※作品集70「朱鷺色の思い」の続きとなっております。
そちらを読んでからの方が多分楽しめます。
ではどうぞ。
ナズーリンは激怒した。
必ず、かの駄目虎主人が『また』無くした宝塔を見つけ出すと誓い、無くした罰としてダウジングロッドで数発殴った。
「痛い!痛いですナズーリン!」
「ご主人が物を無くす度に苦労している私の気持ちだよ。ありがたく受け取ってくれ」
「いらないです!止めてください!」
「そんな事を言うから毎回毎回物を無くすんだ!この前なんて聖の寝顔生写真を無くしたって言って私に泣きついてきたじゃないか!」
「だって聖可愛いんですもん!」
「その意見には賛同しよう。だがそれなら尚更大事な物を無くす訳にはいかないんじゃないかい?ご主人?えぇ?」
「うぅ、ナズーリンはSっ子だったのですね……」
「ご主人に対してはね。それより後ろ」
「ふぇ?」
ご主人が後ろを振り向く。
「星……?」
聖が仁王立ちしていた。橋の上で一喝すれば曹軍も逃げ出しそうな気迫がある。
「ひ、聖……?」
「ナズちゃん、星のお仕置きは私に任せてもらえるかしら?」
「ちょ!?」
「あぁ、私は別に構わないよ。きつく灸を据えてやってくれ。後私はナズーリンだ。ナズちゃんじゃない」
「ナズナズ!?」
ナズーリンだ。
「さぁ、行きましょうね~……フフフ……」
「嫌ーーーっ!?ナズリンナズリン助けてナズリン!」
「だが断る」
「そんなーーーッ!?」
大体、私は宝塔を探さないとならないのだ。拾った者に宝塔を受け渡してもいいと言うのなら加勢しよう。
フフフ……アラヌエ、イッショニタノシミマショウ?
ワーイ、トラノオドリグイー
ラメェェェェェェェェェェェェェェェェ......
後ろから何か虎の声が聞こえるが、少し遅れた繁殖期という事にしておこう。
***
「てんちょー、次の巻まだー?」
「待ってくれ、今断崖絶壁を登って魔除けの祈祷を……」
「あーあー!言わないで!楽しみなんだからー!」
「ふむ、それはすまない」
朝、先日店員として雇用した朱鷺子が数十冊の本を包んだ風呂敷と共にやって来て、今はその本の読破中だ。数えてみると計六十冊存在し、全てが一つの物語で繋がっている事からシリーズ物である事が見て取れる。
「……そういえば、そろそろ昼だな」
「あ、それもそうだね」
「何か食べるかい?」
「どじょうがいい!」
泥鰌か……確かこの前釣ったな。
「分かった。なら地獄鍋でも作ろうか」
「じごくなべ?」
「まぁ、完成してからのお楽しみだね」
「うん!」
ご馳走を目の前にした子供の様な笑みで応えてきた。いや、様なじゃなくてそのものか。
そんな事を考えながら、僕は勝手場に向かった。
***
「さて、反応は……こっちか」
全く……あの駄目虎ご主人め。何度宝塔を無くせば気が済むんだ……三桁はとうに超えてるんじゃないのか?
「……あれ?」
ロッドの反応を辿っているうちに気が付いた。
以前宝塔を無くした時と道筋が似ている。この先には、確か……
「……また此処か」
古道具屋、香霖堂。
聖復活の際にご主人が無くした宝塔を拾い、非売品にしようとしていた性悪店主がいる所だ。
「……経費で落ちるかな、今度は」
そんな言葉を吐きながら、私は扉をくぐった。
扉をくぐった私を待っていたのは、「ん……いらっしゃい。ようこそ香霖堂へ」と無愛想な顔で言い放つ店主じゃなかった。
「どっじょお♪どっじょお♪」
「…………ゑ?」
私の目に飛び込んで来たのは、顔を横に振りながら泥鰌泥鰌と浮かれて言っている鳥妖怪だった。
「どっじょお♪どっじょ……って、誰?」
「……あ、あぁ。すまない。少し理解に苦しんだ」
「???」
気付いていなかったのか?まぁいいか……
「君は店主に用があるのかい?」
「ん~まぁそう。用はあるよ?」
「そうか、私も店主に用があるんだが……店主は何処にいるか分かるかい?」
「だいどころ!」
「台所……勝手場か。そういえば昼時だね」
仕方ない。無理に詰め寄るのも悪いし……少し待たせてもらうとしよう。
「さて、続き続き……」
「ん?」
見ると、鳥妖怪の少女は何やら本を読み始めた。続きと言っている辺り、先程から読んでいたのだろう。泥鰌泥鰌と浮かれていた時はどうなのかは知らないが。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
グゥ。
「………………」
「………………」
空腹なのか、あの子。
「………………」
「………………」
「どっじょお♪どっじょお♪」
また浮かれ出した。
「急かさないでくれ、朱鷺子……っと、いらっしゃい、ナズーリン」
「やぁ店主」
「どじょうは?」
「居間に置いてあるよ。食べてくるといい」
「わーい♪」
「さて、待たせたかな?」
「少しだけだけどね」
「それは済まないね。さて、今日は何をお求めだい?」
「ご主人の宝塔だよ」
「また無くしたのかい?」
「店主が拾ったんだろう?」
「……あれ以来僕は宝塔を所持した覚えは無いが?」
「本当かい?」
「君にこんな嘘を吐いて得があるとは思えないよ」
「ほう?宝塔が手に入るのは得じゃないのかい?」
「得かもしれないが、その後に南無三されそうだからね。結果的に損さ」
「違いないね。……所で、本当に知らないのかい?」
「少なくとも僕はね。もう一人の店員には聞いたのかい?」
「店員?居たのかい?」
「さっきまで話していたんじゃないのかい?」
「じゃあ……さっきの鳥妖怪が店員かい?」
「あぁ、そうだよ」
「……客の相手もしないのにかい?」
「後で叱っておこう。それより、急ぎなら今聞くかい?」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
***
「どっじょお♪どっじょお♪」
霖之助が作ったどじょう料理!私の意見で作ってくれたから、私のためだよね!
