日本には古くから、夏の涼しい遊びとして怪談というモノがある。
自分が体験した奇怪な話や、人伝に聞いた話、ないしは古くから語られる物の怪の話を語るというヤツで、怖い思いをして涼しくなろうというなんとも愉快な恒例行事である。
そして、その手の怪談は大抵、誰かがこう語りだすことで幕を開ける。
「なぁ、知ってるか?」
博麗神社で行われていた宴が終わり、片づけを手伝った魔理沙と咲夜に霊夢が茶を馳走している時のことであった。時は丑三つ時。蝋燭が2本灯された室内で魔理沙が神妙な面持ちで言う。
開け放たれた障子からそよそよと夏にしては幾分涼しい風が部屋へと吹き込み、蝋燭の火を揺らした。
「な、何?」先ほどまでは楽しげに会話していた魔理沙がいきなりこんな調子になるものだから霊夢と咲夜は緊張する。
「赤い衣の女の話だ」と魔理沙が続けて、朧月を見上げる。
「赤い衣の女?」と咲夜が小首をかしげて、いぶかしげに問う。
「・・・・お嬢様のこと・・・かしら?」
「いや、違うね」
「じゃあ誰?」霊夢が魔理沙に問うと、魔理沙が一口茶を口に含む。ゆっくりとした動作だった。
「誰かは知らない。私も見たことが無いからな」と魔理沙が答えて、霊夢と咲夜の顔をじっと見据えた。
「あらかじめ断っておくぞ」
「何を?」
「まぁ聞け」と魔理沙が言って、声色を下げた。
「この話を聞いて、もし、万が一、その身に何が起こったとしても・・・・・私のことを恨むなよ」あまりにも凄みのある表情で言われるものだから、咲夜と霊夢はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「え・・・えぇ。分かったわ」と咲夜が答えて姿勢を正す。
「わ、私も・・・分かった」と霊夢も頷く。
「よし、じゃあ話すとするぜ・・・・・・・」
「これは人間の里で聞いた話なんだ」魔理沙の声が不思議な余韻を持って部屋に満ちた。
人間の里にある4人の書生が居た。この4人はとても仲がよく、よく誰かしらの部屋に遊びに行っては朝まで飲んで語るという大よそ書生らしからぬ連中だったらしい。
その日も、その4人は1人の部屋に遊びに来て居たんだそうだ。
いつものように大酒をかっ食らった彼らは、夏だし怪談でもして涼しくなろうと、怪談を始めたんだそうだ。
ところがどの怪談も余り怖くは無くてね、どうにも場が盛り上がらないって時に、1人が「そういえば・・・」と語り始めたのがこの話なんだそうだ。
「そういえば・・・・つい最近、山と里を挟む川の端のところで真っ赤な服を着た女を見たんだ」彼はそう言って小首をかしげる。
「時間はもう夕暮れ時で、そんな時間に山をうろついていたら熊か妖怪に食われてしまうと忠告したんだが・・・・彼女は気にも止めない様子で山へと歩んで行ってしまってね」彼は言って一口、酒を飲む。
「それから暫くして、また彼女を例の橋のところで見かけたんだ」言いながら彼はニヤニヤと笑った。
「それだから、俺はてっきり食われた女が化けて出たのかと思って絶叫しながら家に帰ったってわけさ」なんだそんなこと、と4人は大笑いした。
「なによ、全然怖くないじゃない」と霊夢が頬を膨らませる。
「そうね、怖くないわ」と額の汗を拭って咲夜が言う。
「だろうな」と魔理沙も小さく微笑むが、その微笑をすぐに消す。
「だが、この話には続きがあるんだ」
それから暫くして、例の「赤い衣の女」の話をした1人が全くの音信不通になった。家に出向いても居らず、彼の家族も行方が知れないと言う。誰にも行方が分からない以上、彼の友人達3人もどうすることもできなかった。
それから暫くして、3人はまた1人の家に集まった。いつも通りの小さな宴会であったが、1人がどうにも調子が悪いようで酒どころか肴にも手を伸ばそうとしない。
「どうしたんだ」と1人が堪りかねて、問うと、彼は真っ青な顔で小さく呟いた。
「赤い衣の女を見た」と。1人が怪訝顔で「そりゃ例の橋のところに居る女かい?」と問うた。しかし、その1人は首を振る。
