Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幻想郷楽器譚 壱

2010/07/27 05:55:27
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Primo : Erhu e Violino

広い広い紅魔館を今日も探検していたら、広い広い倉庫を見つけた。
ほとんどは昔流行った服とか、お姉さまが気まぐれで用意させた謎アイテムばかりで、今となってはどうしようもないものばかり。使わないなら捨てりゃいいのに、なんでとってあるんだろう。

そんな物々を捨て置き、どんどん奥の方へ突入していく私。すると、縦長の木の箱が隅のほうにあるのに気がついた。

一瞬気に留まったので引っ張り出して開けてみる。

中から出てきたのは、今まで全く見たことない楽器だった。
やたらと長い首みたいな部分とやたらと丸っこい本体。図鑑でバイオリンは見たことあるけど明らかに形が違ってて奇妙だ。
丸いところは…蛇の柄?になっていてちょっと気持ち悪い。
弓もあるけどまっすぐでやっぱり違う雰囲気。

とりあえず楽器っぽいけど……誰が弾くんだろう。

お姉さまが弾くにしては格好悪いし、咲夜は……うーん、弾けそうだけど想像できない。まさかパチュリーじゃないだろうし……誰だろう?

「あら、懐かしいものを見つけてきたわね。」
ってお姉さま!?突然現れないでよびっくりしたじゃない!

「あらごめんなさい。だけど貴方こそ、倉庫部屋は遊び場じゃないわよ?割と大事なものもあるんだから。」

それでも『割と』なんだねお姉さま。ところで、『懐かしいもの』ってどういうことなの?

「それは美鈴が持ってきた楽器よ。エルフーとか何とか…なんて言ったか覚えてないけど。」

美鈴のだったんだ。へぇー、意外。通りで見たことない形してると思った。

「誰のものでもそういうでしょうに貴女。それよりフラン、それに興味を持ったのかしら?」

ええお姉さま。鳴らせるなら是非聞いてみたいわ。

「分かったわ。サロンで待っていなさい。」

わかったー。えへへ、楽しみだな。
はやる気持ちを抑えて、私はサロンへと向かった。


サロンでわくわくしながら待っていたら、美鈴がエルフ…なんとかを持って現れた。長身の美鈴にその首の長い楽器、うん、なんとなく合っている気がしてきた。
そのとき、どこにあったのかお姉さまがバイオリンを持ってその後に出てきた。

お姉さまも楽器、弾けたんだね。

「ん、かなり昔に教養の一つでね。」

下手だったら許さないよ。

「下手なら美鈴と一緒に弾こうなんて思わないわ。」

「二胡とバイオリンで一緒に弾こうなんてそれこそ普通の人は思い浮かびませんけどね。」
美鈴が苦笑いをしつつそう言う。私にはよく分からない。

「わたしは吸血鬼だから思いつくのよ。さて、演奏会を始めましょうか。」
その言葉をきっかけに、空気が変わった。

私もつられてドキドキする。張り詰めた緊張感が、何故か心地よかった。

初めにお姉さまのバイオリンが、そして美鈴の二胡が旋律を奏でる。
落ち着いた、優雅な音色。遠い昔に聞いたことがあるような、ないような気がした。時々跳ねたり、伸び上がったりしながらも、その音はお姉さまそのもの。澄ました音色だった。

対して、二胡はというと、なんとも不思議な感覚。
同じように優雅なんだけど、何か違う。どこか遠いところから響いてくるような、不思議な音色がする。
屋敷の中なのに、もっと広い感覚。広くて、穏やかな、そんな旋律だった。

そしてそんな音色が混ざり合う。
音楽なんてほとんど聴かない私でも、全く違う音だと言うのは分かるし、今私の前でも、そんな別種の音が鳴っている。
全く混ざり合わない音なのだけれど、お互いが隙間を埋めるように、交互に旋律を奏でている。
私の頭はどんどんいっぱいになって、ふたりの演奏にひき込まれていった。



「…………。さて、どうだったかしら?」
お姉さまがそう聞いてきた。

なんだろう、うまく言葉にできないけど、おもしろかった!