「どっじょお♪どっじょお♪」
あった!なべ!じごくなべ!店員初日からどじょう!やった!
「どっじょお♪どっじょお♪」
いっただっきまー……
「……おとーふ?」
おなべの中にあったのは、おとうふ。小さい穴がいっぱい開いたおっきなおとうふが、一個。
「どじょうは?」
机の上のどこにもどじょうは見当たらない。霖之助め、だましたな!?
「朱鷺子、味はどうだい?」
「霖之す……てんちょー!どじょうは!?」
「泥鰌?あるだろう?」
「無い!」
「どれどれ……?何だ、まだ食べてないのかい?」
「泥鰌と豆腐……地獄鍋かい?」
あ、さっきのネズミさん。
「にしては泥鰌がいないね。まだ入れてないのかい?」
「いや、入れたよ。恐らく全身すっぽり潜ったんだろうね」
「それは……珍しいね」
「まぁ食べれない事もないからどっちでもいいな。君もどうだい?ナズーリン」
ネズミの人はなずぅりんっていうらしい。……ダメだ、おぼえらんない。
「フム、折角だし厄介になろうかな」
「ねーどじょうは?」
「あぁ泥鰌かい?泥鰌はね……」
言いながら、霖之助はおとうふに箸を入れた。
「あ!どじょう!」
「そういう事だ。さぁ食べようか」
「そうだね。熱い物は熱い内に、だ」
「いただきまーす!」
「「頂きます」」
***
「ごちそーさま!」
「ご馳走様」
「ご馳走様。……美味しかったよ、店主」
「それは重畳。……と、ナズーリン。宝塔は……」
「あぁ、すっかり忘れていたよ」
それは従者としてどうなんだ?
「君、え~っと……」
「朱鷺子」
「朱鷺子君か。すまないが、宝塔を持ってはいないかい?」
「ほーとー?」
「そう、宝塔だ。形は……青く光る丸い玉の上に屋根みたいな傘が乗っている形なんだが……知らないかい?」
「ん、これ?」
言って、朱鷺子は懐から何かを取り出した。
青く光るそれは……
「……何だい、コレ?」
「名称:ブラックライト、用途:隠れたものを出現させる……か」
僕の目にはそう映った。
「隠れたものを出現……ダウジングに使用する道具の一種かな?」
「恐らくそうだろうね。例えば……土の中に埋まっている物をこの特殊な光で察知し、土中の微生物等に光を作用させる事で土から出現させるのかもしれないな」
「おーい、……二人とも?おーい?」
「店主、こうは考えられないかい?君の考えと一緒だが、土の中の目標に特殊な光を当てる事でその対象が光を吸収するんだ。そして我々妖怪の時間……即ち夜になると対象自体が光り出し、土の中から出現する……と」
「成程、そういう考え方もあるか……流石、賢将と呼ばれているだけはあるね」
「店主こそ、一商人にしては中々の推察力だね」
「……てんちょーが、遠い……」
「……さて、本題に戻ると、だ」
「あぁ、あの駄目虎偽毘沙門天の宝塔だね」
◆◆◆
イッキシ!
アラ、ショウ。カゼ?
ハダカデネルカラダヨー、ヌエッヌエッヌエッ
ダレノセイデスカ、ダレノ!
ショウネ。ワタシノナマジャシンナンテモッテ......マイバンナニシテタノカシラ?
ソ......ソレハワスレテクダサイ!
ソンナコトイッテモ......ネェ?ヌエ
ウン。ソノショウチャンソウゾウシタラカワイカッタシー
カ、カワイクナンカアリマセン!
アラアラ、ソンナコトイッテルト......