「夜、飲んで帰る途中、通りですれ違ったんだ・・・・前から人なんて来てなかったのに、俺は女とすれ違った。まだ、背筋が寒い・・」と彼が怯えた表情で言うものだから二人は顔を見合わせ、その1人を家に送って行くことにした。背筋が寒いのは夏風邪をひいた所為だ、酒など飲まずに寝た方が良いと彼を励まして彼の家を後にした。
翌日から、その彼の行方が知れなくなった。
二人は直感した。あの赤い衣の女を見た人間は、消えて行く。と。どこに連れて行かれるかもどこに消されるかも分からない。兎に角、消されてしまうと。
それから二人は家から一歩も出なくなった。赤い女を恐れて。
そうして半年が過ぎた頃だった。2人のうちの1人が、もう1人の家を尋ねてきた。涙で顔をぐしゃぐしゃにして、彼はそのもう1人の肩を掴んで張り裂けるような声で言った。
「部屋に来たんだ」と。
「誰が?」とは問わなかった。ただ、自分たちがもうどうしようもないモノに憑かれてしまったことを彼は認識した。
案の定、1人が消えた。
「ちょっとまって、ねぇ、それ、魔理沙は一体だれに話を聞いたの?」と霊夢は随分必死な様子で問う。
「そりゃ残った1人さ」魔理沙が答えると霊夢と咲夜はホッと胸を撫で下ろす。
「まだ1人は消えてないのね」
「いいや、この話を聞いたのは2ヶ月ほど前だが、もう里のどこを探してもこの話をしてくれた男には会えなかった。里の人間も行方を知らないそうだ」
「・・・・そんな」
「なぁ、二人とも」と魔理沙が霊夢と咲夜の目を見据える。
「もう、分かっているとは思うが。「赤い衣の女」を見たらヤバイ訳じゃない・・・・」そこで魔理沙は一拍置いて続ける。
「この話を聞いてしまった時点でもうヤバイんだ。私も聞いちゃったからな・・・」と魔理沙が頬に一筋の汗を流す。
「・・・・・あ、あんた・・・・私達を道連れにする気なのッ!?」と霊夢が激昂して魔理沙に掴みかかろうとするが、魔理沙はひょいと立ち上がる。
「1人で消えるだなんてイヤだぜ・・・!」
「じ、冗談じゃないわ!私は消えるもんですか!」と咲夜も魔理沙に飛び掛るが、魔理沙は縁側から外へと飛び出して行く。
「ま、待ちなさい!!」と霊夢が魔理沙を追って飛び出して、言葉を失った。ほんの数瞬前まで目の前にいた魔理沙が、消えていた。箒は縁側に置きっぱなし。走って逃げるにしては早すぎる。
「うそ・・・・でしょ・・・」と霊夢がへたり込む。背後に居た咲夜も信じられないという表情で霊夢の横に並んだ。
「そんな、私・・・・どうしたら」
「・・・・ッ!?」落胆する霊夢の横で、咲夜の体が強張る。
「どうした・・・・の・・・・・・・・ぇ?」咲夜の視線を追った霊夢の動きも止まった。
鳥居の向こう側にユラユラと揺れる赤い衣を着た少女を見つけて。
「・・・・・きゅう」
「・・・・・」どさり。
二人の少女は縁側で気を失うのであった。
「ふぅ」と魔理沙はため息をついて、にとりから借りていた゛工学迷彩スーツ゛を脱いだ。倒れ伏す霊夢から3メートルと離れていないところに魔理沙は実は立っていたのである。
「おーい、小傘ー!」
「凄いです!魔理沙さん凄いです!わちき、わちき初めて人を驚かせられました!」と小傘は赤い衣を着てぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「な?人を驚かすのは簡単だろ?」目をグルグルと回す霊夢を見下ろして魔理沙は勝ち誇ったように笑う。
「流石、魔理沙さんです!かっこいいです!」と小傘も楽しげだったが、ふと思い出したように小首をかしげる。
「そういえば・・・・魔理沙さんは、わちき以外にも「赤い衣の女」役の人を呼んでいたんですか?」
「ん?いや・・・呼んでないけど」と魔理沙が答えると小傘は唸る。
「じゃあ、さっき、魔理沙さんが隠れてるすぐ近くに立っていた赤い服の女の人は誰だったんでしょうか・・・・」
「・・・・・え?」魔理沙の笑顔は凍りつくのであった。
あれ? あなたいつの間n
それはもう引き込まれました…
あ、お客さm
ん?誰かn
ん? 来客とは珍s