Quarto : Flauto piccolo
「早苗さなえー!河童の里でピッコロ貰ったー!!」
「いきなりものすごく都合がいいですね諏訪子様!」
私はそんなことに奇跡の能力を使った覚えはないのですが、まぁ、事実として諏訪子様の手には紛うことなく、ピッコロがありました。
受け取ってケースから取り出します。すると、
「ぴっころ?なんじゃそりは?」
小傘さんは不思議な顔で私の手元をのぞきだしました。
そんな小傘さんに説明をしてあげましょう。
「楽器のひとつですよ。外の世界にいたとき私これ吹いてたんです。」
ああ懐かしいなあ。マーチのオブリガートとか、しんどかったなあ。
「学校とかで吹いてた?」
「そうです!知ってるんじゃないですか。」
「いんや、外に出てたのは金色のやかましいやつだけだったから、知らない。」
あぁ、金管楽器しか見たことないのですね…
「でもなんだか面白そう!何か吹いてふいて!」
小傘さんが期待を込めた目でこっちを見ています。人に聞かせるほどの腕前はしていないのですが…長らく吹いていないですし。
と、諏訪子様と加奈子様も期待を込めた目でこちらを見ています。
……後に引けない。
なら吹くしかない。
恐る恐るながらも、私は歌口に息を入れました。
「~~~!!!」
至近距離にいた小傘さんがもだえています。そりゃ、至近距離でこんな甲高い音を聞いたらそうなるでしょう。敢えて黙っていた甲斐がありました。ニヤニヤ。
ただ吹いててもしょうがないので、記憶を手繰り寄せてなんとか吹ける曲を思い出します。
なんとか思い出したのは「第六の幸福をもたらす宿」という曲の一節でした。
軽快なピッコロの旋律は、私のお気に入りでもあります。
かつて私の演奏をどこかで聞いていたのか、加奈子様と諏訪子様の二方は懐かしそうに聞き入られています。
小傘さんも復活して、すごくノリノリで弾幕を……
「…って、何してるんですか小傘さん!!」
天☆誅
「いくら楽しくなっても、弾幕を展開するのはやめてくださいっ。」
「あうううう…………」
神社を壊しかけた罰です。いつもよりこっぴどくさでずむですっ。
ですけど、私の演奏で楽しい気分になってくれたのなら、それは嬉しい、ですね。
Quinto : Organo
「お姉ちゃん……」
あまりにも途方もなくて、私は口をあんぐりとあけて、それを見上げていた。
「何かしら?」
お姉ちゃんは平然としている。いや、若干のどや顔。怒りを覚える。
「いくらなんでも、大きすぎない?」
私たちの目の前に鎮座し、地霊殿の大広間を占拠しているのは、
「パイプオルガンとは、普通このくらいよ。これでも小さいくらいだわ。」
……巨大なパイプオルガンだった。
どうしてこんなものを手に入れたのか聞いてみたら、
「私たち姉妹とペットたちが暮らすには、この地霊殿はいささか大きすぎるのよ。せめてこのだだっぴろい大広間ぐらい有効活用したいと考えるのは当然じゃないかしら?」
だって。
お姉ちゃんの貧乏性は相変わらずどこかズレている。
こんな突拍子もないことしちゃって、私、無意識のうちに何かしたかしらとまで思ってしまう。
でも私何もしてない。コイシチャン、ウソツカナーイ
「しかし…」
お燐も、私と同じように口をぽっかりと開けてオルガンを見上げている。
「地獄にオルガン、ですか……」
縦文字と横文字の奇跡の出会い、口どけやわらか、ってお菓子じゃないから違うか。
「いいじゃない。灼熱地獄にミサ曲が流れても。」
悔い改めよ、だっけ?そういうときに唱える呪文。悔い改めるような人はみんな死んじゃってるけどねっ☆
「はぁ………そういえば、誰か弾けるんですか?」
お燐がそう聞いたとき、全世界が停止した
ように見えたけど、みんな固まっただけだった。
「……まぁ、2段+足があるけど、基本は鍵盤だし、ピアノの要領で弾けるでしょう。」
お姉ちゃんはここ最近で最大級の見切り発車をしたようだった。
ぶらり廃駅下車の旅、次の電車が勝手に見切り発車してさあ大変?
話がそれた
お姉ちゃんが真ん中の、鍵盤があるところに腰をかける。
果たして何が起こるのやら。
「おお、足が届きません。」
見れば足の鍵盤っぽいものにお姉ちゃんの足が届いていない。これで足はなくてもよくなった。やったね☆
……いや違う。きっと違う。
そして漸く、鍵盤に手を置いて、オルガンを弾き始める。
刹那、轟音。
長い長いパイプの先から響いた音は、だだっ広い大広間の空気と最大限共鳴して、予想をはるかに上回る爆音を響かせた。
これは、凄い。
ものすごく大きな音が、だけど神々しい響きが、広間全体の空間を揺らしている。
こんな体験は、幻想郷中を放浪していた私にも、初めてだった。
一応ピアノを習っていたことがあるお姉ちゃんは、
「お、指を離せば音が止まるのが、なんとも……」
と言いながらも、わりと危なげなく弾いている。楽しそうだ。
私はどうしよう。
そこで私は気づいた。お姉ちゃんが弾いている鍵盤の横には、面白そうなレバーがいっぱい並んでいる。
これはやるしかない。えいっ
……あれ?
