま、アイマスク代わりの小傘の下着を外し、編み込んでいた髪を解き、櫛を探し、手を伸ばす。
すると、生暖かいものに触れた。
引っ張り出してみると、それは、すやすやと眠る小傘だった。
なーんだ。そう思って放り投げようとするが、どうもおかしい。
(なんでしょう…。小傘さんはこんなに小さかったでしょうか)
そもそも早苗が片手で持ち上げられる程、小傘は軽くない。
だが、今の小傘は頭を鷲掴みにされて、UFOキャッチャーのぬいぐるみのようだ。
(なんだ、人形ですか。はぁ、良くできていますね。質感も人の肌そっくり)
早苗は空いた片手で、ミニチュア小傘の頬をペチペチと叩く。
するとミニチュアが、目を開いた。
2色の瞳がそれぞれ早苗を見つめる。
「おはようっ!早苗おねーたん!」
「…えひゃー」
驚きの余り、変な声が出た。
そして、早苗の思考がフリーズする。
□ □ □
守矢神社の二柱は朝からのんびり、縁側でくつろいでいた。
「ほら、神奈子。鏡が曲がってるよ」
「ん?ああ、すまん」
「大丈夫。私が直すからね」
「ん」
熟年夫婦を連想させるやり取りだ。
そこへ、縁側を走る大きな音が二柱の耳に入る。
ドタドタドタドタドタドタドタドタ!
「ちょっと!神奈子様!諏訪子様!」
「早苗。女の子なんだから、もっと、おしとやかに歩きなさい」
「早苗。女の子なんだから、ちゃんと、身嗜みを整えなきゃ駄目だよ?まだ寝間着じゃない」
まるで、実の娘のように二柱は早苗に注意する。
「そんな事言ってる場合じゃありません!これ!これ見てください!」
早苗は小傘の首根っこを掴み、諏訪子に押し付ける。
「なんだ、小傘ちゃんじゃない。おはよー小傘ちゃん」
「おはよー。カエルおねーちゃん」
「あら、おねーちゃんだって。やだもう、そんな歳じゃないよ」
だが、満更でもないらしい。諏訪子は身体をくねらせて喜ぶ。
「ええい、とにかく、小傘さんがこうなった理由はなんですか!?」
大きさは50cm程だろうか。新生児位である。首にある『さなえ』のネームプレートで小傘本人である事は間違いない。
その質問に神奈子が答える。
「あー小傘ちゃんが『私を小さくしてー!!』って泣きついてきたから…」
「で、小さくしちゃったんですか!?」
「うん、奇跡パワー。でも、一緒に脳の容量も小さくなったみたい」
諏訪子が小傘に指を噛まれている。『痛い痛い』と言っているが、諏訪子は懐かしむような目で、小傘を見ていた。
「ちょっと行動が動物っぽいけど、まぁ、言語能力があるだけマシかな」
「マシかな。じゃないですよ!!さっさと戻してください!」
「でも早苗。小傘ちゃんをよく見てご覧」
神奈子の真剣な表情に、早苗は、ハッとする。
ここまで、シリアスな神奈子は見た事がない。
早苗も、冗談抜き、真面目に小傘を見つめる。
「小傘ちゃんの、あの無邪気な瞳…あの小さい手…あの体躯…どれ一つとっても…」
「はい…」
早苗は、ゴクリと唾を飲み込む。
「どれ一つとっても…可愛いだろう?」
早苗は神奈子を殴りつけた。
「ひどい!うう…諏訪子~早苗がぶったぁ~」
「お~よしよし。早苗は悪い子だねぇ」
諏訪子は、泣きついてきた神奈子を宥める。
「まぁ、早苗。そうカッカしちゃ駄目だよ。ほら、小傘ちゃんを抱っこしてな」
そう言って、諏訪子は早苗に小傘を手渡す。
早苗は改めて、腕の中の小傘をよく見てみた。
すると、小傘は早苗と目が合った瞬間、ニコーッ、と曇り一つない笑顔を見せる。
(か、可愛いじゃありませんか…!)