「それはそうでしょうね。」
美鈴がいつもの苦笑でこっちを見ている。
それはどういう意味よ。

「本来全く合わないはずの楽器ですものね。この曲は誰が書かれたのですか?」
「ん、あいつらよ。」
「あら、作曲もできたのですね。あの方たち。」
「無茶な依頼でしたよねぇ…」
……ちょっと、お姉さまたちだけで盛り上がらないでよ。





Secondo : Sho

「幽々子様~?どこにいらっしゃいますか~?」
幽々子様を探しながら白玉楼を歩き回る。出て行かれたはずはないのですが。。。見当たりません。

「妖夢~、ここよここ~」
なんとか幽々子様の声が聞こえその方向へ向かう。

あれ、ですがこの部屋は…
「…?ここは物置…ってうわあ!」

幽々子様は積み上げられた箱の塔の中にいました。正直、声と上に伸ばした手しか見えません。


ひとしきりあれやこれやした挙句、漸く幽々子様、脱出。


しかし…
「何を探されていたのです?」
「これよこれ!どうしても吹きたくなって。」
と取り出されたそれはなんとも不思議な形をした…
「楽器……ですか?これは。」

黒いお椀のような物の上に竹の棒が長さもさまざまにたくさん並んでいます。
少なくとも私には見覚えのない代物でした。
目をぱちくりさせている私に、幽々子様は
「そうよ~。笙っていうの。」
とだけ応えました。


「私は聞く側だったんだけれどね~、暇だったから面白そうなのを選んで練習したりしていたの~。」
知識のない私はただただ相槌を打つばかりです。

「まあ言うより演奏した方が早いわね~」
そうおっしゃられて、幽々子様は笙を吹き始めました。




曖昧な、音色。
いつから鳴っていたか分からない、不思議な楽器、そう思いました。
いくつもの音が重なった、張った音をしていて、いつも騒霊がやる音楽とは、全く対極の、まるで何かの修行かと思うほどのゆったりした音楽でした。

ほどなく、高い笛の音が緩やかな旋律線を……

……って


「いつの間に参加しているんですか、あなたがた」
そこには、普段とは違う楽器をそれぞれ携えて、件の騒霊三姉妹が座っていました。





Terzo : Ocarina

夜の散歩を楽しんでいたら、木の上に人影があった。
「そんなところで何をして……って慧音か。何をしていたんだ?」
「ああ妹紅か。なに、満月だったからなんとなく、な。」

そういう慧音は、確かに角を生やしていて、今夜は間違いなく満月だった。
彼女はかなり高い木の天辺近くの枝に座っていて、何をしているのだろうと思った私は、空を飛んで彼女の許へ行ってみた。

すると、彼女は手に奇妙な形の物を持っていた。
長く生きてきた中で、幾許かの記憶はあるが、いささかはっきりしない。

「オカリナ……だっけか?それ」
「ああ、そうだ。」
どうやら合っていたようだ。
ひとり気ままに吹くのがすきなんだ、そう言うと、彼女はオカリナを吹き始めた。


静かで、素朴な音色。
緩やかに紡がれる旋律は、特定の曲を吹いているようではなかった。
時々音を外したり、完全に一呼吸開けて息を吸ったりと、本当に自由気ままに吹いているようだった。

普段の凛としている慧音とは違うようで、でも真面目な慧音らしい旋律だった。
どのくらい聞き入ってたかは分からないが、彼女の演奏がずっと流れていた。


「あら、おふたりで仲睦まじいこと」
演奏を断ち切ったのは、いつの間にそこにいたのか、輝夜だった。

「せっかくいいところだったのに、邪魔するなよ」
「おや、私はあまり気にしていないが」
「私が気にするんだ。」
誰の言葉にも他意なんてないが、それでも少しきまりが悪い。

そんな応答をしていると、輝夜が笑って
「ふふ、それにしても、貴女がオカリナとは、また面白い。」
そう言って来た。

「いいじゃないか、月夜の晩にオカリナを吹いたって。」

「あら、森の中に昔から住んでるのはむしろ妹紅の方ですけど。」

そんなやり取りを2人は交わしている。いったい何のことやら、私にはさっぱり分からない。何2人で笑ってるんだ。


そうしてまた、慧音はオカリナを吹き始めた。

オカリナを吹く慧音を、私と輝夜が挟んでいる。

なんとも不思議な図で、不思議な気分だ。
お久しぶりの喇叭吹きは休日です。
最近無印の方で音楽や楽器を題材にした作品が立て続けにいくつも現れて、それで嬉しくなってしまったあまりの投稿です。
初めは幽々子様の笙の話ししか予定になかったのですが、幻想郷中から話を集めた結果、ものすごく長大になりました。ナンテコッタイ。
そんなわけで二分割しての投稿でございます。
初めは紅魔郷~永夜抄。
一つ目のお話がやたらと膨れ上がった気もするけど、トップバッターで気合が入った結果だと思ってください。
喇叭吹きは休日
http://merliborn.ho-zuki.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
音楽系のお話が増えてきてかなり歓喜!
2.ケトゥアン削除
音楽はいい。心を満たして行く…
楽器で音をだすのは難しいよね