…………動かない。
と思ったら引くものだった。
失敗失敗。気を取り直して、えいっ
「ちょっ、何をしているのですかこいし?それは私にもよく分かっていないのに!」
なんておねえちゃんが言うからなおも滅茶苦茶にやる。
すると、鳴っている音色が変わっているのに気がついた。
これは面白い。
お姉ちゃんも良いと思ったのか、曲調を変えてその音色のまま弾きだした。
私が適当に作った音色で、お姉ちゃんが即興の曲を弾く。
なんだか、心がつながった気がした。
Sesto : Theremin
今日は珍しく静かだなと思ったら、ぬえがいなかった。
あまりに静かで、平和な命蓮寺に、私は感動を覚えた。
「知らなかった…!ぬえのいない日常が、こんなに平和だなんて……!」
「なにを言ってくれてるのかなこの子は?」
………「え?」
そこにはぬえがいた。
「なんてグッドタイミングで感動してるんだろうねぇ。嬉しくって尻尾が出ちゃう♪」
「いたたたたた、赤いのの先は痛いって!」
ひとしきりぐりぐりされたところで、ぬえが口を開いた
「ところで、これを見てよ!」
といって脇に置いてある奇妙な箱を見せてきた。
それは、見れば見るほど奇妙な形をしている。
長くのびるスタンドの上に小さい茶色の箱があり、左右の橋からそれぞれ金属の棒が延びている。
左は丸く、右は上にまっすぐ。
「………何これ?」
「聞いて驚けムラムラ。なんとこれが楽器なのだ!」
「へー、で、その正体は?」
「いやこれ正体不明の種使ってないから!そのまま楽器だから!」
全力でツッコまれた。
しかし全く信用できない。そもそもただの箱と棒から音が出るとは思えない。
通りすがったいっちゃんや星やナズナズや聖も、「見たことも聞いたこともない」と口をそろえて言う。ほらみろー。
「ううう。本当なんだってばー。誰か信じてくれよー」
そうは言っても、普段から信用ならないことをしているし、そう簡単に信用なんてできない。
しかし、さすがに涙目になっているあたり……いや!騙されてはいけない!
そんな手口で鮮やかに騙されたこと67回、もう騙されないぞ!
そこ、「さすがに気づきましょうよ、67回って…」って言わない!
そこに、いっちゃんが提案をしてくれた。
「本当に楽器なんだったら、実際に演奏してみてよ。」
確かにその通りだ。
すると、
「そうだね!よし、ちょっと待ってろ!」
といって、その箱を部屋の中へと運んだ。
そして、箱から伸びた紐のようなものを、コンセントに差し込むと
音……が、出た。
けど、なんだ、これ?
少なくとも、今まで聞いてきた楽器とは似ても似つかない、珍妙な音を、そいつは放った。
すぐさまぬえが箱の上に手をかざす。
そして、妙な手つきで手を動かし始めた。
すると、ぬえの手の動きにあわせて、箱が旋律を奏ではじめた。
驚いた。
ぬえはそのまま、「きらきら星」を演奏している。
彼女も演奏には慣れていないようで、とてもたどたどしい。
口を尖らせて手をうねうねするその姿は、妙に可愛かった。
ふと周りを見ると、みんな同様に驚いて、そしてほほえましくぬえを見守っていた。
楽器じゃないなんていって悪かったな、なんて思った次の瞬間。
ぬえが黒い笑みを浮かべて、突然手を滅茶苦茶に動かし始めた。
「?!」
形容するなら、「音が揺すられている」。
すべてを不安定と正体不明で覆い尽くすような音程。
あまりにも突然のことで、みんなの阿鼻叫喚を誘った。
「ストーップ!!」
と私が叫んで、漸く演奏は止んだ。
ちくしょー、ニヤニヤしてこっちを見るんじゃねー。
非常に精神の磨り減った状態でなんとか言葉を搾り出す。
「な…何してくれてんのよ……」
ぬえはニヤニヤしながらこう言い放った。
「えー?これがこの楽器の真髄だよ。」
「知るかっ!死ぬかと思たわっ!」
実際本当に死ぬかと思った。楽器って普通こんなことするもんだったか?
「うそぉ?ほら、みんなは感動のあまり声が出ないって」
他の面子はもはや言葉すら出せない様子だった。
そしてぬえは、私がみんなに視線をやった隙に逃げる体勢をとっていた。
「絶対違ぇだろっ!!」
とりあえず許さない。私はアンカーをひっつかむと、いつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべて逃げ出したぬえを追いかけた。
らっぱっぱーらっぱっぱーにー(ry
GJおっつー☆