エ?
オドリグイオカワリー
イ、イヤァァァァァ......
◆◆◆
「自分の主だろう?そんな事を言ってもいいのかい?」
「構やしないさ。それより……朱鷺子君、本当に知らないかい?」
「これ?」
言って、朱鷺子が取り出したのは、以前僕も見た事がある物だった。
「おぉ、まさしくコレだよ。ご主人の宝塔は!」
「何処で拾ったんだい?朱鷺子」
「えーっと……忘れた!」
「……まぁ、いい。返してくれないかい?」
「やだ」
「「!?」」
と……朱鷺子は何を言っている?
「な、何故だ!?」
「だって、私が拾ったんだもん。私のでしょ?」
「店主!従業員にまでそんな教えを徹底しているのかい!?」
「まさか」
「だが現に……」
「朱鷺子、その宝塔、僕にくれないかい?」
「店主ー!?聞け!」
「ヤダ!」
「……そうか。今日の夕食は泥鰌をふんだんに使った柳川鍋にしようと思ったんだがな……」
「どじょういっぱい!?食べたい食べたい!」
「なら、その宝塔は僕にくれるかい?」
「うん!」
言って、朱鷺子は僕に宝塔を差し出した。
「……さて、ナズーリン。これで今この宝塔の持ち主は、僕になった」
「ぐぬぬ……」
ナズーリンは暫く唸った後、頭(こうべ)を垂れた。
「……いくらだい?」
「買い取るのかい?」
「君相手ならそれが一番確実だよ……」
「フム……」
言われて、考える。
此処でナズーリンに宝塔を売れば、暫くは食うに困らないぐらいの利益が見込めるだろう。なら……
「よし、わかった。交渉しよう」
「言い値で買うよ。ハァ……、ご主人の馬鹿……。帰ったら百打の刑だ……」
言い値か……よし。
「なら、値段は零銭だ」
「…………え?」
「僕がこのを営む理由は二つある。一つは個人の趣味。もう一つは、行き場の無くなった道具達が新たな主人を見つけるまで僕が一時的に保管しておく事だ」
「は、はぁ……?」
「第一の理由から言えば、此処香霖堂の『香』は『神』を指し、『神』とは『博麗神社』を指す。つまり香霖堂は博麗神社と同一視出来、博麗神社には既に神がいる。つまり此処にはもう神がいるという事になる。ついでに僕は神を信仰する気は無くてね、趣味としてそれを手元に置くのは正直どうでもいい。」
「……?」
「次に第二の理由だが、この道具は既に主人がいる。僕が保管・管理する必要性は皆無という事になるからね。だからタダで良いよ」
「じ、じゃあ……何で最初は代金を要求したんだ!?」
「何となくさ。久しぶりに商品を求めて客が来たんで、つい」
「それは……商人としてどうなんだい?」
「それは言わない約束だよ」
誰とのかは知らないが。
「……そうかい」
「あぁ」
「そういう事なら、ありがたく貰っておくよ」
「あぁ」
「……それじゃ、私は帰らせてもらうね」
「あぁ、じゃあね。……と」
「ん?」
「有難う御座いました。今後も香霖堂を宜しくお願いします……」
「……ハハッ、似合わないよ、店主」
「そうかい?」
「あぁ、君には無愛想がお似合いだよ。じゃあね」
言って、ナズーリンは帰っていった。
「てんちょー!どじょう、どじょう!やながわなべ!」
「ん?あぁ、柳川鍋か。すぐに準備しよう」
「わたし手伝う!」
「そうか、じゃあお願いしようかな」
「うん!」
***
「てんちょー、おしゃけ……」
「呂律が回っていないじゃないか。もう止めておきなさい」
「やだー!」
「やれやれ……」
「……むー」
「コラ、膝に座るな」
「やだー……」
「やれやれ……ん?」
「くぅ……くぅ……」
「やれやれ、眠ってしまったか」
「りんのすけぇ……」
「…………」
「くぅ……くぅ……」
「…………」
ツンッ
「んむ……くぅ……」
「…………」
「くぅ……くぅ……」
「…………」
「可愛い……な。
……ハッ!ぼ……僕は今何を……?」
朱鷺子は可愛いんだよ!!
ゲェッ!ヒジリ!
…停電でデータ飛んだ。
物凄く同意!そして星にナニがあったのか気になるwww
地獄鍋を初めて見た時のインパクトは今でも忘れられないww
朱鷺子可愛いよ朱鷺子!
ナズがなんか書きやすかったんで。
えぇ可愛いんです!
ご愁傷様です。
>>2 様
可愛いって何だろうって考えたら子供っぽくなりました。
べ、別にロリコンじゃないんだからね!勘違いしないでよ!
>>奇声を発する程度の能力 様
聖可愛いですよね!
地獄鍋食べた事あるんですか。いいなぁ……
星にナニがあったのかって?そりゃあナニかですよwww