Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

藍→←橙

2010/07/25 17:42:24
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 全身から滲む汗の不快感で、橙は目を覚まし、体を起こした。陽射しは、畳の間の入り口の陰で藍に寄りかかって昼寝をしていた橙をいつの間にか照らすように動き、更に輝きを増していた。寝る前に数本抱えていた藍の尻尾は橙の汗と湿気で張りをなくしており、力なくくたびれているその光景に、ますます汗が吹き出るのを感じた。

「起きたか、橙。ほら、使うかい?」

 取り込んだ洗濯物を傍で畳んでいた藍から差し出されたうちわを、橙は尻尾で受け取り、胸を扇いだ。行儀が悪いから手で出来ることを尻尾でするのは止めなさい、という注意を聞き流し大の字に寝転がって涼む橙に藍は軽く溜め息を吐いたものの、すぐに休めていた手を動かしはじめた。

「暑いです、藍様」
「夏だからね。今日は風があまり吹かないし」
「喉が渇きました」
「冷えた麦茶が冷蔵庫にあるよ」
「取りに行くのが面倒なので、日が沈んでからにします」
「熱中症になるから、しっかり水分を摂りなさい」
「これ以上暑くなったら脱ぐしかないかも」
「恥じらいまで脱がないように。裸足の上に、腋とお腹まで出しているのに」

 うちわの扇ぎに緩急をつけたり、仰向けとうつ伏せを繰り返したり、しまいには、まるで犬のように舌を出して呼吸をしてまで、どうにかしてこの暑さを凌ごうと必死な橙に、つい藍の頬は緩んでしまうのだった。

「かき氷でも作ってあげようか?」
「キーンとなるのが嫌なので、好きじゃないです」
「水羊羹が冷蔵庫にあるから、持ってこようか?」
「あ、欲しいです」
「確かつぶあんだけだったような」
「うーん、ならいりません」
「こしあんじゃなきゃ、駄目だったっけ?」
「前食べた時、あまり好みの食感じゃなかったので」
「あとは……残って冷えているご飯と味噌汁で、ねこまんま」
「少し涼しくなってきたので、麦茶を持ってきますね」
「冷蔵庫に冷えたコップがあるから、それを使いなさい。冷凍庫から氷もね。ああ、あと紫様の部屋に寄って、炬燵の上から無くなりそうなものがあったら補充しておいて」





「えあこん、って言いましたっけ? あれってこの部屋には置かないんですか?」
「紫様のお部屋にしかないんだ」
「いいなー、紫様だけ」
「じゃあ、エアコンの効いている、紫様のいらっしゃる居間で涼んでくればいいじゃないか。ますます暑さに我慢できなくなってしまうから、あまり長くいてほしくないけど」
「藍様は?」
「行かないよ。暑くないもの」
「なら、いいです」
「無理はしなくてもいいんだよ?」
「……久しぶりに呼んでくれたんですから、無理でも何でも藍様と一緒にいたいんです。分かっているんでしょう、こんなに暑いのにわざわざ言わせないで下さい」
「ふふ、嬉しいことは何度でも直接聞きたくて、ね」
「でも今日はもふもふはしないでくだ――ああもうやめて下さいって藍様ー!」

 割と本気で抵抗したものの、藍の尻尾にあっさりと絡め取られた橙は、すぐにまた汗で全身を濡らすのだった。

「藍様は暑くないんですか?」
「暑くない、と言えば嘘だけど、別に何ともないよ」
「汗だくなのは私だけ? ずるいです、不公平です」
「私の感覚では、汗を掻いている橙のことを暖かいと感じるくらいだからね」
「この蒸れた尻尾だけ見ると、そうは思えないんですけど」
「また別の感覚だからね、私にとっては」

 辛抱たまらないと、橙は意を決した。

「……言わせて下さい。暑苦しいんです」
「……もしかして、私が?」
「もしかしなくても、です」
「ああ、ついに橙からも言われてしまったか」
「紫様からも言われていることなんですね」
「知り合いからは、大体言われてることさ」
「今まで我慢してましたけど、ようやく言うことにしました。――説教とお仕置きの覚悟は出来てますので、どうぞ」
「はは、確かにショックだったけど事実だし、橙が言い辛いことに対して意思を伝えてくれるようになったことが嬉しいよ」
「いや、単に暑くて我慢出来なくなっただけなんですけど……気にしてないんですか?」
「うん、今の橙の気遣いで気にしてしまったから、罰として、お風呂の前にもう一度もふもふだな」
「やー! もうやですー!」





 本当は苦手な湯浴みを済ませた二人に、夕暮れの冷えかけた風がそよぐ。風呂上りの一杯の牛乳の心地よさにひたりながら、一緒に過ごす一日がこんなに早く過ぎてしまったことに、寂しさが治まらない。

 それでも、もう、帰らなければいけない時間。

「ほら、ちょうど涼しくなってきた。夕立が降る前に、早く帰りなさい」
「あとどのくらいで降るんですか?」
「橙がもふもふしに来てくれたら、計算出来るようになるかも」
「やっぱり根に持ってるんじゃないですか……」
「分かった分かった、そんなに睨まないでくれ。えーと、うん、橙が住み家に着く3分前くらいかな」
「ぎりぎりアウトなんですね、あーあ」
「またおいで。今度は美味しい西瓜を冷やしておくから」
「お願いですから、油揚げに入れないで下さいね」
 
 
 藍と橙の間柄を、有事の時以外は、不定期に日帰りでしか遊びに行けない子供とおじいちゃんおばあちゃんみたいなイメージにしてみたら、こうなりましたとさ。
りゅう~
コメント



1.けやっきー削除
こういう会話、凄い大好きです!
掛け合いの末、結局麦茶を取りに行く橙とかw
こういう淡々とした橙も何か可愛くていいなぁ…
2.奇声を発する程度の能力削除
ほのぼのしてて和みました
3.万年削除
藍しゃまの尻尾のエア狐は煖房専用か
4.名前が無い程度の能力削除
橙の代わりにもふもふしさせてください
5.名前が無い程度の能力削除
何だかほっとするお話でした