早苗はいつもの澄ました顔を崩し、顔を背ける。その顔は、熟れた林檎のようだ。
「うわっ!早苗が照れてる。恐っ!」
「ああ…」
二柱が、率直な感想を漏らす。
「なっ!?巫山戯ないでください!!誰がこんな……」
早苗は改めて、小傘をよく見てみる。
すると、小傘は早苗と目が合った瞬間、ニコーッ、と曇り一つない笑顔を見せる。
「こんな……か、可愛いなぁ……」
思わず本音がポロリと零れる。目尻を下げ、にへらーっ、と破顔する早苗。
その様子を二柱は、声を押し殺して笑っているのだった。
「(全然、いつもの早苗らしくないね)」
「(ああ、早苗も小傘ちゃんに相当、参っているのだろう)」
「(怖いね…)」
「(怖いな…)」
はっ、と今の自分の表情に気づく早苗。 キッ、と二柱を睨む。
風よりも速く、二柱は全力で逃走した。
(全く。お二柱方にも困ったものです。早く小傘さんを元に戻してあげないと、このままでは哀れです)
ふと、髪の毛を引っ張られている事に気づく。
「早苗おねーたん、早苗おねーたん、これ!」
小傘から紫の傘を、手渡される早苗。どうやら、小傘と一緒に縮んでしまったらしい。
「え…?これ、どうすればいいんですか…?」
「あげる!」
「はっ?いやいや、これは小傘さんの大切な物でしょう?」
「早苗おねーたんの事、大好きだからいいの!」
「……もう一度言ってくれますか?」
「早苗おねーたん、大好き!」
もうずっとこのままでいいかもしれない。早苗はふすまを、ピシャリと閉める。
□ □ □
「ほ~ら、小傘ちゃん、こっちですよ」
「おねーたん、待って」
早苗が手招きすると、小傘は短い脚でトコトコと近づいて来る。
そのまま早苗は小傘を抱き上げる。
「よくたどり着けましたね~小傘ちゃんは良い子ですね~」
「んにゃー」
「小傘ちゃんは世界で一番可愛い子ですね~うりゃ~」
早苗は小傘の柔肌に頬ずりをする。
「んにゃー」
「んにゃー」
バカ親が生成された。
□ □ □
再び、一同が食卓に揃う。
二柱は早苗の変わり様に驚いていた。
目を点にして、固まる。
「はい、小傘ちゃん。熱いからフーフーしましょうね」
「うん!」
早苗は、熱々のご飯を冷ましてから、膝の上の小傘の口に運ぶ。
「あら、小傘ちゃんったら。ほっぺにご飯粒が付いてますよ?」
「ふぇ?」
「今、取ってあげますね」
早苗は頬にキスをする。
「ふわー」
「よし、取れた」
その様子に神奈子は、カランと箸を落とす。
諏訪子は、昔の自分を思い出しながら頷いていた。
なんと言うか、もうメロメロだ。
見かねた神奈子が話を切り出す。
「そろそろ小傘ちゃんを元に戻そうかなって思ってるんだけど…」
「何を仰います!小傘ちゃんは私が大きくなるまで、育てます!」
早苗は小傘に向き直すと、甘ったるい声で話しかける。
「ねー?小傘ちゃんは、これから私の手によって、いいかんじに育てられる方がいいですよね~?」
「ねー」
神奈子は、言いづらそうに顔をしかめる。
やがて、重い口を開く。
「あー早苗?実はその…小傘ちゃん、それ以上大きくならないんだ。元のサイズを小さくしただけだからね。年齢を下げた訳じゃないんだ。だから、成長しない」
その言葉を聞いた早苗は、目を見開く。
「何ですって!?それでは性行為が出来ないじゃないですか!!」
「「止めてぇ!!女の子なんだから、そんな事言っちゃ駄目ぇ!!」」
神奈子と諏訪子が同時に叫び声をあげる。
早苗の声は幻想郷中に響いたという。
□ □ □
その日の内に、小傘は元の大きさに戻った。
神奈子も、これで良かったのかどうか悩んでいたが、諏訪子と酒を呑んで忘れる事にした。
…そして、その晩、何があったかは語れない。
キタコレ!!!!
20作目おめでとう御座います!これからも頑張ってください!
で吹いたwww
最近小さな鞄でも入るすっごく小さい折りたたみ傘とかありますけど、そのサイズにならないでよかった。しかしこの早苗さんは本当にだめだなぁw
いやもう、鼻の奥がツンとしてきた。早苗さんのことは俺には責められない。